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中国挑発の鉄砲玉としての配置 日米首脳会談「台湾有事」言及の意味

 菅首相とバイデン米大統領が16日午後、ホワイトハウスで初の首脳会談をおこない「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記した共同声明「新たな時代における日米グローバル・パートナーシップ」を発表した。首脳間の声明で台湾問題に言及するのは、日本が中国と国交正常化する前の1969年以来52年ぶりだ。しかも日本が米国と連携して台湾問題に能動的に関与する方向を明記したのは初めてである。日米政府は3月に開催した日米安全保障協議委員会(2+2)でも中国を名指しで非難し、「尖閣有事」を想定した共同軍事演習の必要性を強調した。だが今回の共同声明はさらに踏み込み、米国が日本を「台湾有事」にも動員する意図を明確に示す内容となった。

 

 会談後の共同記者会見で菅首相は「台湾海峡の平和と安定の重要性については日米間で一致しており、今回改めてこのことを確認した」とのべた。さらに「東シナ海や南シナ海における力による現状変更の試み、そして地域の他者に対する威圧に反対することでも一致した」と強調。今回の共同声明の位置づけについては「今後の日米同盟の羅針盤となり、自由で開かれたインド太平洋の実現に向けた日米両国の結束を力強く示すものだ」と指摘した。

 

 今回の共同声明は「自由で開かれたインド太平洋を形づくる日米同盟」の項で、3月に開いた日米2+2でとり決めた内容にふれ「全面的な支持」を表明した。そこで列記したのは「日本は同盟及び地域の安全保障を一層強化するために自らの防衛力を強化することを決意した」「米国は核を含むあらゆる種類の米国の能力を用いた日米安全保障条約の下での日本の防衛に対する揺るぎない支持を改めて表明した」「日米両国は、共に尖閣諸島に対する日本の施政を損なおうとするいかなる一方的な行動にも反対する」等だ。

 

 辺野古への普天間飛行場代替施設の建設、馬毛島への米軍空母艦載機離着陸訓練施設建設、在沖米海兵隊のグアム移転を含む在日米軍再編の実行や在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)の早期合意にも言及した。

 

 そのうえで「ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有した。日米両国は、普遍的価値及び共通の原則に基づき、引き続き連携していく。日米両国はまた、地域の平和及び安定を維持するための抑止の重要性も認識する」と明記し、中国を牽制するための軍事連携にも言及した。そして「日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」と主張している。

 

 この台湾問題が日米首脳間の文書に明記されるのは佐藤栄作首相とニクソン大統領による共同声明以来のことで、日本が1972年に中国と国交を正常化して以後は初となる。しかも1969年の佐藤・ニクソン共同声明は「台湾の安全は日本にとって極めて重要な要素である」という内容で、能動的に行動を起こす内容ではなかった。

 

 また2005年の日米安全保障協議委員会による共同発表で「台湾海峡を巡る問題の対話を通じた平和的解決を促す」(共通戦略目標の項)と記述したケースもあるが、これも「対話を通じた平和的解決を促す」という一般的な表現にとどめ、「抑止」力の行使には言及していない。ところが今回の声明は、中国と対抗する姿勢を明確にうち出したうえ、日米が連携して台湾海峡の「平和と安定」のために「抑止」の行動へ乗り出す方向を明確に示した。これは日本の国境付近に位置する「尖閣有事」に自衛隊を動員するだけにとどまらず、中国により近い「台湾有事」にも米国が日本を動員して対処するという意味にほかならない。米国が初対面での会談相手に菅首相を選んで「厚遇」扱いしたのは、日本に「米本土防衛の盾」としての役割を期待しているからである。

 

 こうしたなかで在米中国大使館の報道官は、日米首脳会談について「米日の発言は二国間関係の正常な発展という範囲をこえ、アジア太平洋の平和と安定を損なっている」との談話を発表し、「強い不満と断固反対」を表明している。

 

防衛ガイドライン 自衛隊を斬り込み隊に

 

 なお、自衛隊を軍事衝突の前面に押し出す方向性は2015年に改定した「日米防衛協力の指針」(ガイドライン)で明確にうち出している。このとき「切れ目ない日米協力」や「地球規模での日米協力」を盛り込み、平時から中東など日本周辺と関係ない地域でも日米間で軍事協力を可能にする内容を盛り込んだ。同時に「日本に対する武力攻撃への対処行動」については、

 

①空域を防衛するための作戦、

②弾道ミサイル攻撃に対処するための作戦、

③海域を防衛するための作戦、

④陸上攻撃に対処するための作戦、

 

について自衛隊と米軍の役割について定めた。そこでは自衛隊が「主体的」に軍事作戦を担い、米軍が「支援及び補完する作戦」を担うことを規定した。この規定は自衛隊を陸・海・空・弾道ミサイル対処作戦の前面に押し出し、米軍はミサイルや空爆で「自衛隊の作戦を支援・補完する」という内容である。同時にそれは、最前線でもっとも犠牲が出やすい地上戦闘員の投入は「自衛隊の役目」とする意味である。こうした日米ガイドラインに基づき、「尖閣有事」や「台湾有事」の対処を具体化している。すでに日米両政府は先の2+2の方向に基づき、年内にも尖閣諸島に外国の武装勢力が上陸・占領するという想定で自衛隊と米軍による共同訓練を尖閣周辺で実施する準備を進めている。

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