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二転三転する米朝交渉の行方 朝鮮和平へ向け後戻り許さぬ東アジアの奔流

米国覇権体制の弱体化を露呈

 

予告なく2度目の会談をおこなった南北両首脳(26日、板門店)

 トランプ大統領が24日、一方的に「米朝首脳会談の中止」を表明し、翌日にはそれを撤回するなど、朝鮮情勢をめぐる事態が二転三転している。世界を巻き込んで、まるでショータイムのように報じられる米朝交渉は、トランプの思惑を別にして、核軍事力を誇示し「力による外交」によってアジア覇権を握ってきた米国の弱体化を浮き彫りにし、東アジアにおける現実の力関係を世界にさらしている。この間の南北首脳会談をめぐる交渉の推移をたどってみたい。

 

 

 トランプは24日、北朝鮮の金正恩委員長に宛てた書簡で「シンガポールで会うことをとても楽しみにしていたが、残念ながら、北朝鮮が直近に発表した声明に込められた激しい怒りと敵意に基づき、長い間計画してきたこの会談を、いま開催することは不適切と考えている。この書簡で、世界にとっては不利益だが、お互いのためにシンガポールでの首脳会談は開催しない」と表明した。日本では「米朝会談中止!」との速報がトップニュースで伝えられ、米朝和解に懐疑的だった評論家たちが「案の定」とはやし立てたが、トランプは「(北朝鮮が)考えを変えるのなら、遠慮せずに電話か手紙を送って欲しい」とも書いており、わずか2時間後には「予定どおり首脳会談が開かれる可能性もある」と中止表明を覆すなど、思わせぶりな態度をふりまいてを見せた。


 北朝鮮が「いつでも米国と対話する用意がある」と談話を出すと、トランプは「もしかしたら6月12日に開かれるかもしれない。彼らはそれを望んでいるし、われわれもそうしたい」「米朝首脳会談の復活について、非常に生産的な対話をおこなっている」と一転して前向きな姿勢をみせており、「やる」「やらない」のアナウンスをくり返して世界を翻弄している。だが、中止すれば朝鮮半島は以前と変わらぬ膠着状態に戻り、むしろ米国を排除した中ロとの関係での和解プログラムが進行するなかで、米国は蚊帳の外に取り残され、南北和解とともに「市場開放」を進める北朝鮮への千載一遇の投資機会を手放すことになりかねない。「中止」を宣告できない米国の弱みがそこにある。朝鮮戦争の終結を宣言した南北関係が「大国に縛られぬ」という独自の進展をみせるなかで、出遅れたくない米国にとって米朝会談は避けることはできず、会談実施と米朝和解を前提にした水面下の駆け引きが過熱していることのあらわれでしかない。


 25日には、南北が予告なしで板門店で2度目の首脳会談をおこない、「米朝首脳会談を実施するために緊密に相互協力していくことで一致」(文在寅大統領)し、延期されていた南北閣僚級会談、軍事的な緊張緩和のための軍事当局者会議、離散家族再会のための赤十字会談を連続して開くことで合意した。トランプの突然の「会談中止」宣言は、かえって南北の絆を深めるきっかけになり、南北関係は、米国の意図とは無関係に進展していくことを世界にみせつける結果となった。


 各国首脳が会談実施を求めるなか、世界で唯一「会談中止の判断を支持する」と表明したのが安倍首相で、「われわれの圧力の結果だ」と強弁していたものの、26日には外遊中のロシアで「米朝首脳会談は不可欠であり、追求していく必要はある」などと態度を修正。プーチンから「自分だけで決められることはあるのか?」と尋ねられるほど、滑稽な従属ぶりをみせている。

 

表面は強硬 内実は譲歩

 

 米朝交渉をめぐってはこの間、2度訪朝して対北交渉を続けてきたポンペオ国務長官は「米国に対する核の脅威(ICBM)を除去する」ことを優先し、朝鮮半島の非核化については中長期的な見通しで対応する構えを見せていたものの、米国政府内では米朝会談に反対する共和党強硬派が巻き返しを図り、北朝鮮への挑発的な言動が連続した。


 強硬派のボルトン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)は、一貫して北朝鮮に対する「リビア方式」(無条件で検証可能な核廃棄)での交渉を唱え、同じくペンス米副大統領も軍事的対応も辞さない姿勢とともに「北朝鮮はリビアのように終わるかもしれない」との強硬発言をくり返した。リビアでは、03年に当時の最高指導者カダフィ大佐が米国の制裁解除と引き換えに大量破壊兵器の放棄を約束し、国際機関の査察を受け入れた後、政権は崩壊し、カダフィは殺害されている。また、米共和党内では、核だけでなく大量破壊兵器(弾道ミサイルなど)の放棄、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)ではなく、「永久的」に核開発の芽を摘みとるPVID(核技術者や核設備の海外移送など)の適用を求める強硬発言もあいついだ。


 これに対して北朝鮮の崔善姫(チェ・ソニ)外務次官は「米国がわれわれと会議室で会うか、核対核の最終決戦で対決するのかは、完全に米国の決断と振る舞いにかかっている」と反発し、金桂冠(キム・ゲグァン)第一外務次官も「国のすべてを大国に明け渡したために崩壊したリビアやイラクのような運命を、わが国に押しつける悪意ある動きだ」「トランプ大統領が前任者と同じ道をたどるならば、より悲劇的に成功を逃した大統領として記録される」と反発を強め、「米国が一方的な核放棄を要求し続けるなら米朝首脳会談の受け入れを再考せざるをえない」とまで発言していた。


 金正恩は習近平との2度目の会談(5月7、8日)をおこない、同日、習近平はトランプとの電話会談で、「北朝鮮の合理的な安全を保障すべき」として、非核化に向けた「段階的で歩調を合わせた」行動をとるように求めていた。


 これを受けてトランプは17日、「北朝鮮に対してリビア方式はとらない。われわれはリビアを殲滅し、カダフィを残すという合意などなかった。まったく別次元の話であり、リビアと違って北朝鮮はとても裕福になるだろう」と火消しに回り、非核化後の「体制保障と経済協力」を約束したが、北朝鮮側の態度は硬化。さらに南北首脳による「板門店宣言」で挑発的行為を禁止したにもかかわらず、米国は11日から米韓空軍訓練「マックス・サンダー」を実施し、しかも、これまで北朝鮮が敏感に反応してきた戦略爆撃機B52(核搭載可能)をグアムから投入しようとした。北朝鮮が反発したため、米国はB52の投入を見送り、過激な言動とはうらはらに実際行動では譲歩せざるを得ない現実を示した。


 南北が合意した「今年中の朝鮮戦争の終結宣言」は、長く戦争状態に置くことによって「国連軍」の看板を維持し、在韓、在日米軍を展開して東アジアにおける覇権を握ってきた米国の軍事基盤を根本から揺るがすものになる。アジアにおける力関係は多極化し、米国の単独行動はできず、戦争と分断の歴史を終わらせる機運は朝鮮半島をはじめ、東アジア全体の世論として醸成している。軍産複合体の代弁者である強硬派の動きとトランプの二転三転ぶりは、自国の覇権体制を維持しつつ、朝鮮和平による市場介入にも道を得たい米国支配層の強欲ぶりを反映しているが、その思惑通りにことは進まないことを示している。従来の「力による外交」は体をなしていない。

 

二重基準で非核化は膠着

 

北朝鮮が爆破した豊渓里の核実験施設。現場に米、英、ロ、中、韓のメディアが招待された。(24日、BBCニュースより)

 また、「朝鮮半島の非核化」を表明した南北合意に対して、もっぱら「北朝鮮の非核化」だけを主張し、自国の核戦力については縮小どころか「核戦略の見直し」で増大させる決定までした米国への批判も強まらざるを得ない。10日には、核兵器を解体して原発燃料にするために南部サウスカロライナ州に建設するはずだったプルトニウム混合酸化物(MOX)燃料工場を、核兵器製造施設に転換する計画を発表しており、そのダブルスタンダードは目に余るものとなっている。


 北朝鮮は2016年7月6日の政府声明で、①米国が韓国に持ち込んでいる核兵器の公開、②韓国のすべての核兵器と基地の撤廃とその国際的な検証、③米国が朝鮮半島周辺に展開する核兵器を搬入しないことを保証する、④朝鮮に対する核不使用の確約、⑤韓国で核使用権を握る米軍を撤退する--の非核化5原則を示している。南北会談後も「北朝鮮に対する軍事的脅威が解消され、北朝鮮の体制安全が保障されるなら、核を保有する意味がない」と表明し、24日には核施設の閉鎖を各国メディアに公開した。北朝鮮の核開発は、ソ連、中国の後ろ盾を失った北朝鮮が米国の軍事圧力に対抗する措置としてはじめたものであり、米国本土に届くミサイル技術を手にしたことによって、米国が報復を受けることなく北朝鮮を一方的に恫喝・攻撃できるという関係は崩れている。

 

 北朝鮮は保有する核を当面保持しつつ、米国の出方を見て対応するという対応をみせている。米朝双方の歩み寄りによる段階的な非核化を目指すほかなく、それを後押しする中国、ロシアを含む多極的な関係のなかで進行せざるを得ない。第二次大戦からつづく米国のアジア覇権が弱体化し、各国が主権を確立しつつ互恵関係にもとづいて新しい東アジアの秩序を築く流れが強まっている。


 65年間、敵対関係が続いてきた米朝交渉をめぐる動きは、東アジアの戦後史を画する力関係の変化を見せつけている。苦難の歴史を背負ってきた朝鮮半島における主権回復と平和を求め、分断を終わらせようと願う大衆世論がこの情勢を下から揺さぶっている。

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