いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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ドル支配の終焉とそのもとで拡大する無政府性を反映 仮想通貨の暴落に見る

裏付けを失った膨張マネー

 

 各国の中央銀行や政府の統制管理が及ばない外側で、 ビットコインをはじめとした仮想通貨なるものがあらわれ、 一部では決済手段として導入されたり、 この価値が高騰して投機熱が高まったり、 はたまた暴落するなどして世間を騒がせている。 目下、 決済手段というよりは通貨の証券化といえるような金融商品と化しており、 昨年からの高騰と暴落によって後発列車に殺到した人人が損失を被る事態にも発展している。1971年のニクソン・ショックを経て金ドル体制を離脱し、 第2次大戦後の金ドル交換を基礎にしたブレトン・ウッズ体制が崩壊して半世紀近くが経とうとしているが、 その後、 世界には裏付けのないマネーが膨張し続けてきた。 そして、 いまやドルにせよ円にせよ、 価値を裏付けてきた金や銀から切り離されて、 資本主義社会では通貨の価値そのものへの信頼が揺らいでいる。 こうした状況をあざ笑うかのように、 誰が発行しているかもわからない仮想通貨なる新種までがあらわれ、 ネット上の仮想すら投機の具になるという、 なんとも知れない世界を作り出している。


 「仮想通貨」はいわゆる貨幣そのものではなく、 コンピューター上でやりとりする お金 のようなものとされている。 一般にはそれ自体が意味のわかりにくいもので、 得体の知れないものでもある。 この仮想通貨にパソコンやスマホから現実の通貨を入金して購入したビットコインによって決済するシステムで、 決済手段として一部で利用はできるが、 まだ社会全般に認知されて利用範囲が広がっているわけではない。 金や銀の裏付けがあるわけでもなく、 各国の金融当局の法整備も進んでいないのが実態だ。 一部では麻薬取引やマネーロンダリングに利用されていることも指摘されてきたが、 昨年から「1年前に1ビット=10万円程度だったのが200万円を超えた」という情報がメディアに紹介されたのをきっかけに素人が駆け込み乗車をはじめ、 目下、 株式や証券と同じように金融商品と化して乱高下している。


 それ自体は何らの生産性もないにもかかわらず、 わずか1年あまりで20倍もの価値に跳ね上がり、「億り人 (おくりびと)」と呼ばれるビットコイン長者もあらわれた。 そうした情報がメディアで拡散され、 CMに登場するなかでさらに投機熱が煽られ、 我も我もと後追いする者が続出する。 これは投機以外のなにものでもない。 そうして日本国内の主婦をはじめとした素人の総称である「ミセス・ワタナベ」が押し寄せた直後から、 今度は一気に価格が暴落をはじめ、 衝撃が走っている。 トレンドに乗ったと思った次の瞬間には価値が半減し、 カモにされて泣く目を見ている素人が続出しているのである。

 

投機の具になり乱高下  行き場のない個人資産を吸収

 

 世界には千種類以上にも及ぶ仮想通貨が出現しているというが、 その代表格とされているビットコインとは何なのか。「ナカモト・サトシ」という人物が2008年に ビットコイン・P2P電子マネーシステム という論文を発表し、 2009年1月に運用を開始したとされている。 2014年には渋谷にあったマウントゴックスというビットコインの取引を扱っていた最大手が破綻し、 ビットコインの払い戻しが停止されたこともあった。 その際、 85万ビットコインが消失し、 ビットコインを現金で払い込んで買った人人の資産28億円が水の泡となった。


 ビットコインの取引所や専門家の解説を見てみると、 この仮想通貨は仮想通貨鉱山からのマイニング (採掘) によって生み出され、 発行総量は2100万BTC (ビットコイン) と決まっている。 このマイニングによって発行量を調整するため、 希少性が高くインフレが起きることはない設計なのだとしている。 コンピューター上の電子情報を通貨の代わりにして、 その取引記録は共同管理する仕組みであり、 中央銀行の管理が不要になるともいわれてきた。 ビットコインを作り出した技術者たちの思想として、 政府や金融当局の管理統制から解放されることや、 自由放任主義の思想を説く言説もある。 各国の中央政府や中央銀行の管理を拒み、 国境をこえて自由に行き交う通貨という、 これまでにない性質を帯びているのも特徴だ。


 こうしたデジタル通貨の偽造やコピーといった不正を防止する技術としてブロックチェーン (共有の取引台帳) と呼ばれる仕組みが用いられ、 取引内容がチェーン (鎖) のように連なった台帳にすべて記され、 参加者全員にオープンな形で共有されるのだという。 従って不正送金は困難であること、 紙幣や硬貨を送金するよりもコストが低く、 預金管理も容易になることが積極面として取り上げられている。 取引記録がすべて明確化されることを裏返すと、 この技術を中央銀行なり政府が管理してデジタル通貨を普及させた場合、 ビットコインのような匿名性は失われ、 売り買いを徹底監視することが可能になるという指摘もなされている。 機能的には貨幣に求められるものをすべて備えている と評価し、 注目している専門家もいる。


 ただ、 デジタル通貨の機能面であったり、 ブロックチェーン と呼ばれる革新的技術についての評価とは切り離して、 現実に起きているのは総発行量が定められたなかで「 1年で価値が20倍」 に釣られた人人が殺到したり、 あるいはそうした小金持ちの心理を察知した投機家がババ抜きをくり広げるといった投機である。 通貨としては、 誰もがその存在を承認して信用がつき、 決済の手段として相互に認められたときにはじめて機能することになるが、 誰が発行しているかわからず価格変動が著しい暗号通貨 (実在せず、 それ自体にモノとしての価値は何もない。 実物資産の裏付けもない) が、 世界基準で共通の価値をあらわす交換手段として役割を果たすか? という疑問にもなっている。 この1年の乱高下が示しているのは、 いまのところただの金融商品に過ぎず、 あり余ったマネーが値上がり益を期待してなだれ込んだり、 はたまた逃げ出したりしているだけで、 資金決済のための交換手段というよりは投機の具になっているのである。

 

金の裏付け失ったドル 基軸通貨の変遷

 

 世界の通貨の中心であったドルが不安定化し、 ドル基軸通貨の支配体制が崩れようとしている情勢のもとで、 こうした国境をこえていく仮想通貨がよしあしは別として台頭し、 これに対してG20では各国政府が規制を強化する動きに出たり、 中国や韓国政府も中央銀行の統治力を防衛するために取引所の閉鎖や統制に乗り出している。 多極化が進み、 ドル基軸通貨体制のほころびが露呈しているのとセットで 国境を越えた世界通貨 の動きに注目が集まっているのも事実だ。 ひっくり返してみると、 基軸通貨であったり、 各国政府が管理してきた通貨や貨幣の存在が揺らいでいるのである。


 通貨が決済手段として利用されてきた歴史は古いが、 その価値は本来、 金や銀によって裏付けされていた。 その昔、 銀行は顧客から金を預かり、 その引換券として銀行券を発行していた。 銀行券はいわば金の預り書で、 銀行券を銀行に持って行けば金との交換が保証されていたのがはじまりだ。 こうした金との交換を約束した貨幣が 兌 (だ) 換券 と呼ばれ、 やがて中央銀行だけが銀行券の発行を許されるようになっていった。 中央銀行の銀行券 (通貨) の発行は、 中央銀行が保有する金をベースに決められる制度が 金本位制 といわれ、 それ自体は紙切れやコインに過ぎない通貨の価値を裏付けしてきた。


 この金本位制のはじまりは19世紀初頭のイギリスが起源とされている。 日本では明治政府が1897年に採用した。 18世紀まではその稀少性や保存性もあって、 金や銀が通貨の役割を果たしていた。 大航海時代を経て産業革命を成し遂げたイギリスが圧倒的な輸出競争力でもって世界に乗りだし、 植民地からかき集めた豊富な金でもって国際的な貿易取引を席巻していた。 世界ではじめて金本位制を採用し、 イングランド銀行が兌換紙幣としてポンド表示の紙幣と金の交換をはじめたのがはじまりだ。


 こうしてイギリスのポンドを基軸にした金本位制が第1次世界大戦前の1914年まで100年近く (パックス・ブリタニカ) にわたって続いたが、 第一次世界大戦のさいに各国は金本位制を離脱し、 管理通貨制度を採用した。 その背景には英国の経済力の低下があった。 突出した覇権国家としての地位から転落し、 金で裏付けする余裕を失ったのだった。 その後、 1925年に再び金本位制に復帰するものの、 1929年にはニューヨークのウォール街を震源にして世界的規模で大恐慌が深まりを見せ始め、 1931年に主要国は再び金本位制から離脱していった。 そうして管理通貨制度のもとで通貨の発行と金の関係を絶ち切り、 各国の政策の都合によって通貨を発行するようになった。 その結果、 各国が輸出を伸ばそうとして為替レートの切下げ競争 (為替ダンピング) や輸入制限に走ったために世界の貿易は縮小し、 最終的にはブロック経済の対立を引き起こして、 植民地再分割のために第2次世界大戦に突入していった歴史がある。


 第2次世界大戦後は、 世界の超経済大国になり膨大な金を保有していたアメリカがIMF体制の下で各国中央銀行に対して米ドルの金兌換を約束し、 名実ともにドルが基軸通貨となった。 ポンドは地位を追われ、 こうしてパックス・ブリタニカからパックス・アメリカーナへと移行していった。 IMF体制のもとで、 金1オンス=35㌦で交換可能な米ドルを基軸通貨とし、 各国通貨は米ドルとの固定相場制を採用していた (ブレトン・ウッズ体制、 金ドル体制)。 アメリカ政府は外国政府の要請があればドルを金と交換しなければならなかった。 各国はドル価値が金によって裏付けられていることから、 ドルを基軸通貨として受け入れ、 貿易決済や準備通貨として利用することになった。

 

金ドル交換停止を命じたニクソン大統領(1971年)

 しかし、 第二次大戦後の資本主義の相対的安定期も長くは続かず、 アメリカは60年代のベトナム戦争で財政がパンクし、 財政赤字や経常赤字が増大してインフレが進行するなかで、 世界各国の通貨とドルの固定相場を維持することができなくなった。 国際収支の悪化によって、 大量のドル及び金を海外に流出させた。 金の準備量をはるかにこえた多額のドル紙幣の発行を余儀なくされ、 ついには金との交換を保証できなくなり、 1971年には金ドル交換停止に踏み切った (ニクソン・ショック)。


 このことを契機に金と通貨の関係は完全に切り離され、 金の規制を受けずに基軸通貨であるドルが大暴れをはじめることになった。 その後もドルが基軸通貨とはいえ、 世界的な信用は次第に失われ、 日本円との関係だけ見ても1㌦=360円だった固定相場から近年は1㌦=110円台にまで落ちている。 47年経過して、 ドルは円に対して3分の1以下の価値に下がっていることがわかる。 パックス・アメリカーナの終焉とともに、 世界の中心をなしてきた基軸通貨の地位が揺らいでいるのである。

 

金価格からみた通貨の価値低下

 

 通貨の基礎とされた金価格の長期的推移を見てみると、 いかに通貨の価値や信用が落ちているかがわかる。 1920年には1オンス=20㌦台だったのが、 大恐慌が始まったのちの1934年に34㌦に上昇。 第二次大戦が終わった1945年も34㌦だった。


 それがIMF体制の元で1944年に交換価格が1オンス=35㌦とされ、 しばらくはそのまま推移していたが、 前述の通りアメリカがベトナム戦争で財政逼迫の憂き目にあい、 貿易赤字や経常赤字が常態化するなかで、 金はアメリカから流出。 1971年にニクソンが金ドル交換停止を宣言し、 1973年に為替相場が変動制に移行してからは金価格が跳ね上がっていく。


 この20年近くの推移を見てみると、 1990年代末には200㌦台だったのが2002年には300㌦台、 2004年には400㌦台、 2006年には600㌦台、 2008年には900㌦近くにまで上昇し、 リーマンショックが起きて以後はさらに拍車がかかり、 一時期は1オンス=1900㌦台をつけたこともあった。 2018年現在は1200~1400㌦の間を推移しているものの、 既に1オンス=35㌦から比べてすこぶる高騰していることがわかる。


 これは金という物質の価値が高まっているというよりも、 通貨の価値がそれほど暴落していることをあらわしている。 最終的に通貨の信用が破綻した時にはハイパーインフレとなり、 ジャブジャブに刷り散らかしてきたドル紙幣や各国紙幣は紙切れと化す可能性すら秘めている。 預金が何億と誇っていたところで、 現物資産の裏付けがない通貨や貨幣をいくら所有していても意味をなさず、 ある時にデノミや預金封鎖でリセットされるというのは、 第1次大戦や第2次大戦のドサクサを通じて経験してきたことでもある。


 金融資本主義、 強欲資本主義などと呼称され、 この数十年来は金融工学などを駆使してカネでカネを買う構造だけが極端に発達してきた。 マネーゲームには何らの生産性もないのに、 それが実社会を翻弄して1%と99%といわれるような格差をもたらし、 社会の上澄みには行き場のない膨大なマネーが積み上げられ、 タックスヘイブンに隠匿したり、 それこそ仮想通貨なるマネーゲームが熱を帯びて「働かずして価値が20倍」の世界がもてはやされている。


 通貨が人人が暮らしていくための決済手段という以上に投機の道具に成り下がり、 ネット上の仮想であれ現実であれ、 地に足がつかない実体の乏しい価値が世界を遊泳しているのである。

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