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フランス マクロン政府の年金改革に抗議し150万人がデモ 公共機関、鉄道、学校などで200万人がスト決行

マクロン政府の年金改革案に反対し、40万人が参加した抗議デモ(19日、パリ)

パリ市街地はデモに参加する人の波で溢れた(19日)

 フランスでは19日、マクロン政府が打ち出した年金改革案に抗議し、全国約200カ所で150万人以上が抗議デモにくり出し、一斉に約200万人がストライキをおこなった(CGT発表)。抗議デモの波は首都パリだけで40万人超(近年最大規模)に膨れあがり、マクロン政府による年金改革案の撤回を求めた。21日には若者団体によるデモがおこなわれ、法案の撤回まで行動の継続を呼びかけるCGT(労働総同盟)などの労働組合は、法案の撤回を求めて31日にもより大規模なデモやストの決行を宣言している。

 

産業や地域を越えた国民的運動に

 

 今回の大規模デモ・ストライキのきっかけは、マクロン政府が10日にうち出した年金改革法案であり、その主な内容は、現在は62歳の年金受給開始年齢を2023年9月から段階的に引き上げ、2030年には64歳にするというものだ。マクロン政府は1期目から年金改革を主要政策に掲げており、2019年にも年金受給開始年齢を65歳とする改革案を発表したが、フランス国鉄・パリ交通公団が47日間の長期ストに踏み切り、燃料課税に反対して始まった「黄色いベスト」運動が巻き起こるなど、激しい反対世論に押されて廃案に追い込まれている。

 

 今回も政府の法案発表を受けて、CGTなど8つの主要労組が即座に協議し、19日に全土で大規模なストライキと抗議デモをおこなうことを決定。この日を「jeudi noir(暗黒の木曜日)」と名づけ、民間企業を含む全国民に総結集を呼びかけた。

 

 労組が政治に強い影響力を持つフランスだが、労組の組織率は7・8%(2010年時点)であり、実は先進国で最も低い。だが、主要8労組と資本側(経団連や中小企業総同盟など)とが結ぶ労働協約は、組合員・非組合員の区別なく、当該する産業部門の労働者すべてに拡張適用されることになっているため、主要労働組合は、組合員を代表するだけでなく、全産業部門の労働者を代表する立場にある。そのため共通の利益のためには、産業や職場の違いをこえて共同行動を形作るという歴史的な特徴がある。

 

 今回の年金改革法案については、産業労働者だけでなく、国家公務員、地方公務員、医療従事者、ソーシャルワーカー、商売人、教師、学生、農民など幅広い分野でストや抗議行動が起きており、国民運動として拡大する兆しにある。

 

 「私たちの年金のために、団結しよう」と題して、主要労組が発した声明は以下の通り。

*    *


 労働組合員の皆さん、私たちは毎日、同僚と一緒に、職場で、マクロン大統領および使用者団体、特にメディフ(フランス経団連)の反社会的政策による影響を受けている。


 インフレ率は2023年初頭に7%超にのぼると発表され、食料価格は現在12%以上にまで高騰する一方、私たちの賃金、年金、最低社会保障は低迷している。企業では、雇用主からいくらかの賃上げを引き出すために、たたかい、衝突し、ストライキをしなければならない。私たちのたたかいは実際に存在している。多数存在しているが、それでも企業ごと、分野ごとに孤立している。

 

 マクロン政府はこれにも飽き足らず、65歳定年制の導入、年金受給に必要な勤続年数の延長、いわゆる「特別」制度の廃止を目論んでいる。私たちは、大多数のフランス国民や労働者と同様にそれに反対する。生涯をかけて懸命に働いた後、健康的に休息する権利は、労働運動とその組織の社会的成果だ。


 私たちは、社会運動団体、労働組合や政党が、お互いの歴史、慣行、特権を尊重しながら、長期にわたって団結して大規模な運動をおこなうことだけが、この不当な制度改悪を打ち破り、新しい道を開くことができることを知っている。60歳定年制、社会保障の再制定、最低賃金・給与・年金・社会保障の引き上げ、家賃引き下げ、生活必需品の価格凍結、生態系の保護、交通・医療・教育への投資、超過利潤への課税、若者の自治権の保証、すべての失業者に対する有効かつ高度な失業保険への権利を構築することが必要であると考える。


 私たちは、ストライキ、街頭デモ、国会でのアクションを連動させた「バトル・プラン(戦闘計画)」を構築することが必要だと考えている。国や地方レベルで統一的な枠組みを構築することで、今後数週間、全国の地域、企業、街頭での大衆動員(デモ、ストライキ、啓蒙活動、会議、市民集会、可視化行動など)を定着させることができるだろう。


 私たちは、この大規模な運動の構築に参加することを決定した。だから、私たちは一丸となって街頭に立つ。

 

市街地を行進するデモ隊(アヴィニョン19日)

全土で一斉に行動 地方都市へも波及

 

 この呼びかけは広く共有され、19日には、フランス全土で人々が街頭にくり出し、200以上の場所で抗議デモがおこなわれた。首都パリでは、レピュブリック広場とナシオン広場を中心にして40万人(CGT発表)が結集。労働者、主婦、自営業者、若者、学生、会社員、教師などあらゆる業種の人々が、「この国には老後を楽しむ余裕もない」「民衆のパワーを示すときだ」などのプラカードや横断幕、アドバルーンなどを持参して声を上げ、政府の年金改革を批判した。

 

 2019年末の第1期・年金改革案発表時よりも人数が上回っており、近年では最大規模の抗議行動となっている。参加者は40~50代の現役世代が大半で、20代前半と見られる若者たちも多く、その熱量も以前より増しているといわれる。

 

 また、マルセイユで14万人、ボルドーで6万人、トゥールーズで5万人、リヨンで4万人、グルノーブルで3万5000人、クレルモンフェランで3万人、レンヌで2万5000人、オルレアンで1万2000人……など、これまで大規模デモがなかった地方都市でも「近年最大規模」「歴史的」といわれるデモ参加者の波が溢れた。

 

 デモに参加した交通労働者は、「私たちがストライキを起こすことで公団へのバッシングが強まるのはわかっている。だが、最近では若い人が仕事に定着せず、入ってもすぐに辞めてしまう。身体はすでに働き過ぎでボロボロなのだ。政府は職場で死ねというのか」と地元メディアのインタビューで怒りをあらわにした。


 別の参加者は、「マクロンは私たちに向かって、年金財源が年間100億~120億€不足するといい、“システムを維持するため”の改革であり、“改革するか破産するか”だという。だが、大企業に無償で公的資金を投入するとなると魔法のように何十億も出してくる。これが彼が決して口にしない“資本のコスト”だ。CAC40(上場企業)への援助には1570億€、2022年の株主配当と自社株買いは800億€だ。この年金改革は、労働者から奪い、彼を支える資本への貢ぎ物を継続するための火遊びだ。そのために、私たちにもう2年働けというのか?」と怒りを込めて指摘している。

 

 ストライキは、鉄道、航空、港湾、学校、製油所、公共施設など広範囲に及び、全国で約200万人が参加した。国鉄をはじめとする公共交通機関は全面的にストップし、都市部では鉄道や地下鉄はラッシュアワーのみの運行となった。パリの地下鉄8番線は完全に停止し、コンコルド駅、オデオン駅などいくつかの主要駅は終日閉鎖された。

 

 航空企業の労働者もストに突入したため、遅延や減便が発生した。エールフランス航空は、短・中距離路線の出発便を10%削減し、パリ郊外にあるオルリー空港ではフライトの20%がキャンセルされた。

 

 製油所のストは、仏石油大手トータルエナジーズの80%以上の製油所でおこなわれ、北フランスを中心としたあらゆる製油所で出荷が停止している。ガソリン価格が急騰しているフランス国内では、昨年10月にも同社の労働者たちが10%の賃上げを求めて数週間の長期ストに踏み切り、国内製油能力の6割以上が停止した。今回もこれを彷彿とさせる動きとなっている。このストライキは26日に48時間、2月8日には72時間にわたり継続されることが発表されている。

 

 公共部門では、全国の3つの公共部門の25%(約127万人)がストライキをおこなった。図書館や美術館も閉鎖され、警察官、消防隊員、ゴミ収集労働者、郵便局員、弁護士などもストや抗議デモに参加した。

 

 教育者たちもストライキをおこない、フランス教育省は全国の小学校で42%、中学校・高校で34%の教師がストライキに入ったと発表した。国内約半数の学校が休校となり、地域によっては教師のスト参加率が80%に達した場所もある。教職員組合は昨年も、政府が学校現場での新型コロナ対策に対して無策であるため「混乱を招いている」ことに抗議して、国内の小学校教師の40%超が参加する大規模ストをおこなっている。

 

 民間部門ではルノーやアマゾンなどの大企業をはじめ貿易・サービス業でも、有期労働者や非正規雇用労働者たちも高確率でストに参加した。CGTなど主要労組は、「政府の動向によっては無期限でストを継続する」「法案を撤回するまでたたかい抜く」と声明を発表している。

 

こぶしをあげる女性たち(19日、マルセイユ)

労働者全体の権利守る 大企業や政府と対峙

 

 フランス国民の8割が反対しているといわれるマクロン政府の年金改革は、受給開始年齢を2歳引き上げて64歳にすることとともに、職種に分かれた42の年金特別制度(鉄道、海運、航空関係者などは定年が10年早い)を一本化することもセットになっている。

 

 また同改革では、平均寿命から計算して、世代ごとの定年退職の年金満期年齢を新たに定めている。1980年代生まれの世代であれば65・5歳に設定され、15歳から働けば50年働かなければ満額支給されない仕組みだ。平均寿命が延びているから「より長く働け」という論理で、若年世代になるにしたがって定年退職年齢が引き上げられていることも、若い層が多く抗議デモに参加している要因とも見られている。「子や孫の将来のために反対している」という高齢者も多い。

 

 ストや抗議デモの参加者からは、「コロナ禍以前、すでに国内では歴史的な運動が起き、彼の年金改革を阻止していたはずだ。経済状況はさらに悪化し、インフレ率が7%に上昇しているが、賃金引き上げも物価の抑制も、超過利潤への課税もおこなわれていないにもかかわらず、性懲りもなく再度の年金改革の通過を挑んでくるマクロンは、資本を養うためにわれわれを使い捨て商品と見なしている」「マクロン、お前はフランス革命の国にいることを忘れているのか? 社会的不公平と物価高騰の荒波のなかで、公共サービスや零細商店は崩壊の危機にある。このパワーバランスを変えるためのたたかいだ。政府が国民の権利を侵害するとき、国民にとって、反抗は最も神聖な権利であり、最も欠くことのできない義務だ」と口々に語られている。

 

 フランスでは、ストライキは日常となっており、2019年におこなわれた国鉄やパリ交通公団の長期ストでは47日間、パリの交通網が麻痺したが、それでもストを支持する世論は強く、今回の抗議行動でも大きな混乱は起きていない。ストで公共機関が動かないときに備え、代替輸送手段が発達し、交通手段のない人には車で送り迎えするなどの共助精神が根付いているといわれる。

 

 ストに遭遇した民間企業で働く女性は、「確かにスト中の市民生活は不便だが、民間企業に勤めている私たちにとっては、激しいストライキや抵抗運動はできない。そのぶん彼らが労働者の権利を守るための共和国市民の姿を貫いているのだから、必要なたたかいだ」とのべて、ストへの賛意を示した。

 

 また、学校で子どもの頃からストライキ権やフランス革命で勝ちとった共和制の意義、フランス市民の権利である教育無償などについて学び、共和国の「市民」としての誇りと共生意識が培われていることも日本との違いとして指摘されている。

 

 昨年からウクライナ戦争と対ロ制裁によって電気・ガスなどの燃料価格、食料価格が高騰して「生活費危機」といわれるなか、インフレにともなう法定最低賃金の引き上げは平均2%程度にすぎないため、国内では賃上げを要求するストが多様な産業で頻発してきた。国鉄、パリ公共交通公団、各地の空港、石油・ガス生産販売業、送電網管理業、保険企業、土木業、自動車業界などでストがあいつぎ、国民に生活危機を押しつけながら内部留保や株主配当を膨らませる大企業とその代理人と化しているマクロン政府への国民的な怒りと結びついて、熱気を帯びた政治行動が裾野を広げている。

 

 主要労組は、31日にふたたび全国一斉の抗議デモをおこなうことを呼びかけている。同法案を廃案に追い込んだ「黄色いベスト」運動が全土で再燃する趨勢にある。

 

若者たちも大挙してデモに参加した(19日)

教師、医療専門家、工場従業員、消防士、ソーシャルワーカー、トレーダー、農民などが参加したヴァランスのデモ(19日)

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この記事へのコメント

  1. 公共機関、鉄道、学校などで200万人がスト。
    200万という数字より、公共機関、鉄道、学校という字句に驚かなければならないのが、私たちニッポン人だろう。隣国は、独裁国の令名(?)高き中国だが、大衆のデモがゼロコロナを阻止した。
    朝鮮戦争近づくなかで公務員法を改正し、公務員のスト権を奪った日本支配層は、戦前からすでに終身雇用制を構想しただけあって、じつに深謀遠慮、かつ狡猾だ。

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