いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

食と農のあり方が世界を変える  日本の種子を守る会・印鑰智哉

印鑰智哉氏

 今、なぜ食と農の話をするのかというと、世界的にこの食と農が大問題になっているからだ。世界的には新型コロナウイルスの感染拡大も私たちの食がもたらしたのではないか、ともいわれるようになってきている。新型コロナウイルスがどこから来たのかは、まださまざまな説があり、固まっていない。しかし毎年のように新しいウイルスがあらわれており、例えばエボラ出血熱はアフリカのジャングルからだった。鉱山開発、そして農業開発でどんどん森を切り刻み、ジャングルのなかに入っていき、森が80%伐採された。そして野生動物と共存していたウイルスが私たちの生活のなかに入ってきてしまい、多くの人が死んだ。エボラ出血熱は致死率が高すぎて、亡くなってしまうのでそれほど広がらなかったが、新型コロナウイルスは逆に無症状のまま広がるので、世界中に大問題をひき起こしている。

 

人の遺伝子もウイルス由来

 

 ウイルスは怖いものと思ってしまうかもしれないが、じつはウイルスは私たちと深い関係にあることがわかってきている。さまざまな生物は原生的な生物からどんどん枝分かれして高度な生物が生まれてきたと考えられている。これを「系統樹」と呼ぶが、これだけでは生物がどのように進化してきたのか説明できない。

 

 2000年ごろから、人間の遺伝子をはじめさまざまな生物の遺伝子を分析する技術が完成しており、人間の遺伝子の解析も終わっている。すると、人間の遺伝子の半分近くがウイルス由来のものだった。生物は、それぞれの生物に枝分かれしただけでなく、飲み込んで進化している。たとえば植物が光合成をするのは葉緑素があるからだ。葉緑素はもともと独立した微生物だったものを飲み込んで植物が生まれてきた。ミトコンドリアは私たちの体にも、植物にもあり、エネルギーをつくり出す。ミトコンドリアがなければ私たちは単細胞生物にしかならなかった。このミトコンドリアも元は独立した微生物だったのをとり込んだものだ。また、母親の子宮内で赤ちゃんが育つが、父親の遺伝子も持つ赤ちゃんは母親にとって異物だ。本来は異物があると免疫が追い出してしまうが、赤ちゃんに対して免疫が働かないよう、ウイルスが膜をつくって守っている。このように人間も植物も動物もウイルスや細菌をとり込んでおり、ウイルスは私たちの体の一部でもある。

 

 さまざまな生物を遺伝子解析すると、アルケア(古細菌)、バクテリア、ファンジャイ(真菌類、キノコや酵母など)、メタゾアン(人間も含む動物)というように、円にして理解したほうがわかりやすい―こうした考え方も出てきた。つまり、私たちの生命はそれぞれの生命体が独自に進化を遂げているのではなく、お互いに作用しながら支え合って生きているということだ。このようななかでウイルスも私たちの生命にかかわっていることがわかってきた。ただ、かかわるということは簡単にはすまない。感染するとどんどん死んでしまう。「ウィズコロナ」などといっているが、これはとんでもない話で、新型コロナウイルスは隔離するしかなく、私たちはそれを乗り越えていくしかない。しかし、最終的にさまざまな生物がお互いを支え合っていることは押さえておく必要がある。

 

破壊される細菌との共生

 

 地球は46億年前に現在のような形になったといわれている。このときの地球は生命がいない世界で、土がなく、大気は二酸化炭素だらけだった。そんな地球を命に満ちた星に変えた主人公は微生物だ。微生物がこの地球上に生きているすべての生物の基盤をつくってくれている。

 

 あらゆる生命はタンパク質がつくれなければ生きていけない。タンパク質をつくるには窒素が必要だが、窒素を自給できる生物はいない。それをしているのが微生物だ。微生物がいなくなるとすべての生命は終わる。微生物はそれほど大きな力を持っている。たとえば植物は光合成をして太陽のエネルギーと地球上にある二酸化炭素、地下の水を吸って炭水化物をつくる。炭水化物は砂糖みたいな物質で、これがあるからこそ植物は生きていくことができる。そして人間も農業をして食べていくことができる。そういう意味で光合成は究極の再生可能エネルギーと呼ぶべきだと私は思っている。

 

 植物は光合成をして自分がつくった炭水化物の4割近くを地面の下に流してしまうといわれている。なぜだろうか。植物は自分で窒素をつくることができない。大気中から窒素をとり込むのも非常に難しい。しかし地中にいる土壌細菌や菌類など土壌微生物はそれが得意で、簡単にやってしまう。ミネラルを集めてくることができるのは微生物だ。そこで植物は炭水化物を地中に流し、微生物を呼び寄せているのだ。微生物はこの炭水化物を食べて繁殖し、そのお返しにミネラルを与えている。窒素やリンがなければ植物は死んでしまうので、必死になって炭水化物を流し、まわりの地下の微生物を集めていく。お互いが生きていくうえでなくてはならない関係にある。このような関係を「共生」という。共生関係ができていくことで、地球ができたころは二酸化炭素ばかりだったのがぐんぐん土の中に入っていき、栄養豊かな土になっていった。もとは土がなかった地球にどんどん土が増えていった。

 

 土の中を見ると、植物の根っこはほんの一部で、まわりに細くもやっとしているのは「菌根菌」という菌だ。キノコやマツタケもこの一種だ。菌根菌が根と一体化して、植物は栄養を得られるようになっている。土壌学者によると、掌に乗せた土の中にある菌根菌糸をのばすと10㌔㍍もあるという。菌根菌は土の中に糸を巡らし、土に向かってグロマリンという粘々としたタンパク質をつくって流している。菌根菌にとってこれは非常に重要だ。もともと土はさらさらとした粒子で、風が吹くと飛んでしまい、集中豪雨が来ると流れてしまう。菌根菌は歩けないので土が流されると死んでしまう。グロマリンを流すと土のさらさらとした粒子がまとまって、ふわふわとした粘着性のある柔らかい土ができていく。菌根菌が糸を張り巡らしたあいだの空間が井戸のような存在になり、そこに栄養や水がしっかり蓄えられる。このことによって菌根菌は安定して生きていける環境ができ、植物にとっても大事な空間になるのだ。よく「農業の基礎は土づくり」「団粒構造のある土が必要だ」といわれるが、この団粒構造のある土は菌根菌糸のグロマリンがつくっている。このように土のなかにものすごい量の菌根菌糸やさまざまな微生物が生きていることで、生きた生命体、生きた環境がつくられ、これが私たちの生命を支えている。

 

有機農業が持つ意味

 

 だが今、あと60年で地球上から土がなくなるという危機に瀕している。3分の1の表土はすでに喪失しており、あと30年で90%がダメージを受けるといわれている。そうなると農業はできなくなり、人類は生存の危機に瀕する。たった30年後の話だ。これを指摘しているのは世界の土壌学者だ。

 

 1㌢㍍の土が自然のなかでつくられるのは、地域によって違いがあるが、少なくとも100年かかるといわれている。1㌢㍍の土が失われると回復には100年以上かかり、地域によっては数百年かかるといわれている。国連FAOは2015年を国際土壌年に定め、土が失われないよう緊急に対策を講じるよう号令をかけた。そして2024年までを国際土壌の10年として、土を守る施策を世界で進めようとしているが、各国政府はなかなか動こうとしない。

 

 

 土が失われている原因として、まず考えてほしいのは化学肥料だ。農薬を気にする人は多いが、化学肥料を気にする人は少ない。しかし実は逆で、すべては化学肥料から始まる。化学肥料を入れない植物の根のまわりには菌根菌糸がたくさん生えている。これが自然の姿だ。だが、化学肥料をたっぷりと与えた植物の根の周囲にはこれがまったくなくなってしまう【図参照】。化学肥料を与えると、植物は光合成でつくった炭水化物を地中に流さなくなるといわれている。微生物を呼び寄せなくても、根のまわりに窒素などミネラルをすべて入れてもらっているからだ。これまで地中に出していた4割の炭水化物は成長に使い、その分ぐんぐん早く育つ。この効果に驚き、みんなが化学肥料を使うようになった。だがその結果、化学肥料を使った土と自然の土には大きな差が出てしまっている。

 

 菌根菌糸が張り巡らされている土は、スポンジのように柔らかく、雨が降ってもさーっと水を吸い込んでくれる。ところが菌根菌糸がない土は固くなり、雨が降ると水たまりができて根腐れが起こったりする一方、水がなかなか染み込んでいかないので奥の方はカラカラだ。日照りが続くと、一方はグロマリンがしっかりと水を保ってくれているので水持ちがよく干上がらないが、菌根菌糸のない土はさらにカラカラになって風が吹けば飛ばされ、雨が降れば根こそぎ流されてしまう。そうして土がどんどん失われていっている。菌根菌糸がつくった土をコップの水の中に入れてもほとんど崩れないが、化学肥料を使った土はボロボロになる。これだけの差があるのだ。

 

 最近、イギリスのKew Scienceが毎年発表する世界の植物と菌類の状態レポートで、4割が絶滅に向かっているという研究結果が発表された。あと30年で地球上の100万種の生物が絶滅するといわれている。そんな時代に来てしまった。今私たちは新型コロナウイルスで騒いでいる。今年の冬、どう生き延びるかは真剣に考えるべき大事なことだが、次には不況というさらに大きな波が押し寄せ、その次に気候変動、さらにもっと大きな「生物多様性の崩壊」という波が来る。生物多様性の崩壊が来てしまったときにはすでに遅い。だから今私たちは何をしなければならないか。手を洗うことも大事だが、それだけではすまない。

 

土壌も人間の腸も同じ

 

 土が世界から消えているという話をした。同じことが人間の腸でも起きている。最近、『土と内臓』という本が出た。土壌細菌と腸内細菌の機能はそっくりで、生物多様性は私たちのお腹の中にもあり、掌や肌にもある。外なる生態系と内なる生態系のどちらでも生物多様性が失われようとしている。その原因の一つに遺伝子組み換えがある。遺伝子組み換えがどのような作用を与えているのか考えてみたい。

 

 遺伝子組み換えはタネではなく細胞を操作する。精密な方法だと思われるだろうが、じつはパーティクルガン法といって、遺伝子銃で大豆のなかに大腸菌の遺伝子の一部をぶち込むというような方法が使われている。銃ででたらめに撃っていれば100回のうち数回はちゃんと入って農薬をかけても枯れない大豆ができる。またバクテリアを使って細胞を運ぶアグロバクテリウム法もある。こちらも100回のうち数回が成功という精度の低い方法だ。

 

 遺伝子組み換え食品を食べても問題は起きないというのがアメリカと日本政府の見解だ。だが今、アメリカの市民はこれを完全にウソだと考えるようになった。要因はアメリカにおける慢性疾患の急増だ【グラフ参照】。糖尿病患者の推移をみると、ちょうど1996年、遺伝子組み換え農業が始まった年から急激に増えている。上の折れ線はアメリカにおける大豆・トウモロコシの遺伝子組み換えの割合だ。1996年に始まり2010年には90%をこえており、現在は95%になっていると考えられる。真ん中の折れ線グラフが遺伝子組み換え農作物に使われるモンサント(バイエル)が開発したグリホサート(商品名ラウンドアップ)の農薬だ。これらが増えれば増えるほど、糖尿病患者が増えている。それだけでなくさまざまなガンも増え、子どもたちの健康が非常事態になっている。アメリカも日本も同じだ。自閉症が90年代後半から急激に増加しており、高齢者の認知症、アルツハイマー病、パーキンソン病なども増えている。

 

 

 

 アメリカでは今、警告として「私たちの子どもたちは私たちと同じだけ生きられない」という言葉がくり返されている。実際に2015年以降、年々わずかだが平均寿命が短くなっている。殺人などさまざまな要因があり一概にはいえないが、顕著なのは40代未満の人たち、とくに子どもたちの健康がとても悪くなっていることだ。「40代未満」というのは重要だ。遺伝子組み換えは24年前に始まった。そのときすでに成人していた世代は、遺伝子組み換えが出てくる前に免疫をつくってしまっているが、その後に生まれた人たちは遺伝子組み換えを食べながら免疫をつくっている。そこでさまざまなアレルギーなどが生まれる可能性がある。日本でも発達障害などで特別な支援が必要な子どもの数は急激に上昇している【グラフ参照】。

 

 

 なかなかこの問題が日本で報道されないのが心配だが、学校現場や医療現場ではわかっている人が増えている。

 

虫の腸を破壊するBt毒素とグリホサート

 

 では、遺伝子組み換えを食べるとどのような問題があるのか。例えばほとんどの遺伝子組み換えトウモロコシでは、虫が食べると死ぬようになっている。食品であると同時に殺虫剤でもある。このなかにはBt毒素が入っていて、虫が食べると腸の内壁に穴をあけて殺してしまう。

 

 また、遺伝子組み換え農作物には農薬・ラウンドアップが使われている。モンサントはラウンドアップを「世界で一番環境に優しい」「人間の健康にも影響を与えない」と宣伝してきた。これは、主成分のグリホサートが植物の葉などから吸収されると、「シキミ酸経路」(光合成をしてアミノ酸をつくる仕組み)をブロックし、アミノ酸をつくれなくしてしまう。そのため植物は枯れてしまうという仕組みの除草剤だ。確かに人間や動物は光合成をしないのでシキミ酸経路を持っていない。モンサントは「だから人間や動物には毒性が低く、安全な農薬だ」という。しかし本当なのか。

 

ホームセンターに並ぶラウンドアップ

 

 私たちの体の中には大事なパートナーがいる。腸内細菌だ。腸内細菌は植物の仲間なので、ラウンドアップは植物を枯らすのと同様に、腸内細菌を殺してしまうことがあり得るのだ。しかし、すべての腸内細菌が殺されるかというとそうではない。大腸菌やサルモネラ菌など悪玉菌は強く、ラウンドアップをかけても影響をうけず、乳酸菌などの善玉菌がダメージを受けてしまう。そうなるとどのような問題が起こるか考えたい。

 

腸内細菌が殺されるとどのような問題が起こるか

 

 私たちは腸内細菌の力で、ドーパミン、メラトニン、セロトニンなど体のバランスを整える物質をつくっている。これを神経伝達物質という。

 

 ドーパミンは、嬉しいとき、体を動かしたいときに必要な物質だ。体を動かしたいとき、神経に信号が通らなければならないが、ドーパミンがたくさんあると神経が通り、私たちは体を動かすことができる。だが、腸内細菌が壊され、ドーパミンがつくられなくなると神経が通わなくなる。シナプス(神経のつなぎ目)に信号が流れなくなると、体を動かしたいと思っても動かなくなる、動かしたいと思わないのに震えてしまうといった症状が出る。これはパーキンソン病だ。グリホサートの使用量と遺伝子組み換えの増加に比例してパーキンソン病が増えているのは、このような関係があり得るのだ。

 

 メラトニンはドーパミンと正反対の働きをする神経伝達物質で、体を休ませたいときに必要になる。メラトニンができなくなると不眠症になってしまう。人間は神経が傷んでも、ぐっすり眠ることで神経が回復するが、眠れなければ神経が傷んだままになってしまう。メラトニンができなければ、うつ病になったり、落ち込んだり、とてもつらい状況に置かれる。

 

 セロトニンはインスリンと深い関係がある。インスリンは血糖値が上昇し過ぎるのを抑える物質だ。ご飯を食べると血糖値が上がるが、上がりっぱなしにすると臓器が壊れて死んでしまう。でも通常は、血糖値が上がっていくとインスリンが分泌され、血糖値が抑えられるようになっているので私たちは健康を維持できている。セロトニンが壊されてインスリンが出なくなると、血糖値は上がりっぱなしになる。これが糖尿病だ。グリホサートの増加によってこれらの病気が増加しており、とくに農業労働者のなかで問題が大きくなっている。

 

 Bt毒素が腸を壊し、グリホサートが腸内善玉菌を壊してしまう。こうしたものが含まれる遺伝子組み換えを食べると何が起きるのか。今、論争を呼んでいるものの、アメリカで注目をされているのが「リーキーガット」だ【図参照】。「リーキー」とは漏れやすいということだ。食べた物が腸に流れてきて腸内酵素や腸内細菌によって分解され、細かくなったものが腸壁をくぐり血管に吸収される。これが消化だ。分解されていないものが血液中に入らないよう腸の壁は密着結合して守っている。だが、腸内環境が壊れると、この密着結合がはがれ、消化されていないものや毒素が血管中に入ってしまう。すると血管の中にある免疫細胞は「敵が来た」と思って攻撃するが、あまりにも多くの敵が入ってくると炎症が起きる。最初に起きるのが、栄養吸収障害で、食物不寛容(さまざまなアレルギー症状で、食べられない物が増えていく)などの障害も起こってくる。

 

 

 なかでも注目してほしいのが、血液脳関門破損だ。血液は脳につながっている。脳は多くのエネルギーや酸素、さまざまな栄養を使うので、脳にそれらを送らなければならない。ただ、脳に悪いものが入ると破壊されてしまうので、それを守っている関門がある。その関門にあまりに多くの変なものが流されてしまうと関門が壊されてしまう。とくに子どもたちは脳関門がまだ十分に形成されていないので壊されやすい。高齢者もだ。そして認知機能が破壊されることが起こり得る。つまり、アレルギーからさまざまな臓器の問題、自己免疫疾患などまで、遺伝子組み換えによってひき起こされる危険があるということだ。

 

世界で増える有機食品

 

 この問題は、遺伝子組み換えを食べなければ簡単に解決する。人間には自己治癒力、自然の回復力が備わっており、すごい力を持っている。スーパーで買った物で生活していたある家族で、子どもの尿からさまざまな有害物質が発見された。その家族に2週間だけ、すべて有機食材で生活するよう依頼し、2週間後に再度検査をすると、有害物質はなにも発見されなかった。世界中で同じ研究がされ、すべて同様の結果になっている。

 

 私たちはご飯を食べても顔・形は変わらないので、食べた物はエネルギーになっているだけだと思いがちだが、私たちの体は食べている物でつくられている。そして、およそ2週間で90%が入れ替わっている。もちろん髪の毛や骨などは時間がかかるが、2週間食事を有機食材に変えることで体の9割が有機にかわるのだ。アレルギーで苦しんでいた子どもも2週間でほぼ症状が出なくなった。もちろん炎症にまで至っていたら炎症を止める治療をしなければならないが、そこまで至っていない子どもの場合は2週間あれば回復できることがある。自閉症も4カ月でほとんど治った例などもあり、アメリカでは母親たちがこうしたことに気づいた。

 

 7年前、アメリカの独立記念日に母親たちが遺伝子組み換えに反対し、食品表示義務を求めるデモを全米172カ所でやった。フェイスブックやツイッターでつながり、口コミで広がったこのデモで、今大きな変化が生まれている。あるスーパーの遺伝子組み換えでない食品の売上は5年で4倍になった。「遺伝子組み換えを使っていない」という認証マークのついた食品の売上は4年で7倍になった。さらにアメリカの世帯で有機食品を購入している家庭(毎回ではない)は、全米平均で82%、ワシントン州92%、カリフォルニア州90%など、有機を買うのが当たり前の時代に変わってきて、Non―GMO市場は急成長している。

 

 有機をめぐる世界の動きは大きく、20年足らずのあいだに5倍以上、546%になっている【グラフ参照】。このなかで中国は今、世界第3位の有機生産国になっている。ところが日本はこの動きから置き去りにされており、面積では世界98位、面積割合では109位と非常に低い状態だ。ただ、世界の動きもここ5年、10年の話だ。日本でも実現することができる。

 

 

限界にきた遺伝子組み換え

 

 世界では遺伝子組み換えはもう終わりが見えてきた。1996年以降、ロケットのように増えていた耕作面積が、2015年に初めて前年比を下回った。アメリカもヨーロッパも拒否し、アフリカでもラテンアメリカでも反対が強まっている。世界中が食べなくなり、遺伝子組み換えを克服する道が見えてきた。しかし、残念ながら2016、2017、2018年に耕作面積が増加した。なぜか。このような事態になっても遺伝子組み換えを買い続けている国があるからだ。それは日本だ。日本をどう変えていくのかが次の課題になる。

 

ゲノム編集食品とは何か

 

 世界が遺伝子組み換えをやめようと動き始め、耕作する人も減少してきた。ピンチに陥った遺伝子組み換え企業が新しい解決策として考えたのがゲノム編集だ。「ゲノム編集は遺伝子組み換えではない」と宣伝しているが、まったく同じ遺伝子操作技術だ。

 

 違いを一言でいうなら、「センサー付き遺伝子破壊技術」ということだ。これまでの遺伝子組み換えはランダムに遺伝子をぶち込む技術だったが、ゲノム編集は「クリスパー」というガイドがあり、特定の遺伝子を探す能力がある。そのことによって正確に破壊することができるようになっただけだ。

 

 ゲノム編集のイメージにはハサミのイラストが使われ、「編集」というと文章を切りとり、整えるイメージを与える。しかし、実際のゲノム編集は破壊するだけで、あとどうなるかは運任せだ。どのような変異が起きるかはまったく保証がない。ある科学者は「ハサミの比喩は間違っている」と指摘している。たとえるならセンサー付き手榴弾による遺伝子破壊技術だ、と。もしくはミサイルの方がイメージに近い。

 

 この技術では、特定の遺伝子を破壊したあとに別の遺伝子を入れることも可能だが、今は禁じ手となっている。それをすると遺伝子組み換えと同じになり、規制の対象になるからだ。あくまでも「遺伝子組み換えとは違う」とするために、現在は既存の生物が持つある機能を破壊することしかしていない。これで新しい物がつくれるだろうか。

 

 ゲノム編集された作物の一つに、バランスを失わせて性格を変えたものがある。あらゆる生命はアクセルとブレーキの両方を持っている。ある程度成長するようアクセルを持ち、ある程度成長するとブレーキをかける。両方を使うことによって生物は適正に育っていくことができる。そのブレーキ(成長抑制遺伝子)を破壊して、収量の多いイネや小麦がつくられている。生産性は上がるが、バランスが壊れた生物だ。またGABAが健康にいいことで注目され、GABAを抑制する遺伝子を破壊してGABAだらけのトマトがつくられている。

 

 特定のタンパク質をつくれなくした物もある。菌病耐性品種のコメや小麦(病原菌が増殖するために使うタンパク質を破壊)、有害なトランス脂肪酸をうまない大豆、芽から毒素(アクリルアミド)をとり除いたジャガイモ、変色しないマッシュルーム(変色させる遺伝子を破壊)などだ。

 

 つまりゲノム編集生物は、それぞれが自然に持っている機能が破壊されたものであり、それが本当に生態系のなかで育っていく可能性があるのか、環境や健康に影響はないのか、私は大変疑問だと思う。

 

 ゲノム編集食品はすでに開発されており、今すぐにでも登場する可能性がある。アメリカでは昨年、ゲノム編集大豆を商業栽培し、カリクスト社(社長は元モンサント)が、それからつくった大豆油「カリノ」に、なんと「Non GMO」(遺伝子組み換えでない)と表示して販売している。これは安いレストランで使われているだけで、アメリカ国内では拒否する動きが強い。また、サイバス社(販売カーギル)の農薬耐性ナタネも2019年に商業栽培を開始しており、ダウ・デュポンの農薬耐性トウモロコシなどアメリカでは166品種がすでに認定済みだ。実はGABAだらけのトマトは日本企業がアメリカに登録している。これらが日本に迫っているといわざるを得ない。

 

 昨年10月、日本政府はゲノム編集を安全性表示などがないまま販売することを解禁した。「ゲノム編集は遺伝子が壊れただけだ。自然界でも壊れることがあるから自然と同じ」という理屈で認めたのだ。今、日本では一切表示しないでいいことになっている。

 

 まだゲノム編集食品は出回っていない。EUやニュージーランドは「遺伝子組み換えと同じだ」といっており、今生産して遺伝子組み換えの二の舞いにならないよう様子見をしている状態だ。今、反対すれば止めることができる。

 

工業的食が社会・環境破壊

 

 今、私たちの社会は、医療崩壊、農業の崩壊、格差や飢餓の拡大、地方財政の崩壊、生物多様性の崩壊など、さまざまな問題に直面している。生態系も、多様性や健康も破壊する原因をつくり出している根本原因としてあるのが「大量生産される工業的食」だ。であれば、食のあり方を変えれば地域の問題やグローバルな問題を解決していけるのではないかと、食の民主主義・フードデモクラシーの運動が世界で急速に広がっている。欧米だけでなくブラジルや、もっとも強いのはラテンアメリカやアフリカかもしれない。アジアでもインドなどで急速に増えており、「アグロエコロジー」は世界の共通語になっている。有機農業や自然栽培はこうした考え方に近い。

 

 しかし、有機農業や自然栽培を中心とした農業を実現していくためには「種子」が必要だ。種子を使うのに農薬や化学肥料がセットになっていれば、こうした農業はできない。そこから今、「種子を守ろう」という運動が世界中で強まっている。

 

 FAO(国連食糧農業機関)はかつて、農業の大規模化・企業化を進めてきた。これが多国籍企業による食の独占、貧困の拡大、食料保障の不安定化を招き、2007年、2008年には世界食料危機が叫ばれた。世界中で農民運動などが広がるなか、国連も「アグロエコロジーと小規模家族農業こそ世界の問題の解決策だ」と、こちらを重視する方向に大転換している。2014年を「国際家族農業年」とし、2019~2028年は「国連家族農業の10年」としている。これからは企業的農業ではなく、小規模な家族農業こそが世界を変え、食を守れるという方向を推進している。そうしなければ生態系が破壊され、30年後には土がなくなってしまうからだ。

 

急変目前の日本の食と農

 

 ところが日本ではそれと真反対のことが起きている。2018年に主要農作物種子法が廃止され、農業競争力強化支援法も一緒に成立した。そして2020年の通常国会、臨時国会で種苗法を改定し、自家採種を原則禁止する動きが出てきている。この動きは何なのだろうか。

 

 種子法は主食のコメ、麦、大豆を失うと飢えてしまうので、その種子を都道府県がしっかりつくるよう、行政の責任を規定した法律だった。それが廃止された。それに対してこれから改定されようとしている種苗法は、まったく性格が違い、新しい品種をつくった人の知的所有権を守るための法律だ。これは農家が摘発対象になる。

 

 種子法廃止の目的は、一言でいうと民間企業が活躍できるようにするためだ。政府自身が「種子法があると国や地方自治体の種子事業と民間企業の種苗事業はイコール・フッティングにならない。そのため民間企業は投資意欲を失ってしまう。民間企業の参入を促すために、種子法の廃止が必要」と説明している。では、民間企業に種子をまかせると何が起こるのか考えてほしい。

 

 アメリカの種子の値段の推移をみると、トウモロコシ、綿花、大豆の種子だけが高騰している。三つの共通点は遺伝子組み換え作物だ。たった4社が95%を独占しているため、値段がどんどん上がっていく。これに対して小麦の種子の値段は上がっていない。なぜなら小麦は農家の自家採種が当たり前だからだ。アメリカで自家採種していると聞くと不思議に思うかもしれない。しかし、自家採種できないのは遺伝子組み換えなど、特許をとられた作物だけで、アメリカの農家は3年に一度くらい公共団体から安い小麦の種子を購入して自家採種している。だから小麦の種子の値段は上がらなかった。

 

 これは日本でも同じだ。日本人の主食であるコメの種子は、種子法によって都道府県が安く提供し、農家は自家採種することもできた。だから種子の値段は抑えられていた。ところが日本政府は、主食であるコメまで民間企業に任せてしまおうとしている。アメリカで小麦は州の法律で守られ、自家採種もできるのに、日本はアメリカ以下になろうとしている。

 

食・農のあり方変わる危険

 

 民間企業に任せると何が問題なのか。公共品種であれば種子を購入したあと、農薬を使おうが、減農薬や無農薬で生産しようが農家の自由だ。しかし、民間企業の種子にその自由はない。ある企業の種子は企業の所有物で、農家は購入することができない。ライセンス契約を結び、その企業の種子を増殖する委託労働者になる。委託労働なので、どの化学肥料を使い、どの農薬を使うかが定められており、農家は自由に決定する権利を持たない。日本では消費者と生産者の顔の見える関係を通じてよりよい食をつくることをしてきた(生協など)と思うが、消費者に頼まれて減農薬や無農薬栽培をするとライセンス契約違反となり、罰金を払わなければならなくなる。つまり、種子がかわるだけでなく、農業と食のあり方が変わってしまう危険があるのだ。

 

 

 農水省は今回の種苗法改定について、「9割は一般品種で、対象になる登録品種は1割しかないから大丈夫」「農家に影響はない」と説明している。これはウソだと思う。農水省のデータで全国の産地品種銘柄を調べてみると、登録品種が約50%ある。山口県を見ると、コメは半分の品種が登録品種だ【表参照】。小麦は登録品種しか生産されていない。ということは、小麦を生産している農家は全員が影響を受ける。大豆も一般品種にフクユタカがあるが、サチユタカ、のんたぐろは登録品種だ。一般品種は自家採種して種子を分け合っても大丈夫だが、登録品種で同じことをすれば法律違反になる。これが一割といえるだろうか。生産量でみるとコシヒカリとひとめぼれ(ともに一般品種)が多いが、これからは登録品種の方が増えていく時代になっていく。

 

 

 種苗法改定で、許諾制の対象になるのは5294品種にのぼる。野菜農家で「タネを毎年買っているので、法律が変わっても変化はない」という声があるが、確かに野菜の場合は種苗法はあまり関係がない。野菜のタネはF1で一代限りなので、品種登録しなくても農家が毎年買ってくれるうえ、登録費用が高額なため種苗会社も登録していないからだ。しかしイネ、麦、大豆、サトウキビ、イモ類、イチゴなどは大きな関わり合いがある。

 

 つまり主要作物と各都道府県の重点農産物が影響を受ける可能性がある。今回の焦点はその点にあり、種苗法改定は大問題ではないかと思う。

 

 自家増殖は農業の根幹技術だ。この根幹技術が規制されることは、長期的に見るなら日本の農業は非常に大きな影響を受ける可能性が高いと思う。

 

育成者権のみが強化される

 

 これまでの種苗法は、「種子をつくった人の権利(育成者権)と使う側の権利はバランスしなければならない」という考え方でつくられている。そのために複雑でわかりにくくなっているが、ベースにこの考え方がある。ところが改定案では使う側の自家採種を認めないとしており、育成者権のみが強化され、バランスがとれなくなっている。農水省は「一般品種や在来種を使えばいい」「それでバランスがとれる」としているが、これには大きなウソがある。

 

 登録品種は種苗法で守られているが、今の日本では一般品種や在来種を守る法律は存在していない。在来種を使っている農家と登録品種の育成者権者とで争いになると農家は勝てない。バランスできないと思う。今、種子や苗が売れずに困っている育種農家の現実があるが、これは農家の数が減少しているからだ。使う側の農家を増やさなければ育種農家も成り立っていかなくなっている。

 

 本当に日本政府がやるべきなのは、こうした問題の解決だ。使う側の農家と育種家農家の双方を国や地方自治体が支援してバランスを保たなければならない。ところが今回の種苗法改定は、このバランスを崩して農家の側を締めつけるものとなっている。日本の農業の発展は非常に厳しくなってしまう。

 

日本だけ自家増殖一律禁止

 

 今の種苗法改定の問題のなかで大きな問題としてあるのが、すべての農作物について一律自家増殖を許諾制(一律禁止)にしてしまうことだ。農水省は「今、世界中がそうだ」といっているが、実際は違う。ヨーロッパは小麦などの主要穀類を例外作物に指定している。アメリカでも小麦は自家採種できるようになっている。すべての作物を一律許諾制にする法律は世界に存在しない。日本がそのように法改定しようとしていることは大きな問題だ。

 

 また許諾料について、農水省は「許諾料はとても安い。イネであれば10㌃当たり種苗代が1600円でうち許諾料は2・56円だ。農家の経営には影響を与えない」と説明している。これにもウソがある。今、種苗代が安いのは、都道府県(地方自治体)が育成した品種だからだ。民間企業にこれらの種子が渡ったあと、これほど安価なまま許諾するはずがない。もしくは一切許諾せず、毎回購入することになるかもしれない。コメの種子の場合は99%が都道府県のつくっている公共品種だ。民間品種は1%ほどで、今のままであればそれほど負担にはならないだろう。だが、この割合が逆転すると大変なことになる。

 

 農業競争力強化支援法の八条四項には、「都道府県が持っているノウハウを民間企業に渡さなければならない」と書かれている。

 

 また七条には「民間事業者の活力の発揮を促進し」「適正な競争の下で」と書いてある。ここでの「適正な競争」とは、民間企業と地方自治体が競争しなさいということだ。民間企業と違い、地方自治体は国からの補助金、税金を使って安価な種子を提供している。だから事業として見た場合は赤字だ。しかし、農家は安く種子や苗を購入することができ、消費者もその恩恵を受けている。また農家が農業を続けられることは、地方自治体の税収にもなる。そのように循環しながら、これまで何とか回っていたのだ。だが、これは民間企業からすると「適正な競争ではない」ということになる。国や都道府県が種子事業に税金を出さなくなれば、農家が種苗を購入することで地方自治体の種子事業を支えなければならなくなる。つまり、種苗育成事業はすべて農家の負担になるということだ。そのために自家採種をすべて一律許諾制にしようとしている。独立採算で種苗事業をしていくことになれば、地方自治体の種苗事業はどんどん弱っていくし、地域を支えていた多様な品種、アレルギーの子どもにもいい品種など、売れ筋とは違う少ない品種が淘汰されていきかねない。

 

種苗法改定で譲れない点

 

 種苗法改定にあたり、譲れない部分として、

 

・一律許諾制ではなく主要農作物(イネ、麦、大豆)を例外にすること。
・都道府県に許諾の例外を設定する権限を認めること。
・有機農業のための種苗をつくるための自家増殖を例外とすること。

 

 などがある。日本では有機農業の種子を公的機関はつくっていない。種子を生産する場合、直接食べる物ではないので、かなり農薬を使用している。その種子を使うと、純粋な有機農業にならないので、有機農家は購入した種子を一度有機栽培し、デトックスをした種子で初めて有機農業をしている。購入した種子を必ず一度増殖しなければ有機農業ができないので、自家増殖を禁止されると有機農業はできなくなる。

 

 今の種子には、使った農薬をすべて記載しなければならないようになっている。これはすばらしい規定だ。

 

 しかし、ゲノム編集された種苗かどうかは記載しなくてもよいことになっている。農家が普通の大豆の種子と思って購入したら、実はゲノム編集された種子だった―ということになれば、知らないうちに遺伝子操作した物を栽培していたという事例が起きかねない。そうなれば世界から「日本の食は信用できない」「日本の食は怖いから日本には来たくない」「輸入したくない」とみなされることになってしまう。これは大問題であり、指定種苗制度にゲノム編集の明記を義務化する運動が必要だと考えている。

 

日本でも代替民間認証を

 

 アメリカやドイツには民間認証があり、消費者は遺伝子組み換えやゲノム編集食品を避けることができるようになっている。今、日本でもスーパーに行き、「遺伝子組み換えでない」と記載された納豆や豆腐を購入している人も多いと思う。しかし、この表示は2023年で終了する。日本はこれまで、遺伝子組み換えが5%未満であれば、「遺伝子組み換えでない」と表示することができていたが、この水準が緩すぎる問題があった。ヨーロッパは0・9%、韓国は3%など、各国では表示するのに厳しい基準を課している。日本も1%くらいまでなら下げられるのではないかと要望してきたが、日本政府は0%でなければ「遺伝子組み換えでない」と記載してはならないと決めた。

 

 今大豆など多くが輸入品であり、遺伝子組み換えでないものを輸入したとしても、わずかに混入するのは避けられない。0%など不可能だ。業者は違反を指摘されるリスクの方が高いので、表示をやめる動きになっている。

 

 政府のでたらめな基準によって、消費者は遺伝子組み換え100%か0%かしか選べなくなってしまった。しかし0%は存在しないので結局、遺伝子組み換えか否かは区別ができない状態になる。民間認証をつくり、「1%未満なので安全性が高い」などの商品を販売できるようにしなければ、日本の食は守れない時代になっている。

 

地方自治は命を守る防波堤

 

 今、種子法廃止に対して、都道府県で種子条例を制定する動きが広がっている。「山口県は山口県の農家のために種子をつくる」ということを県議会で条例にしてしまう動きだ。都道府県独自の条例を制定すると簡単には変えられなくなる。現在、47都道府県のうち23の県議会で審議され、条例が制定された。ぜひ山口県でも条例をつくっていただきたい。

 

 国会の与党議員たちは官邸がにらんでいるので、官邸に反することはできないようになっている。国会の与党議員を変えるのはほとんど無理だが、たとえば長野県では与党も含めて全会一致で県独自の種子条例を議決した。長野のために長野の種子を守ることに反対する人はいない。これから変わっていくのは地方だ。衣・食・住に直接かかわる地方こそが重要な舞台になってきている。

 

在来種の保全・活用促進を

 

 在来種を守ろうという動きが世界各国で出てきた。とくに顕著なのは韓国だ。多くの自治体で、地域の在来種の種とりをし、それを使って育てた作物を学校給食で活用する条例ができている。そしてほとんどの地域でコメは有機米になった。

 

 日本では有機米はなかなか売っていないがこの状況も変えていくことができる。山口県の食料自給率は32%だ。東京の32倍ではあるけれど、まだ3分の1だ。自給率を上げていくことをめざし、地域の種子を使った地域の循環をつくっていくことが大事だと思う。

 

 それを実現していくうえで、もっとも効果的なのが学校給食だ。子どもたちの健康が深刻になっているので学校給食を改善するということもある。学校給食を変え、三食のうち一食でもいい物にすると子どもの健康は著しく改善する。休まなくなり、神経が通うようになるので集中力も長続きするようになる。世界中で有機農業が急速に広がっているが、各国でそのエンジンになっているのは学校給食だ。各国とも「学校給食は50%有機にする」などの目標を掲げている。だったら有機農業をやってみようと変わっていく人たちがヨーロッパなどでも急激に増えている。オーストラリアでは20%が有機になっている。

 

 そしてこの動きが日本でも始まった。千葉県いすみ市は有機農家は1軒しかなかったが、市長と農家が手を組んで学校給食への導入を開始した。これまで有機農業は草取りが大変で、一町(約1㌶)しかできないというイメージがあったが、今では生態系の特性をつかむことで、農薬を使わずに草を抑制する技術が完成している。いすみ市では、有機農業に参加したい人は5軒だったが、「民間稲作研究所」を招いてそのメソッドを学んでコメ作りをすると、手間はかからず収入は1・5倍になった。そうしたら参加する農家も増え、現在は25軒になっている。今、いすみ市の小・中学校の学校給食はすべて有機米だが、それ以上に収穫があるので、「いすみっこ」として東京に販売に出かけている。

 

 このような動きが全国化しており、長野県でも次々に有機農業をやろうという動きが広がっている。じつは有機農業については国もやろうといっている。下関市でも変わっていく可能性、実現の可能性が十分ある。

 

 これから注目してほしいのは、市民参加型で学校給食をつくっていくことだ。下関だけで無理な場合は農村の自治体と提携すればよい。これまでも生協などで産直提携はおこなわれてきたが、参加した人にしか見えなかったので広がらなかった。しかし学校給食は地域のみんなに見える。日本には産直提携の経験も技術もある。足りないのは政治だけだが、これは国レベルではなく、市町村単位であれば与野党関係なくとりくむことができる。ぜひ、そのようなとりくみを考えていただきたい。

 

 ウイルス被害、生物多様性の激減、気候変動、慢性疾患の急増はすべてがつながっている。アグロエコロジーや環境再生型農業、有機農業、自然農法などの農業に転換し、1000分の4、土の力を回復させれば気候変動は収まると科学者も指摘している。農業こそが解決策ということだ。食が生物多様性を壊しているのだから、食を変えることが対策の根幹にあるべきだし、それが今、可能になっている。技術もそろい、実例も世界中に広がっている。山口県、下関市でも広がっていくことを祈って話を終えたい。  (おわり)

 

※「考えよう!下関の食と農」での講演より

 

日本の種子を守る会発行のパンフレット。1部20円で注文し活用できる

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。