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先進国で最も治水が遅れる日本 インフラ投資額は20年で半減 

 台風19号の豪雨によって、東日本の各地で同時多発的に堤防決壊や河川の氾濫が起こり、住宅や農地が甚大な被害を被っている。今わかっているだけで堤防が決壊したのは71河川135カ所で、6万8000棟の家屋が壊れたり浸水したりした。河川の修復や農業の復興、住宅の再建など、国が早急に着手しなければならない仕事は多い。

 

 元土木学会会長で国土学総合研究所所長の大石久和氏は、台風19号の災害復旧をめぐるテレビ番組などで「インフラ整備はこの20年間、世界の先進国では2倍、3倍と伸びているのに対し、日本だけが半減以下というレベルまで削減してきた。国の財政として将来のための治水事業をやってこなかったのが日本だ。これはインフラ整備が私たちの生活を支えているという認識の欠如によるものだ。オリンピックの経済効果は話題になるが、道路や橋がどれだけ経済に貢献してきたか。それは数年~数十年かけてストックされるものだが、それを証明する経済学もない」と発言している。

 

 今回の被害を見てみると、長野県の千曲川の堤防は、2007年にその幅を2倍超に広げる工事をしたばかりだったが、過去最大の水量によって川幅が狭い地点から逆流し、その水圧と越水が重なったため決壊したと見られている。

 

 一方、東京都世田谷区での多摩川の氾濫は、堤防の未整備区間から川の水が流れ出たのが原因だという。東急二子玉川駅付近の約540㍍で堤防がなかった。

 

 この治水事業の遅れについて、一昨年11月に会計検査院がこう発表している。全国の河川改修事業による堤防の整備状況を調べたところ、途切れたり高さが不足していたりして堤防の役割を十分果たせない恐れのある場所が、全国で11道県24カ所ある。豪雨災害のさい氾濫の危険性がある、と。

 

 実際に2015年9月の鬼怒川水害で、この治水の遅れが被害を拡大した。茨城県を流れる鬼怒川が氾濫し、5つの市が洪水に見舞われ、家屋数千棟が浸水し、14人が亡くなるなど大きな被害を出したが、その原因として国が鬼怒川水系上流部の4つのダムをつくることを優先し、下流部の河川改修・堤防整備を後回しにしてきたことが問題になった。大量の雨が降ったとき、4つのダムはルール通りに洪水調節を実施したが、下流部で堤防のかさ上げ・拡幅や川底の掘削によって水量を増やすなど流下能力の確保が非常に遅れ、氾濫を防げなかったのだ。

 

 鬼怒川は一級河川なのに、その流域のある地区では、自然の堤防となっている砂丘林があるだけで本来国がつくるべき堤防はなく、しかも太陽光発電事業者が砂丘林を勝手に掘削して無堤防状態にしていたのに、国は「私有地に立ち入れない」と放置していた。それが被害を拡大したとして、住民が国を相手取って裁判を起こしている。

 

災害立国の危機 中長期の整備計画ない日本

 

 これについて大石氏は、著書『「危機感のない日本」の危機』(海竜社)のなかで、こうのべている。公的固定資本形成費とは、現世代や次世代が安心して暮らせるように、国や地方自治体が投資した、道路・空港・港湾などの交通インフラや河川・海岸・ダム・砂防などの防災インフラをあわせた資本の蓄積状況を示す。1996年を100としてこの20年間の推移を見ると、アメリカは2倍、イギリスは3倍に増やしているのに対し、日本だけが先進国の中でマイナスで、それも半減以下になっている。

 

 

 治水対策を見ると、洪水に対する川の安全度を示す治水安全度の国際比較では、オランダが1万年に1回発生する洪水(高潮被害)に対する治水事業をすでに完成させ、イギリス(テムズ川)が1000年に1回発生する洪水に対する治水事業を完成させているのに対し、日本では、河川によって違いがあるが、たとえば荒川では200年に1回発生する洪水に対する治水事業の達成率が67%と、大幅に遅れている【表参照】。

 

 もちろん地震や火山噴火、台風、集中豪雨と自然災害の多い日本と、有史以来国土のほとんどで大地震が起こったことがなく、建築物の設計で耐震性を考慮する必要がないフランスやドイツを同列に論じられない。日本ではより多くの財政を注ぎ込む必要があるということだ。大石氏によれば、先進諸国はインフラ整備について、単年度の景気対策的な「公共事業」としてでなく、河川でいえば堤防を上流から下流まで整備することで、降った雨が河川から田畑や市街地にあふれることなく海に流れ、流域の人人の生活の安全を確保するというストックの形成だととらえている。だが、日本には「公共事業のストック効果」を表現する言葉がない。先進国の中で、5~10年程度の中長期的なインフラの整備計画を持たないのは日本だけだ。

 

 過去最大の降雨量は人間の力では何ともしがたいが、治水対策に予算を使わないのは為政者による人災である。いまや自然災害は日本全国どこで起こってもおかしくないといわれるなか、税金を東京五輪やカジノ・万博誘致、リニア新幹線など一部の者の利権のために散財するのでなく、必要な治山治水事業のために投入しなければ国土と国民は守れない。

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