いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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オトモダチのために国民の命と暮らしを生贄にしてはならない 東京大学教授・鈴木宣弘

 すずき・のぶひろ 1958年三重県生まれ。東京大学農学部卒業。農学博士。農林水産省、九州大学教授を経て、2006年より東京大学教授。日韓、日チリ、日モンゴル、日中韓、日コロンビアFTA産官学共同研究会委員などを歴任。『岩盤規制の大義』(農文協)、『悪夢の食卓 TPP批准・農協解体がもたらす未来』(KADOKAWA)、『亡国の漁業権開放 資源・地域・国境の崩壊』(筑波書房ブックレット・暮らしのなかの食と農)などの著書がある。

 

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日米FTA交渉入り~TAGは共同声明を改ざんした捏造語~

 

 日本は、「なぜ米国民にTPP(環太平洋連携協定)が否定されたのか」について冷静に本質的な議論をせずに、TPP11(米国抜きのTPP)を推進し(2018年12月30日発効見込み)、それとセットの「TPPプラス」(TPP以上)の日米FTA(自由貿易協定)交渉を開始し、「TPPプラス」の日欧EPA(経済連携協定)も妥結し(2019年2月発効見込み)、さらには「TPPプラス」をRCEP(東アジア地域包括的経済連携)にも広げようと「TPPゾンビ」の増殖に邁進している。この流れは、以前のTPP12以上の打撃を日本の食料と農林水産業に与えることは間違いない。

 

 日米間で新たな貿易協定(日本はTAG=物品貿易協定と命名)の交渉開始が決まったのを受けて、AP通信や米国メディアは、ズバリ「日米がFTA交渉入りに合意」と報じた。日本のメディアは「事実上のFTA」「FTAに発展も」とやや回りくどいが、TAGは「FTAそのもの」である。

 

 筆者も「日米FTAはやらないと言ったわけでしょ。だから、日米FTAではないと言わないといけないから、稚拙な言葉のごまかしで、これは日米FTAなんです」(テレビ朝日「グッド!モーニング」コメント、2018年9月28日)と即座に指摘した。

 

 要は、日米FTAはやらないと言っていたのに、やることにしてしまったから、日米FTAではないと言い張るために、TAGなる造語を編み出したということである。そもそも、日米共同声明にTAG(物品貿易協定)という言葉は存在しない。英文には「物品とサービスを含むその他の重要な分野についての貿易協定(Trade Agreement on goods, as wellas on other key areasincluding services)」と書いてある。日本側が意図的に物品だけ切り取ってTAGと言っているだけで、極めて悪質な捏造だ。物品とサービスの自由化協定は、下記の定義からわかるように、紛れもないFTAである。

 

 「特定の国・地域間で関税撤廃やサービス貿易の自由化をめざすFTA(自由貿易協定)や物品・サービス分野だけでなく投資、知的財産権、競争政策など幅広い分野での制度の調和もめざすEPA(経済連携協定)」(荏開津典生・鈴木宣弘『農業経済学(第4版)』2015年、岩波書店)

 

 国際法(WTO)上、MFN(最恵国待遇)原則に反する特定国間での関税の引き下げはFTAを結ばないかぎり不可能であるのに、米国からの牛肉と豚肉の関税引き下げの要求を受けつつ、日米FTAは拒否すると言い続けているが、どうするつもりか、どんな裏技を出してくるのかと思ったら、まさかの共同声明改ざんである。

 

 しかも、「FTAではない」と言い続ければ、国際法違反の協定で、関税削減は発効できないという自己矛盾で墓穴を掘っていることにも気づかないのであろうか。「今回はこれで乗り切りましょう」と進言した経済官庁の「浅知恵」に失笑せざるをえない。

 

ペンス副大統領演説も改ざん

 

 改ざんは共同声明だけでない。ペンス副大統領演説(2018年10月4日)動画では明白に abilateral Free Trade Agreement with Japan と言っているのに、ホワイトハウス・サイト発表(文字起こし)の同演説記録は、当該箇所を、a bilateral free-trade deal with Japan に変えている。日本側が「国内的にFTAとは言えないから表現を変えてくれ」と頼んだのに対して米国側が対応したものと推察されるが、そのために「乳製品の輸入枠はあと1万㌧追加しますから」という類(たぐい)の国益差し出しをしている姿が目に浮かぶ。国民のために闘うのでなく、国民を欺くために際限なく国が売られていく。

 

しかもTPP以上の譲歩が前提

 

 そもそも、米国がTPPから離脱した際に「TPPは不十分だから二国間協定でTPP以上を求める」と主張していた。我が国もTPPを強行批准した時点で、TPP水準をベースラインとして国際公約し、米国には上乗せした「TPPプラス」を喜んで確約したようなものだった。「まず、TPPレベルの日本の国益差し出しは決めました。次は、トランプ大統領の要請に応じて、もっと日本の国益を差し出しますから、東京五輪まで総理をさせて下さい。」というメッセージを送っていたのである。

 

 しかも、TPP破棄で一番怒ったのは米国農業団体だった(裏返せば、日本政府の「影響は軽微」との説明は意図的で、日本農業はやはり多大な影響を受ける合意内容だったということが米国の評価からわかる)。せっかく日本から、コメ(従来の輸入枠も含めて毎年50万㌧の米国産米の輸入を約束)も、牛肉も、豚肉も、乳製品も、「おいしい」成果を引き出し、米国政府機関の試算でも、4000億円(コメ輸出23%増、牛肉923億円、乳製品587億円、豚肉231億円など)の対日輸出増を見込んでいたのだから当然である。

 

 しかし、これまた感心するのは、米国農業団体の切り替えの早さである。すぐさま積極思考に切り替えて、TPPも不十分だったのだから、二国間で「TPPプラス」をやってもらおうと意気込み始めた。それに応じて「第一の標的が日本」だと米国通商代表部(USTR)の代表(その時点では候補)が議会の公聴会で誓約したのである。

 

 日本の対米外交は「対日年次改革要望書」や米国在日商工会議所の意見書などに着々と応えていく(その執行機関が規制改革推進会議)だけだから、次に何が起こるかは予見できる。トランプ政権へのTPP合意への上乗せ譲歩リストも作成済みである。

 

 米国の対日要求リストには食品の安全基準に関する項目がずらずら並んでいるから、それらを順次差し出していくのが、米国に対する恰好の対応策になる。どれから差し出していくかの順番を考えるのが日本の「戦略的外交」である。

 

 例えば、BSE(牛海綿状脳症)に対応した米国産牛の月齢制限をTPPの事前交渉で20カ月齢から30カ月齢まで緩めた(つまり、TPPで食の安全性が影響を受けなかったとの政府説明は虚偽)が、さらに、国民を欺いて、米国から全面撤廃を求められたら即座に対応できるよう食品安全委員会は1年以上前に準備を整えてスタンバイしている。

 

 TPPから米国が離脱したとき、米国コメ団体は「日本においしい約束をさせたのにできなくなる」と怒ったが、すぐに、発想転換し、石でTPPの墓まで作り、「TPPは死んだ。そもそもTPP水準が不十分だったのだから、日米二国間で枠をもっと追加させよう」と意気込んでいる。すでに日本は米国からの輸入米を2017年に6万㌧ほど追加的に増やし、TPPの約束水準(米国への追加枠7万㌧)をほぼ満たす対応をしている。そして、案の定、米国コメ団体は、7万㌧を15万㌧に引き上げるよう要求し始めた。

 

自動車のために食料・農業を永続的に差し出すことに

 

 「安倍政権は“経産省政権”ですから自分たちが所管する自動車の追加関税は絶対に阻止したい。代わりに農業が犠牲になるのです」と筆者は9月27日の日刊ゲンダイで指摘した。自動車を所管する官庁は、何を犠牲にしてでも業界の利益を守ろうとする。各省のパワー・バランスが完全に崩れ、一省が官邸を「全権掌握」している今、自動車関税を「人質」にとられて、国民の命を守るための食料が、格好の「生贄」にされていく「アリ地獄」である。

 

 そもそも、米国の自動車関税の引き上げも、差別的に、日本には適用しない、というような適用は、明確な国際法(WTO)違反であり、そのような姑息なお願いをするのでなく、フランスのように真っ向から国際法違反だからやめるよう主張すべきである。自分だけが逃れられるように懇願するために、国民の命を守る食と農を差し出す約束をしてしまったツケは計り知れない。

 

 しかも、本当は、食と農を差し出しても、それが自動車への配慮につながることはない。米国の自動車業界にとっては、日本の牛肉関税が大幅に削減されても、自動車業界の利益とは関係ないからである。本当は効果がないのに譲歩だけが永続する。

 

繰り返される詭弁~「なし崩し」の食・農の崩壊

 

 TPP断固反対として選挙に大勝し、あっという間に参加表明し(「聖域なき関税撤廃」が「前提」でないと確認できたとの詭弁)、次は、農産物の重要五品目は除外するとした国会決議を反故にし(「再生産が可能になるよう」対策するから決議は守られたとの詭弁)、さらに、米国からの追加要求を阻止するためにとしてTPPを強行批准し、日米FTAを回避するためにTPP11といって、本当はTPP11と日米FTAをセットで進め、ついにTAGでFTAでないと強弁して日米FTA入りを表明した。日米経済対話やFFRは日米FTAの準備交渉だった。何度も何度も同じような光景(デジャブ)が繰り返されている。

 

 今は、「TPP水準を超える譲歩はしない」と、TPP水準こそ大問題だったのに、TPP水準はすでにベースラインになってしまっている。そして、「TPPを上回る譲歩はしない」と言っている政府が、最後はどんな言い訳を持ち出してくるのか。さらには、協定を発効させるために、ある段階で、恥ずかしげもなく「これは実はFTAでした」と開き直る「腹積もり」だろう。その前に、何度も何度もこんな見え透いた嘘で「なし崩し」にされていくのを、ここまで愚弄されても許容し続けるのかが国民に問われている。

 

TPP12の付属文書の「総仕上げ」が日米FTAで行われる

 

 農産物関税のみならず、政権公約や国会決議でTPP交渉において守るべき国益とされた非関税措置については、自動車の安全基準の緩和、軽自動車税の増税、自由診療の拡大、薬価公定制の見直し、かんぽ生命のがん保険非参入、全国2万戸の郵便局窓口でのA社の保険販売、BSE(牛海綿状脳症)、ポストハーベスト農薬(防かび剤)など食品の安全基準の緩和、ISDS条項への賛成など、日本のTPP交渉参加を認めてもらうための米国に対する「入場料」交渉や、参加後の日米平行協議の場で「自主的に」対応し、米国の要求が満たされ、国民に守ると約束した国益の決議は早くから全滅していた。

 

 しかも、「TPPとも米国とも関係なく自主的にやったこと」と説明しておきながら、TPPの付属文書に書いてある。2016年12月9日の国会で、「TPPの付属文書の内容は日本が『自主的に』決めたことの確認なので、TPPの発効に関わらず、『自主的に』実行する」と外務大臣も厚顔無恥に回答した。「自主的に」=「米国の要求通りに」と変換すれば真意が読める。

 

 さらに驚くことは、TPP付属文書には米国投資家(ウォール街、グローバル種子企業、製薬企業など)の追加要求に日本は規制改革推進会議を通じてさらなる対処をすることも「自主的に」約束されている。今後も際限なく続く米国からの要求に対応して巨大企業の経営陣と投資家の利益のために国民生活が犠牲になる「アリ地獄」にはまっている。

 

 これにのっとった米国発のグローバル種子企業などへの徹底した便宜供与が続いており、それらが日米FTAで「総仕上げ」されることが懸念される。

 

グローバル種子企業への便宜供与「七連発」

 

 象徴的なのは、種子法廃止に関連した一連の動きである。これは国民の命を守る安全保障の観点からは間違っているが、グローバル種子企業の世界戦略とは極めて整合性が取れている。

 

 命の源の基礎食料(中でも特にコメ)、その源の種は、安全保障の要であるから、国として、県として、いい種を安く供給し、生産と消費を支えるのが当然の責務としてきたのをやめて、企業に任せろ、というのが種子法廃止である。

 

 グローバル種子企業の世界戦略は種を握ることである。種を制するものは世界を制する。種を独占してそれを買わないと人々は生きていけなくすれば、巨大なビジネスとなり、人々を従属させられる。だから、公共種子の提供を後退させ、自家採種を禁じて、自分たちのものにして、遺伝子組み換え、F1(一代雑種)化して、買わざるをえない状況を世界中に広げてきた。それを日本でもやりたい。それに日本は応えている。

 

 公共種子事業をやめさせ(種子法廃止)、国と県がつくったコメの種の情報を企業に譲渡させ(農業競争力強化支援法)、自家採種は禁止する(種苗法改定)という3点セットを差し出した。一連の改定をセットで見ると、意図がよく読み取れる。

 

 全農の株式会社化もグローバル種子企業と穀物メジャーの要請で農協「改革」に組み込まれた。子会社の全農グレインがNon-GM穀物を日本に分別して輸入しているのが目障りだが、世界一の船積み施設を米国に持っているので、買収することにしたが、親組織の全農が協同組合だと買収できないので、米国からの指令を一方的に受け入れる日米合同委員会で全農の株式会社化が命令された。

 

 消費者庁は「遺伝子組み換えでない」という表示を実質できなくする「GM非表示」化方針を出した。これも、日本の消費者の要請に応えたかのように装いながら、グローバル種子企業からの要請そのままである。しかも、消費者庁の検討委員会には米国大使館員が監視に入っていたという。

 

 カリフォルニアではGM種子とセットのラウンドアップ(除草剤)で発がんしたとしてグローバル種子企業に320億円の賠償判決が下り、世界的にラウンドアップへの逆風が強まっている中、それに逆行して、日本は昨年12月25日、クリスマス・プレゼントと称して、米国の要請に応じて、ラウンドアップの残留基準値を極端に緩和した。

 

 さらに、ゲノム編集(切り取り)では、予期せぬ遺伝子喪失・損傷・置換が世界の学会誌に報告されているのに、米国に呼応し、GMに該当しないとして野放しにする方針を打ち出した。
 以上、特定のグローバル種子企業への「便宜供与」の「7連発」
①種子法廃止、
②種の譲渡、
③種の自家採種の禁止、
④Non-GM表示の実質禁止、
⑤全農の株式会社化、
⑥ラウンドアップの残留基準値の大幅緩和、
⑦ゲノム編集を野放しにする方針、
が進められている。

 

 インド、中南米、中国、ロシアなどは、国をあげてグローバル種子企業を排除し始めた。従順な日本が世界で唯一・最大の餌食にされつつある。GMとラウンドアップで病気になった日本人にM社の合併先企業(ドイツのB社)の人間の治療薬も売れて、「ダブル儲けの新ビジネスモデル」との声さえ漏れている。

 

 野菜の種は国内の種苗メーカーが担っているが、9割が海外圃場で、かつ、表に名前は出てこないが、グローバル種子企業の受託生産になっている場合が多いようだ。野菜に続き、今回のコメ・麦・大豆で日本における種の支配は次のステージに入った。

 

 「陰謀説だ。そんなことはない、大丈夫だ」という人たちに言いたいのは、これは「世界における歴史的事実で、同じことが日本で進んでいる」という明快な現実である。様々なカムフラージュでごまかそうとしても、事実は揺るがすことはできない。

 

国民が求めているのは日米のオトモダチのために際限なく国益を差し出すことではない

 

 農業については、家族経営の崩壊、農協解体に向けた措置(全農共販・共同購入の無効化、独禁法の適用除外の無効化、生乳共販の弱体化、信用・共済の分離への布石)、外資を含む一部企業への便宜供与(全農の株式会社化・買収、特定企業の農地取得を可能にした国家「私物化」特区、種子法の廃止、農業「移民」特区の展開)、そして、それらにより国民の命と暮らしのリスクが高まる事態が「着実に」進行している。

 

 そして、ここに来て、農協・漁協に対する大手流通業者の取引交渉力を強め、農林水産物の一層の買いたたきを促進する卸売市場の民営化、民有・国有林の「盗伐」合法化(特定企業への露骨な便宜供与)、さらには、漁業についても、これまで各漁場で代々生業を営む漁家の集合体としての漁協に優先的に免許されてきた漁業権を、漁協(漁家)への優先権を剥奪し、知事判断で企業に付け替える方向性が正式に示された。

 

 「攻めの農業」、企業参入が活路、というが、既存事業者=「非効率」としてオトモダチ企業に明け渡す手口は、農、林、漁ともにパターン化している。

 

 H県Y市の国家戦略特区で農地を買えるようになった企業はどこか。その社外取締役は国家戦略特区の委員で、自分で決めて、自分の企業が受注、を繰り返している。国家「私物化」特区だ。森林の新しい法律は、H県Y市と同じ企業とがバイオマス発電で「意欲がない」と判断された人の山を勝手に切って燃やしてもうけるのを、森林環境税までつぎ込んで手助けする。

 

 漁業権の開放は、日本沿岸の先祖代々、生業を営んできた「漁場を有効に活用していない」と判断された既存の漁業者の生存権を剥奪して大規模養殖をやりたい企業に漁業権を付け替える法改定である。気づいたら、予期せぬ海外のオトモダチに日本沿岸の制海権を握られ、企業参入だ、民間活力だ、と言っているうちに、いつの間にか、外国に日本が乗っ取られる。

 

 「攻めの農業」の本質は、既存の農家が潰れても、日米の特定のオトモダチ企業が儲けられるお膳立てができればいい、というだけだから、かりに、少数の企業が利益を増やしても、国民に全体として必要な食料を供給するという自給率の視点は欠如している。自給率は間違いなく下がる。すでに食料自給率は「死語」になりつつある。

 

 日米FTAの交渉開始は、一連の農林水産業の家族経営の崩壊、協同組合と所管官庁などの関連組織の崩壊に「とどめを刺し」、国内外の特定企業などへの便宜供与を貫徹する「総仕上げ」を敢行するという強い意思表示と理解される。

 

 食料と農林水産業とその関連組織(農協・漁協や農林水産省)に「とどめを刺す」と意気込んでいる人たちに、「民間活力の最大限の活用」だ、「企業参入」だと言っているうちに、気付いたら、安全性の懸念が大きい輸入農水産物に一層依存して国民の健康が蝕まれ、日本の資源・環境、地域社会、そして、日本国民の主権が実質的に奪われていくという取り返しのつかない事態に突き進む愚かなことを進めているのだということに一日も早く気づいてもらうべく、国民一人一人が事態の本質を正しく認識し、行動を起こす必要がある。

 

 F35戦闘機を100機、1兆円とか、米国の言いなりに武器を買い増すのが安全保障ではない。武器による安全保障ばかり言って、食料の安全保障の視点が抜けているのは、安全保障の本質を理解していない。農業政策を農家保護政策に矮小化させてはいけない。食料・農林水産業政策は、国民の命、環境・資源、地域、国土・国境を守る最大の安全保障政策だ。「食を握られることは国民の命を握られ、国の独立を失うこと」だと肝に銘じて、安全保障確立戦略の中心を担う農林水産業政策を、政党の垣根を超え、省庁の垣根を超えた国家戦略予算として再構築すべきである。

 

 国民が求めているのは、日米のオトモダチのために際限なく国益を差し出すことではなく、自分たちの命、環境、地域、国土を守る安全な食料を確保するために、国民それぞれが、どう応分の負担をして支えていくか、というビジョンとそのための包括的な政策体系の構築である。競争に対して、共助・共生的システムと組織(農協や生協)の役割の重要性、消費者の役割、政府によるセーフティネットの役割などを包括するビジョンが不可欠である。

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この記事へのコメント

  1. 武富美奈子 says:

    TPP を考える上で大変参考になりました。
    是非、皆さんにも読んで欲しいと思いました!
    FBでシェアさせていただいても良いですか?

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