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原発処理水の海洋放出を問う 専門家が問題点指摘 “もう一度災害が襲うようなもの” ふくしま環境フォーラムより(2)

福島県いわき市小名浜港でのサバの水揚げ(2016年2月)

 福島大学で8日、「アジア太平洋とつなぐ ふくしま環境フォーラム」が開催された【既報】。東日本大震災・福島第一原発事故の発生から12年が経過するなか、日本政府と東電はALPS処理水を海洋放出する方針を決め、強行する構えを見せている。同フォーラムでは、漁業者や地元住民からの報告に引き続き、研究者が報告をおこなった。福島第一原発ではなぜ12年が経過した今も汚染水が増え続けているのか、海洋放出ありきではなく、どうすれば汚染水を減らすことができるのか、具体的な対策を提起した。また、漁業現場では「試験操業」開始から10年が経過し、漁業者と流通関係など多くの人々の地道な努力の積み重ねによって現在があること、現場の頭越しに海洋放出を強行するのではなく、県民の意志や提案が尊重される仕組みづくりの必要性を訴えた。福島の人々に連帯するアジア太平洋諸国からの発言やメッセージもあった。以下、各報告者の発言内容を紹介する。

 

◆研究者からの報告

 

・処理水を増やさない提案

   福島大学共生システム理工学類教授 柴崎直明


 私は地質学や地下水を専門にしており、福島県の「原子力発電所の廃炉に関する安全監視協議会」では地質学の専門委員を務めている。また、「福島第一原発地質・地下水問題団体研究グループ」(原発団研)の代表もしている。原発団研では、原発事故から10年目の2021年7月に、地質や地下水、汚染水問題について研究した結果と対策を提案した。

 

 まず、汚染水の現状について話す。福島第一原発の敷地には、合計六つの原発があり、南側に1~4号機がある。そもそもなぜ原発事故から12年が経過しているにもかかわらず汚染水が増え続けているのか。原子炉建屋はかなり古く、天井が壊れていて雨水が入り込む。さらに阿武隈山地がある西側から海側に向けて地下水が流れており、その地下水が建屋に入り込んで溶け落ちた燃料デブリに触れ、汚染水になっている【図1】。東電や国は雨のことばかり考えているが、私たちは根本的な原因である地下水の流入を抑えなければならないと考えている。

 

 福島第一原発が建っている場所は元々、高さ33・5㍍の地盤が海沿いまで続く断崖絶壁だった【図2】。実は元の地盤のかなり浅いところに地下水脈があったことが当時の資料で明らかになっている。

 

 そこを海抜10㍍ほどまでに削り、さらに建屋を建設するために地盤を掘り込んでいる。地盤を削っているので、地下水面が建屋の高さまで下がっている。

 

 しかしそのままでは建屋が浮力を受けて不安定になるため、原発建設当初から地下水を排除するために1~4号機の周囲には合計57もの「サブドレン」と呼ばれる井戸が掘ってある。この井戸では平均して1日当り700立方㍍(700㌧)もの地下水を揚水していた。これだけの井戸を用いてようやく地下水位が下がり、原子炉建屋が浮力で持ち上がることなく原発を運転できていた。このように、福島第一原発は浅いところに大量の地下水がある場所に建っている。

 

 原発事故が起きてからは、汚染水を「とり除く」「漏らさない」「近づけない」ためにさまざまな対策がおこなわれてきた。だが、そもそも汚染水が発生し続けなければ、このような対策は不要だったともいえる。つまり、地下水が原子炉建屋に入り込んで汚染水が増えているというところに根本的な問題がある。

 

 2013年頃から汚染水の問題が深刻になり、地下水バイパスやサブドレンの復旧、凍土壁などの対策がとられてきた。だが、「切り札」といわれ2014年頃からおこなわれた地下水バイパスはほとんど効果がなかった。東電は地層のことをきちんと調べずに、わざわざ粘土質で水が通りにくい地層からも地下水を抜く工事を施していた。その後、事故以来止まっていたサブドレンを復旧して運転を再開。さらに凍土壁の完成によって、2018年頃から確かに汚染水の量は減った。しかしそれ以降、汚染水の量は下げ止まりの状況のまま今も増え続けているため、タンクがいっぱいになって「海洋放出」という話になっている。要するに、汚染水の発生をコントロールしきれていないことが海洋放出の原因だ。

 

 私たち地質・地下水の専門家から見ると、しっかりとした地下水の流入対策が早急に必要だ。地下水の流入を止め、これ以上汚染水を増やさずに今貯まっている処理水を安全に保管すればいい。また、原子炉を冷やすための水は必要なので、冷却水を循環させればいい。

 

 私たちの研究グループでは、東電や国が公表する地質関係の資料を細かくチェックし、これまでの対策が不十分だということを明らかにしている。例えば、現在ある凍土壁は1~4号機の建屋周辺を囲むように作られている。ところが深度が約30㍍しかなく、地下水が通りやすい一番下の地層までしっかり遮水しきれていない可能性がある。そのため、私たちはもっと広域的に、そして水を通しにくい地層(35~50㍍)まで到達するよう深く遮水壁で囲む必要があると提案している【図3】。なぜ広域遮水壁が必要なのかというと、建屋の周囲には構造物がたくさんあり、それが邪魔になって今でも地下水が入り込んでいる可能性があるからだ。

 

 さらに、私たちの提案では、広域遮水壁の内側に降り込む雨水が地下に染みこみ建屋に流れ込むのを防ぐために、地下水を効果的に集める「集水井」を設置する。この集水井では、横方向にも水抜きボーリングを施行し、さらに地下水を集めやすくする。とにかく地下水位を下げなければ建屋への地下水流入量を減らすことができない。

 

 また、現在使われている凍土壁は、一時的な工事などには使われたことはあったが、福島第一原発のように何年も設置し続けるような使われ方はしてこなかった。凍結管という穴を掘って冷却した液体を流し込み、それを凍らせ続けるために莫大な電気代と維持管理費をかけている。だがここ数年、設備にガタが来ている。今ある凍土壁の機能が低下すると、また汚染水が増えてしまう。

 

 だからこそ広域遮水壁が必要だ。広域遮水壁では、土とセメント系混濁液を混合して遮水壁を作る。この工法はいろいろな現場でこれまでも使われてきた。廃炉まで何年かかるかわからないのなら、100年経っても機能する対策をおこなうべきだ。

 

 地中に壁を作るという技術は、地下水の分野では飲料水や農業用水を確保するための「地下ダム」と呼ばれ、沖縄県などでも使われてきた。凍土壁のようにその後の電気代もかからなくて済む。最近は深度60㍍まで掘削して壁を作ることができるコンパクトな専用の機械も開発されている。

 

 また、集水井に関しては福島県内でも会津町で地滑り対策のために使われている。地滑り対策には、地下水位を下げることがもっとも効果的だからだ。県内に限らず、全国の地滑り対策でこの工法が用いられている。凍土壁のようにゼネコンにしかできない工事では莫大な工費と維持管理費が必要だが、集水井は福島県内の業者でも作ることができ、実績がある。

 

 汚染水の発生はもっと減らすことができる。足りない調査は実施しなければならないが、集水井なら1年ほどあれば調査・設計が可能だ。広域遮水壁も長さ約3・7㌔㍍を想定した場合、3年ほどで調査・設計をおこない、2030年ごろには運用できると見ている。このまま何もしないと、今タンクに貯まっている処理水の海洋放出だけでなく、これから発生する汚染水をさらに処理して海洋放出しなければならない。もうエンドレスになってしまう。だからこそ、これから発生する汚染水を限りなくゼロに近づける対策が必要だ。

 

 だが、東電は私たちが提案している広域遮水壁の案を後回しにしている。建屋周りの局所止水を優先して考えており、それがだめなら建屋の外壁全面止水、それもだめなら広域遮水壁をするという、段階論で考えている。

 

 そればかりか東電は昨年末、私たちが提案した広域遮水壁と集水井を組み合わせた対策に対し、ひと言でいえば「効果がない」という見解を示した。その中身を見ると、解析をするうえでの設定などはかなりいい加減で、地質・地下水の条件は9年前の古い状態でモデルを作成していた。また、集水井に関しては横向きの水抜きボーリングをまったく考えず、地下水位をかなり下げた条件で計算していた。まったく科学的といえないし、もはや「こんなことやりたくない」と思っているのではないか。

 

 現状、福島第一原発では地質や地下水の把握が不十分であり、これまでの対策では効果が限定的だ。

 

 今でも汚染水は日々増加しており、これが海洋放出問題の根本的な要因になっている。東電や国は、抜本的な地下水流入削減対策を真剣に検討し、早急に実施すべきだ。

 

 

・廃炉と真の復興に向けた円卓会議の提案

        福島大学食農学類准教授 林 薫平


 福島県民が主体となって「円卓会議」を設置し、原発の廃炉と地元の復興をどのように両立させていくのか、技術面や地域社会の現状を踏まえた議論を県民主体で進めていく場を作ろうという提案をしたい。

 

1、ガラス細工のように積み上げてきた漁業復興

 

 福島県の漁業の現状や、震災・原発事故以後、漁業の再開に向けどのようなとりくみをおこなってきたかを県民のなかでもっと共有し、振り返る必要がある。

 

 2011年の事故後、農業などは中通りの会津地区等で場所を区切ったり、作物を限定するなどして再開に着手していた。しかし漁業現場では原発事故後1年間は沿岸漁業がすべて停止し、どのような形であれば再開できるかの議論に時間を費やした。その結果、海域を区切り、獲る魚や数量を限定して「試験操業」がスタートした。同時に、県内の「コープふくしま」等他の流通先と、毎シーズンどの魚をどのように獲るのか協議しながら進めてきた。また、水産物の汚染状況を調べるために、毎日全魚種を水揚げのたびにスクリーニング検査をおこなってきた。この仕組みは試験操業が始まった2012年から現在まで続いている。こうした検査をしながら流通先との協議を続けることで、水揚げ量を拡大する段階的増産を進めてきた。

 

 この検査は、まず港で水揚げした段階で、スクリーニング検査をおこない1㌔㌘あたり25ベクレルをこえていないかどうかを迅速に調べる。こえていなければその魚は流通に乗る。だが、県内の港で獲れたある魚で25ベクレル以上の数値が出た場合、その日は県内全域でその魚種の流通はストップする。そして県の試験場で精密検査をおこない、50ベクレルをこえているかどうか調べ、その魚の流通を本当に差し止めるかどうかを判断する。このように二段階の検査体制を現在も続けている。現在の漁獲量は、震災前に比べ3~4割程度だ。

 

 2018年に郡山でおこなわれたALPS処理水の処分方法についての公聴会で、県漁連の会長は一つ一つの魚種で積み上げてきた経緯を「築城10年」としたうえで、原発事故後だけでもこれだけ大変な積み重ねがあったのに、ここからさらにもう一度将来の見えない状況に追いやられることを危惧し「落城一日」と懸念を示した。この切実な思いを、福島県民をはじめ、すべての関係者にくみとってほしい。

 

 震災後の漁業復興の歩みは、2016年のヒラメや2018年のアオサノリなど重要な魚種の漁獲再開を積み重ねてきた。まだ震災前の状況に戻ったわけではないが、一つ一つの漁獲再開が港町に活気をもたらしてきた。

 

 福島県内の漁業現場では、国の助成事業「がんばる漁業」の活用も進んでいる。これは、各地区ごと、各漁法の部会ごとに目標数値を定め、5年計画で増産にとりくむというものだ。これまでも漁業者は増産を目指してきたが、その増産のスピードがときに停滞したり、卸売市場の状況を見て供給過多になる場合は値崩れを抑えるために出荷を抑制することもしばしばあった。そのため、ときに卸売市場や仲買業者が「もっと水揚げしてくれないとこっちの仕事がなくなる」と困る状況も生まれていた。

 

 それではいけないということで、漁業者側が意見をまとめて数値目標を提出したのが「がんばる漁業」だ。5年間の増産目標を立て、毎年増産し続けるかわりに補助金によって船を更新したり、設備を新しく入れることが可能になるというものだ。ある意味漁業者は退路を断つ覚悟が必要だった。

 

 相馬の沖合底引き船団が2020年にがんばる漁業に着手して成果をあげていることから、他の地区や漁法でも同事業の活用が波及していき、今年に入って県内すべての地区、部会ががんばる漁業の活用に踏み切った。それぞれがスタートしてから5年間で震災前の水準に比べ5割まで増産を果たすという目標を明確に設定している。そのため、今がもっとも重要な時期だ。この増産目標をやりきれるかどうかによって、水産業復興の命運がかかっているといっても過言ではない。

 

 2020年2月には震災後初めて全魚種で出荷が可能となった。その後、底魚のソイの仲間の魚種一種が再び出荷制限されたが、汚染の状況そのものはかなり改善している。本格的な漁業に戻る前提が整いつつある。こうした重要な局面を迎えているなか、政府が海洋放出を進めようとしていることに対し、福島県漁連の会長は「災害がもう一度来るようなもの」と反対の立場を強調している。

 

2、「汚染水」漏洩問題から2015年の合意まで

 

 漁業復興最大の問題が浮上したのが、2013年の「汚染水漏洩問題」だった。漁業をどのように再開しようかと試行錯誤を始めた矢先、汚染水漏洩によって大きく出鼻をくじかれることとなった。そしてこれが「廃炉行程と並行せざるを得ない漁業復興」の苦悩の始まりだった。それ以後、汚染水の問題を解決するために、東電が漁業者に対しさまざまな問題を持ちかけ、「承諾」を迫るようになった。

 

 2015年には、サブドレンという地下水をコントロールする井戸から汲み上げた水を浄化して海洋放出するということが漁業者に対して強く持ちかけられ、漁業界全体を大きく揺さぶることとなった。最終的にこれを承諾したのだが、このときの東電と漁業者の認識が本当に噛み合っていたのかということについて、今振り返っても疑問が残る。

 

 東電は「水の問題で困れば、浄化して希釈すれば放出できる」と味をしめたと思う。だが漁業者からすると「これで水の問題は終わりにしないといけない」という認識だったと思う。放出を承諾するかわりに、海側遮水壁の完全な閉合を実現することで原発の水問題にピリオドを打ち、漁業復興に専念できるという考えだった。

 

 このように、東電と漁業者の間での認識に食い違いが残ったまま、サブドレン汲み上げ水の浄化・放出の合意がおこなわれた。そのため、県漁連は容認の条件として「原子炉の溶け落ちた燃料に触れた水だけは、サブドレン汲み上げ水の放出の延長線上で放出しない」よう求める文書を東電と国に提出している。

 

3、震災後の廃炉過程で、まだ未経験の「環境中への放出」に、復興側は対応できるか

 

 震災後から続く廃炉過程において、放射性物質を環境中に意図的に放出するということは、これまで一度もおこなわれたことがない。そのようななかで復興を進めることが本当に可能なのか、これは漁業者だけの問題ではない。

 

ALPS処理水の海洋放出は、議論が到底足りておらず、復興の状況も山場を迎えているなかで、2025年まで放出を凍結するべきであり、その間にもっと議論をしていくべきだ。

 

4、社会的な議論と規制の下に置くべき福島第一原発

 

 東電は、福島第一原発の敷地の中や、その東側にある5平方㌔㍍ほどの海域(漁業権が放棄されている)の範囲内なら規制当局の許可さえ得られれば、自由に廃炉を進めることができるという認識だ。だが、地元をはじめアジア太平洋の関係者から見ると、廃炉は東電だけが自由に進めていいものではなく、社会的な規制の下でおこなわなければならず、地元の復興との両立を図りながら協議して決定すべきだ。多くの関係者が意志決定権を持って参画するような社会的な議論がないまま、東電や国が廃炉のあり方を勝手に決めている。そのことへの批判に対し「風評を加害している」とするのは大きな間違いだ。

 

5、全長1㌔の海底トンネル計画への疑問

 

 ALPS処理水の海洋放出を政府が決定した後、東電が海底トンネルを掘ってそこから放出するという計画を追加した。だが、このような計画は当初なかった。

 

 海洋放出について東電は「時間がない」「敷地が足りない」「お金がない」という理由で「どうしても海洋放出せざるを得ない」という主張をしてきた。だがこの海底トンネルには350億円もの資金を投じており、トンネルを掘って出た1万立方㍍もの掘削土は原発の敷地内に置く。完成までは2年もの月日を費やす。結果、多大な時間、敷地、大金を費やしている。

 

 漁業者はこんなことだれも求めていない。このように、廃炉のあり方はその影響を受ける関係者が一緒に意志決定権を持って議論しなければ何がどうなるかわからない。

 

 廃炉と復興のあり方を、いろいろなデータや現場の状況を持ち寄って議論する円卓会議が必要だと考える。政府ではなく福島県民みずから設置し、そのなかに政府や技術者、アジア太平洋各国の国民にも加わってもらえるような円卓会議を実現したい。30年前には、「成田空港問題円卓会議」があった。当時の建設省と、地元住民の間で亀裂が生じて争いになったが、これを調停しようと1年間単期集中型で円卓会議が設置された。

 

 そして、政府も地元に歩み寄るよう空港計画を修正した。これは歴史的にかなり珍しいことだ。また、地元住民による地域振興計画も尊重された。福島県でも、原発の廃炉と漁業現場の復興を両立するための議論が必要だ。

 

 

◆アジア太平洋からの連帯報告

  アジア太平洋調査ネットワーク ナタリー・ラウリー


 私はこの数日間、福島県内を見て回り非常に多くの悲しみを覚えるとともに、感銘を受けた。政府と東電がみなさんを無視し、ないがしろにするような状況のなかで、それでも人々は非常にたくましく、さまざまな工夫をしながらここで生きようとしている。そして世界の連帯はみなさんとともにある。

 

 私はニュージーランド出身だ。ニュージーランドは非核の国だが、その実現に至るまでには非常に多くのたたかいがあった。仏領ポリネシアなど太平洋諸国で核実験がおこなわれるさい、ニュージーランドの人々は沖に船を出し、核実験を止めるために行動してきた。

 

 私は、16歳でオーストラリアのシドニーに引っ越した。そこでオーストラリアは核に関わる国であることを知った。アメリカやイギリスが太平洋島しょ国の人々の意志を無視して核実験をしていたのと同じように、オーストラリア政府もまた先住民族に知らせることなく、彼らの土地の上で核実験をおこない、人々は今もその健康被害に苦しんでいる。

 

 また、オーストラリアには三つのウラン鉱山がある。そのうち、レンジャー鉱山とオリンピックダム鉱山という二つのウラン鉱山で掘られたウランが、福島第一原発で使われていた。そんな核にまみれた国だが希望を伝えるのであれば、レンジャー鉱山では猛烈な反対行動があり、何千人もの人が8カ月もの間道路を封鎖し、その鉱山の閉鎖を訴えた。500人が逮捕されたが、それでも当時掘り出されたウランはすべて埋め戻された。その運動の中心にいたのは、先住民族の女性たちだった。

 

 また、オーストラリアでは3カ所の核ゴミ最終処分場の整備が検討されたが、そのときも先住民族の女性たちが中心となって反対し、そのすべての計画を止めることに成功した。そして今も一カ所最終処分場計画があるなか、たたかいを続けている。その活動をおこなっている「オーストラリア非核同盟」は、福島のみなさん宛に連帯のメッセージを送っている。

 

 私たちは、先ほど提案された「円卓会議」のなかで適切な議論がなされるまで、海洋放出を凍結するという計画に、強く賛同する。アジア太平洋の人々が一緒になって議論し、みなさんの反対の声を増幅させるために私たちもその場に参加したい。海は繋がっていて一つなのだから。

 

 日本の核による放射能に汚染された水を放出するという計画は、太平洋に住まう人々の清らかで健康的で持続可能な環境を享受することができる権利を根幹から覆すものだ。日本政府が海洋放出を決定した後、太平洋島しょ国の市民社会から寄せられたメッセージをいくつか紹介する。

 

 ▼日本が太平洋の人々に対し、相談も合意もなくこのような事業を進めるということは、時期尚早であり、理解に苦しむ。海というものは私たちの命の源であり、このような行為はそれを汚すものだ。

 

 ▼核実験の影響は、負の遺産として太平洋地域に今も残り、私たちの島々に影響を与えている。福島から流れ着くものによってこれ以上汚染されることは、私たちは耐えられない。科学者たちはすでに低線量被曝について環境や人体に対する懸念を示している。そして処理水が放出されることによる影響はまだ計り知れない。それ故に今放出を決めることは時期尚早だ。(マーシャル諸島より)

 

 ▼私たちの海、地球の健康はすでに人工的な影響により害されている。私たちはこのような人災=福島における「計画的」放出によって、さらに太平洋が汚されることは到底許すことはできない。

 

◆アピール宣言

 

 最後に、平和と平等を守る民主主義アクション(DAPPE)の七海栞里氏がアピール宣言をおこない「私は、17歳のときに震災と原発事故を経験した。放射性物質という耳慣れない言葉、どこを歩いても白いモニタリングポストが各地に設置されている異常な風景。その衝撃は昨日のことのように思い出す。地元である福島は“フクシマ”と表記され、すべての県産品には“安全な”という枕詞が付けられることに、自分は被災者だという事実を突きつけられた」「私たちの生きる未来に原発はいらない。生業を、故郷を、健康的な日常を奪われることはしかたがないことなんかではない。人権を軽んじる今の政府に、私たちの大切な未来を差し出すことはできない。あの時何が起きて、何が奪われたのか、そしてこの12年間、何が守られなかったのかを一人でも多くの人に伝え、自分の言葉として声を上げ続けることが、あの事故を経験した一人の人間としてできるたたかいだと思う。民主主義の破壊と一体に原発回帰を進める今の政府のやり方に、みなさんと連帯して私たちも海洋放出反対の声を上げていく」と訴え、同フォーラムを閉会した。

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