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ベルリン国際映画祭閉会式をめぐる映画人と政府の対応に差 イスラエルとパレスチナの映画制作者たちの作品が最優秀賞に

受賞スピーチに立つアブラハム監督㊧とアドラ監督(2月25日、ベルリン)

 今年のベルリン国際映画祭の最優秀ドキュメンタリー賞に、イスラエルとパレスチナの映画制作者集団が監督した『ノー・アザー・ランド』が選ばれ、あわせてパノラマ観客賞も受賞したことが話題を呼んだ。この映画は、ヨルダン川西岸の19の村からなるマサファー・ヤッタからパレスチナ人が追放される現実(戦争犯罪)を浮かび上がらせるものだ。映画祭の審査では、「イスラエル政府の非人道的で無知な政策」を描いているとの評価が示された。

 

両監督スピーチに沸く

 

 映画祭最終日(2月25日)の授賞式には、パレスチナのバセル・アドラ監督とイスラエルのユバル・アブラハム監督が登壇してスピーチをおこなった。アドラ監督は「ガザ地区で何万人もの同胞がイスラエルに惨殺され、大量に虐殺されている今、受賞を祝う気分には到底なれない」とのべた後、「ドイツには、国連の呼びかけを尊重し、イスラエルへの武器送付を止めていただきたい」と訴えた。

 

 アブラハム監督も「彼(アドラ監督)は何百万人ものパレスチナ人といっしょに占領下の西岸地区に閉じ込められている。私たちは停戦を求める必要がある。占領を終わらせるための政治的解決を呼びかける必要がある」と訴えた。さらに、「私はイスラエル人だが、バセルはパレスチナ人で2日後にはわれわれは平等ではない土地に戻ることになる。私たちの間にあるこのアパルトヘイトの状況は終わらせる必要がある」と続けた。

 

 2人のスピーチには観客から盛大な拍手が送られた。賞を手渡す女性審査員の背中には「今すぐ停戦」と書かれた紙がつけられていた。

 

 これに対して、ドイツ政府・ベルリン市当局や大手メディアが「反ユダヤ主義」だと非難し映画祭そのものを攻撃し、補助金支出を問題にする事態に発展している。受賞式に出席したドイツのロート文化相は両監督のスピーチが終わったあと拍手を送った。しかし、その翌日には「この拍手は2人に対してではなくアブラハム監督だけに送ったものだ」とX(旧ツイッター)で奇妙な弁明に努めた。

 

 ベルリンのウェグナー市長もXで、「ベルリン映画祭で起こったことは容認できない見方だ。ドイツ政府は疑いなくイスラエルを支持する。イスラエルとガザ地区の深い苦難の責任は、すべてイスラム組織ハマスにある。映画祭でこのようなことが二度と起きないことを保証すべきだ」と映画祭運営側の責任を求めた。イスラエルのプロソル駐ドイツ大使も、アブラハム監督のコメントを「あからさまな反ユダヤ主義、反イスラエルの発言だ。映画祭は偏見をあらわにした」と発信した。

 

 閉幕式を期して映画祭の運営への非難が強まった裏には、他にも植民地主義を批判的に検証する作品が最優秀作品賞(金熊賞)を受賞し、いく人かの監督がスピーチでイスラエルのガザでの「ジェノサイド(大量虐殺)」を批判し、「パレスチナへの連帯」を示したことがある。

 

映画人が国境こえて連帯

 

 今回、金熊賞を獲得したのはドキュメンタリー映画『ダホメ』(マティ・ディ・オップ監督=フランス系セネガル人)であった。

 

 フランスが19世紀末、植民地・ダホメ王国から略奪した美術品の返還をめぐる問題を軸に、「植民地主義の暴力性」を掘り下げて描いた作品だとされる。

 

 オップ監督は受賞スピーチで、「フランスとセネガル人の監督として、私は忘却や手段としての記憶喪失を拒否する一人になることを選ぶ」と語り、パレスチナへの連帯を表明した。同映画祭で初のアフリカ人審査委員長に就任したケニア人俳優ルビタ・ニョンゴが金熊賞を渡す場面では、とくに熱烈な拍手と歓声が起こった。さらに、『ダイレクト・アクション』で作品賞を受賞した米国のベン・ラッセル監督が、パレスチナ人が頭に被るクーフィーヤをつけて登壇する場面もあった。

 

ムキになるメディア

 

最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した映画『ノー・アザー・ランド』

 マスメディアの論調は、「ベルリン映画祭の閉会式は、何よりも恥ずべきものだった。会場にいた聴衆からそのすべてが熱狂的に称賛された。戦争終結の発言はすべてイスラエルに対して一方的に向けられたものだ」(ベルリンの日刊紙『ターゲスシュピーゲル』)、「異様な陶酔状態での映画祭の授賞式。何百万もの納税者のお金がこれに費やされたのは無責任だ。映画祭の資金を削減すべきだ」(日刊紙『ディー・ヴェルト』)などの発言に代表されるものとなっている。

 

 『ノー・アザー・ランド』のアブラハム監督(イスラエル人)は映画祭閉幕後、Xに「イスラエルのチャンネル11は私の演説の30秒部分を放送し、こっぴどく“反ユダヤ主義”と叫んだ。それ以来、私は殺害の脅迫を受け続けている」と書き、すぐには帰国できなくなった事情を明らかにしている。同監督は英紙『ガーディアン』に、祖母が強制収容所で生まれ、父親の家族のほとんどがホロコーストで殺されたみずからのルーツを明らかにし、次のように語っている。

 

 「ホロコースト生存者の息子としてドイツの地に立ち、停戦を呼びかけたことに反ユダヤ主義者のレッテルを貼られるのは言語道断だ。そればかりか文字通りユダヤ人の命が危険にさらされている。ドイツが何をしようとしているのかわからない。もしこれがホロコーストに対するドイツの罪悪感からくるのだとすれば、それはまったく意味をなさない」

 

 「私たちの受賞スピーチを批判することはできるし、10月7日の出来事について言及すべきだったということもできる。それはすべて正当なことだ。しかし、ドイツはユダヤ人を保護するために作られたこの用語(ホロコースト)を武器化し、パレスチナ人を黙らせるだけでなく、占領に批判的で“アパルトヘイト”という言葉を使うユダヤ人やイスラエル人も黙らせようとしている。これは反ユダヤ主義という言葉の価値を下げるもので、危険でもある」。

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