いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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世界攪乱の大暴走始めた米国 国内外情勢を語る

 民主党の菅直人首相が「環太平洋戦略的経済連携協定=TPP」への参加を突如打ち出したり、円高が急速で製造業の海外移転が急だ。G20がやられたが、通貨切り下げ戦争が激しい。アメリカはドル札刷りまくりという異常事態だ。軍事面でも尖閣問題など日中、米中の対立関係が鋭くなっている。民主党政府はマニフェストは完璧に投げ捨てた変質ぶりだ。リーマン・ショックからオバマ政府発足となったが、アメリカの姿勢は明らかに大きな変化を示している。それはどういうものか、記者座談会を持って論議してみた。
  TPP参加を巡って矛盾が激化している。貿易自由化、すなわち関税を「ほぼ例外なく撤廃する」取り決めで、農漁業、製造業など国内産業の全分野に多大な影響を与える問題になっている。リーマン・ショック以後の円高・ドル安によって製造業の海外移転には拍車がかかり、国内は空洞化してどうなっていくのかという問題がある。外交面では日中関係で尖閣列島問題というこれまで起こらなかった衝突も起きている。情勢はどう変化しているのかだ。まずTPPの特徴から見てみたい。
  TPPは今年10月1日の菅首相の所信表明でいきなり出てきた。関税の撤廃、関税自主権の放棄で、アメリカを中心とする自由貿易圏を環太平洋地域に構築するというものだ。日本の場合、農産物ではこれまで10品目に高関税をかけていた。主要作物の保護としてコメに770%、小麦260%、バター360%、砂糖305%、落花生730%などだ。農産物全体の平均関税率は12%で、これは世界的に見ても非常に低いものだ。主要作物まで含めて完全撤廃したなら、食料自給率も10%台に落ち込むと農林水産省も試算しているほどだ。農漁業や林業といった第一次産業は壊滅的な打撃をこうむることがわかっている。
 C 関連して地域の食品、流通産業も打撃を受ける。雇用面では340万人が新たに失業すると試算されている。特に農業、漁業で地域経済を成り立たせてきた地方の自治体ほど危機感を持ってTPP反対の動きを見せている。北海道では道民総決起大会が開催された。先日は「TPP交渉参加で日本農業は壊滅する、日本の農林水産業や地域経済を守ろう!」と、JAグループや全国農業会議所、全漁連、全森連、生協連が東京・日比谷で「TPP交渉への参加に反対し日本の食を守る緊急全国集会」を開くなど、猛烈な勢いで国民的な反対運動が盛り上がっている。しかし菅政府は強行路線だ。「APECで参加表明する」といっていたのが、抗議行動が盛り上がるなかで「協議を開始する」にとどまっているが、あくまでもアメリカの要求に沿って突っ走る方向は変えていない。
 D 「平成の開国」と叫んでいる。小沢・鳩山が掲げていた東アジア共同体構想からTPPへとシフトチェンジしたきっかけは、昨年11月にオバマが来日して構想をブチ上げたのに始まっている。そこから国内でも検討が始まった。農業分野への影響ももちろんだが、中小企業も3分の1しか生き残らないといわれている。製造業の相次ぐ海外移転でタイが拠点になっているが、彼らが主張する最適生産地に製造拠点を移していくのに拍車がかかるからだ。
  TPPの内容はあらゆる規制緩和だ。金融自由化も含まれており、郵政民営化の強行だ。人的交流も自由化といって、移民労働力を増やす方向だ。失業者が溢れているなかで移民を増やす。看護師や介護福祉士も外国人労働者を増やすという。医療分野ではこれまでの規制緩和で全面自由化していない部分、つまり株式会社による病院経営、混合診療の全面自由化なども進行しかねない。医者のなかでは「最終的に狙っているのは外国の医師免許があれば日本で開業できる方向だ」という指摘もある。介護事業所は介護福祉士の免許があれば外国人でも開業できるようだが、介護福祉士に限らず全業種に認めるというのがTPPの方向だ。

 例外をもうけぬ自由化 略奪体制のTPP

  「例外をもうけない」自由化。100%自由化する規制緩和であり構造改革だ。小泉時代にできなかった部分を今度は100%やるのだといっている。日本をアメリカの完全なる植民地状態にして搾り上げていく略奪体制というほかない。TPPは2006年にシンガポールでオーストラリアなど四カ国の参加で始まっているが、そのときは弱小国の集まりに過ぎなかった。それが昨年、オバマが来日して慶応大学で講演してブチ上げて性格が変わった。「アメリカはアジア太平洋地域の盟主になるのだ」と鼻息が荒い。覇権を握るために明確な政策転換を始めている。経済面からも軍事面からも段階を画している。
  竹中平蔵が『正論』の電子版で、TPP参加国の九カ国に日本が加わり、中国が参加しない場合、日米だけでこの経済圏のGDP(国内総生産)の8~9割を占めるのだから、「これ(TPP)は日米FTAですよ」と述べている。みずからが小泉政府の一員として推進してきた構造改革・規制緩和を民主党はしこたま否定してきたと皮肉りながら、「マニフェストを変えろ」と高飛車にいっている。
 E 要するに小泉・竹中がやってきた規制緩和・構造改革の完成版をやってしまうということだ。なぜそこまでいくのかだ。小沢・鳩山ラインの時期には「東アジア共同体構想」を模索して、中国を含めた経済圏で連携を強めようとしていた。それにアメリカが対抗してきたし、アジア経済圏で主導権をうち立て、中国に圧力をかけていくというものだ。アメリカの対中国政策が「対話」ではなく「圧力」に転じている。世界的な通貨戦争のなかで、ドルと人民元の対立がもっとも鋭い。
  民主党政府の変遷というものも、アメリカのそういう姿勢の変化との関係で見なければわからない。小沢・鳩山は中国を含めた経済圏をすすめようとしていた。小沢は国会議員を何百人も引き連れて中国を訪問したり、米軍は第七艦隊だけでいいともいっていた。それはアメリカの方向と対立したということだ。かれらを失脚させたのはアメリカの意向であり、菅を登用したのもアメリカの意向だったということだ。

 金融大暴走へ進む米国 通貨戦争も熾烈に

 A 大きくは20年来の新自由主義のもとで、ギャンブル金融路線で暴走してサブプライムローンの破綻、金融破たんとなって大破産した。ところが、破産したから金融規制をして立て直すのではなく、逆にいっそうギャンブル金融の大暴走を始めたということだ。アメリカではオバマが金融規制の法律をつくったがザル法で、規制をするかのように見せかけて、もっと金融大暴走で突っ走り始めた。
 もう一方では、国際的な通貨戦争が熾烈になってきている。先進各国が通貨切り下げで、いわば近隣窮乏化策の競争でしのぎを削っている。欧州ではギリシャ危機が起きたが、ヘッジファンドが攻撃をかけてギリシャ国債を暴落させ、ユーロに揺さぶりをかけた。世界の余剰資金がドルに向かうようにしたわけだ。そしてアメリカは大規模な金融の量的緩和をやり、ドル安を強行している。
  要するにドルを刷りまくって垂れ流しているわけだ。尋常ならざる手に出ている。刷りまくるから当然ドル安になる。そしてよその国、日本などが量的緩和をすると「介入するな!」と恫喝する。ドル安によってアメリカの対外債務(借金)はチャラにして、日本など米国債を大量に抱えていた国が泣くハメになっている。日本、中国など米国債を抱えている国国は大損している。世界中にばらまいてきたイカサマ証券もチャラにしていっている。
 A アメリカはドル安にすると同時に、人民元の引き上げを求めており、ひじょうに鋭い対立になっている。G20も米中の通貨戦争が主要問題だったが話はまとまらなかった。新興国の多くはドル安の影響で通貨高になるとともに、大量のマネーが流れ込んでバブルが発生し、食いつぶされている。だから中国はじめブラジルも頭にきている。
  先進国でも、イギリスでは大学生の学費が約3倍に跳ね上がるといって、流血の衝突になっている。ギリシャでは200万~300万人単位のゼネストが何度となく起きているが、フランスでも大規模なストライキが起こっている。資本主義各国の国内矛盾も相当に激化しているし、国民と政府との衝突がすごい。

 中国市場狙う動き露骨 ブロック化が進行

  通貨戦争とブロック化の進行だ。アメリカとしては中南米が反旗を翻しているなかで、環太平洋地域・アジアをターゲットにしている。中東もイラク、アフガンで失敗してしまっている。EUの台頭があり、中国とロシアの接近がある。だからアメリカの戦略として対中国の圧力外交、封じ込め政策をとり始めた。中国を排除しつつ締め上げる。一九八九年の天安門事件は内部からの政権転覆策動だったが、今度は軍事的な圧力をむきつけにさせたものだ。日本を中心にして環太平洋地域の覇権を握り、中国を締め上げて屈服させ、中国市場を手に入れようというものだ。
 歴史的に見ても第2次大戦で中国大陸を日本と奪い合い、戦後もずっと中国市場の獲得が最大目標だった。「米国債をたくさん買ってもらっているから遠慮しながら」という路線を転換している。中国側も米国債保有を減らしており、アメリカ側もドル安で米国債を損させたりの応酬だ。ドルをあれほど刷りまくったらドル崩壊になるのは歴然としている。しかしそれで借金、対外債務はチャラだ。軍事力を背景にしてなんでもやりかねない。
 D 今年初めから台湾に武器売却をしたり、ダライ・ラマを持ち上げて怒らせたり、中国政府側もグーグルに対して内政干渉するなと排除したり対立が激化してきた。そこに韓国哨戒艦の沈没事件が勃発して、アメリカは北京を射程圏内に入れた黄海に空母ジョージ・ワシントンを派遣しようとした。中国も反発して、空母を撃沈するためのミサイルを開発したりと応戦。さらに南海の領有権問題も出てきた。「南海の自由航行権はアメリカの国益なのだ」とやり始め、ベトナムを抱き込み、タイ、カンボジアを抱き込んで中国と切り離そうとしてきた。
 今度はオーストラリア、ニュージーランドとの軍事一体化の関係も強めて、中国、ロシアを包囲していた第二列島ラインといわれるものを意識している。クリントンが出かけて日本以上にアメリカの軍艦が自由に基地使用できるようにさせた。さらにインド取り込みも活発で、中国包囲網をつくっている。インドネシアにオバマが訪問して「イスラムは仲間だ」とやりつつ反中国演説をやるなど力が入っている。中国への対抗意識がむき出しだ。

 連動して菅政府も暴走 小泉以上の強硬姿勢

  こういうことが急激に進行しているから、従来あり得なかった事がよく起きている。オバマ自身も「チェンジ」をチェンジしてしまって、ブッシュと同じように強硬に突っ走り始めた。日本国内では民主党政府の変遷だ。マニフェストはすべて投げ捨ててしまって、姿も形もなくなった。菅政府は小泉以上になっている。尖閣諸島でも小泉時代には「大局的見地から」上陸した面面を強制送還して帰していた。今度は突っ走りだ。従来は、「もめないようにしよう」が取り決めだった。中国側もジッと待っていたら「拘留延長」になったものだから、対抗措置をバンバンやり始めた。アメリカの姿勢を見ないことには理解できない出来事だ。アメリカから焚きつけられて日中関係が激化している。代理戦争をやっている。
 E 漁業者がいっていたが、海上では漁業者同士は穏やかな関係だ。領海侵犯そのものはお互い様で、協定を結んだりして解決してきたことだと。
  マスコミの排外主義がひどい。そして安倍元首相らが鼻息を荒くしている。訪米してシンクタンクで演説して帰ってきたと思ったら台湾に出かけ、ベトナムにも行った。反中国で熱弁を振るった結果、台湾では逆に現地指導者から「感情的にならないで下さい」となだめられる始末だった。外務大臣の前原も跳ねた。日米の軍事パイプがはしゃいでいる印象だ。「逮捕しろ」と指図したのが前原で、外交を知っている人間からは「子どもみたいだ」と幼稚さが指摘されているが、これらが外交上の常識を飛び越えてやり始めた。アメリカがやらせているからだ。中国をナチスとなぞらえて非難したり、それに対して中国の高官が反論したりしている。
 A 菅直人のTPPのやり方でも10月に突如持ち出して11月のAPECで参加表明するとか、国の有り様を根底から変えようという問題を、抜き打ちでやろうというふざけた手法だ。マスコミがそれを煽る。アメリカの意向なら民主主義はないという現実だ。アメリカ独裁の日本ということだ。ドルを刷りまくって世界を食いつぶすというありえないやり方をするが、それはアメリカ資本主義がものすごく衰退したということだ。しかしおとなしく衰退しない。断末魔のように暴れまくっている。世界一の凶器を振り回して暴れ回る。
  下関の市議選では安倍派が単独過半数を狙うのだという。過去の人とみんなは思っているなかで、「ふたたびアメリカに見込まれた男」という鼻息の荒さを反映している。もっとも、票を持っているのは安倍事務所ではなくて有権者なので、共倒れの惨敗もあり得る。

 日本潰す政治との斗い 全産業で大矛盾に

 B TPPで明らかになっているのは、要するに菅政府なり民主党、自民党、財界なりメディアなり、御用学者なり、かれらが日本を捨てるということだ。アメリカにくっついて日本を捨て、製造業移転などといって無国籍企業になり、国内を何もかもつぶしてしまうところまできた。農漁業や製造業、産業をつぶすことを通じて、全経済、医療も教育もつぶす。それを許すかどうかのたたかいだ。
 E 日本をつぶすことの延長が対中戦争の盾になることだ。アメリカの対中戦争のために日本列島を核戦争の戦場にする。最近は北朝鮮を騒がなくなって、直接に中国に矛先を向け始めた。世界的にはブロック化による経済圏の対立が激化している。第二次大戦前みたいな様相だ。通貨切り下げ競争が激化して保護主義が台頭し、最終的に世界的規模の植民地再分割、市場争奪戦を繰り広げたのが第二次大戦だった。アメリカを中心とする日米の環太平洋、すなわち日米枢軸同盟だ。それと中露、EUの対立があらわれている。
 C 最近ではイギリスの新首相が財界人を300人ほど連れて中国を訪問した。かなり契約を取って帰ったという。まさにトップセールスだ。
  経済が破局に向かっているのとセットで軍事的な緊張も高まっている。オバマは史上最高額の戦費を計上したが、米軍への「思いやり予算」も公然たる増額要求だ。「当然出すべきカネなのだ」と主張してはばからない。
  日本の大企業も製造業があれほど海外移転したらつぶれるほかない。昔有名だった音響メーカーが前回の円高の時期に海外生産比率を90%くらいにしたという。ソニーがこの会社を引き取ったときには技術者が10人程度しか残っていなかったという。多国籍企業といっても自国に根がある。そこが技術水準を持っていなければ開発にもつながらない。いまの海外移転の流れのなかで、国内の技術者がヘッド・ハンティングされて海外メーカーで活躍しているというが、バカみたいな事が起きている。
 C 北九州でも安川電機などそこはこだわっているようだ。アメリカの多国籍企業を見ても本国に根を置いている。

 大政治斗争起こる機運 全国で行動始まる

 A アメリカの経済的・政治的な破綻のなかで、死活をかけてTPPが出てきた。そして環太平洋地域を巻き込んだ覇権願望と対中国政策が動き始めた。日本人民のなかでも中国への排外主義でもう一度戦争をやろうといった場合の怒りは少少でない。
  尖閣問題の犯人捜しや連日の報道も、排外主義キャンペーンの一環にすぎない。あのような問題を調整するのが外交なはずだ。アジアでもタイがTPPに反対しているが、すべての国がアメリカのいいなりになるわけではない。タイは華僑が半分くらいいる。マレーシアもそうだ。中国との関係が強い。
 D TPPについて菅政府は一気に強行したかったが、全中が騒いでブレーキがかかった。農漁業者が死活問題として運動を起こし始めている。知事会や町村会も反対表明している。南九州や北海道もすかさず反対表明した。北海道はTPPに参加した場合の道内への影響として農業産出額などが単年度で2兆1000億円ものマイナスになると危機感を表明している。長崎は497億円マイナス、熊本は1147億円のマイナスと、影響を独自に算出する動きにもなっている。全国的な政治斗争が起きる趨勢だ。
  アメリカが最終的な崩壊状況になって、凶暴な突っ走りを始めている。ドルを暴落させて借金を棒引きにするとか、ギャンブル金融が破たんしたのでもっとすごいギャンブル金融をやるとか、世界各国の経済をぶっつぶして食い物にしようとしている。イラクやアフガンは戦争でつぶしてしまったので、今度は中国、アジアの戦争を挑発するとか、尋常でないところに来た。しかしそれを世界中が黙って受け入れるわけではない。
 自由貿易といおうがTPPといおうが、農林漁業や製造業をつぶしたら日本の国は崩壊する。農漁業をはじめモノづくりというものは、商売としてやられる資本主義が始まるはるか昔からやられてきた。これをつぶすのは民族を飢餓に追いやり、国土保全をなくすだけではなく、民族の歴史を断ち切ることを意味する。これらのモノづくりはつぶすわけにはいかないが、つぶれるわけがない。自由貿易なりTPPなどの制度の方がつぶれなければならず、またつぶれるほかはないことを意味している。対米従属をやめて産業を守れ! は全国的スローガンだ。独立と平和、繁栄のために、60年安保斗争のような大政治斗争が巻き起こることは必至だ。

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