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愛知県知事リコール署名で事務局長ら逮捕 反社会的な署名偽造主導した本丸にメスを

 愛知県の大村秀章知事のリコール(解職請求)運動を巡る署名偽造事件で、リコール活動団体の事務局長の田中孝博・元県議らが愛知県警に逮捕された。この不正リコール運動に関与してきたのは、代表の高須克弥・高須クリニック院長のほか、百田尚樹(放送作家)、河村たかし名古屋市長、さらに大阪維新の会の吉村洋文(大阪府知事)、松井一郎(大阪市長)など、日頃から慰安婦問題などの戦争犯罪を「捏造」と強弁し、「憲法改正」を声高に叫んで「保守派」「改革派」を自称してきた面々だが、その恣意的な政治目標のために36万人分もの他人の署名を捏造してはばからない反社会性と無法ぶりを改めて浮き彫りにする顛末をみせた。

 

 事件の直接の発端は、2019年8月に名古屋市で開催された芸術祭「あいちトリエンナーレ」(実行委員長・大村秀章愛知県知事)での企画展「表現の不自由展」の一部展示物に慰安婦問題や昭和天皇の戦争責任を問う作品が含まれていたことに、河村名古屋市長や大阪維新の会の吉村大阪府知事や松井大阪市長が、「陛下への侮辱」(河村)、「反日プロパガンダ」「知事は辞職相当」(吉村)、「デマの象徴の慰安婦像を行政が主催する展示会で展示すべきでない」(松井)などと批判し、即時中止を要求したことに始まる。


 大村知事が「行政としては“カネは出しても口は出さない”に尽きる」「表現の自由を尊重する」として展示会の再開を許可したことから、河村市長が旗を振り、大村知事の責任を追及するデモや街頭宣伝をくり広げ、保守論客として知られる高須克弥が代表となり、大村知事の辞職を求める「愛知100万人リコールの会」を設立。設立発表の記者会見には、高須のほか百田尚樹、有本香(ジャーナリスト)、竹田恒泰(評論家)、武田邦彦(中部大学教授)ら著名人が出席し、「税金から補助を与えるのが許せない」「国民、県民にとって恥ずかしいことをする知事は支持できない」(高須)などとのべていた。

 

愛知リコール100万人署名の会設立会見。右から、有本香、百田尚樹、高須克弥、竹田恒泰、武田邦彦(2020年6月2日)


 署名活動は2020年8月25日から11月にかけておこなわれ、愛知県内の「維新の会」所属議員や元県議など37人が請求代表者となり、河村市長なども街頭に立って市民に署名を呼びかけたが、リコール請求に必要な法定有効数86万人分には遠く及ばないまま終了。11月に選管に提出した署名数は約半分の43万5231人分にとどまった。河村市長は「約43万人もの県民からノーを突きつけられた哀れな人」と揶揄するなど大村知事との丁々発止をくり広げていたが、12月に不正が発覚した。


 県選管は、提出された43万5231人分の署名のうち、83・2%にあたる約36万2000人分が無効と判断。無効署名の約90%が複数の同一人物によって書かれたもので、約48%が選挙人名簿に載っていない人物(愛知県内の有権者ではない人物)の署名であったため、刑事告発するに至った。


 これまでに明らかになっていることは、リコール団体は署名期限直前の2020年10月、名古屋市内の広告代理店にアルバイトを集めて署名を偽造するように書面で発注し、リコールの会副事務局長の山田豪・常滑市議(日本維新公認)らが署名を水増しするための大量の署名簿を輸送した。契約では、今回逮捕された事務局長の田中孝博・元県議が自署・押印し、現金で代金474万6500円を支払ったとされる。広告代理店は下請会社を通じて人材紹介会社にアルバイト募集を依頼し、佐賀市の会議室で10月20~31日にかけて、のべ1000人をこえるアルバイト(時給900~950円)を集めて他人の氏名、住所、生年月日などが書かれた名簿をもとに大量の署名を偽造させた。

 

 また、名古屋市内でも押印のない大量の偽造署名に指印を押す作業がおこなわれ、これには高須の秘書も関与していた。2000万円をこえるとみられる署名活動の原資を誰が支出したのかも焦点となっている。

 

署名偽造の疑いで逮捕された田中孝博(右)と肩を並べる吉村洋文府知事(田中氏のHPより)

 署名偽造をとり仕切った地方自治法違反の疑いで逮捕された田中孝博事務局長は、愛知県議(2期)を経て、河村たかし名古屋市長率いる減税日本公認・日本維新の会推薦で出馬した県議選で落選。リコール署名開始時点では日本維新の会衆院愛知5区支部長(候補予定者)だった。署名の不正が発覚した後の今年2月に離党しているものの、維新の愛知進出の一角を担っていた人物であり、同じく逮捕された会計責任者の渡辺美智代も、日本維新の会衆院愛知5区の会計責任者だった。


 不正が発覚して以来、それまでリコールの旗を激しく振っていた河村市長、高須代表をはじめ、大阪維新の吉村府知事、松井市長らも被害者面を決め込み、異口同音に「私は関与していない」「真相解明を」と唱えている。森友学園問題と同じく、「愛国」ビジネス人脈の脆さを浮き彫りにするとともに、コロナ禍に世間を騒がせたあげく、地方自治の根幹を冒涜する破廉恥沙汰を引き起こした「改憲」勢力の腐った性根が広く暴露されることとなった。

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