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韓国 大統領退陣求め230万人がデモ

グローバル化への民衆の反撃

 隣国の韓国で朴大統領の退陣を求める大規模なデモが連日くり広げられ、11月末に辞任を表明した後も首都ソウルでの150万人をはじめ、全国各地で230万人をこえる規模に膨れあがるなど、韓国史上初といわれる斗争に発展している。

 

 既存の政党や労組などの組織動員をはるかにこえたもので、労働者や農民、青年・学生や高校生、幼い子どもを抱えた家族連れなど幅広い層が参加している。民衆の怒りは、直接には大統領の腐敗を契機にして噴き上がっているものの、問題をそこだけに矮小化しても説明がつかない。

 

 背景には、1997年のアジア通貨金融危機でIMF(国際通貨基金)が乗り込んで新自由主義にもとづく構造改革を強行したのに続き、2000年代に入って急激なグローバル化の道を突き進んだ結果、外資の略奪や多国籍企業化した財閥企業の海外移転が進み国民の暮らしが散散なものになってきたことへの怒りがある。後を追ってグローバル化に舵を切っている日本社会にとっても、その未来を暗示する内容を含んでいる。
 
 通貨危機後の変貌した韓国 朴槿惠の腐敗にとどまらない背景

 第2次大戦後に朝鮮半島は分断されて南北の矛盾を形成し、韓国は日本と同じくアメリカからの支配的な力が加わりながら、紆余曲折を経て今日に至っている。軍事的にも経済的にも、アメリカの存在を抜きにしてその歴史的変遷を見ることなどできない。


 今回の大規模デモの発端は、大統領が特定の人物に国家秘密を漏洩し、あるいは財閥企業がその人物の設立した団体に資金を提供したりといった腐敗や汚職がさまざまに取り沙汰されている。日本国内でも内政から目をそらすように連日ワイドショーやメディアがとりあげ、政治家の腐敗問題に人人の目を釘付けにしている。


 しかし、230万人もの大衆を突き動かす行動の根底には、腐敗問題にとどまらない社会的に蓄積された怒りが存在していることをうかがわせている。米韓FTAで痛めつけられてきた農民の怒り、多国籍企業化した財閥企業がグローバル化によって国内に貧困を押しつけていることへの怒り、若者は非正規雇用だらけになり就職すらできないことへの怒り、規制緩和によってセウォル号のような事故を引き起こす社会への怒り、THAAD(高高度弾道弾迎撃ミサイル)を配備して同胞である北朝鮮に対して敵対的な関係を強めることへの怒りなど、韓国社会全般を覆っている矛盾が大統領の腐敗を一つのきっかけにして噴き上がり、支配の側を震撼させていることに特徴がある。


 この間、韓国は日本社会以上にグローバル化を推進し、そのもとで社会構造は様変わりしてきた。その引き金になったのは、20年前のアジア通貨金融危機だった。対外債務支払い不能(デフォルト)による国家破たんに直面し、その事態を防ぐためアメリカが主導するIMFに緊急融資を要請した。IMFはそれと引き換えに、厳しい新自由主義政策を迫った。金融機関は公的資金投入によって不良債権を整理して救済し、徹底的な構造改革を強行して犠牲は労働者や国民に押し付けた。IMFの構造改革によって、社会と経済の仕組みは激変させられた。


 公共部門の構造改革では、大規模な人員削減をやって民営化を強行。労働部門では解雇自由化を進める整理解雇制を導入し、派遣労働を自由化して失業と非正規雇用労働者を空前の規模に増大させた。


 さらに外資に対する対外開放を推進した。制限のない自由変動為替レートへの移行(為替自由化)や外国人の株式投資限度の撤廃、外国人の国内短期金融商品・会社債買い入れ制限の撤廃、外国人の直接投資に対する制限の縮小・優遇政策の制定(資本自由化)や貿易自由化を徹底的に進め、外資に韓国市場を開け渡した。


 こうした構造改革によって、金融機関における営業停止や合併、外国資本への売却、破産などが一挙に進んだ。大財閥は破たんした他の企業を吸収してより独占体制を強めた。たとえば自動車産業では現代、大宇、起亜、双龍、サムスンの5社体制から現代と大宇の2社体制になり、その後大宇が破たんし、今では現代自動車の1社体制になっている。現代自動車の40%近い株式を外国人が握るなど、多国籍企業化したことも特徴だ。破たんした4社のうち現代が起亜を吸収したが、残りの3社は大宇をGMが買収、サムスンをルノーが買収、双龍を中国企業が買収するなど、すべて外資の傘下に下った。


 半導体産業では、サムスン、現代、LGの3社体制から現代、サムスンの2社体制に集約化された。そのサムスン電子も49%以上の株式を外国人が握るなど、もはや「韓国企業」とはいえない状態だ。航空機産業や、船舶エンジン産業も2社体制へ、発電設備産業は1社体制となった。他の部門でも集約化が進み、多国籍企業に資本を握られたごく少数の財閥による独占状態に拍車がかかっている。金融機関も外資支配が強まり、例えばハナ銀行は外資比率が7割超えで主要株主はゴールドマン・サックスであったり、外資比率99%の韓美銀行の主要株主はシティグループといったように、外資の存在感が強まった。こうした財閥や金融機関がもうければもうけるほど、外資や伊藤忠(サムスンの筆頭株主)のような日本企業に利益が流れ込む構造になった。

 空前の失業 産業空洞化 2000年代に加速

 2000年代に入り、4大財閥(サムスン、現代、SK、LG)はグローバル化の道を加速度的に強め、海外市場に参入していった。技術面で日本などに立ち遅れ、国内市場がより狭隘な韓国では、国内産業の育成による発展ではなく、海外マーケットへの進出による利益を求めて日本企業より早くスタートを切り、より安価な労働力を求めて海外進出し、現地生産した製品を世界各国に輸出する道を選択した。


 韓国企業の対外直接投資額は1990年に10億㌦であったが、2000年に52億㌦、2010年に242億㌦と24・2倍となっている。2000年代には韓国の対外直接投資額が対内直接投資額を上回り、国内の産業空洞化は深刻化していった。財閥企業はグローバル化、貿易自由化による加速度的な海外展開でばく大な利益を獲得したが、国内産業は各分野で衰退し、失業者は増大した。


 韓国では4大財閥グループが君臨してきた。その総売上高がGDPに占める比率は2020年末には61・5%におよんでいる。10大財閥グループで見ると72・7%にものぼり、国民の富の大部分を財閥グループが独占している。この4大財閥がグローバル化を急激に進めたために、国内産業は空洞化した。1990年からの20年間で農林漁業の就業人口は294万人から166万人へと128万人減少した。軽工業部門の労働者は213万人から110万人へと112万人減少し、半減している。


 そうして若者の失業や非正規雇用は世界的にも例を見ないほどに拡大した。経済協力開発機構(OECD)が調べた「職につかない若年層」の比率では、2013年基準で加盟33カ国のうちトルコ、メキシコに次いで韓国の比率が高い。韓国の若年層(15~29歳)のうち15・6%が職に就いておらず、OECD加盟国の平均(8・2%)より7・4ポイント高い。韓国の青年失業率は、2010年から2014年まで7~9%だったが今年に入って11・1%(2月)、10・2%(4月)、10・2%(6月)の2けたで推移している。就業者全体で若者層が占める割合も減少し、2000年の23・1%から昨年は15・1%に低下した。2015年における韓国の非正規労働者は627万1000人で、賃金労働者10人のうち3人が非正規雇用とされている。とくに20代と女性の非正規職の数が大幅に増加している。


 またグローバル化のなかで、雇用形態も変化した。韓国企業はもともとは日本的経営をとり入れて終身雇用や年功序列制を採用していた。それを大きく変えたのが97年のアジア通貨危機で、雇用制度は日本型からアメリカ型に移行し、従来の終身雇用制や年功的な賃金体系を解体し、職務ベースの徹底した成果主義賃金への移行をはかった。また、企業が終身雇用を保証しなくなった。


 さらにもう一つの変化がグローバルな人材採用である。財閥企業の一つであるLGEの世界各国で働く従業員数は8万2000人。うち韓国人以外が5万2000人で65%を占める。通貨危機以降、韓国外の拠点に限らず、また韓国内でも新卒・中途採用だけではなく、トップの上級管理職クラスでも外国人を採用するようになっている。しかも韓国語が話せる外国人に限定して雇うことはなく、韓国内でも英語が必須となっており、英語重視の採用になっている。学生にとっては極めて狭き門であり、英語力がなければ就職も望めないのが現実になっている。


 通貨危機直後にグローバル戦略を選択した財閥企業が一斉に英語の必要性を謳い始め、瞬く間に教育界にも広がった。韓国の約八割の企業が、就職時の志願者に一定水準の英語能力を求めているというデータもある。まさに、グローバル化のなかで韓国人にとっての英語は、なければ生き残ることができないものになっている。小中学校段階から英語授業が重視され、グローバル化を進める財閥企業にとって必要な人材養成を担っている。まさに日本社会の一歩先を行っている状態だ。


 韓国企業の生産施設の海外移転にともなって国内産業の空洞化が進んだことで、中小・中堅企業の仕事不足、雇用減少など副作用が大きくなっている。自動車部品生産部門では、非完成車系列の自動車部品メーカーの昨年の売上額は前年比11・7%も減少した。それは財閥企業と海外に一緒に進出できなかったり、進出したとしても部品供給が減ったりした中小部品企業の収益が悪化したことによる。


 自動車関連だけでなく、韓国製造業を下支えしてきた末端中小企業30万社が崩壊しつつある。韓国の製造業全体の被雇用者数(約392万人)の4分の1を零細企業が占めるとされる。首都圏の代表的な工業地区である半月、始華、南洞の各工業団地では最近1年間に3万人が職場を去った。同団地には従業員数10人未満、年商10億未満の零細メッキ業者が約200社ある。亜鉛メッキ業者は自動車部品メーカーからの受注が減少したことを指摘している。


 韓国での通貨危機以来のグローバル化の加速化のなかで、ごく一握りの財閥企業は低賃金労働力と市場を求めて中国やアメリカ、ベトナムなどへの生産拠点の移転を進めてばく大な利益を得たが、国内産業の空洞化は深刻な水準に至っており、広範な中小企業、自営業者、労働者、青年学生などは倒産や失業の憂き目にあい、貧富の格差は空前に拡大している。

 日本社会の未来を暗示 米韓FTAの実態

 また、デモには農民が2000台のトラクターを連ねて参加している。農民のなかでは、米韓自由貿易協定(FTA)締結による米価下落などへの怒りが噴き上がっている。トラクターには「朴槿惠退陣」の看板や、「米価補償」などののぼりを掲げ、朴政府による農業政策の失敗で米価が過去最低の水準まで暴落し、米韓FTA締結で農業経営が一層厳しくなっていることに怒りをぶつけている。農民は「コメの価格暴落の解決とコメの輸入中断」を求めている。


 統計庁によると精米の産地出荷価格は80㌔当り12万9348(1約0・09円)と前年同期に比べ2割安く、20年前(13万4000)の水準にも満たない。


 米韓FTAは2012年3月15日に発効し、今年で丸4年を迎える。米韓FTAは環太平洋経済連携協定(TPP)のモデルとされており、日本の農家をはじめ国民にとっても対岸の火事では済まない。


 米韓FTAが発効したのちオレンジやサクランボ、ブドウなど果樹の輸入が急増した。また、主要乳製品(チーズ、バター、粉乳、生乳)の輸入も大幅に増加し、農家に打撃を与えている。とりわけアメリカからの輸入が急増している。輸入増加と相まって、韓国国内の酪農生産戸数も減少した。2010年に6742戸あったものが、2013年には5786戸に減り、飼育頭数は同時期の44万頭から41万頭台になった。


 また韓牛(日本の和牛に該当)は米韓FTAにおいてもっとも大きな被害が予測されているが、すでに生産戸数は2012年のおよそ15万戸から2014年時点で11万戸まで減少しており、飼育頭数もおよそ300万頭から280万頭に減少している。さらに牛肉の卸売価格は米韓FTA発効以降、大幅に下落した。とくに輸入牛肉と競合しないといわれた高級肉(5ランクの最上級)の価格下落に拍車がかかっている。


 米韓FTA締結は農業への影響だけではない。韓国では2014年と2015年上半期に、「病院営利子会社許可」「経済自由区域営利病院の規制緩和」「遠隔医療などの新医療技術」「医薬品規制緩和」「臨床試験の規制緩和」「医療部分の民営化」など、ほぼ営利病院を認める規制緩和が強行された。


 また2013年には水道の民営化を認める動きが始まり、最近「水道支援法」なる新たな法案が出された。これまで公社だった水道供給会社は、持ち株の99%までを民間会社が所有してもいい方向で進んでいる。これが立法化されれば、水道の民営化は容易になり、ライフラインである水が営利目的のために扱われるようになる。


 こうした韓国社会の構造的なひずみが今回の朴大統領退陣を求める200万人をこえる大規模な国民的行動となって噴き上がっている。社会や国家に寄生して食い物にしていく多国籍企業や外資、その傀儡に成り下がって腐敗している為政者に対する民衆の反撃となっている。アメリカ大統領選や欧州における反グローバリズムの斗争とも同じ質のもので、「まともな社会にせよ」の力が世界的に呼応しながら強まっていることを示している。いかなる為政者であっても、民衆の直接行動に火がついたなら抗うことなどできないことを教えている。

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