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戦争終結に向けて進む朝鮮情勢 各国から取り残される対米従属外交

何ら成果なかった日米首脳会談

 

 

 朝鮮半島情勢を焦点にした東アジアの勢力図がめまぐるしく動くなか、17、18日の両日に安倍首相とトランプ大統領による日米首脳会談がおこなわれた。今月27日の南北首脳会談、6月上旬に予定されている米朝首脳会談、さらには中国、ロシアも含めた二国間交渉が先行し、朝鮮戦争終結という歴史的な節目と新たな枠組みづくりに向けたシナリオが動くなかで、対米従属にもとづく「圧力一辺倒」で独自外交の窓口を持たない日本政府の外交破たんが浮き彫りになっている。日本外交の外側で進む東アジアの新情勢と、そのなかでの日本の進路について記者座談会で論議した。

 

  北朝鮮との和解交渉に端を発した東アジア情勢はめまぐるしく進展している。27日に板門店でおこなわれる南北首脳会談では、両国で「朝鮮戦争の終結宣言」を出すことも含め、1953年から続いてきた南北の冷戦状態を終わらせることが中心議題になるという。これまでの南北関係の経緯を見ても、朝鮮戦争を終結させ、交戦状態を終わらせることなしに、いくら平和交流を確約しても実を結ばないことは当事者同士が最も理解している。朝鮮戦争の終結には、休戦協定の署名国である北朝鮮を含め米国、中国との調整が不可欠であり、それを前提に各国の協議がおこなわれていることになる。

 

 3月5日に訪朝して金正恩と協議した韓国の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は、「米朝首脳会談後の米朝韓3カ国による首脳会談の可能性についても米国と調整している」と明かしている。東アジアの「火薬庫」となってきた朝鮮半島における戦争状態の終結は、米ソ2極構造の崩壊後、米国が主導してきた軍事バランスが崩れたことを意味する。戦争状態を名目にして韓国や日本に負担を押しつけてきた米軍の駐留意義も問われる。そして朝鮮戦争の終結と「朝鮮半島の非核化」を実現するためには在韓米軍の撤退も俎上に上ってくる。

 

  米朝関係でいえば、日米首脳会談に先立ち、次期国務長官のポンペオCIA長官を秘密裏に平壌に派遣し、金正恩と直接協議させていたことが明らかになった。日本の外務省は何も知らず、首相が訪米した日にトランプのツイッター投稿で知って飛び上がっている。ポンペオは北朝鮮に対しては「軍事攻撃による体制転換」を唱える強硬派として知られるが、12日の上院公聴会では「戦争の恐ろしさは認識している」「体制転換を主張したことは一度もない」とのべ、「首脳会談で非核化を実現させ、米国が北朝鮮の核に脅かされるのを防ぐ」とのべている。国務省ではなくCIA(中央情報局)が外交を主導するのは異例で、いきなり閣僚級の人物を平壌入りさせるというのは閣僚級会談のレベルをこえている。それもはじめてではなく、これまでも断続的に協議を続けていたことが明らかになっている。米朝交渉はすでにかなりの程度まで進んでいるのは疑いない。表面上の丁丁発止を真に受けて「最大限の圧力」を唱えてきたのが安倍政府だったが、完全に出し抜かれた格好となった。そのあたりのしたたかな外交戦術はアメリカに限らず各国共通で、水面下では相当に動いていることを感じさせている。そもそも外交的なパイプがなく「圧力一辺倒」というのが常識的には考えられないだけなのだろうが…。

 

  ポンペオ長官は、米朝首脳会談の最優先課題は「米国を核のリスクにさらす行動から決別させるための合意形成だ」といっている。日本政府は、北朝鮮の対話姿勢について「制裁や圧力による成果だ」と主張しているが、トランプやポンペオの発言を見ても、北朝鮮を完全に核保有国と見なして交渉している。ポンペオは1月、「北朝鮮は3、4カ月で米国本土に到達する核ミサイルを完成させる」とも発言しており、すでに諜報機関トップのCIAがそのように分析している。北朝鮮が核保有国となったことは誰も否定できない事実で、米国の脅しや制裁をもってしてもそれを阻止できなかったことで力関係が変わっている。北朝鮮が報復能力をもった以上、戦争はできず、武力行使を前提にできないのであれば、圧力や脅しはなんの効力もない。それなら極東のパワーバランスを左右する朝鮮半島のイニシアチブを中国やロシアにとられる前に、圧力路線から対話に転じて利権を確保した方が得だというのがトランプの思惑だろう。「検証可能で不可逆的な非核化」といっても、それは米国にとっての安全保障であり、日本や韓国については二の次だ。

 

  したがって「朝鮮戦争の終結」や「非核化」は、米国の一方的な要求で進む話ではなく、「北朝鮮に対する軍事的脅威が解消され、北朝鮮の体制安全が保障される」(金正恩)ことが条件になる。制裁の解除にとどまらず、在韓米軍の撤退が北朝鮮としても譲れないものだろう。文在寅が掲げる「朝鮮半島の非核化」は、北朝鮮側だけでなく米国側にも向いており、トランプにその決断が迫られている。金正恩体制を保障したうえで、朝鮮戦争の終戦宣言(平和協定)を結ぶのなら、米軍は駐留の大義を失い、なおも駐留し続けるのでは「非核化」にはならない。対話の成果を水に流すなら、韓国で米軍撤退を求める世論も国際的な反発もいっそう強まることになる。1992年に米軍が全面撤退したフィリピンと同じ「駐留なき安保」に向けた議論が進むことが予想される。

 

  中国も3月下旬に金正恩を北京に招き、習近平と会談している。そこでは金正恩が中国が求めてきた「非核化(核の放棄)」を了承している。今度は、米朝首脳会談後に習近平が平壌を訪問して2回目の首脳会談をやるという。今月10日には、ロシアのラブロフ外相が北朝鮮の李容浩外相とモスクワで会談しており、首脳会談の実施に向けて外相の平壌訪問を確約している。朝鮮半島に関する6カ国の枠組みのうち、日本を除くすべての国が北朝鮮と独自の窓口をもって交渉を進行させている。日本の外務省は何をしているのだろうかと思う。現在の局面で動いているのは朝鮮戦争の終結後の勢力図をめぐる外交交渉であり、歴史的な節目を迎えた東アジアの新たな地図を描くものだ。万事アメリカ頼みで独自外交の力を持たない日本だけが蚊帳の外に置かれ、相手にされていない。モリカケ騒動もそうだが、まさに劣化だな…と。それで某県知事の買春疑惑であるとか、霞ヶ関のトップオブザトップとやらは酔っ払ってセクハラに昂じているとかの「桃色疑惑」が花開いている有様だ。腐っている。

 

日米首脳会談 日本側の成果はゼロ

 

  米国到着後、トランプから「米国は北朝鮮と直接、かなり高いレベルの政府高官が連絡をとり合っている」と知らされた安倍首相は、「北朝鮮と会談を決断した大統領の勇気を称賛したい」と同調して見せた。「対話のための対話ではいけない」とか「圧力路線で完全に一致」していたはずのトランプに出し抜かれても苦言の一つもなく、「歴史的な会談となることを期待している」と寄り添うだけだった。向こうは「プライム・ミニスター」と安倍を呼称しているのに、「ドナルド」「ドナルド」と呼んでいる光景はなんともいえないものがあった。

 

 今回の訪米にあたって北朝鮮拉致被害者の家族会との面談をセッティングし、首脳会談では「拉致問題の解決」をトランプに要請したが、誰がどう見ても拉致問題は日朝間の問題であり、米国にとっては他人事だ。米朝会談の主要議題にはなりようがない。解決を望むのなら日本政府が自力で交渉窓口をもうけ、二国間交渉で国交正常化するという順序を経なければ進みようがない。なぜアメリカに下駄預けするのか? というのがまず第一に不思議でならない。韓国をみても南北会談の開催、平昌五輪の共同参加、南北離散家族の面会事業、経済交流など独自ですべてやっている。「アメリカさんお願いします」という話にはならない。日本政府の姿勢は「独自外交の能力はありません」と宣言しているようなものだ。それで、トランプが「最大限の努力をする」といったところで解決の足がかりになる保証などない。「アメリカ・ファースト」を相手に「拉致問題の解決に向けてアメリカが約束してくれた!」と喜んでいること自体がナンセンスだと思う。それを中国や韓国、北朝鮮も含めて関係各国は笑っているだろうなと安易に想像がつく。そして、日本という国は直接外交しても意味がなくて、アメリカと外交しておればどうにでもなる国だと判断されるのだろう。

 


  日米会談では、その空手形の見返りとして2国間自由貿易協定(FTA)の交渉を求められた。トランプにとって会談の主目的はここにある。日本政府はオバマに要求されて「TPP11」の枠組み合意のために汗をかいてきたが、それも反古にされ、より日本にターゲットを絞ったFTAを要求されている。すでに鉄鋼・アルミの輸入に関してそれぞれ10%、25%の関税導入の対象国にされているが、会談後も除外してもらえなかった。FTA交渉で大幅に譲歩させるための経済制裁に他ならない。つまり、今回の日米首脳会談の「成果」を単純化すると、独自外交によって解決すべき拉致問題を下駄預けしたために、経済的利害を犯される道に歩を進めた--ということになる。

 

 関税導入に猛反発したメキシコ、カナダ、欧州、オーストラリア、アルゼンチン、ブラジル、韓国は除外され、中国は対抗措置として米国製品への関税拡大を実行している。どこよりも尻尾を振ってきた日本がそれ以下の扱いで、制裁対象にされている。安倍首相が北朝鮮に「微笑み外交だ!」「経済制裁だ!」といっている最中に、トランプから「安倍晋三はいつも微笑んでいるが、よくこれまで米国をだますことができたという笑いだ」と揶揄され、北朝鮮と対話する一方で、日本には経済制裁を科すのだからすべてがあべこべだ。

 

 トランプは会談後の会見で、「比較的短期間で(貿易格差の是正が)できると信じている。日本はすでに多数の飛行機、ジェット戦闘機と旅客機の購入を予約している」とハッパをかけた。さらに「互恵的な貿易関係」といったが、FTA交渉を担当するライトハイザー通商代表部代表は、「農業分野の市場拡大は、日本が第1の標的になる」「TPPを上回る合意を目指す」と日本をロックオンしており、中国と同様の貿易敵国と見なして強硬に譲歩を要求してくることは疑いない。これまで「51兆円規模のインフラ投資」まで約束してきた安倍政府に交渉の余地があるとは考えにくく、カモネギにされる趨勢だ。

 

  国会会期中であるため日本側が断ったのに「ゴルフに付き合え!」といわれ、今回も自分のリゾート施設に滞在させての「ゴルフ会談」(3回目)となった。それはホワイトハウスの公式日程ではなく、「トランプと晋三がゴルフ友達」であることと日本の国益にはなんの関係もない。制裁の解除ができなかっただけでなく、貿易上の譲歩を迫られるシナリオを押しつけられただけで、どう見ても日本側にとっての成果はゼロだ。

 

  トランプが約束する「非核化」も、「アメリカに届く長距離弾道ミサイルの放棄」であって日本は蚊帳の外だ。韓国が直接交渉して相互協定を結んでいるように、日本も独自に交渉して国交正常化の道筋を付けなければ安全保障はおろか、拉致問題も解決しない問題だ。南北、米朝、中朝、ロ朝がそれぞれ平和的互恵関係を切り結ぶなかで、日本だけがなんの成果もないまま「制裁だ」「圧力だ」と叫び、アメリカからひたすら高額兵器やミサイルを買わされる構図が浮かび上がっている。米朝首脳会談によって「終戦協定」が成立すれば、欧米を含めた関係国は北朝鮮との貿易、豊富な地下資源の採掘権確保、インフラ投資などの経済的利害争奪に雪崩を打つ趨勢で、そのための取引が過熱している。喧嘩外交をつづけるなら日本はそれを指をくわえて見ておくだけということになる。

 

  日朝関係でいえば、2002年に小泉が訪朝して「日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立する」とする「平壌宣言」を金正日との間で交わしている。拉致問題もあるが、国際的にいえば第2次大戦の戦後処理も含めて清算しなければならず、対米従属の「戦後レジューム」から脱却して独自の関係を構築しなければ新情勢からは立ち遅れる。国交正常化に向けた具体的な実践に踏み出さなければ今後の東アジアにおける活路はなく、「圧力外交」の転換が遅れれば遅れるほどその機は遠ざかる趨勢だ。

 

  安倍外交はすでに終わっているが、同時に戦後の対米従属外交の破産でもある。国内では、公文書の改ざんや国会の空転、官僚トップのセクハラ辞任、自衛隊幹部による国会議員恫喝等等、近代国家なり憲政国家の根幹が総崩れを起こしているが、国際関係においてその破たんぶりがより明確にあらわれている。統治能力も外交能力も中枢から崩壊してしまっている。国内では「一強」といわれ、憲法改定まで真顔で論議する自民党だが、国民的な基盤も乏しく、国際社会においてもまるで存在感がない。世界が新たな段階に進みつつあるなかで、日本社会全体がこの腐敗堕落した連中と一緒に心中するのかどうかが問われている。対米従属の鎖を断ち切り、アジアとの友好連帯を前面に掲げた大衆的な世論と運動を強めることが喫緊の課題になっている。

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