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安倍首相がTPP参加表明  さっそく公約破棄

 安倍首相が15日に環太平洋経済連携協定(TPP)交渉への参加を表明することに対し、農業団体をはじめ国民の各界各層が「断固反対」の声をあげ行動に立ち上がっている。12日には東京都内で農林漁業者や消費者団体が主催する「国益を守れないTPP交渉参加断固反対緊急全国集会」が開催され、都内をデモ行進した。知識人は「TPPは“壊国”協定」と指摘し、経済問題にとどまらず、政治的社会的な問題であり、なにより日本の国家主権にかかわる問題であることに警鐘を鳴らしている。安倍首相のTPP参加表明は、原爆投下に始まる戦後の日本社会がどこに行き着いたかを白日のもとにさらすことになり、アメリカへの従属の鎖を断ち切り、独立と繁栄、平和を求める日本民族のたたかいを新たな段階に発展させざるをえない。
 12日に東京都内で開催された「国益を守れないTPP交渉参加断固反対緊急集会」は、農業団体=JAグループ・全国農業会議所、全漁連、全森連、生活クラブ生協連、大地を守る会、中央酪農会議の八団体が実行委員会をつくって主催。農林漁業者や消費者など約4000人が全国から結集した。集会後は「TPP参加反対」などのむしろ旗やのぼりを掲げ、官庁街や永田町の首相官邸、国会議員会館前をデモ行進した。
 集会では、漁業者の団体である全国漁青連の代表が「愛媛県で漁業をしている。水産物はこれまで国際交渉のたびに関税が下がり、市場は十分に開放されている。安い水産物が海外から入ってくるうえ、消費の減退、“風評被害”なども加わり、収入は減る一方だ。TPPに参加すれば漁業経営者だけでなく、水産加工や流通関係者にも大きな影響があり、多くの業者が廃業する。水産物の安定供給はできなくなる」と実情をのべた。
 主婦連合会の代表は「主婦連はTPP交渉参加表明に断固反対を表明する。理由はTPPは暮らしを一層困難にするからだ」とし、四つの懸念として「①日本の農業・畜産業・水産業に壊滅的な打撃を与える、②食の安全基準、環境保護基準、製品規格基準が緩和され、撤廃されてしまう、③国民皆保険制度が崩れる、④経済構造を大きく変え、地域経済をだめにする」をあげ、「TPPは競争原理を本来入れてはいけない分野に導入することだ」と指摘し、国民が大同団結することを訴えた。
 東京大学院教授の鈴木宣弘氏は「(自民党が掲げた六項目の)公約はどうなったのか。日米首脳会談後、米国は国内の農業団体に“日本は農産物の関税撤廃を認めた”と報告している。守るべき国益はもう破綻している。TPPはすべてを壊す異常協定で、日本実質国内総生産(GDP)が10年で何兆円増えたからといって、不利益を相殺できるような問題ではない」と警鐘を鳴らした。
 学校給食を考える会の代表は「全国で954万人の児童・生徒が学校給食を食べている。TPPに入れば、海外から安いコメや乳製品などが入り、給食には輸入食料が使われるようになる。給食に地場の食材を使う運動を続けてきた。次世代に豊かな食・文化を受け継いでほしい。TPPに加入すれば、外国産米や遺伝子組み換え農産物を学校給食で食べることになる。健やかな子どもの成長のためにもTPPには断固反対」と発言した。
 精糖工業会の代表も「沖縄県の基幹産業であるサトウキビ。これを守らずに日本を守れるのか」と訴え、福島県のJA女性協の代表は「東日本大震災から二年過ぎたが、まだ“復興”は実感できない。今も県民一五万人が県内外で避難生活している。いつ元の生活に戻れるのか。“復興より先にやるべきものはない。TPPより復興が先だ”と声を大にしたい」と呼びかけた。
 また、岩手県の建設業協会の代表は「東日本大震災の被災地は復興が進まず、農家は莫大な被害を被っている。ここに安い農林水産物が輸入されれば、東北をはじめ、日本の農業は壊滅する。岩手県の建設業は農業と関係が深い。県内農家の四人に一人は建設業に従事する。TPPに参加すると市町村の小さな工事に海外企業が参加できるようになる可能性もある。ダンピングによる価格競争が進み、中小建設業は大きな打撃を受ける」と発言した。
 このようにTPP交渉参加は、農業だけでなく、漁業、林業、医療、消費者、学校教育、中小製造業、建設業など、国民生活全般にわたって壊滅的な打撃を及ぼす。これに対して各界各層の怒りの声が上がっている。

 米国企業が相手国支配 カナダや韓国で前例

 TPP交渉参加に関して、当初マスコミは農業分野にかかわる関税引き下げなど自由貿易推進という経済問題に切り縮めて報道し、「農業者が“開国”を妨げ、日本経済の足を引っぱっている」(『読売新聞』)といった悪質な宣伝をおこなってきた。だが、この間国民的な反対行動が広がるなかで、TPPは単なる経済的な打撃の問題ではなく、政治、社会の全分野に「アメリカルール」を押しつけ、根本的な変革を迫るものであることが明らかになっている。それはメキシコやカナダ、「韓国」などがアメリカと自由貿易協定を結んだ結果が証明している。経済連携した国の間で投資に関して不利益を被った場合、国や投資家が相手国に訴訟を起こせる権利を定めたISD条項はその典型である。
 アメリカとNAFTAを締結したカナダでは、ガソリン添加剤に神経系有毒物質が含まれているため、政府が輸入を規制した。これに対し米国企業がカナダ政府を提訴し、2億5000万㌦の賠償金支払いを請求。カナダ政府は1300万㌦を支払い、規制も撤回した。
 また、米国企業がカナダ国内で処理した廃棄物を米国に輸出しようとしたが、カナダ政府が一定期間の輸出を禁止。これに対し米国企業がカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万㌦の賠償金を支払った。
 同じくNAFTAを締結したメキシコでは、米国企業が国内で有害物質の埋め立てを計画し、メキシコ政府が計画の許可を取り消したため、米国企業がメキシコ政府を提訴。メキシコ政府は1670万㌦の賠償金を支払わされている。
 米韓FTAが昨年3月15日発効した「韓国」でも、米国の不動産業者が政府提訴の動きを起こしている。米投資ファンド「ローンスター」が外換銀行の売却で不当な損失を被ったとして、ISD条項に基づき「韓国」政府を仲裁機関である「国際投資紛争解決センター」に提訴した。
 また、ソウル市では30もの条例がISD条項違反となる可能性があるとして対策を検討している。米国企業は「地域の食材を使った学校給食推進」や「GM作物を使わない」などの条例がISD条項に違反するとして、条例変更を要求する可能性もある。
 さらに「韓国」はアメリカとのFTA締結前に交渉開始の条件として、①遺伝子組み換え食品について米国が容認したものは自動的に「韓国」でも受け入れる、②国民健康保険が適用されない米国の営利病院が認められる医療特区を何カ所もつくる、③BSEにかかわる輸入牛肉の条件緩和、なども飲まされている。
 日本でもTPP交渉参加前に、すでに狂牛病対策としての米国産牛肉の輸入規制の緩和を飲まされ、自動車や保険分野でも米国に譲歩することを表明するという屈辱的な対応を安倍首相はとっている。

 全分野で障害撤廃徹底 生産も加工も流通も

 このようなTPPはだれの利益になるのか。米通商代表部は、TPPの目的として、「アジア太平洋地域において発展しつつある生産・流通網への米国企業の繋がりを深めるための連続性の促進」としている。すなわち、「穀物メジャーなどの多国籍企業による、投資、生産、加工、流通、販売を米国が主体となって促進する」ことであり、「米国企業がより一貫してTPP協定参加国の市場で活動をおこなえるように、TPP協定交渉国の規制制度をより整合的なものにする」ことを狙っている。そこでは、FTAの基本的な構成要素である物品市場アクセス(物品の関税の撤廃・削減)やサービス貿易のみではなく、非関税分野(投資、競争、知的財産、政府調達等)のルール作りのほか、新しい分野(環境、労働、「分野横断的事項」等)を含む包括的協定として交渉するとしている。
 またTPP交渉においては、「除外」(特定の物品を関税の撤廃・削減の対象としないこと)や、「再協議」(特定の物品の扱いを将来の交渉に先送りすること)は原則として認めないとしている。つまりTPPは、日本社会の全分野で米多国籍企業の利益追求のために障害となる規制や法律、憲法さえも変えてしまうことを迫るものである。
 医療分野では日本の皆保険制度、農地を守るために株式会社の所有を禁じている農地法、漁業振興のために設定されている漁業権、農協や漁協など協同組合を保護するための制度、知的財産権を保護するための法律、労働者の権利を守るための法律等等、米国企業の活動のために不都合とみなす規制や法律は力づくで変更させられる。
 米国が外国貿易障壁報告書に盛り込んだ対日要求や指摘事項として、農業分野では牛肉、コメ、小麦、豚肉、農産物関税など。郵政・共済、自動車、医薬品・医療機器などがある。共済ではJA共済などの優遇措置を見直し、私企業と対等な競争条件にすることを迫っている。
 たとえば、地方自治体が推進している「地産地消」や「学校給食に地元の食材を」といった政策も、競争を阻害するものとして攻撃される可能性は高い。また、ISD条項を使えば、米国の保険会社は日本の国民健康保険制度を「参入障害」として提訴することで、損害賠償の獲得と制度撤廃に追い込むこともできる。また、日本の薬価決定に米国の製薬会社が入り、薬の特許も強化されて安価な薬の販売ができなくなる可能性もある。
 また、TPP参加で、独占企業は海外投資に拍車をかけることは目に見えている。今でも海外移転にともなう労働者の大量解雇が問題になっているが、現行の労働法では資本は労働者の首切りを自由にはできない。TPP参加で労働者の解雇を自由にできるように法改定し、日本国内で操業する工場も海外から低賃金で労働者を雇えるようにすることも狙っている。

 戦後対日戦略の総仕上 対中国包囲網と連動

 TPP参加で日本の農林漁業をはじめ、工業や商業、教育や医療、文化などすべての分野で国内の生産活動、加工、流通、販売をアメリカの多国籍企業が好き勝手に荒らし回り、根こそぎ富を吸い上げていこうというものである。これは、アメリカの戦後の対日戦略の総仕上げといえる。1985年のプラザ合意で円高ドル安で貿易不均衡を解消、89年の日米構造協議で240項目の対日市場開放を要求、93年からは年次改革要望書を出し、そして最後にTPPである。
 政府の試算では、TPP参加で、日本農業の生産額は4・5兆円減少で半減。関連産業を含め国内総生産の損失は7・9兆円。農業・食品産業などで340万人が失業し、食料自給率は40%から13%へ激減する。とくに基幹作物であるコメは、残るのは新潟コシヒカリなど一割に過ぎず、牛乳、乳製品は全滅。牛肉も3等級以下は全滅する。すなわち日本農業はほぼ壊滅である。
 関税自主権の放棄は独立国家としての存立基盤の崩壊につながる。農林水産業の衰退は地域経済と国土保全機能を崩壊させ、医療制度では皆保険制度を崩壊させ、外国資本・株式会社の医療への参入激化で医療がビジネスに転じる。雇用では外国人労働者の流入で日本の若者の失業増加・賃金低下。産業は外国資本との競争が激化し、倒産増加。食の安全・安心では米国産牛肉輸入規制・残留農薬基準・遺伝子組み換え食品表示の緩和・廃止。公共事業では、外国企業の入札参入が土建業者を圧迫し、地域経済の衰退に拍車をかける。
 対米従属の多国籍企業が支配する世の中では、日本社会は崩壊せざるをえない。しかし多国籍企業が乗り込んできたところで、生産を基礎にして成り立っている地域社会を崩壊させるなら、搾り取る対象も失ってしまい、失敗せざるをえない。
 また、TPPの背景にはアメリカのアジア重視の軍事戦略があり、政治・軍事的な対中国包囲網に日本を動員する狙いを持っている。そこにはアメリカ自体の経済的、政治的、軍事的危機の深刻さがある。安倍首相は、衰退し世界的に孤立を深めるアメリカにあくまで盲従して、日本民族の利益を売り渡し、国を滅ぼそうとしている。しかし広島、長崎に原爆を投げつけられた日本民族は、再び原水爆戦争の戦場にされることを黙ってみているわけにはいかない。
 現在、人人のなかで戦後社会についての根本的な見直しが進行している。国というものが国民の生命や財産を守るものではなく、一握りの大資本のための道具になっており、日本はアメリカと財界のための独裁国家という姿があらわになっている。農漁民や労働者、商工業者や教育・医療関係者、知識人、青年学生など広範な各界各層のなかで、斗争機運はますます高揚している。安倍売国政府を打倒し、「日米安保条約」を破棄する全国的政治斗争を巻き起こす条件は成熟している。

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