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言い訳と茶番の「裏金」政倫審 自浄作用なき自民党の腐敗堕落 予算案可決のためのパフォーマンス 内閣支持率は最低の18%

政倫審で答弁する(左上から時計回りに)武田良太、西村康稔、松野博一、世耕弘成、塩谷立、高木毅の各自民党国会議員

 自民党のパーティー券裏金問題をめぐる政治倫理審査会(政倫審)が、衆議院では2月29日から、参議院では3月14日から、能登半島地震など災害対応をめぐる審議とは比べものにならない時間をかけておこなわれている。自民党安倍派や二階派などが派閥でおこなった政治資金パーティーの収入を約100人の所属議員にキックバック(収支報告書への非記載を指示して現金手渡し)するという違法行為を数十年にわたって慣習的に続けてきたことが顕在化したが、検察による国会議員の刑事処分は3人にとどまり、自民党議員の4分の1におよぶ裏金議員が何のケジメもつけず、余裕綽々(しゃくしゃく)で議場にふんぞり返っている。政倫審は幹部らが「一切知らない」「わからない」と煙に巻く茶番と言い訳に終始し、政権の支持率は過去最低を更新し続けている。有権者は何を見せられているのだろうか――。

 

 自民党の裏金問題は、自民党が組織ぐるみで事実上の裏金を議員らに配っていたという純然たる違法行為だが、検察の捜査は「大山鳴動して逮捕者一人」。多額の裏金を懐にしていた90人以上の議員やそれを配っていた派閥の幹部もお咎めなしに終わった。数千万~数百万円の裏金環流を受けていた議員らは、「単なる帳簿の記載ミス」と開き直り、つじつま合わせに収支報告書の訂正をして事を済ませた。多額であってもすべて「政治資金」と名付けてしまえば、領収証も不要で非課税となるからだ。

 

 だが、パーティー券のキックバックにあたっては派閥側から議員に「政治資金収支報告書に記載するな」と指示が出ていた事実も明らかになっており、安倍派では2018~2022年までの5年間(公訴時効)で総額約6億7503万円、二階派では約2億6460万円が裏金として議員個人に手渡しされていた。

 

 本来、派閥から個人への寄付は政治資金規正法違反で、罰金刑以上の刑が確定すれば公民権停止。個人への報酬なら雑所得として申告しなければならず、脱税となる。だが検察は、逃げ道がある政治資金の記載義務違反容疑として捜査し、不記載額が3000万円をこえた池田佳隆(衆、比例東海)、大野泰正(参、岐阜)、谷川弥一(元衆、長崎3区)のみを立件して幕を引いた。

 

 裏金を配っていた派閥側では、安倍派と二階派で、それぞれ「裏金」分の収入と支出を収支報告書に記載していなかったとして、政治資金規正法違反の虚偽記載罪で会計責任者が在宅起訴。岸田派(宏池会)でも2020年までの3年間のパーティー収入など3059万円が収支報告書に記載されていなかったとして、元会計責任者1人が略式起訴され、すでに有罪(罰金100万円と公民権停止3年)が確定している。

 

 捜査開けの国会では、刑事罰を逃れた100人近くの自民党議員たちがなんら悪びれる様子もなく議席を占め、安倍派や二階派の幹部たちが安堵した表情で談笑する光景すら見られた。

 

 一方、各世論調査でも「捜査が不十分」「納得できない」という意見は多数を占め、岸田内閣の支持率低下に歯止めがかからないため、「説明責任を果たす」として与野党合意で開催が決まったのが政倫審だ。

 

 国会には、議員らへの質疑をおこなう場として、ほかにも参考人招致や証人喚問があるが、出席義務があり虚偽発言には偽証罪が適用される証人喚問に比べて、政倫審には出席義務がなく、嘘をついても偽証罪には問われないもっとも軽い措置。通常の国会審議との違いは、質問通告や官僚が作成した答弁がないという点だけだ。

 

 しかも審査会の会派構成は、衆院では全25人中、自民15人、公明2人、立憲5人、維新・教育2人、共産1人。参院では全15人中、自民8人、公明2人、立憲2人、維新・教育1人、民主1人、共産1人。審査する側も自民党議員ばかりで、疑惑の渦中にある裏金議員らに言い訳と弁明の機会を与えるだけの場ともいえる。

 

 当初、自民党は非公開を開催条件としていたが、「政治刷新」をアピールしつつ、その見返りに新年度予算案の採決を図りたい岸田首相がみずから進んで出席を申し出たことから公開質疑となった。

 

 野党側は安倍派や二階派の幹部など衆院で51人の裏金議員に出席を求めたが、現在までに出席したのは、二階派の武田良太元総務相、安倍派幹部の西村康稔前経済産業相、松野博一前官房長官、塩谷立元文科相、高木毅前自民党国対委員長のわずか5人。安倍派幹部で2728万円(5年間)の裏金を受領していた萩生田光一前政調会長は出席を拒否した。参院では32人の出席要求に対して、安倍派幹部で1542万円(5年間)の裏金を受けとっていた世耕弘成前参院幹事長、安倍派の西田昌司参議院議員、橋本聖子元五輪担当相の3人だけが出席した。

 

責任はすべて他人に丸投げ 「知らぬ存ぜぬ」に終始

 

岸田首相

 政倫審で岸田首相は「なぜ政治資金の収支は明確にするとの当然のルールすら守れなかったのか。その原因が政治における順法意識の欠如にあったとしたならば、コンプライアンスの徹底に向けた改革を進めなければならない」などとのべ、「第一歩として古い派閥のあり方から決別する」「マスコミオープンのもとで説明責任を果たす」と宣言。だが、具体的な話におよぶと「こうした事案が具体的にいつどのようにして始まったのかは判然としないものの、遅くとも十数年前からおこなわれていた可能性が高い」と曖昧な答弁をし、「これまでのところ派閥が支出した資金を議員個人が受領した例は聞きとり調査を含めて党において把握されていない。また、還付金などを政治活動費以外に使用したり、違法な使途に使用した例も把握されていない」として「裏金ではない」との認識を示した。

 

 二階派の事務総長を務めた武田元総務相は「私も、派閥会長の二階元幹事長も、会計責任者から収支報告書の内容の説明を受けることなく、虚偽記載などがおこなわれていたことはまったく知らなかった。二階氏も私もまったく関与していない」とくり返し釈明。「25年前から実務を担当している事務局長に委ねていて、私や二階会長がルールやノルマなどを決めることはまったくしていない。裏金づくりなどは毛頭考えていない」と潔白を主張し、事務方や秘書に責任を丸投げした。

 

 安倍派の座長の塩谷立、事務総長の松野博一、西村康稔、高木毅も口を揃えて「一切かかわっていない」「(派閥から裏金が環流されていたことは)誰が決めたのかわからない」と弁明した。

 

 西村前経産相は「私に関する捜査は、東京地検より“捜査を尽くしたうえで処分するという判断はしないことになった”との説明がおこなわれており、事件として立件する必要もないという結論に至ったものと承知している。(自分は清和会の)事務総長だったが、会計については一切かかわっていない。今に至るまで清和会の帳簿、通帳、収支報告書を見たことがない」「還付については、自前で政治資金を調達することが困難な若手議員や中堅議員の政治活動を支援する趣旨から始まったのではないか、とされているが、いつからおこなわれたのかは承知していない」「還付にかかる処理は、歴代会長と事務局長との間で長年慣行的に扱ってきたことであり、会長以外の私たち幹部が関与することはなかった」「令和四年の還付金については、安倍会長の意向を踏まえ、幹部の間で還付をおこなわない方向で話し合いがおこなわれていたものの、結果的には一部の所属議員に現金での還付がおこなわれたようだ。私はその経緯を含めまったく承知していない」と、「知らない」づくしの弁明に終始。

 

 松野前官房長官は「清和会全体のパーティー券の販売・収入の管理や収支報告書の作成といった経理、会計業務には一切関与していなかった」「(還付された金は)政治目的として認められているもののなかで支出した。会合などの設定は私も関与しているが、支払いに関しては事務所がおこなっているので、私が還付金を自由に使っていたという事実はない」と答弁。

 

 塩谷元文科相は「去年8月から5カ月余り常任幹事会の座長を務めてきたが、政治資金パーティーをめぐる問題に関しては一切関与していない」「(キックバックは)20数年前から始まったのではないかと思うが、明確な経緯については承知していない」とした。

 

 高木前国対委員長も「私が事務総長の立場で政治資金パーティー収入を管理したり、収支報告書の作成や提出について事務局長から報告を受けたり、決裁などをしたりして関与することは一切なかった。そのため収支報告書の不記載や虚偽記載もまったく認識していなかった」と口を揃えた。

 

 安倍派の参院議員グループ「清風会」会長だった世耕前参院幹事長は「派閥で(還付金の)不記載がおこなわれていることは一切知らなかった」「還付金は清和会から私の事務所に現金の形で渡され、現金のまま管理・運用されていたものであり、収支報告書の簿外での管理であったため、私自身や法律事務所の管理に引っかかることがなかった」「還付金を受けとっていたことについて私自身が長らく把握できなかった」と釈明。
 「還付金の支出先は、すべて政治活動費等として収支報告書に記載できる性質のものであり、不正な目的や私的な目的でなされた支出、いわゆる裏金的支出は一切確認されていない」とのべ、「(派閥としての還付は)私が知らないところで決められた」「安倍さんが決めたのか、細田さんが決めたのかわからない」「知らないものは知らない」「私が知りたい」などと開き直りをみせた。

 

 これらの派閥幹部たちが「知らない」なら、決めたのはすでに鬼籍に入った安倍、細田両会長ということになる。だが「安倍会長の指示で、令和4年春ごろ一旦還付を中止する方針が決まった。その後、安倍氏が亡くなり、派内をどう運営していくかということに傾注するなか、還付金が派閥の収支報告書に不記載で、適法ではない処理をしているということをまったく認識しておらず、還付を希望する声が多いとのことで、その要望に沿って令和4年分も従来通り、還付が継続された」(塩谷)などの証言もあり、安倍氏の死後、西村、塩谷、世耕と下村博文元政務調査会長による幹部協議が2回おこなわれたことが明らかになったが、誰がキックバックを復活させたかについては結局「わからない」で終わった。

 

 自民党の最大派閥だった安倍派は、安倍元首相の死後、リーダーが決まらず「5人衆」といわれる幹部の集団指導体制をとってきたが、誰もが責任者の椅子には座りたがるが責任だけはとりたくないという醜い姿を披瀝した。口では「安倍会長は(裏金環流を)やめようといっていた」といいながら、行動では「安倍会長が決めた」といっているに等しい。

 

れいわ議員には「厳重注意」 裏金議員の懲罰はいつか?

 

 真相解明にはほど遠い言い訳大会に終始した政倫審が終わるやいなや、衆院では「ケジメを果たした」といわんばかりに委員長職権で新年度予算案が採択された。立憲民主党を筆頭とする野党側が予算委員長の解任決議案を提出するなどして時間稼ぎをしたものの結局は日程通り粛々と採決に応じ、いつもの「闘う」ポーズだけに終わった。

 

 予算案採決時、れいわ新選組の大石晃子、櫛渕万里両議員が牛歩をおこない、壇上で「なぜ裏金自民が予算案を出す資格があるのか。立憲もなぜ今日採決させるのか? 昨日のあれ(時間稼ぎ)はなんだったのか? 国会の外の国民のみなさん、被災者に申し訳がない。恥を知れ!」(大石)、「国民には増税、自民党は脱税。犯罪者集団が作った予算では国民は幸せになれない。反対です!」(櫛渕)と叫んだため、衆院議院運営委員会(委員長・山口俊一)は議院運営委の総意として2人を呼び出し、「議場の秩序を乱した」「反省の色が見られない」などとして厳重注意の処分を科した。

 

 その直後、大石氏は「演壇での不規則発言は“国会の品位”を貶めたということで、厳重注意処分は与野党の理事会の総意によるものだそうだ。だが私が問いたいのは、裏金議員の懲罰はいつか? だ。自民党の主要派閥が裏金づくりを指示していたわけで、そんな犯罪集団が与党として国会を運営するという異常事態だ。誰かが国民の怒りを代弁しなければいけないはずだ」とのべた。

 

 同じく櫛渕氏は「4人に1人の自民党議員が裏金の不記載によって違法性が問われるべきものであるにもかかわらず、自民党はそのような議員を処分することもできず、立法府をいわば占領し、その権力をいまだ振りかざしている。いま、増税やインボイス導入に苦しみながら納税義務を果たしている国民の怒りは頂点に達している。国民の代表者として議場に臨む国会議員が、その怒りを代弁する発言は、なにものによっても禁止されるものではない。…本日、厳重注意の処分を科した議運委員には裏金による犯罪議員も含まれている。議運理事の皆さんは、犯罪者の尊厳を守ろうとしているのだろうか? 国会の品位はすでに地に落ちている」とコメントを出した。

 

 組織的に裏金づくりをした側が主張する「国会の秩序」や「品位」「尊厳」とは何なのかが問われると同時に、その事態に対して徹底抗戦せず、逆にそれを訴える側を懲罰する主要野党のスタンスも問われるものとなっている。

 

青年局は“破廉恥”懇親会 裏金騒動の渦中に

 

 さらに自民党をめぐっては、裏金問題が顕在化していた昨年11月、二階幹事長、世耕参院幹事長(いずれも当時)の地元である和歌山で自民党青年局近畿ブロック会議がおこなわれた後、党県連主催で懇親会なるものが開かれ、下着のような衣装の女性ダンサーを呼んでショーを披露させていたことが発覚。若手地方議員ら30~40人を集めてホテルで開催された会合では、議員らが女性ダンサーと抱き合ったり、チップを口移しで渡すなどの破廉恥な余興がおこなわれていたことが写真とともに報じられている。この会合に参加していた自民党青年局の藤原崇局長と中曽根康隆局長代理が辞任したが、「(ダンサーを雇ったのは)多様性の重要性を問題提起しようと思ったから」(自民党和歌山県連青年局長)などと言い訳をしており反省の色はない。

 

 これらの問題連発によって岸田政権の3月の支持率(時事通信調べ)は、過去最低レベルの18%に低迷し、自民党内でも岸田下ろしの風が強まっているといわれるが、一連の問題が示すことは自民党そのものの腐敗堕落にほかならない。公金と権力を弄び、国民の苦難などどこ吹く風の弛緩と愚劣なモラル崩壊を見せつけており、有権者の強烈な一打なくして自浄作用が働くことはない。同時に、弛緩した国会を刷新するためには、国民の怒りの受け皿となり得る勢力の結集が求められており、及び腰の野党に対しても緊張感をもって対峙することが必須といえる。

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