いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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現代資本主義の終末的危機を示す人間労働・生活破壊―その克服はいかに (1) 埼玉大学名誉教授・鎌倉孝夫

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 かまくら・たかお 1934年生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。埼玉大学・東日本国際大学名誉教授。主な著作に『資本論体系の方法』『資本主義の経済理論』『“擬制”経済下の人間・人間関係破壊』『帝国主義支配を平和だという倒錯』『「資本論」を超える資本論』『トランプ政権で進む戦争の危機』など。

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 日本を代表する製造業大企業の製品偽装販売が次々と現出した。その下で明らかにされてきたのは、製品の質をおろそかにした、生産量・販売量増大による利潤拡大―利潤至上主義である。しかもこの利潤至上主義の下で、生産現場の労働は、ほとんど奴隷的労働というべき状態に陥っている。人間労働破壊の現実である。この現実は、資本が支配する全分野に拡大している。


 人間労働破壊は同時に人間的生活破壊を伴う。まともな生活ができない、若者は結婚もできない。子育ても厳しい。老後の生活は破滅状態に陥っている。


 しかし政府の政策は、外観は民衆のためを装ってもますます生活破壊を深める。財政が厳しいからということで社会保障政策は切下げられている。しかし全くの浪費でしかない軍事支出、使いものにならない兵器の購入は激増している。その口実として、危険な国(朝鮮)が戦争を挑発している、“国難”だ、と大宣伝し、民衆に朝鮮のミサイル攻撃を想定した避難訓練さえ強要している。


 戦争の危機が煽られている。しかし戦争こそ最大の人間破壊をもたらす行為である。現実に戦争が起これば、社会自体が破壊される。戦争準備態勢自体も、人間生活、生存の危機を深める。


 なぜ現代資本主義は、人間労働・人間生活を破壊するのか。トランプ氏や安倍氏だって、戦争が起これば、アメリカも日本も存続不可能なダメージを受けると分っているであろうのに、なぜ戦争の危機を煽るのか。


 戦争の危機を煽り、民衆にこれへの対処を強要する以外に、この社会体制―現代資本主義体制が維持しえなくなっている、といえよう。社会の本来の主体である労働者民衆の生存・生存根拠である労働・生活を破壊しなければ存続しえなくなっているこの現実は、この体制の終末的危機を示している、ととらえなければならない。


 この体制を変革しなければ、人間・人間社会は存続・発展しなくなっている。変革が、現実の課題となっている。いかにこの体制を変革しうるか、そのために私たちが何をなすべきか、何ができるかを考え、自分自身で実行できることを現実に実行する以外にない。


 本稿は、このような問題意識によって、大要次のような課題を明らかにしたい。
 1、製品偽装――それは何を示しているか
 2、人間労働破壊の現実
 3、人間生活破壊の現実
 4、労働・生活破壊の原因――新自由主義・その主役金融資本の支配
 5、戦争こそ究極の人間破壊――なぜトランプ・安倍は戦争を煽るのか
 6、この危機をいかに克服するか

 

1、製品偽装――それは何を示しているか


 神戸製鋼所、日産自動車、スバル、三菱自動車、スズキ、三菱マテリアル子会社、東亜建設工業、旭化成、東洋ゴム、そして東芝…。日本の一流といってよい製造業大企業が、不適合製品の品質データ改ざん、法令無視の製品検査偽装等を行なって、製品を販売していたことが次々に発覚している。その典型的な事例を若干示しておこう。

 

 ①神戸製鋼(鉄鋼メーカー国内第3位)。1905年、前身の小林製鋼所として創業。第一次世界大戦勃発による軍需支出拡大の下で、兵器生産を手掛ける(潜水艦のディーゼルエンジン、砲弾など)。1930年代日本の侵略戦争拡大の中で軍需生産を拡大する(38年軍の管理工場に指定されている)。戦後GHQによる軍需生産禁止で、民需品生産に転換したが、経営危機に陥る。しかし50年からの朝鮮戦争に伴う特需で復活し、軍需生産再開・拡大。現在は、潜水艦から魚雷を発射する装置・「水中発射管」、戦車を含む重車両を対岸に渡す「92式浮橋」、クレーン等の重機を、防衛省に直接納入している軍需産業企業である。


 神戸製鋼の品質データ改ざんは、鋼管、アルミニウム合金線、特殊鋼から、自動車部品のバネなどに使われる線材など主力商品に及び、防衛省へ納入するアルミ製品(航空機、誘導兵器、魚雷などに用いられる)、福島第2原発3号機の原子炉を冷却する熱交換器に使われる部品としても使われていた。「影響は国内外の主要自動車メーカーや航空機、鉄道、ロケットなどにも広がっている」(『毎日新聞』2017年10月14日)。


 神戸製鋼の製品品質データ偽装はすでに国内工場では数十年前から、しかも組織ぐるみで行なわれていた(『日本経済新聞』17年10月17日)。


 鉄鋼産業研究者大場陽次氏は、鉄鋼産業一般に高度成長期が過ぎた80年代から人減らし合理化が進められ、薄板工場などでは無人化工場となり極限まで要員が減らされ、とくに製鉄所現場の「検査・試験」部門では人減らしが進んだことに問題の原因がある、と指摘している。また経済ジャーナリスト町田徹氏は「約束した寸法・強度と違うが安くするから引取ってくれ」という“特採”の仕組みが、調達コストを下げたいという買い手企業の意向もあって、悪用されたのではないか、また設備投資が減り人員削減が進む中で減点主義がはびこりそれが現場の停滞感を生み、特採を正規品と偽って売るような暴走が起き始めたのではないか―「新しい“日本病”として蔓延していないかと疑われます」といっている(『サンデー毎日』17年12月10日)。

 

 ②タカタ、日産自動車、スバル。自動車部品メーカーのタカタは、1980年代からエアバッグを製造。世界的にシェアを高めた。しかし同社製のエアバッグの破裂でドライバーが死傷する事故が米国中心に多数起きた。米メディアはこの事故を大々的に報道し、米上院が公聴会に被害者、同社幹部を呼ぶ事態に発展。その後、完成車メーカーの大規模なリコール(回収、無償修理)を経て、同社は17年6月民事再生法を申請し経営破綻した。


 日産自動車、スバルは、国内向けに出荷する新車は道路運送車両法などに基づき社内資格を持つ従業員が検査をする必要があるにも拘らず、30年以上前から無資格者が検査をしていた。日産では、検査を非正規の期間従業員にもやらせていた。


 自動車の完成車検査は、ブレーキやライトの性能、排ガス濃度などを計測機械で検査し国の安全基準に適合しているかをチェックする。この検査を無資格の、非正規労働者にさえ、やらせていた。検査員資格を認定する基準を、メーカー任かせにする現制度のあり方、国の監督指導行政の責任が問われるが、問題の中心は、カルロス・ゴーン会長に代表される徹底したコスト削減による業績=利潤至上主義にある。


 日産自動車は、資本の権化ゴーン会長の下で徹底した要員削減、労働強化による生産量増大―販売増大―利潤拡大が目ざされた。この方針の徹底推進を図る労務管理の下で、生産現場では2交代勤務から3交代へ、日勤(一直)から2交代で、ギリギリの人員で労働強化、長労働時間が強要された。正規雇用から非正規雇用へのシフト、同じ仕事をしながら、非正規労働者の賃金切下げによるコスト削減が推進された。検査部門でも要員削減、非正規労働者への置かえが行なわれた。「成果・評価主義の賃金体系と労務管理が強められ、目標結果や成果を出して評価されなければ賃金や昇進昇格にも大きな差が生まれ、評価する上司に逆らえない、ものが言えない上意下達の現場となりました。労働者がバラバラにさせられ、お互い同士競い合う職場環境となり、パワハラやメンタルヘルス不全も広がりました。コスト削減経営方針が製造現場をむしばみ、ものづくりの基盤を掘り崩し、同時に、労働者から仕事のやりがいを奪い、心身の健康を脅かしています。労働組合もこうした事態や不正行為に対して、団体交渉や経営協議会でも有効な対応やチェックができずにきています」(労働運動総合研究所、佐々木昭三、『しんぶん赤旗』2017年12月6日)。


 日産の検査不正が暴露されたことにより、日産の自動車出荷は一時停止になり、17年10月の新車販売は五割減、今期営業利益は400億円減となる予測である(『サンデー毎日』前掲)。スバルもリコール関連費用に約200億円かかるという(同上)。

 

 ③旭化成、東亜建設工業、東洋ゴム工業。
 旭化成の完全子会社「旭化成建材」が、建設現場でのくい打ち工事で06~16年の間、計360件に及ぶ施工データの転用や改ざんをした。その結果、横浜市都筑区のマンション建設工事では、くいが地中の固い層に届かないまま工事を完了させたため、建物が傾いた。


 東亜建設工業。薬液を注入する工法で、地震による液状化を防ぐ地盤改良工事を施工したが、実際には設計量を注入できなかったにもかかわらず、注入したかのように偽装した。


 東洋ゴム工業。完全子会社「東洋ゴム化工品」が製造した免震ゴムが国土交通省が定める性能を満たしていないのに、満たしていたかのように偽装して販売した。また同社が製造した防振ゴムの品質検査をせず、検査したかのように偽装して出荷した。偽装が行なわれた期間は両製品とも10年以上に亘った(いずれも『サンデー毎日』前掲)。


 そして東芝の不正会計処理。子会社化した米原発会社ウェスチングハウス(17年3月経営破綻)が巨額損失を発生させている原因を隠し、隠蔽を目的とした監査法人対策まで組織的に行なっていた。08―14年度決算の税引き前利益を2306億円水増しした。東芝は大損失の中で大規模なリストラを進めている。

 

 ④本稿執筆過程で、関連して次のような情報が入った。一つは三菱マテリアルの子会社三菱電線工業で電子部品のデータ改ざんが発覚した。油や水の漏(もれ)を防ぐパッキンなどのシール材、携帯電話やパソコンなどに使われるコイル状の電子部品「平角マグネットワイヤ」で寸法などデータ改ざん、検査実施しないままの出荷が行なわれていた。三菱伸銅も車載部品向け銅製品に硬さなどのデータ改ざん、三菱アルミニウムもアルミ板で品質データ改ざんが行なわれていた(『毎日新聞』17年12月20日)。


 東海道・山陽新幹線「のぞみ」で台車枠の両側面と底部に亀裂が生じ長さ44㌢に達していた。枠は破断寸前で脱線もありえた重大事態であった。異常が感じられたのに博多から名古屋まで運行した。台車枠は川崎重工業製。亀裂で台車枠がゆがみ、モーター回転を車輪に伝える「継ぎ手」がズレて変色し、油もれ、異臭、異音が生じていた。岡山駅で保安担当社員が運転中止・点検を提案したのに、JR西の輸送指令の判断でそのまま走らせた。「典型的な金属疲労で、今回の運行で発生したものではない。最後は首の皮一枚がかろうじてつながった状態」であった(永瀬和彦・金沢工業大客員教授。『毎日新聞』同上)。
 乗客106人死亡、562人負傷という福知山線脱線事故を受け、JR西は安全管理体制の見直しを図ってきたが、現実の事態は安全管理がずさんとなり、大事故の危険が生じている。


 製品偽装が大事故発生の危険性を高めることは十分考えられる。しかし製品偽装―運転保安の危険性を含めて―は、生産・労働現場における人間労働―生産・労働の主体としての行動―が、解体化されていることに決定的原因がある。そこで生産・労働現場の人間労働解体化の現実をとらえよう。    (つづく)

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