いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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緊急事態宣言急ぐ異常 混乱に乗じた国民懲罰体制づくり

 新型コロナウイルス対応に関連した唐突な学校休校措置などで全国が混乱するなか、安倍政府は緊急事態宣言発動を視野にいれた新型インフルエンザ等対策特別措置法改定案(新型肺炎特措法案)成立を急ぎ始めた。特措法の適用対象を新型コロナウイルスにまで広げて緊急事態宣言を発動すれば、「休校要請」のような「要請」と違い、強制力をともなう「指示」「命令」を出すことが可能になるからだ。指示に従わない人や施設が出ると施設名を公表したり、懲役刑を科すことも可能になる。しかもこの内容は安倍首相が「改憲」で導入を目指していた「緊急事態条項」と同じ意味合いを持ち、戦時国家作りの要をなす内容である。国民が新型コロナ対応に追われているどさくさに紛れて、今以上の強権発動を可能にする緊急事態宣言を発令し、戦時国家作りをおし進める危険な動きが顕在化している。

 

 自民党の森山裕、立憲民主党の安住淳両国対委員長が5日、国会内で会談し、新型肺炎特措法案について11日に衆院内閣委員会で審議し、12日に衆院本会議で採決することをとり決めた。政府は10日にも新型肺炎特措法案を国会に提出する方向で、13日に特措法成立の青写真を描いている。野党側は基本的にこの法案審議に協力する姿勢を見せており、賛成多数で可決する見通しになっている。

 

 現在、安倍政府が具体化している特措法は現行の2012年に民主党政府が成立させた新型インフルエンザ等対策特別措置法の対象(現特措法の対象疾病は①新型インフルエンザ、②再興型インフルエンザ、③新感染症)に、新型コロナを加えるという内容だ。適用期間は新型コロナを指定感染症と規定した2月1日から2年間。わざわざ一カ月間さかのぼって適用することにも疑問が出ている。

 

 そして同特措法の成立後は即座に緊急事態宣言を発する意向を示している。

 

 この緊急事態宣言で可能になる主な措置は次のような内容だ。

 

▼住民への外出自粛要請
▼学校、保育所、老人福祉施設等の使用制限要請、指示
▼音楽、スポーツイベント等の開催制限や中止の指示
▼予防接種の実施指示
▼臨時医療施設確保のための土地、建物の収用(強制使用を含む)
▼鉄道・運送会社等への医薬品運送指示
▼医薬品、食品等の売り渡しや保管命令(強制収容含む)

 

 それは対象地域に指定された都道府県の知事に、住民にイベントを中止させたり、医療施設確保を口実にした土地や建物の強制収用の権限を持たせることなど国、地方自治体等行政機構の権限強化が一つの柱である。同時にこうした措置に背いた施設があれば、実名を公表して摘発したり、国や県による物資売り渡しや物資提供命令を拒むと処罰することを規定している。

 

 現行の新型インフルエンザ特措法は「罰則」の項で「特定都道府県知事の命令又は指定行政機関の長もしくは指定行政機関の長の命令に従わず、特定物資(医療品、食品、その他の制令で定める物資)を隠匿し、損壊し、廃棄し、又は搬出した者は、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する」「立ち入り検査(特定物資収用に向けた行政機関の調査)を拒み、妨げ、もしくは忌避し、又は同項の規定による報告をせず、もしくは虚偽の報告をした者は、30万円以下の罰金に処する」「法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業員が、その法人又は人の業務に関し、違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても罰金刑を科す」と明記している。

 

 それは住民が勝手に外に出ることを制限したり、イベントの開催を禁じるというような「私権制限」だけにとどまらない。国が「緊急に診療所をつくる」と主張し土地や建物を接収することを要求し、それを拒むと牢屋に放り込まれるという内容だ。さらに個別企業や個人宅でも「医療品や食料をどれだけ保有しているのか調べに来た」という行政職員に対し、立ち入り調査を拒んだり、嫌がってまともに質問に答えない対応をとれば、罰金を払わされる法律である。

 

 新型コロナウイルス対応で最も求められていることは、専門家の知見を元に適切な感染予防策をそれぞれの地域の実情に合わせて徹底し、感染の拡大や重症化を防ぐ対策を強化することである。そのためには医療機関の支援、医療関連物資供給の強化、全国一斉休校にともなう学校現場や子持ち家庭への支援など早急にやるべき具体策は山ほどある。

 

 そうした現実的な対策をみな後回しにし、「私権制限」や懲罰強化を意図した緊急事態宣言の発令を最優先させるところに、国民の生活を第一に考えない安倍政府の性根が象徴的にあらわれている。

 

緊急事態条項導入の先取り

 

 そもそも安倍政府が執着する緊急事態宣言の発令とは一体何なのか、である。この権限は「国家緊急権」とも呼ばれ、憲法学者間では「戦争、内乱、恐慌ないし大規模な自然災害などで、平時の統治機構をもってしては対処できない非常事態において、国家権力が国家の存立を維持するために、立憲的な憲法秩序(人権の保障と権力分立)を一時停止して非常措置をとる権限」という定義が通説になっている。それは緊急事態と規定すれば「国家の存立の維持」を掲げて「国民の権利の停止」を可能にする権限にほかならない。

 

 憲法はもともと国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の三本柱で構成し、国家権力の乱用を規制し国民の権利を保障することが基本原則である。だが自民党はこの憲法に「緊急事態条項」と称する国家緊急権を導入する策動を執拗に続けてきた。現憲法に緊急事態条項を導入すれば、国民を守ることが基本原則である憲法を、必要なときは国家権力を守るため国民の権利を規制する最高法規へ180度転換させることができるからだ。今回、安倍政府が新型コロナウイルス対策で発令を急ぐ緊急事態宣言は、この緊急事態条項導入の先取りである。

 

 自民党は2012年に憲法を全面的につくりかえる改憲草案を示したが、そこへ盛り込んだ緊急事態条項の主な条文は次のような内容だった。

 

 「内閣総理大臣は、我が国に対する外部からの武力攻撃、内乱等による社会秩序の混乱、地震等による大規模な自然災害その他の法律で定める緊急事態において、特に必要があると認めるときは、法律の定めるところにより、閣議にかけて、緊急事態の宣言を発することができる」「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる」「緊急事態の宣言が発せられた場合には、何人も、法律の定めるところにより、当該宣言に係る事態において国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国、その他公の機関の指示に従わなければならない」

 

 この自民党改憲案の理解しにくい条文は、要するに内閣総理大臣に閣議のみで緊急事態宣言を発する権限を持たせ、内閣に法律と同じ効力を持つ政令を制定する権限を持たせることを規定している。また内閣総理大臣が「財政上必要な支出その他の処分」をおこなうことを認めている。それは緊急事態宣言を発すれば内閣が自由に法律をつくることもできるし、内閣総理大臣が国家予算を意のままにできるということである。

 

 もともと憲法は内閣(行政)、国会(立法)、裁判所(司法)の三つの独立した機関が相互に抑制しあってバランスを保つ「三権分立」を基本原則としてきた。国会と内閣の関係でいえば、内閣が国会召集や衆院解散の権限を持つが、国会側は行政に必要な法案整備の権限を持ち、内閣不信任決議を上げたり、内閣総理大臣を任命するなど、内閣がおかしな方向へ進むことを牽制する役割がある。とくに国会は国民が直接政治に参加する性質から「国権の最高機関」と位置づけている。だが自民党が目指す緊急事態条項は緊急事態宣言発令によって、国会の立法権が内閣に移り、国会の役割を内閣が呑み込むことを具体化している。それは国会を何の権限もない飾り物に変貌させる方向である。さらに超法規的内容が政令制定で可能になれば、いずれ戒厳令発令が可能になることも現実味を帯びてくる。ちなみに戒厳とは非常事態の時、行政・司法など国の統治権の大部分を軍隊が握る制度である。それは露骨な軍事支配に移行することを意味する。過去にも有無をいわせず戦争に協力させたり、治安弾圧に活用した事例がある。

 

 日本では戦前、関東大震災(1923年)、青年将校が反乱を起こした2・26事件(1936年)などで戒厳令を敷いている。このとき戒厳司令官は軍事力をバックにして治安弾圧に当たった。集会や出版物発行を禁じ、民家への諜報活動や郵便物の開封など国主導のスパイ網を張り巡らし国民を監視した。大日本帝国憲法下では末端の自警団などもみな軍隊の末端機関に組みこまれ、自由に話もできない状態に陥った前例がある。

 

 また近年の自衛隊海外派遣を見ても、最初は期間限定の特措法適用から地ならしを開始し、長い年月を経て、結局は恒久的に海外派遣を認める安保関連法制定に行き着いた。従って今回の新型肺炎特措法も期間限定で終了する保証はない。

 

 現在、既存与野党が結託して進めている緊急事態宣言発令の動きは、新型コロナウイルス征圧に尽力している医療専門家や医療現場、学校現場からの切実な要望に基づく動きではない。新型コロナウイルス対策を利用しようとする、安倍政府の別の思惑が見え隠れしている。

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロー says:

    与野党にとって怖いのは新コロナより「山本太郎」ではないでしょうか?
    れいわ新選組の街宣が出来ない=寄付を集められない=選挙ができない。
    今、私たちにできることはポスターを地道に貼っていくことです。

  2. 京都のジローさんのご意見が正しいかもしれません。アメリカのサンダース旋風、イタリアの五つ星運動、スペインのポデモスなど・・・既成政党に頼らない民衆の中から起こる政治運動を彼らは最も恐れていると思います。五つ星運動は政権を取りましたし、ポデモスは政権入りを果たしています。サンダースも大統領候補になるかならないかというところまで迫っています。
     山本太郎が起こした運動が大きくなることが何より恐いことでしょう。
     ひと月前にれいわのボランティアたちで室内作業をしたとき、「このコロナを、やつらは絶えず緊急事態条項と結びつけようとしてるなあ。危ないで」と、ある男性がつぶやきました。まさに慧眼! 立憲も国民民主も、れいわを脅威と見ている言動をしていました。いかにそうであったとしても、野党の立場を投げ捨て、民主主義を捨てて、歴史を何十年も後戻りさせることに賛成するなんて。やはり多額の金が動いているのでしょうか。
     昨日の夕方この問題で、街宣がありました。れいわの候補者もスピーチし、「10兆円の財政出動をすべきだ」と。最もアピールする内容でした。社民党の元議員のスピーチも。かげで私たちは、「社民党は賛成したよね」と言っていました。社民党も不思議な政党です。

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