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記者座談会 「桜に行った子 出ておいで!」 800人以外の山口県民が思うこと

「ろくでもない山口県民」の風評被害 安倍派のせいで貼られたレッテル

 

 桜を見る会に安倍首相の地元支援者ら800人が押しかけ、とくに「功労、功績」があるわけでもないのに公金でもてなされていたことに批判が高まっている。このなかで、「保守王国」といわれる山口県民の感覚はどうなっているのか? という質問が多く寄せられ、なかには勘違いしている安倍派を批判するならまだしも、その他の山口県民もひとくくりにして安倍信者扱いをしたり、敵視するような極論までがあり、なにも悪いことをしていない多くの県民のなかでは「あんな恥ずかしい連中と一緒にしないで欲しい」と困惑が広がっている。山口県の政界に君臨する保守政治の現況や、そのもとで暮らす一般の山口県民にはどのような感情が流れているのか、記者座談会で描いてみた。

 

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  桜を見る会を巡って、昨年から東京からたくさんの新聞記者や週刊誌記者、テレビ局記者たちが下関に足を運び、安倍派の後援会名簿であったり「桜を見る会前夜祭」の領収書を求めて突撃取材をかけていた。参加した地元支援者800人を割り出して話を聞こうと必死に回っていた。しかし、2018年の領収書は出てきたものの、2019年版が探しても探しても出てこない。さらに出席者たちに箝口令が敷かれているのもあって口が重く、納得いく取材ができずに帰京していった社も多かったようだ。ツアーをとりまとめていたのは林派のサンデン旅行だが、これもダンマリを貫いている。持ちつ持たれつの安倍・林の関係を浮き彫りにしている。


  ピンチになったら黙るというのは、はたから見ていて少々恥ずかしいものがある。もっと正々堂々と事実はこうだったとのべるなら潔いが、押し寄せてくる記者たちから逃げ回って取材拒否をしたり、あるいは自分のところにも押しかけてくるのではないかと戦々恐々としていたり、800人が息を潜めている状態だ。あるいは話に応じるとしても「匿名で…」が絶対条件なのだ。なぜか? 「ほとぼり冷めるまでスルー」作戦を展開している大和町(安倍事務所)に叱られるからだ。


  安倍派の面々に話を聞いて分かったのは、代議士すなわち安倍晋三が喜ぶからなのか、安倍事務所が調子に乗って誘いまくるものだから、それが伝播してたがが外れたということだった。前夜祭まで開くくらいだから、それが本人の意向と関わりなく秘書たちが勝手にやったというのはまず考えられない。大量に下関なり山口県内から支持者を呼び寄せ、「安倍先生! 安倍先生!」のイベントとしてやっていたのだ。少人数の前夜祭ではサマにならない。あくまで大量に呼び寄せることが前提だ。だって、自分たちで「前夜祭」と名付けているし、「祭り」として認識しているのだ。そうして参加は広く呼び掛けられ、安倍派の市議・県議や業界団体など各方面から何通も案内が届き、年々規模が膨らんでいったようだ。市議や県議はみずからの支持者にステイタスを味わわせることで票固めに利用し、安倍事務所としても選挙の票固めを意識していることは誰の目から見ても明らかだ。選挙で実働部隊になる面々ばかりが呼ばれているのがその証拠だ。


  ところが問題が表面化して、全国的にも問題視されるなかで、フィーバーしていたのから一転、今度は800人も恥ずかしい思いをしている。「功労、功績」などない安倍支持者が集団でお上りさんをやり、公金でもてなされていたのだから当然だ。問題あるのが自分たちだから格好悪くて黙る。「桜に行った子、出ておいでー!」と叫びたくなると他社の記者たちもぼやいていた。とはいえ、安倍事務所が誘わなければそもそも一人も参加していないわけで、「参加できる」と思っている者などいなかったのも事実だ。「配川(筆頭秘書)が全部悪い!」「緩みすぎる!」と激怒している後援会幹部もいるが、筆頭秘書の個人判断でやるわけなどなく、恐らく「安倍晋三が全部悪い!」の一言に尽きるのだろう。また「昭恵がああいう場にしゃしゃり出てくるのが好きなのだ…」と困ったような顔をする年配の支持者もいた。10万円近い旅費をはたいて出かけ、時の権力者を支える一員として顔見知りたちと東京の高級ホテルや首相主催の桜を見る会で「やーやー」と声を掛け合うステイタス。その仲間として自分もいるのだと特別感を味わいたいという動機が参加者の側にもある。いずれにしても、政治権力を握ったという傲慢さの発露にほかならない。


  800人の地元支持者といっても全県民のなかではごく一部の人間たちに過ぎない。これらが勘違いして東京でフィーバーしたばっかりに「山口県民はろくでもない」みたいにいわれて、99・9%以上の県民からすると本当に迷惑な話だ。心の底から恥ずかしいし、いい加減にしてくれと思う。郷土の恥をさらしておいて、なにをいまさらダンマリしているのかと――。


  ただ、天下をとった気になって調子に乗っているという点では、それこそ山口県でこそ拍車がかかっている訳で、全国には知られていないことも多いのではないか。安倍晋三が首相になってから、山口県内でも自民党山口県連のなかでのパワーバランスが明らかに変化した。安倍派一人勝ちみたいな状況になっている。中央で権力を握ったことで、河村建夫や高村正彦なども自民党本部の要職や副総裁ポストをあてがわれたりしてかしづき、林芳正とて文科大臣や防衛大臣のポストをあてがわれて取引している。

 

 

安倍晋三と江島潔

 以前は自民党山口県連でも県西部より県東部が力を持っていたが、この10年来で安倍一辺倒みたいになっている。県知事ポストも林派の二井関成が退いて山本繁太郎になり、癌で亡くなると安倍にとり立てられる形で村岡が就任した。当選から一夜明けたら一目散に下関の安倍事務所詣りをするような関係だ。参議院議員ポストは県東部の枠(西部と東部で一議席ずつがこれまでの暗黙のルールだった)にこれまた安倍の子分だった江島潔(元下関市長)がおさまり、産経新聞記者だった北村経夫(岸信介との関係が深かった踊る宗教・教祖北村サヨの孫)が比例区でとり立てられ、山口県とは縁もゆかりもない杉田水脈がなぜか山口県連所属になっている。岸・佐藤のお膝元である山口二区(岩国をはじめとした県東部)は安倍実弟の岸信夫がものにした。県政界が安倍一色になったような光景だ。


  県議会では議長ポスト獲得に安倍派の友田有(下関市)が色気を出したが、さすがに県議会内で「安倍首相の後ろ盾」を主張したところで、自民党議員たちをまとめるほどの力はなく、これは失敗に終わった。当選2~3回の若手が友田にはつかなかった。「首相がバックについている」といえば何でもかんでも通るわけではないが、そのように振る舞うところに安倍派の特権的な空気が滲み出ている。自民党山口県連も矛盾に満ちているが、首相ポストに就いたことで力関係が一気に変化し、そっちに投機する流れが起こっているのは事実なのだ。


 B それこそ2017年の下関市長選でも、林派の現職・中尾友昭(前下関市長)に前田晋太郎(元安倍事務所秘書)をぶつけ、安倍派が全力で市長ポストを奪いとった。林派としては面子もあるし全力で抗ったが、わずか3350票差で敗れた。前田晋太郎が4万8896票だったのに対して中尾友昭が4万5546票。その他にいわゆる中尾グループだったはずの松村正剛が票割りのような役割を果たして1万958票という結果だった。松村正剛が出馬しなかったら恐らく中尾が勝っていた。

 

市長選で前田晋太郎を支援する安倍昭恵

  あの市長選から見えたのは、やはり安倍派の鼻息の荒さだろう。林派とも持ちつ持たれつで基本的には相互依存の関係を保ってきたが、市政を巡るオレのもの争いで市長が林派なのが面白くないので、半ば強制的に退場させた。力ずくという言葉がピッタリだ。自治会長クラスにまで安倍晋三から電話がかかってきて、「前田君をお願いします」と応援を依頼していたし、たかだか市長選如きに首相夫妻が思いっきり介入していた。安倍昭恵が前田晋太郎につきっきりで応援演説をやり、福岡の高島市長も応援演説入りして、福岡県からは土建業者が選挙運動員として大量に乗り込んでくるなど、力の入れようがこれまでとも異なった。安倍派の面子をかけて地元の市長ポストをもぎとりにいったのだ。


  その結果浮き彫りになったのは、安倍派も林派もたいして地盤は盤石ではないということではないか? 単純に公明党・創価学会が二股をかけて割れた票を除くと、両派閥とも基盤となる票は4万票もない。全力で双方がぶつかって、あの得票なのだ。下関市在住の22~23万人の有権者のなかで17%そこらの支持率で市長ポストをもぎとっていく構造があぶり出された。自民党の国政選挙の比例の得票率が17%なのともピッタリ数字が合っているが、国政も市政も似たようなものなのかも知れない。


 前々回の市長選挙でも中尾友昭に対して、安倍派から西本健治郎(現在県議)が出馬して、このときは中尾が5万5383票、西本が3万9656票だった。中尾の場合、市民派風情をやっていたこともあって、当初は6万票台で当選した。しかし公約覆しを平然とやってのけて、しかも威張り癖がひどくて「2万票」ともいわれていた市民票(無党派)が選挙の度に離れて最終的には降板となった。


 客観的に見ると、安倍派だろうが林派だろうが市政を「オレのもの」と思っている連中の争いであり、敗北した林派が可哀想とも思わない。林派や中尾も大概ではないかというのが市民感情としてはあるのだ。それで5割の有権者が棄権する選挙で、双方が支持基盤を全力で固めてあの得票なのだ。

 

実態は支持基盤の崩壊 長門市長選も敗北

 

  下関の街で市長になろうとした場合、安倍派、あるいは林派だけの基礎票では勝てないというのが常識で、プラスアルファの公明や連合を誰がとり込むかという前提のほかに、最終的には無党派層をとり込んだ者が勝つという定石がある。だから江島潔でも当時の安倍事務所筆頭秘書だった奥田の隠し球のくせに、初めての市長選では市民派を標榜し、当選したら支持者を切り捨てて安倍派の正体をさらけ出した。奥田の時代から、そのような奇々怪々な選挙ばかり仕組んで「奥田マジック」などといわれてきた。亀田(元市長)を応援しているように見せて江島を応援する等等、やはり山口県警刑事出身者の考えることは人の裏を掻くよね…と――。

 

林芳正

  最近でこそ欲望丸出し型に変化しているが、力ずくで市長ポストもなにもかも奪いとることで、林派からすると面白くないし、一定の矛盾はある。しかし、林派も正面から安倍派に対抗するような度胸はない。恐らく衆院山口三区に林芳正の転出が決まれば大喜びで手打ちをするだろうし、利があると思えば手を組むのだ。大臣ポストをもらえるなら、衆院山口四区でも全面的に安倍応援をやるのが実態だ。たまに市長ポストなど利権争いも過熱するが、相互依存なのだ。全国から来た取材記者たちが林派をことのほか持ち上げたり、安倍派に対抗する救世主みたいに勘違いしやすいのだが、下関市民からするとどっちもどっちなのだ。そうして衆院選になると安倍、林の基礎票にプラスして公明党の1万5000票、さらに労働組合の連合も隠れ安倍派が表向きの顔とは別に票を横流しして、共産党の一部までが安倍に票を回す。前回衆院選の山口四区における安倍晋三の10万4000票はまさにその集合体だ。「共産党にも手を突っ込んだだろ!」というのは安倍選対の幹部たちは否定できないはずだ。

 


  前回衆院選では10万票が絶対的な目標だったという。9万票台になると格好がつかないといって安倍選対はしゃかりきになっていた。前々回に10万票を切りそうになり、相当に痺れていたのだ。かつては14万票台を叩き出したこともあったが、それが13万票台になり、12万票台になり、いっきに10万票台すれすれのところまで支持基盤が崩壊して、実は慌てている。人口減少もすさまじいが、そのスピード以上に支持基盤が崩れているのが実態だ。桜を見る会で選挙の実働部隊をもてなすのも、そのような現実をつなぎとめる意味合いがあるのかも知れない。しかし、結果として「郷土の恥をさらした800人」になってしまい、みんなしてダンマリをしている。恥ずかしくて「桜を見る会に呼ばれたのよ!」などといえない空気がある。何の功労、功績があって呼ばれたの?と聞かれたら、「安倍さんの選挙を手伝っている功労、功績」以外には理由がないのだ。


  先日の長門市長選でも安倍派の大西市長が落選して、県政界を驚かせた。配川(安倍事務所筆頭秘書)が指揮棒を振るっていたのに見事に落選した。ついでにいうと、広島の河井の選挙も配川が全面的に指揮していたとかで、「配川が全部悪い!」と恨み節が広島界隈から聞こえてくる有り様だ。山口県をオレのものにしたので、どうやら広島県にも手を突っ込んでいるようなのだ。河井については岸田派つぶしで安倍官邸がぶつけたのだろうが、如何せん本人が横暴で秘書が次々に辞めていき、終いには職安に月給40万円で秘書の募集をかけていたけど集まらないとか、散々な評判ばかりが耳に入ってくる。これもオレのもの人事、つまり私物化をごり押しした挙げ句の揉めごとではないか。


  山口県は歴史的に保守の地盤とされてきたが、野党なり革新系に信頼がないというのがもう一つの重要な特徴だ。対抗勢力として体を為していないし、むしろ自民党政治の補完勢力として市政や県政の舞台でもメシを食い、寄生しているのが大半だ。国政選挙のときだけ民主党なりが候補を立てるが、完全なる風頼みの消化試合で自民党・公明党の組織力を上回るような実力もなければ意志もない。きわめてアリバイ的だ。


 二区で唯一、平岡秀夫が民主党から立候補して佐藤信二(佐藤栄作の息子)を落選させたことがあったが、これも民主党政府になってから米軍再編問題で裏切り、有権者が幻滅したもとで力を失い、以後は岸信夫の連続当選となっている。佐藤信二が落選したのは、東海村臨界事故後に原子力政策の巻き返しをはかろうと経産省が動いていたなかで、「上関原発をつくれるのは私しかいない!」などと発言し、上関原発計画を抱える二区の有権者が激怒したことが最大の要因だった。佐藤・岸のお膝元である二区において、歴史的な怒りもあってひっくり返した選挙だった。

 

艦載機部隊移転に反対する岩国1万人集会(07年)

 米軍岩国基地を抱える地元の岩国を平岡は最大の票田にしていたが、民主党政府が裏切ってからは得票が激減して足腰立たないまでになった経緯がある。自民党及び岸・佐藤支配を叩きつぶせると思った有権者が平岡をシンボルとして担ぎ上げていただけで、みんなが興ざめしてからはあっけなかった。二区で勝てない自民党山口県連は当時、誰が二区から出馬して傷物になるかを躊躇し、当時岩国市議会議員だった福田(岸派吹田愰の秘書出身、現在の岩国市長)に白羽の矢を立てた。ところがこれが民主党の敵失もあって当選してしまったものだから、勝てるならオマエ引っ込めという形で岩国市長ポストをあてがわれ、岸信夫が満を持して二区に登場という流れになった。


  二区では上関原発計画、岩国基地問題が鋭い焦点になってきたが、山口県出身の代議士どもが中央政界で出世するのと引き替えにこうした迷惑施設が郷土に押しつけられ、それに対して住民たちが長年にわたって抗ってきた。上関原発も38年にわたって建てさせていないが、自民党政府が金力、権力でもって襲いかかってくるのに対して、県民の側も必死になってたたかってきて今がある。最近では萩にイージス・アショアが押しつけられ、これまた住民たちが身体を張って阻止している。安岡沖洋上風力の問題も同じだ。

 

腕を組んで中電のボーリング調査を阻止する祝島の婦人(上関町田ノ浦)

 出身代議士が首相になったからといって県民生活が向上した試しなどない。バカみたいに道路ばかりつくって、そのうえ産業は発達しないという笑えない実態がある。安倍晋三の選挙区である下関、長門地域の人口減少は全国的にもっともひどい部類に入る。安倍派が天下をとった気になってフィーバーしている傍らで、みんなが暮らしていけないから人口流出するのだ。これは真面目に考えないといけない問題だ。「選挙区をこれほど衰退させている者が、国を豊かになどできるわけがないではないか」と語る有権者も多い。


  私物化というのは特定の集団だけに美味しい思いをさせる。その他の排除された圧倒的な人間が恩恵を被ることはない。しかも強欲なのでトリクルダウンなど起こるはずもない。桜を巡る疑惑は、山口県民全体が美味しい思いをしているなら全国からバッシングされて然るべきだ。しかし、実態は首相の権力に投機した一部の者が調子づいているだけで、多くの県民はお呼びでない。それなのに「ろくでもない山口県人」扱いされるのはたまらない。こうなったら800人に「オマエたちのせいでレッテルが貼られる」「レッテル貼り(自分たちで身体にレッテルを貼り、県民全体に迷惑をかける)をやめろ!」といわなければならない。


 そして、やはり山口県から権力者を震撼させるような本気の選挙を仕掛けていかなければならない。そのことによってしか、全国の人々の理解を得ることはできないのだから。

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この記事へのコメント

  1. 与党による憲法無視、事実の隠蔽、欺瞞、改ざん、ごまかし、
    まともに国会で答弁しないなど
    私を含め、政治に無関心で、監視を怠った結果が
    衰退国家になるに任せてしまった。
    今の政治は、この国に生きる者の一人として
    非常に恥ずべきことだと思う。

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