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種苗法改定で何が変わるのか―サトウキビ生産の現場から 日本の種子を守る会・山本伸司

 私は種子島でサトウキビを生産する農家です。今、国会で話題になっている種苗法改定についてお話したいと思います。種苗法改定をめぐっては賛成か反対かという論争ばかり目につきますが、なぜ賛成なのか、反対なのかを理解し、そのうえで種苗法改定を含めた動きを広い知見で見ることが大事だと思います。

 

 私はサトウキビ農家ですのでサトウキビの生産について話します。私たちが生産しているサトウキビの品種は国の農研機構が開発しており、種子島には沖縄を含む南西諸島一帯のサトウキビの安定的な生産を担う、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構九州沖縄農業研究センター種子島研究拠点があります。黒糖に使うサトウキビと精製糖に使われるサトウキビでは種類が違っており、農研機構ではさまざまな品種を開発・管理しています。

 

 サトウキビにも作物全般と同じく登録品種と一般品種があります。農水省は「対象の登録品種は1割で、一般品種が9割だから影響はない」と説明していますが、サトウキビの場合は9割が登録品種です。サトウキビの登録品種に関しては許諾制をとっていますが自家増殖は自由となっており、農家は種苗(※サトウキビは茎)をとって自家増殖によって翌年に新たなサトウキビを生産するのです。

 

 もしも農家がこの自家増殖をせずに買わなければならないとなるとどうなるでしょうか。まず、サトウキビは国立農研機構の開発品種なので、これを買うとなれば、つくばにある本部に手続きをしなくてはならず複雑な手続きを必要とします。

 

 もう一つ重要な点ですが、そもそも買うことができるのかという問題です。サトウキビの生産には1反当り約3000本もの茎を使います。小規模農家では4反~5反、中堅農家では約2町歩、大きな農家になると10町~20町歩規模の畑を持っていますので、どれだけたくさんの種苗が必要になるかわかるのかと思います。ところが今、私たちが農研機構に買いたいといっても農研機構はそこまでの量を持っていないので買うことはできません。では農協で買えるかというと農協でもそれほど大量の種苗は確保していません。つまり、サトウキビは農家が自家増殖でやることが前提のシステムになっているのです。ですから新しい種苗を買う農家はほとんどいません。このように茎を種苗として生産するのはサトウキビだけでなく、イモ類(種芋や茎)、イチゴ(ランナー)、果樹(剪定枝)も同じですが、これまでずっとそのように自家増殖してきたものをすべて買わなければならなくなれば農家は負担増で倒れてしまうという問題が直接的にはあります。

 

 経済的な意味合いだけではありません。種や苗は自家増殖することによってその土地、その農園にあったものに進化していきます。それによって地域ならではの美味しさをもった栄養価の高いものが生産できるのです。たとえば同じコシヒカリでも地域によって味が違うように、育つ環境によって種は進化し、味も、地域ならでは、農家ならではの味に変わっていくのです。毎年農家が自家増殖をしている理由は決して経済的な意味合いだけではないのです。

 

 今、これに手をつけようとしているのがモンサントなどの巨大種苗メーカーやまるでその出先のようになっている農水省です。農家の自家増殖を禁止にし、全国一律、あえていえば世界一律に種子や苗を支配しようとしています。日本で連綿と受け継がれてきた、小規模、多品種の農業形態を画一的な大規模農業にとってかえ、そこで使う種苗から生産物まですべてを支配するものです。品種登録をしている農家からすれば「農家を守るための法律になぜそんなに反対するのか」という賛成意見が出ていますし、現在一般的に流通しているF1の種を使っている農家や種籾を農協から買っている農家からすれば「これまでと同じなのになぜそんなに騒ぐのか」という意見もあります。しかし、今回の法改定は国内の種苗農家を守るために出てきたものではありません。農水省がさかんにいう「海外流出」についても、今回のような法改定による自家増殖禁止ではなく、海外での品種登録をしていかない限り防ぐことはできないのです。

 

 ではなぜ今なのか? と考えますと、2017年3月の種子法廃止や同年8月の農業競争力強化支援法などとあわせた大きな流れの集大成にほかなりません。しかも今回の改正種苗法は来年4月施行になっているのに対し、農家の自家増殖禁止だけは今年12月1日施行予定になっていることも見過ごせません。すでに支配の構図ができあがっているのだとぞっとしますが、そもそも一連の流れが規制改革会議から出ていることを考えるとそれも納得です。

 

 昔の農家はみな自分たちで種をとり、それを翌年に植えてまた種をとることをくり返してきました。どうすれば発芽率がいいのか、美味しさが増すのか、気候や土地の性質、川の水など、地域資源を最大限に活かした研究を重ね、地域にあった種苗を「開発」してきたのです。

 

 この、昔の人たちが感覚的におこなってきた「種の進化」が今ではゲノムレベルでわかるようになっています。こうした歴史を見たときに、種は誰かの所有物なのか?と思うのです。新しい種苗の開発や全国にある種苗は公的に守っていくことが必要であり、誰かの所有物にしたり、ましてやそれで農家を縛っていくことはあってはならないことではないでしょうか。知的財産として育種者(巨大種苗メーカー等)の権利を強め、画一的な農業にとってかえることは、農家を経済行為として追い込むだけでなく、種の持つ能力をつぶし、日本に代々受け継がれ地域ごとに蓄積されてきた農業技術をカネに変えて、農家の生産意欲をそぎ落とし、食の安全をも脅かしていくことにつながります。

 

 今動いている種苗法改定について、さまざまな立場からの意見をみなさんに丁寧に聞いてほしいことはもちろんですが、そのことに加えて、種苗法改定や、それをとり巻く大きな範囲でなにが動いているのかにぜひ目を向け、考えていただきたいと思います。

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この記事へのコメント

  1. 「国は農家の所得を保証するための改正だ」と言っていますが、海外に種苗が持ち出される問題はかなり昔からあったことで、農水省も政府も表立って抗議や対抗処置などとられたことはないようです。
    自家栽培で種苗を得てはならぬ!と云う改正は農家を圧迫するもので、悪法に改正したいだけの話のように思えます。
    米国の無理な要請を易易とうけあって 国民と農家のことなど一切考えない国の姿勢には大きな疑問を感じます。
    食糧危機がもう始まっているのに自国の自給率を上げることをせず、米国とモンサントの利益に協力するとは…国益を考えない政治家と官僚は要らない!

  2. これはそうだね。種苗法改正より海外での品種登録をしなければいけないね。

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