(2025年9月12日付掲載)

絵本作家たちの出品作品と作家のさこももみ氏(9月6日、広島市)
イスラエルによる占領と暴力が続くパレスチナの問題について関心を広げるため、絵本作家たちが企画した絵画と写真の展覧会『つながる世界』が8月26日~9月7日、広島市中区上八丁堀の「ギャラリーG」で開かれた。2023年10月以降、パレスチナ自治区ガザでイスラエル軍による無差別攻撃の死者は6万人をこえ、とくに子どもの死者は1日当り100人ともいわれる。日頃子どものための児童書を作っている絵本作家たちは「私たちが声を上げること、表現するべきことがあるのではないか」とパレスチナをテーマに制作した作品を持ち寄り、ガザ現地の記録写真とともに6月から全国巡回展示を続けている。
出展作品は、絵本作家やイラストレーター25人が描いたパレスチナの子どもたちをモチーフにした作品や、戦争の悲惨さと平和の尊さを願う作品27点。親と子の愛情、失われた子どもの命の尊厳、その愛おしさが色彩豊かに表現され、絵本作家ならではのぬくもりが感じられる。それぞれの作品には作家のメッセージが添えられている。

「Stop the Genocide in GAZA !!」(降矢なな氏作)
「おとなたちがこどもたちになにかをあたえることがあっても、おとなたちはこどもたちからなにもうばってはいけない。こどもたちにみらいをあたえ、いのちをまもる。それがおとなたちのやくめ」
「殺せという人、殺しに行く人、行かされる人、殺される人、泣く人、ついこないだ同じように生まれてきた人どうし。なんの幸がありましょう」
「クムサンさんご夫妻は戦禍の中、決死の想いで双子の赤ちゃんを帝王切開で出産した。赤ちゃんの名前はアーセルちゃんとアスィールちゃん。父親のムハンマドさんは出生証明書をもらうために外出し、帰宅途中、自宅に攻撃があったことを電話で知らされた。戦車からの砲撃が自宅を直撃し、出産直後のためベッドで安静にしていた妻のジュマナさんと双子の赤ちゃん、義母の命が奪われた。アーセルちゃんとアスィールちゃんは四日しか生きることができなかった。心躍らせながら準備したベビー服に子どもたちが袖を通すことはできなかったとムハンマドさんは泣き崩れた。ムハンマドさんはこのあと、どうやって生きていけばいいんだろう?せめて絵のなかで家族の和やかな幸せな時間を描きたいと思いました」
「言葉にするのも恐ろしいジェノサイドが行われています。パレスチナの、想像を絶する歴史の全てをわたしは知ることはできないけど、これだけは断言できます。イスラエルはジェノサイドをやめるべき!」
出品作家は、石川えりこ、市居みか、えがしらみちこ、酒井駒子、さこももみ、ささめやゆき、田島征三、tupera tupera、どいかや、ふしはらのじこ、浜田桂子、早川純子、ひろかわさえこ、降矢なな、松田奈那子、まつむらまいこ、山口マオ、marini monteany、山福朱美、吉田尚令、町田尚子、あおきひろえ、こしだミカ、長谷川義史、堀川理万子の各氏。
また、展覧会の協力団体であり、ガザで人道支援活動をする日本国際ボランティアセンター(JVC)の現地職員が撮影したパレスチナの子どもや女性たちのスナップ写真、現在も命がけでガザ現地の惨状を伝え続けるジャーナリストの写真34枚も説明とともに展示されている。
作品を出品した絵本作家のさこももみ氏(広島市在住)は、「子どもたちのための絵本を作っている者として、このジェノサイドを黙って見ていていいはずがないという作家仲間からの呼びかけに応じて、それぞれの作家が作品を持ち寄った。親が子どもを思う気持ちは各国共通のはず。その一番守られるべき存在がイスラエルによって標的にされている。そんなときに絵を描いている場合なのか…と無力感にもさいなまれたが、まず知ってもらうためにできることをやりたいと思った。絵だけではイメージで終わってしまうが、写真と一緒に展示することでガザの現状を少しでも多くの人に知ってもらうことができるのではないか」と参加した動機を語る。
また「ヘイトや排外主義がはびこり、自分の苦しさを他者や弱者にぶつけて憂さ晴らしをする風潮が目立つなかで、子どもたちに何を伝えるのかが問われている。たまたま日本に生まれたか、ガザに生まれたかの違いで命の重さまで変わっていいはずがない。だがイスラエルは土地を奪うために、未来ある子どもや女性をターゲットにして民族を根絶やしにし、アメリカはその廃墟にリゾート開発計画まで立てている。たとえ微力であっても、子どもにかかわる仕事をする者として沈黙することは許されないと思った」と胸中を明かした。
京都、東京に続く広島展では、市民や観光客など約700人が訪れ、とくに原爆の被害と重ねてガザの人々に心を寄せる声が多かったという。
表現活動脅かす土壌のりこえ
一方、絵本作家がパレスチナ問題について触れることが難しい土壌があるといわれる。大手出版社をはじめ企業広告やCMなどの仕事で生計を立てている関係上、今回の作品展への出品を見合わせる作家も少なくなかったという。ある絵本作家は、「マクドナルド(イスラエル軍に食事を提供する米国企業)のハッピーセットには絵本の付録があり、日本国内でも若手作家にその仕事の依頼がくる場合がある。今回の展覧会への出品は、マクドナルドの仕事を断れる人だけが参加している。インボイス制度導入にあたっても広告代理店の電通から、作家個人に“今後もうちと仕事をするつもりならインボイス登録をしてください”と電話がかかるなど圧力もあった。芸術分野に対する公的支援が乏しいなかで、大手企業の顔色をうかがいながら仕事をしなければならなかったり、AI作品が横行していることも芸術家の表現活動の土台を脅かしている」と危惧を語っていた。
展覧会はベテラン作家を中心にして始まったが、出品者が徐々に増えている。「ベテランが社会的なテーマで行動することで、その輪が広がっていくことを期待している」と語られていた。
出品作品はポストカードとして会場で販売され、売上はパレスチナ支援団体に寄付される。
今後の巡回展示は、9月12~27日に福岡県古賀市の「ナツメ書店」、10月1~15日に福岡県太宰府市の「絵本の店あっぷっぷ」、10月21日~11月15日に京都府向日市のブック&カフェ「ワンダーランド」でおこなわれる。
〈出品作品から〉

「Towards a liberated world」(さこももみ氏作)

「ふたごの家族」「オサマくんとインコ」(吉田尚令氏作)





















