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急速に進展する朝鮮半島情勢 戦争回避させ米朝対話に道筋つける 

韓国特使団の代表と握手する金正恩労働党委員長(5日、平壌)

 韓国の特使団が5日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪問し、4月末に軍事境界線にある板門店で南北首脳会談を開くことで合意した。1月9日に約2年ぶりに実現した南北閣僚級会談で「軍事的な緊張の緩和」と「南北当事者間による平和的解決を目指す」ことを合意してからわずか3カ月、南北が主導する和平プログラムによって朝鮮半島および東アジアの情勢が急速に動いている。「一時的なほほえみ外交」「制裁の効果」等の冷ややかな論説がメディアを賑わしているが、当事者間の平和的解決に向けた交渉は誰も阻害することなどできない。70年間の民族分断の歴史と異民族支配からの脱却を目指す朝鮮半島情勢の動きは、アジア全体の平和構築にとって有益であることは疑いない。この南北情勢について記者座談会で論議した。

 

潮目がかわった朝鮮半島情勢 

 

  5日、平壌を訪問した韓国大統領府の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は、北朝鮮の金正恩労働党委員長と会談し、今回の訪朝で北朝鮮との間で交わした協議の内容として以下6項目を文書で発表した。

 

 南と北は4月末、板門店の「平和の家」(韓国側施設)で第3回南北首脳会談を開催することにしており、これに向けて具体的実務協議を進めていくことにした。

 

 南と北は軍事的緊張緩和と緊密な協議のため、首脳間のホットライン(電話回線)を設置することにしており、第3回南北首脳会談以前に初の電話会談を実施することにした。

 

 北側は、朝鮮半島の非核化に向けた意志を明らかにしており、北朝鮮に対する軍事的脅威が解消され、北朝鮮の体制安全が保障されるなら、核を保有する理由がないという点を明確にした。

 

 ④北側は、非核化問題の協議および朝米関係の正常化に向けて米国と虚心坦懐(わだかまりなく冷静)に対話できるという意志を表明した。

 

 対話が続く間、北側は追加核実験および弾道ミサイル試験発射など、戦略挑発を再開しないことを明確にした。これと共に、北側は核兵器はもちろん、通常兵器を南側に向かって使用しないことを確約した。

 

 北側は、平昌五輪を機に作られた南北間の和解と協力の良い雰囲気を保っていくため、南側のテコンドー演武団と芸術団の平壌訪問を招待した。

 

  南北首脳会談の開催は、2000年6月、韓国の民主化と南北融和政策を進めた金大中(キム・デジュン)大統領と金正日(キム・ジョンイル)国防委員長が会談し、「南北共同宣言」を出して交流事業を開始したのが1回目で、太陽政策を引き継いだ盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領と金正日が2007年10月に2回目をおこなっている。今回実現すれば11年ぶり3回目となる。

 

 2001年の「9・11」でブッシュ政府が北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しし、金体制の崩壊を政治目標に掲げて以来、韓国政治が李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)の保守政権へ回帰するなかで一切の交流や通信さえも断ち切られていたが、南北当事者による対話に進んだことで危機的状態を脱し、朝鮮半島の非核化に向けて急速な進展を見せている。この合意内容が着実に履行されるかどうかは今後の成り行きを見るほかないが、これまで韓国の頭越しに「北朝鮮は世界が経験したことのない炎と怒りに直面することになる」「米国もソウルも火の海にする」等等の恫喝合戦をくり広げ、日本を巻き込んで戦時体制作りが過熱してきた状態から、冷静な話し合いによる相互理解と関係改善へと事態が進んでいることは疑いない。

 

 対話の継続によって、北朝鮮が核実験やミサイルを飛ばすこともなくなるかわりに、アメリカが独自に軍事恫喝を加えることもできなくなり、東アジア全体の緊張は確実に緩和へと向かう。両国が膨大な犠牲者を出すこともいとわない戦争を視野に入れ、相手が白旗を揚げるまで恫喝を強めるよりも、はるかに現実的で安全な方法でことが進んでいる。

 

  この動きを中国、ロシアなどの近隣国をはじめ、欧州など世界各国が歓迎している。中国政府は「韓国特使団の成果を歓迎する」「非核化は朝鮮半島全体の共同利益だ」とする報道局長談話を発表。ロシアも「(朝鮮半島情勢が)氷点から蘇ったことを意味する」「朝鮮半島の緊張緩和へ向け、具体的な方策が始まることを期待する」と評価するとともに、米国独自の北朝鮮への追加制裁について「国連安保理の承認を得ておらず、正当性がない」「大事なのは南北交渉の過程で外部のプレーヤーが干渉しないことだ」と批判している。

 

 欧州では、モゲリーニEU外相が「勇気づけられる進展」と歓迎し、19日に28加盟国が参加するEU外相理事会に韓国外相を招くことにしている。国連もグテレス国連事務総長が「勇気づけられた」「朝鮮半島の持続的平和や非核化に向けた真摯な対話を再開する土台を作るうえでさらなる前進だ」と歓迎する声明を出すなど、武力衝突を回避して対話路線を歩むことは世界の共通利益と見なされている。

 

 当事者である南北が共通の利益に立ち、平和的解決で一致したことによって、アメリカがゴリ押ししてきた武力や経済制裁による圧力路線は建前を失った。これによって日本やグアムにもミサイルが飛んでくることはなくなり、そのたびにJアラートで大混乱したり、戦時中さながらの避難訓練や防空壕作り、膨大な税金を使った迎撃ミサイルの配備などを急ぐ必要もなくなったわけで、日本国民にとっても朗報に違いない。

 

当事者の南北が主導 圧力路線は形骸化

 

  これまで朝鮮半島をとりまいてきた力関係が確実に変化している。アメリカが韓国をコントロールしながら、圧倒的な軍事力で「ならず者」の北朝鮮に核放棄と屈服を迫るという構図から、韓国と北朝鮮が国際世論を背にしてアメリカの軍事恫喝を牽制しつつ、非核化に向けた対話を提案している。北朝鮮には戦争によってアメリカを政権転覆したり、韓国を軍事侵略する意図も条件もなく、核の保有はアメリカの核恫喝に対抗したものにすぎないことを明言しており、今後は、第二次大戦以降、アジアに進出して北朝鮮の政権転覆を明言してきたアメリカの軍事戦略の見直しが迫られる。平昌五輪後の再開を主張してきた米韓共同軍事演習の前に、さらに踏み込んだ和平への道筋を南北のトップみずからが拓くことで、ふたたび軍事的緊張関係へと逆戻りさせない南北双方の意志の強さを示している。

 

  首脳会談の場所もこれまで開いてきた平壌ではなく、はじめて韓国側でおこなわれることになった。双方がこれまでになく歩み寄ることで、韓国内の保守派からあがっている「北朝鮮主導だ」「文在寅はいいなりになっている」という批判も含めて牽制し、部外者に口を挟む余地を与えていない。

 

  「平和の祭典」である平昌五輪・パラリンピックの開催期間(2月9日~3月18日)は、軍事演習を延期する韓国の要求を認めたアメリカだが、トランプは「対話に応じる構えがある」といいながらも、4月1日から2カ月間の野外機動演習、4月23日からは2週間にわたるコンピューター模擬指揮演習(CPX)を実施することを表明している。わざわざ韓国に行って「米韓合同軍事演習を延期する段階ではない。予定通り進めることが重要だ」「対話のための対話は意味がない」などといって、「内政干渉だ」と反発を受けた安倍晋三がアメリカの心境を正直に代弁している。

 

 だが、今回の会談で金正恩は、4月に実施予定の米韓軍事演習について「例年レベルでおこなうことは理解する。朝鮮半島が安定的な段階に入れば、米韓軍事演習も調整されるものと期待している」と受け流した。南北の信頼関係が強まれば、脅しによる屈服を目的とした米軍主導の軍事演習はその意味をなさなくなる。むしろ膨大な経費を必要とする大規模な軍事演習は韓国にとって負担になるだけだ。米軍が韓国に駐留している建前は韓国の安全保障であり、その韓国の頭越しに軍事挑発なり武力行使をするなら、もはやどちらが「ならず者国家」なのかわからない。アメリカが横車を押せば押すほど韓国での反米世論は高まらざるを得ないし、国際社会でも孤立する関係にある。

 

  今回、北朝鮮側から非核化を提案していることも、そんなアメリカの立ち位置を見越した動きだと感じる。非核化はアメリカが米朝対話再開の条件にしていたもので、メディアは「制裁の効果だ」「圧力に屈した」などと論評しているが、あるがままの姿はアメリカの側が揺さぶられている。平和的解決を前提にした南北交流が始まり、アメリカが先制攻撃できる条件がない以上、脅しには意味がなく、非核化の道筋がつくなら経済制裁を科す建前もなくなる。金正恩は「朝鮮半島の非核化は先代(金正日)の遺訓」であり、「北朝鮮に対する軍事的脅威が解消され、北朝鮮の体制安全が保障されれば、核を保有する意味がない」とのべ、非核化に向けた協議を含めてアメリカに対話を呼びかけている。これにアメリカがどう応じるかを各国が注目している。

 

 昨年からロシアや中国、ドイツなどが、北朝鮮のミサイルや核開発とアメリカの軍事演習を同時に停止する「凍結のための凍結(ダブルフリーズ)」案を提唱してきたが、その方向で事態は動いている。周辺各国にとばっちりを振りまいて東アジアを緊迫させてきた米朝が折り合いをつけることを誰もが望んでいるし、アメリカに対話と譲歩を求める国際的な機運は高まらざるを得ない。

 

 C 改めて問われているのが、「北朝鮮に対する軍事的脅威」たる米軍基地の存在であり、北朝鮮首脳の斬首作戦や先制攻撃まで公言している米軍のアジア展開の目的だ。広島・長崎への2発の原爆投下をふくむ全国空襲や県民を皆殺しにした沖縄戦をへて日本を単独占領し、その後、朝鮮戦争に乗り出して数百万人の犠牲者を出しながら、今も平和協定を結ぶことなく70年にわたり進駐している。在日、在韓米軍基地に核兵器を配備することも隠さず、建前だった米ソ冷戦構造が崩れた後も縮小するどころか拡大させ、両国に膨大な経費負担や犠牲を強いながら治外法権丸出しの進駐を続けてきた。南北がにらみ合う関係でなくなれば、戦争状態がつづける意味などない。南北が和解し、非核化の道筋まで見えてくるなかで、なおもアジアで「核を振り回す脅威」とは、いったい誰なのかという問題になってくる。

 

  平昌五輪の開会式でも、南北政府代表の友好関係を、IOCはじめ各国代表者が祝福して握手を交わすなかで、その場から逃げるように去って行ったのがペンスと安倍晋三だった。むしろ「孤立している」といわれてきた北朝鮮代表団が国際社会の注目を集めながら、堂堂と振る舞っていた。トランプは米朝対話に踏み出さなければ、東アジアの新秩序に参加することはできず、存在感はさらに低下する。そして、米朝対話に進んだ場合、アメリカを忖度して「必要なのは対話でなく圧力」「異次元の圧力」と叫び続けてきた安倍政府だけが、和平交渉の蚊帳の外にポツンと残されることになる。

 

朝鮮危機とは何だったのか 孤立免れぬ安倍政府

 

  この間、安倍政府は、集団的自衛権の行使を容認する安保法制、テロ等準備罪(共謀罪)などの戦時法制をはじめ、憲法改定による緊急事態条項の創設などを叫んできたが、その建前にしてきたのが「北朝鮮の脅威」による「存立危機」だった。モリ・カケ問題などの疑惑がばれて窮地に陥るたびに、北朝鮮のミサイルに救われたように息を吹き返して「国民を守り抜く!」云云の言辞を飛ばし、Jアラートを鳴らしたり、大気圏外を通過するミサイルを「迎撃する」といってPAC3(地上配備型迎撃ミサイル)を配備するなど張り切ってやってきた。

 

 南北和解によってミサイルが飛んでくることがなくなったのに「ほほえみ外交に欺されるな」「さらなる圧力が必要だ」などと野次を飛ばし、今度は「同盟国」であるはずの韓国にさえ敵愾心を燃やしている始末だ。アメリカの心境を忖度しているだけの話だが、そのアメリカも対話へ傾くなかで、いまや北朝鮮とだけでなく、朝鮮情勢の和平交渉にかかわるアジア諸国とも独自に対話できる条件がなくなっている。自分の願望だけでは世界は動かない。

 

  この間、まるで戦時中に逆戻りしたかのように煽られた朝鮮危機とは何だったのかを考えない訳にはいかない。昨年、トランプに「バイ・アメリカン!(アメリカ製品を買え)」と要求され、最新型ステルス戦闘機のF35を42機(5500億円)の購入を決め、先日さらに数十機の追加購入を表明した。ミサイル防衛を理由にして陸上配備型のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」(1基1000億円以上)を2基導入することを決め、対空型無人機「グローバルホーク」(1機189億円)を3機、「V22オスプレイ」(1機114億円)17機など高額兵器を矢継ぎ早に買い付けた。すべてアメリカ政府のいい値で買う「FMS方式」による取引で、その額は昨年度だけで5000億円近くにのぼっている。

 

 イラクやアフガン、シリア、パレスチナと同じく、世界各地に介入して情勢を不安定化させることで米軍産複合体のビジネスチャンスを作り出すのがアメリカの常套手段だ。朝鮮半島の緊迫化のおかげで製造元のレイセオン、ロッキード、グラマンといった米軍需産業の株価は過去最高値を更新してきた。朝鮮危機で盛り上がったのは何か、潤ったのは誰かを冷静にみれば、何を意図した騒動だったかははっきりしている。さんざん日本に武器を売りつけたトランプが、その頭越しに米朝対話に踏み切るのだから、カモにされたといわざるをえない。

 

  そして、在日米軍やその傘下に組み込まれた自衛隊の実働訓練が過熱するなかで、国民の頭上に落ちてくるのはミサイルではなく、米軍機やヘリだった。沖縄ではヘリや部品の落下は日常茶飯事になり、佐賀、鹿児島、青森など全国でも頻発し、学校や民家さえ直撃した。ミサイルの破片よりはるかに現実的な脅威といえるが、日本政府には事故の調査権も、飛行停止を求める権利もなく、米軍が落とした部品を回収して返却し、汚染地域の原状回復や被害賠償もやるというのが「日米安保」の姿だった。「北朝鮮や中国が攻めてくる!」といいながらすでに侵略され、主権を奪われている現実を全国民に見せつけている。

 

  韓国では、南北関係を断ち切る一方で、国権を私物化していた罪で弾劾・起訴された朴槿恵前大統領に懲役30年が求刑された。占領時代の旧満州で日本軍に加わり、その後は米軍特殊部隊に転身して軍事政権を敷いた朴正煕(パク・チョンヒ)の娘は、アメリカの庇護の下で復権を試みたが、韓国世論がそれを許さなかった。私物化疑惑を追及する矛先は、同じく保守ハンナラ党だった李明博元大統領にも及び、南北首脳会談が決まった同じ日に、収賄罪の取り調べで検察への出頭が命じられている。文在寅政府も、歴史を逆戻りさせることを許さない強力な国民世論に突き動かされている関係だ。

 

 日本でも、商工大臣として満州や朝鮮半島に侵略し、戦後は戦犯を免れてCIAのエージェントに転身した岸信介の孫が、同じく国家の私物化疑惑で炎上し、退場を迫られている。内政でも大混乱だが、外交も八方ふさがりだ。北朝鮮情勢が和平に向けて歩みを進め、多極化した東アジアの力関係のなかでしかことは動かない。このなかで、アメリカだけを忖度して戦争の火種を振りまくなら外交面でもはじき出される趨勢にある。

 

 それでもなおアジア覇権にしがみつこうとするのがアメリカであり、日本の主権をひたすら売り飛ばしていくことでしか身の安泰が図れないのが安倍政府だ。この構図を維持するために国民に犠牲を強いる「戦後レジーム」こそ断ち切らなければならない。対米従属下で戦前回帰を願望する亡霊のために、国民が道連れになる筋合いなどない。戦争阻止と平和構築のための主権回復の機運は、アジアをはじめ世界各国で着実に強まっている。

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