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韓国でうねりになる民衆の闘い 新自由主義破綻の産物

朴大統領の罷免を求める大規模集会(3月10日・ソウル市内)

多国籍企業と傀儡に反撃

 韓国では、朴大統領弾劾の大規模な国民的行動を経て5月の大統領選挙で文新大統領が当選し、旧来の保守政治が国民的な力によって鉄槌を下された。だが、1997年の通貨危機を契機にした新自由主義政策によるグローバル化推進のもとで、若者の非正規雇用や失業が増大するといった社会的な問題は解決していない。

 また、THAAD(高高度迎撃ミサイル)配備をはじめアメリカが北朝鮮に度重なる軍事挑発をおこなうなかで、アジアを戦場にした戦争の危機に反対する国民世論が高揚している。そうしたなかで、朴大統領弾劾の重要な勢力として役割をはたした組織された労働者が先頭に立って、引き続き文新大統領を縛り、国民の要求を実現していくたたかいが続いている。その姿は日本社会の一歩先を行っているといえる。韓国の現状は日本にとって他人事ではなく、同じ境遇にあるアジアの隣国の実情に学ぶ意義は大きい。
 
 組織された労働者が先頭に

 韓国は「非正規大国」と呼ばれ、OECD加盟国のなかでスペインと一、二を争っている。日本では最近の調査で労働者の四割を非正規雇用が占めたが、韓国ではすでに2009年に約52%を占めて以降、一時期は55%をこえたという調査もあるほどの「非正規大国」である。


 加えて若年層の失業率は2ケタに達している。OECDが5月14日に発表した韓国の2017年1~3月期における若年層(15~24歳)の失業率は10%にのぼる。また国連の調査で11~15年の純移民流入数を見ると、日本が35万人であるのに対し、韓国は30万人である。人口が日本の半分未満の韓国に、日本とほぼ同規模の移民が流入しており、グローバル化に拍車がかかっていることを物語っている。青年の失業率は2ケタに達しているうえに外国人労働者の受け入れ増大で、若年層の雇用状況はとりわけ厳しい。


 韓国では、1997年の通貨危機を契機にアメリカ主導による新自由主義政策がとられ、グローバル化を促進した。グローバル化とは人、モノ、カネの国境をこえた移動を自由化するものである。20年間におよぶグローバル化のなかで韓国社会の構造は激変し、貧富の格差は拡大し、国民生活の疲弊は露骨なものになり、労働者や農民、中小業者や商店など各界各層の憤懣が充満してきた。


 そうしたなかで韓国史上初ともいわれる大規模な国民的な行動が高揚してきたが、とりわけその先頭には労働者が立ち「労働者、民衆が直接動かなければ政権交代しても世の中は変わらない」「大統領選挙のたたかいにおいて労働積弊の清算と社会大改革の要求を掲げる」と訴えた。民主労総は大統領選挙闘争のなかでの要求として①最低賃金1万(約1000円)、②非正規職撤廃、③財閥体制解体要求、を掲げた。


 5月9日に投開票がおこなわれた韓国大統領選挙において、第一野党「共に民主党」の前代表・文在寅(ムンジェイン)が41・0八%の得票で当選した。次点の保守派・自由韓国党の洪準杓(ホンジュンピョ)は24・03%で倍近い差をつけている。今回の選挙では、労働者を先頭に「今こそ社会を根本から変えるときだ」「朝鮮半島を再び戦場にすることは絶対に許さない」というスローガンを掲げ、大衆的な世論が高揚するなかでたたかわれた。これに対して保守勢力は「北朝鮮の脅威」を煽ることで延命と巻き返しを図りTHAAD配備強行や米韓合同軍事演習もそのために強行した。だがこの思惑はうち砕かれた。


 大統領選挙をたたかうなかで労働組合など41団体は、ソウル光化門の米大使館の前で記者会見を開いて「朝鮮半島戦争の危機高める米韓キーリゾルブ・イーグル演習とTHAAD運用訓練の中断、THAAD配置撤回」を要求した。「対北先制攻撃を既定事実化した軍事戦略と大規模動員、訓練の様相は、北朝鮮の反発を呼んで朝鮮半島の戦争危機をいっそう高めている」として戦争演習の即刻中止を求めた。また「数十年の悪循環を解決する道は、双方の軍事行動を中断して平和交渉を開始して敵対関係を根本的に清算することだ」「戦争演習を中断して朝鮮半島非核化と平和協定締結の道に進まなければならない」と申し入れた。


 その後当選した文新大統領に対しても、THAAD配備中止を迫っている。こうした大衆的な行動は文大統領がアメリカいいなりでTHAAD配備を進めることにブレーキをかけている。


 民主労総は5月10日に声明を出し就任直後から保守勢力との妥協に向けて動く文大統領に対し「妥協は統合ではなく不正であり、屈服であり、退行にすぎない」と指摘した。また、「パククネ政権退陣非常国民行動」も声明で、労働者や農民をはじめとした人人こそ、新たな社会をつくる主体であり、大統領ではなく自らの力で「働く人が尊重され、人権が尊重され、正義が通用し、平等で平和な国」をつくろうと継続したたたかいを呼びかけた。


 また、「“最低賃金一万、財閥体制解体”が、今は全国民的要求になった。六月の社会的ゼネストで争点になるだろう」と表明し、ひき続き闘争を継続していくことを宣言した。民主労総は六月の社会的ゼネストをたたかう5大要求10大課題として①財閥体制清算、②最低賃金1万実現、③公共および安全インフラ拡充で100万人の正規雇用創出、④労働法全面改正およびすべての労働者の労働3権保障、⑤社会公共性強化、⑥生命、安全が尊重される社会建設などを掲げている。金属労組は「財閥改革」「製造業の発展」「労組破壊の禁止」という3大議題を集中的な争点化することを表明した。公共運輸労組は「青年の雇用拡大」や「公共医療、健康保険強化」「成果年俸制廃棄」「民営化阻止」などを要求している。

 非正規職の要求も代表 企業・地域の枠こえ

 組織された労働者はまた、非正規雇用労働者の利益を代表してたたかっている。


 5月19日には金属労働者がウルサン(蔚山)で、造船下請労働者の大量解雇阻止・ブラックリスト撤回を掲げて金属労働者決意大会を開催した。現代重工業は、労働組合に加盟した非正規職労働者のブラックリストを作成し、雇い止めを乱発してきた。昨年と今年あわせて3万人もの労働者の首を切ろうとしていることに抗議し、金属労組ウルサン支部の現代重工業社内下請支会は橋の上で39日にわたるろう城闘争を続けてきた。ろう城中の組合員たちは電話を通じて「元請・下請の労働者は団結して反撃しよう。これだけが、労働者が苦しむことなく、人間らしく生きていくことができる道だ」と力強く訴えた。


 また、サムスン重工業では5月1日、コジェ(巨済)にある工場でタワークレーン同士が衝突する大事故が発生し、26歳の青年労働者をはじめ6人が死亡し、25人が重軽傷を負う大惨事が起きた。死傷者31人は、全員が下請労働者であった。


 労働者は5月22日、市民社会団体とともにソウル・光化門広場で記者会見を開催した。警察と労働部は「原因は単なるクレーンの運転ミス」とし、労災を否定して幕引きを図ろうとしている。これに対し「死亡事故の責任は明らかにサムスン重工業にある」とし、工事期間に追われて労働者に無理な作業を強制させたことや、安全対策がきちんとされていなかったことが事故の原因だと弾劾した。韓国において、職場で命を落とす労働者は年間2400人以上にのぼる。その多くが非正規職の青年労働者たちである。1年前には19歳の下請青年労働者がソウル地下鉄のドア事故で命を落としている。5月21日には、仁川(インチョン)空港の非正規職労働者が感電する事故が発生した。郵政職場では今年すでに5人もの配達労働者が労災や過労で命を落とした。郵政事業の業務量は増えているのに、人員は削減されて長時間労働になっていることが背景にある。


 文大統領は2003~08年のノムヒョン政府時代に大統領秘書室長を務めた人物であり、グローバル化を推進する資本の利害を代弁して、非正規雇用を拡大した張本人でもある。現在文政府と労働者のあいだでとりわけ大きな焦点となっているのが、「非正規職撤廃」である。


 文大統領は5月12日にはインチョン(仁川)国際空港を訪問。非正規職労働者と対話し、「任期内に公共部門労働者の非正規職ゼロ時代を開く」と語った。しかし、ここで約束した「1万人の正規職化」の内実は無期契約職への転換でしかない。賃金などの労働条件が正規職と同じになるという保証はどこにもなく、労働者の「非正規職撤廃」の要求に応えるものではない。


 従来非正規労働者のたたかいは正規の労働者のたたかいとは孤立したもので、多くは抗議の自殺で世の中に訴えた。2003年には31歳の非正規労働者がソウルで開催された「全国非正規労働者大会」で抗議の焼身自殺をおこなった。翌2004年には現代重工業構内で下請労働者が「下請労働者も人間だ。人間らしく生きたい」と訴えて焼身自殺を図った。こうした非正規労働者のあいつぐ死を賭しての訴えに応え、組織労働者が非正規雇用労働者の利益を掲げたたたかいを開始した。
 正規、非正規をとわず、企業や地域の枠をこえて、組織された労働者が全国民的な課題を掲げたたたかいの先頭に立っている。

 まともな社会つくる力 明日の日本映し出す

 韓国では昨年以来、朴大統領の退陣を求めて全国各地で230万人をこえる韓国史上初といわれる闘争が発展した。既存の政党や労組などの組織動員をはるかにこえたもので、労働者や農民、青年・学生や高校生、幼い子どもを抱えた家族連れなど幅広い層が参加した。背景には、1997年のアジア通貨金融危機でIMF(国際通貨基金)が乗り込んで新自由主義にもとづく構造改革を強行したのに続き、2000年代に入って急激なグローバル化の道を突き進んだ結果、外資の略奪や多国籍企業化した財閥企業の海外移転が進み、国民の暮らしが散散なものになってきたことへの怒りがある。


 米韓FTAで痛めつけられてきた農民の怒り、多国籍企業化した財閥企業がグローバル化によって国内に貧困を押しつけていることへの怒り、若者は非正規雇用だらけになり就職すらできないことへの怒り、規制緩和によってセウォル号のような事故を引き起こす社会への怒り、THAADを配備して同胞である北朝鮮に対して敵対的な関係を強めることへの怒りなど、韓国社会全般を覆っている矛盾が噴き上がり為政者を震撼させた。


 この間、韓国は日本社会以上にグローバル化を推進し、そのもとで社会構造は様変わりしてきた。その引き金になったのは、20年前のアジア通貨金融危機だった。対外債務支払い不能(デフォルト)による国家破たんに直面し、それを防ぐためアメリカが主導するIMFに緊急融資を要請した。IMFはそれと引き換えに、厳しい新自由主義政策を迫った。金融機関は公的資金投入によって不良債権を整理して救済し、徹底的な構造改革を強行して犠牲は労働者や国民に押し付けた。IMFの構造改革によって、社会と経済の仕組みは激変した。


 公共部門の構造改革では、大規模な人員削減をやって民営化を強行。労働部門では解雇自由化を進める整理解雇制を導入し、派遣労働を自由化して失業と非正規雇用労働者を空前の規模に増大させた。


 さらに外資に対する開放政策を推進した。制限のない自由変動為替レートへの移行(為替自由化)や外国人の株式投資限度の撤廃、外国人の国内短期金融商品・会社債買い入れ制限の撤廃、外国人の直接投資に対する制限の縮小・優遇政策の制定(資本自由化)や貿易自由化を徹底的に進めた。


 金融機関も外資の支配が強まり、例えばハナ銀行は外資比率が七割超えで主要株主はゴールドマン・サックスであり、外資比率九九%の韓美銀行の主要株主はシティグループというように、外資の存在感が強まった。こうした財閥や金融機関がもうければもうけるほど、外資や伊藤忠(サムスンの筆頭株主)のような日本企業に利益が流れ込む構造になった。


 4大財閥がグローバル化を急激に進めたために、国内産業は空洞化した。1990年からの20年間で農林漁業の就業人口は294万人から166万人へと128万人減少した。軽工業部門の労働者は213万人から110万人へと112万人減少し、半減している。
 そうして若者の失業や非正規雇用は世界的に例を見ないほど拡大した。


 米韓FTAは2012年3月15日に発効し、今年で丸4年を迎える。農産物輸入が大幅に増加し、農家に打撃を与えている。とりわけアメリカからの輸入が急増している。米韓FTA締結は農業への影響だけではない。韓国では2014年と2015年上半期に、「病院営利子会社許可」「経済自由区域営利病院の規制緩和」「遠隔医療などの新医療技術の規制緩和」「医薬品規制緩和」「臨床試験の規制緩和」「医療部分の民営化」など営利病院を認める規制緩和も強行した。


 また2013年には水道の民営化を認める動きが始まり、最近「水道支援法」なる新たな法案が出された。これが立法化されれば、水道の民営化は容易になり、ライフラインである水が営利目的で扱われるようになる。


 こうした韓国社会の構造的なひずみが大規模な国民的行動となって噴き上がっている。社会や国家に寄生して食い物にしていく多国籍企業や外資、その傀儡(かいらい)に成り下がって腐敗している為政者に対する民衆の反撃となっている。新自由主義にもとづくグローバル化の破たんはアメリカの大統領選挙やヨーロッパではイギリスのEU離脱などとも関連して、世界中で露わになっており、韓国社会の動きもその一端を示している。「まともな社会にせよ」の力が世界的に呼応しながら日に日に強まっている。社会の生産を担い、社会の真の主人公である労働者が先頭に立ち、全国民を団結させた力で為政者を縛りあげ、豊かで平和な社会をめざした進撃を開始している。この世界的潮流はおしとどめることなどできず、腐朽衰退しながらも支配の地位を手離さない資本との矛盾を先鋭化させている。明日の日本社会を映し出す動きといえる。

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