いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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イギリス 教員や公務員等50万人がスト 医療、鉄道、救急、郵便、消防の動きに呼応 「賃金上げ、生活と公共サービスを守れ!」

ロンドン市内でおこなわれたストライキ参加者や市民数万にによる抗議デモ(1日)

 光熱費や食料価格高騰など深刻なインフレに襲われ、医療機関や交通機関などで大規模ストライキが続いているイギリスで1日、過去10年で最大となる50万人規模のストライキが実施された。イギリス国内では、経済の低迷、コロナ禍、ウクライナ戦争、ロシア制裁の副作用などの複合的な要素が加わるなかで物価高騰と貧困化が急拡大し、貧困層(所得中央値の60%未満)は1600万人をこえるといわれる。それでも新自由主義的な緊縮政策を継続するスナク政府への激しい抗議とともに、あらゆる業種で同時多発的にストライキがおこなわれており、今回のストでは教職員や公務員労組なども加わった。労組の枠をこえ、広範な国民世論が下から突き動かしており、多国籍資本の代理人となって迷走する政府を追い詰めるゼネストへと発展しつつある。

 

政府の強硬策にゼネストで対抗

 

 イギリス国内では昨年から、医療、鉄道、高速道路、空港、港湾、郵便、バス、入国管理当局などの公共部門の労働者が一斉にストライキをおこなっている。とくに昨年末には、コロナ禍で医療を支えた公共医療(NHS)の看護専門職による労働組合「王立看護協会(RCN)」が史上初のストに踏み切り、全国で10万人の看護師が賃上げを求めて断続的にストライキを実行してきた。

 

 イギリス国内のインフレ率は3カ月連続で10%(日本は3~4%)をこえており、過去四五年間で最高となった。とくに電気代(燃料費)は家庭によっては3~5倍に高騰。イギリスでは定額前払い式メーターを利用している世帯も少なくないが、昨年10月からの電気代8割値上げ発表により、年額59㍀(約9700円)の追加料金支払いが義務付けられ、年間費用は3608㍀(約59万円)にまで跳ね上がった。

 

 ガソリンも昨年6月、1㍑当り平均価格が310円台となり、平均的な乗用車を満タンにするのに必要な55㍑の価格が100㍀(約1万7000円)の大台をこえた。

 

 食料品価格も平均で18%高騰し、牛乳やバター、チーズ、肉、パンなどの家庭の必需食料品価格は最大42%上昇した。1980年以来の最高値といわれ、平均的世帯がスーパーなどで食材を購入する年間費用は、1年前に比べて380㍀(約6万3000円)増加したといわれる。人々の善意に依存したフードバンク(食料寄付)などの支援策も、急速なインフレに追いつかない。これらにともなって航空運賃、飲食店、ホテル宿泊料に至るまで軒並み高騰している。

 

 人々の間では「heat or eat(暖房をとるか、食べるのをとるか)」と語り合われ、暖房費を払うために食事を抜いたり、減らしたりすることが一般的になっているといわれる。地元紙では、食材を買う余裕がないため、ペットフードを食べたり、燃料費を節約するために電子レンジやオーブンではなく、キャンドルやラジエーターで食べ物を温めたりするなどの記事まで見受けられる。

 

 こうしたなか、コロナ禍で過重な負担が押し寄せた医療現場では、長年の低賃金に加え、慢性的な看護師不足で生じる基準の配置人数以下での勤務が続き、サービス残業が押しつけられ、医療を受けられない患者からクレームが殺到するなど矛盾が顕在化した。看護師たちは適正な医療が継続できる体制と待遇改善を求めてきたが、当局からの回答が「3%の賃上げ」であったことが現場の怒りに火を付け、史上初の10万人ストへと発展した。

 

 看護師たちの要求は目先の待遇改善に止まらず、「公から民へ」を押し進めたサッチャーから始まる新自由主義政治による公的医療破壊に対する抗議を含んでいる。

 

 かつて看護師の育成・確保が国策だった時代には、予算が優先的に確保されていたため、看護学生は授業料無料、無償の奨学金を毎月5万円支給されるなどの政策もあって、看護師は倍率の高い人気職業だった。ところがリーマン・ショック後の2010年に公共部門の賃上げが凍結され、インフレが進むたびに所得は目減りし、看護職の志願者は次第に減少。2014年ごろからはEU各国から看護師を大量に受け入れて人手不足をしのいでいたが、2016年のEU離脱によってそれも難しくなった。

 

 そして2017年、英政府は「看護師育成の礎」といわれた看護学生の授業料無償化と奨学金を完全に廃止した。もはや看護職は、主婦や低所得家庭の学生に進学と就職のチャンスを与える魅力的な仕事ではなくなり、看護師離れは一層加速した。コロナ医療従事者に対する「危険手当、ボーナスの支給なし」の政府決定も、多くの看護師を退職に追いやった。これ以降、英政府は待遇を改善して看護師を増やすことよりも、この劣悪な待遇でも志願してくる外国人看護師のリクルートに舵を切っている。

 

 コロナ以降、NHS(公的医療システム)の待機手術の待ち期間は2~3カ月と長くなり、プライベート病院(民間)に通えない貧困層が医療へアクセスすることは厳しくなり、公的医療は崩壊寸前に追い込まれている。

 

 約50万人の看護師、助産師、看護支援従事者、学生が所属するRCNは、「看護師や職員が燃え尽きてしまえば、患者の看護と安全に対する懸念が生じる」「看護師は、ヘルスケアのなかでもっとも安全性を重視する職業であり、患者ケアにおいて重要な役割を担っている。にもかかわらず、国による投資不足が長年続き、看護師は依然として人手不足で、過小評価されている。政府は看護職を守り、患者ケアを守るために早急に行動する必要がある」と訴えてストに突入し、インフレ率を5%上回る賃上げを求めている。

 

 看護師のストに呼応して、救急隊員2万5000人もストに合流した。隊員たちは、救急現場で働くスタッフがみな疲弊して士気を失っていることや、超過勤務が常態化して優秀な救急隊員が過労で次々と辞めていくこと、「通報を受けても隊員も救急車両も足りず、すぐに出動できない。ようやく搬送できても病院側も人手不足で、患者を担架に乗せたまま何時間も受け入れ手続きを待つ毎日だ」「患者にしわ寄せが行く悪循環が続いている」などと訴え、低賃金と重労働による人手不足、政府による救急車使用対象の制限によって人々の生命を救うことができない劣悪な医療体制の改善を求めている。

 

 政府当局は、組合側との交渉に応じておらず、逆に「ストは人々を危険にさらしている」と攻撃している。医療の現場を支えてきた労働者側は「ストのために人々が死んでいるのではなく、国の政策で人々が死んでいるからこそストをしているのだ」と断固として譲らず、医療現場の全国ストは2月も断続的に実施されている。

 

 1月からは、英国内の幹線鉄道、地下鉄、船舶、バス、トラックに至る交通運輸産業部門の労働者が加盟する鉄道海事運輸労組(RMT)が呼びかけ、全国4万人の労働者と14の鉄道運営会社労働者が一斉にストライキに突入し、全国のほとんどの鉄道サービスを閉鎖した。郵便労働者もクリスマス前にストを決行した。

 

反スト法案に怒り爆発 全国的にスト拡大

 

ロンドンのホワイトホールで開催された抗議集会に押し寄せたストライキ参加者と市民(1日)

反ストライキ法案に反対するデモに参加した消防士たち(1日、シェフィールド)

 スナク英政府は、医療や交通など基幹部門のストライキを制限する「反ストライキ法案」を提出して弾圧に乗り出したが、この動きが人々の怒りに油を注ぎ、ストライキの波は全産業に波及している。2月も輸送、医療、郵便、公務員などの複数の部門でストライキが同時に実施される予定となっている。

 

 2月1日には、国内5つの主要労組が呼びかけ、あらゆる業種の労働者50万人が一斉にストライキを実施した。2011年に200万人が保守連立内閣の年金削減政策に対する抗議ストライキを実施して以降、最大のストライキとなった。

 

 全国教員組合(NEU)が呼びかけたストでは、全国2万3000校(全国の8割)の学校で、約30万人の教員が参加した。政府の統計によると、公立学校の51・7%が閉鎖された。大学教員7万人もストに参加したため、全国150の大学すべてが閉鎖。大学でのストは、今後2カ月間に18回予定されている。

 

 教員たちは、「私たちの学校を守れ!」をスローガンにして、教育予算の削減や教員不足を放置する政府に抗議し、賃上げや教育スタッフの増員を求めている。

 

 また、公共・商業サービス組合(PCS)の組合員である10万人の公務員もストライキをおこなった。ホワイトホール(政府機関が集中する地域)の各省庁、規制当局、博物館、雇用センターで業務が停止した他、国境警備隊も業務を停止したため、パスポートチェックには政府が徴集した軍人が出動した。

 

 鉄道運転手の組合(ASLFE)と、鉄道、海運、運輸労働者の組合(RMT)の1万2500人の鉄道運転手が共同でストを決行し、鉄道ネットワーク全体の3分の2の便が停止した。

 

 今回のストライキは、1月30日に英国議会で「反ストライキ法」が可決されたことに合わせて実施された。反ストライキ法案(最低サービス水準)法案は、経済の主要部門におけるストライキのさい最低水準のサービスを提供する義務を課し、雇用主がスト参加者や組合に損害賠償請求することを認めている。最初の取締対象を鉄道、救急隊員、消防・レスキュー隊員のストライキに絞り、その後、運輸、医療、教育部門のすべてのストライキに適用する筋書きとなっている。

 

 労働組合会議(TUC)が呼びかけたロンドンでのデモでは、4万人が賃上げや緊縮財政への批判とともに「ストライキの権利を守れ!」と訴えながらポートランド・プレイスからホワイトホールまで行進し、ダウニング街付近で集会を開いた。またバーミンガム、シェフィールド、リーズ、ブリストル、マンチェスターなどの地方都市でも同時に集会が開かれた。

 

 これらのストやデモは、反ストライキ法の成立を目論む保守党政府と、交渉を拒む資本側と対峙する何百万人もの労働者の決意を表明するものであり、賃上げを求めるストライキ実施を決定したばかりの消防士らもデモ行進に参加した。

 

 労働者の要求をはね付け、ストへの強硬姿勢を見せるスナク政権に対して全国的な批判が高まっており、政権支持率は10%台に落ち込んでいる。

 

子どもの3人に1人が貧困  教員一斉ストの背景

 

ストライキを決行中の教員たち(1日、ロンドン)

子どもたちも教員たちとともにデモ行進に参加(1日、ノリッジ)

 全国教員組合(NEU)の前会長で現全国役員のダニエル・ケベデ氏は、教員一斉ストに踏み切った背景を次の様にのべている。

 

*      *

 

 私たちの学校は危機に瀕している。政府は、中等教育機関の教員採用目標をまたもや達成できなかった。中等教育で必要とされる教員の59%しか採用されず、校長協会も「破滅的としかいいようがない」と表現した。

 

 このことは、子どもたちの教育に直接影響を及ぼし、数学や物理といった教科を専門家ではない者が教えるケースが多くなっている。教師がまったく確保できないクラスも増え、子どもたちは代用教員や無資格の職員に教えられている。政府が教員に適切な報酬を払おうとしないために、子どもたちの教育が損なわれることは許されない。

 

 政府が手を抜いているのは、教師の給与だけではない。教師やサポートスタッフの給与の削減に加えて、2023年には国内の学校の90%が予算削減に直面し、教室でのリソースが減り、教育アシスタントが減り、朝食クラブや宿題サポートなどのサービスも削減せざるを得なくなった。

 

 これらはすべて、子どもの貧困が大幅に増加し、家計のやりくりに苦労する家庭が増えるなかで起きている。英国では3分の1以上の子どもたちが貧困状態にあり、特に2015年以降、劇的に増加している。

 

 低賃金と給付金の凍結によって、家族が苦境に追い込まれている。賃金水準がインフレに大きく遅れているため、大半の人が実質的な収入減に陥っている。

 

 学校は、教育危機や子どもの貧困化の進行に対処するための資源がないまま対応を迫られている。

 

 このような状況を変えなければならない。私たちは、給与カットに反対し、予算カットに反対し、子どもたちにふさわしい教育のために立ち上がっている。そのために30万人の教職員と支援スタッフがストライキを実施することに圧倒的な票を投じており、私たちは政府に耳を傾けさせなければならない。私たちは、大学労働者、公務員、鉄道労働者、郵便労働者、看護師、その他の人々とともにたたかう。低賃金の惨劇を終わらせるために政府が行動することを要求する。保健、教育、公共サービスへの投資を要求する。市場ではなく、人々の利益のために働く経済を要求する。

 

 私たちの争議は給与をめぐるものだ。なぜなら、それが子どもたちの教育に大きな損害を与えるものであり、これを続けることは許されないからだ。だが、これは私たちが望む教育制度のあり方を求める、より広範なキャンペーンの一部でもある。私たちの学校と大学では、より多くの予算確保と、サポートや供給スタッフを含むスタッフに対する適切な給与が必要なのだ。

 

 あまりにも長い間、私たちはカリキュラムや教育法について政府からの干渉を受けてきた。プロの教育者は信頼され、支援されるどころか、教育の専門知識をまったく持たない政治家によって、専門的な判断に反する方法で教えるよう圧力をかけられている。教育は政治的な道具となり、どんなに根拠が薄弱な研究でも、最新のトレンドが閣議決定で強制されるようになった。

 

 このすべては、懲罰的な検査制度によって支えられている。教員や上級指導者の大多数は、Obsted(教育水準監査局)が教育上何の役にも立っていないことに同意している。むしろ、自分たちの考えを持つ学校や教師を脅す道具として利用されている。貧困層の多い学校は「良好」や「優秀」の評価を受ける可能性が非常に低く、より豊かな学校は「優秀」判定を受ける可能性が3倍も高い。このような検査制度は明らかに破綻しており、最も不利な立場にある子どもたちを支援することには何の役にも立っていない。このような制度は廃止し、根本的に見直す必要がある。

 

 市場の要求よりも、子どもにとっての必要性が優先され、不正なデータやアルゴリズムではなく、教育の成功が評価されるような教育システムのための大胆なビジョンを持つべきときが来ている。今こそ、学校と教育システムの主導権をとり戻すときだ。

 

 今日、教師が街頭に立つとき、彼らは給与の改善と助成金の増額を求めてストライキをおこなうだろう。彼らはまた、私たちの教育制度の未来のためのキャンペーンをおこなうだろう。

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