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電気料金高騰に見舞われる欧州 ウクライナ危機で脆弱性暴露 再エネ作りすぎて電力不足に

 昨年から石炭や石油、天然ガスなどの燃料価格の高騰と供給不足が世界的に広がり、それにともなって電気代が値上がりし、停電も頻発している。電気代や燃料費の値上がりは家計に直接響くとともに、製造業や運輸業をはじめとする経済活動や社会インフラの維持にも大きな影響を与えており、世界各国で電気料金や燃料代の引き下げを求める街頭デモが巻き起こっている。そしてその背景には、「2050年までにカーボン・ゼロ(CO2排出量の実質ゼロ)達成」といって風力や太陽光などの再生可能エネルギーを大規模に導入し、火力発電を減らした結果、バックアップ電源としての天然ガスが足りなくなったという事情がある。それに加えてロシアがウクライナに軍事侵攻し、石油や天然ガスの主要産出国であるロシアに対して経済制裁を始めたことが、エネルギーの高騰にますます拍車をかけている。エネルギー危機の実態と原因を調べてみた。

 

 スペインのバルセロナでは昨年11月6日、昨年1年間で190%上昇した電気料金値上げに抗議して、約100団体の老若男女1800人がデモ行進した。集会で主催者は「今の状況の直接の責任者は多国籍電力会社であり、中央政府とカタロニア州政府は電力独占に屈した」「冬の寒さに震える貧困家庭に打撃を与える」と訴えた。参加者は「イベルドローラ(多国籍電力企業で日本の洋上風力にも参入している)が人々から収奪している」などのスローガンを叫んだ。

 

 イギリスのロンドンでは2月12日、数千人の市民がエネルギー価格の高騰に抗議してデモ行進をおこなった。参加者が持ち寄ったプラカードには「金持ちに課税せよ」などが書かれていた。参加者は「暖房費、燃料費、交通費、国民保険料の値上げは、賃金が抑えられ年金が削られているほとんどの労働者の生活を苦しめる」「政府は軍事費を減らし、国民の生活を保障せよ」と訴えた。イギリスでは政府がエネルギー料金の上限を54%引き上げたため、この4月から平均的な家庭のエネルギー料金はこれまでより50%以上跳ね上がるといわれている。

 

ロンドンで燃料費値下げを要求するデモ(2月)

スペインで昨年9月に行われた電気料金値上げに反対するデモ

 

 ベルギーのブリュッセルでは2月27日、高すぎるエネルギー価格と背後で莫大な利益をあげている多国籍企業に数万人が抗議した。ギリシャでは中部のラリサ近くの高速道路で、2月13日、エネルギー価格上昇に抗議する農民たちがトラクターデモをおこない、10日間にわたって高速道路を封鎖した。

 

 そのほかイタリアでは2月10日午後8時から、全国8000以上の自治体が一斉に公共照明を消すデモンストレーションをおこなった。電気料金や燃料費の上昇で、このままでは都市の安全を保障する公共照明をはじめ、市民サービスを削減しなければならなくなると訴え、政府の対策を求めた。

 

 欧州では今、「エネルギー貧困」が大きな問題になっている。昨年末から厳しい冬を迎えているのに、電気・ガス料金の高騰のために部屋を暖房で十分温めることができない人が5000万人以上(全人口の1割以上)いると見られているからだ。この層は、貧困層が多いうえに冬の気候がより過酷な東欧諸国だけでなく、イギリス、フランス、ベルギーなどでも増えており、先進国で凍死者すら生み出している。

 

高まる天然ガスの需要 欧州は4割露に依存

 

 こうした電気料金や燃料価格の高騰はなぜ起こっているのか?

 

 欧州の場合、EUが脱炭素政策に舵を切り、風力や太陽光を増やす一方、石炭や石油を燃料とする火力発電所を次々と縮小・廃止してきた。そのなかで同じ化石燃料でもCO2の排出量が少ないといわれる天然ガスが引っ張りだこになっている。とくに昨年、欧州では年頭から夏にかけて風の弱い日が続き、風力発電量が低迷したことが、天然ガスの逼迫に拍車をかけ、価格が高騰した。

 

 太陽光発電は雨や曇りの日、そして夜は発電できないし、風力発電は風が弱すぎても強すぎてもダメ。電気は使用量と発電量がほぼ同じになるように常に調整されており、それが崩れると停電を引き起こしてしまう。だから、不安定な再エネの発電設備を増やせば増やすほど、バックアップのために天然ガス火力発電所の発電量を増やす必要があるわけだ。

 

 欧州の天然ガスの代表的指標といわれる「オランダTTF」先物相場は昨年12月、1㍗時当り180ユーロ(約2万2700円)を突破して過去最高値を記録。年初の7倍以上に達した【グラフ①参照】。

 

 さらに今年2月24日にも、前日終値から6割以上値上がりし、1㍗時当り136ユーロ(約1万7000円)となった。それが電気代の値上げに跳ね返って、欧州市民の生活を直撃している。EUの脱炭素政策がエネルギー価格の高騰と物価上昇を招いていることから、「グリーンフレーション」という言葉が生まれたほどだ。

 

 それに加え、ここに来て大きな問題になっているのが、欧州が天然ガスの約4割をロシアからの輸入に依存していることだ。しかも天然ガスの生産とパイプラインの敷設には巨額の投資と長年にわたる開発期間が必要である。

 

 天然ガスの主要生産国の一つ、カタールのアルカアビー・エネルギー相は、アメリカからの輸出要請に対し、「ロシアの対欧州ガス輸出が停止した場合、世界中のどの国もその穴を埋める力はない」と語った。もしロシアの輸出が欧米の経済制裁で止まるようなことになれば、それは欧州全域の人々の生活を脅かすことになるし、欧州では天然ガスを使う企業が多いので、操業停止をよぎなくされる製造業が続出する可能性もある。

 

 でも、天然ガスはEUや英国にも豊富に埋蔵されているのでは? だがこれも、「地球温暖化防止」のかけ声のもと、石油・ガス企業への開発投資は縮小続きで、事業の売却すら進めている。したがって新規開発は望むべくもない。

 

 今欧州はウクライナ危機に直面し、大慌てで世界中の液化天然ガス(LNG)をかき集めている。ところがアジアでは、昨年10月頃から中国によるLNGの爆買いが始まり、1~2月到着分のLNGの値段は急騰している。欧州がそれを手に入れようとすれば、アジア諸国以上の価格を受け入れるしかない。

 

 あるエネルギー問題研究者は「ヨーロッパは再エネばかり重視して、エネルギーを安定供給できなくなっている。それはみずから大規模停電のお膳立てをしているようなものだ」と指摘している。

 

電気代欧州一のドイツ 負担を消費者に転嫁

 

 EUのなかでもドイツは、2000年に「再生可能エネルギー法」を制定してFIT(固定価格買取制度)をつくり、他国に先駆けて風力や太陽光の導入を進めてきた。

 

 福島原発事故をきっかけにドイツは2022年までの「脱原発」を決め、今年末までに現在稼働中の原発3基を廃炉にすることで原発ゼロを達成する。また、2038年をめざして脱石炭も進め、昨年1月には11の石炭火力発電所を閉鎖(合計470万㌔㍗)し、今年中にはより多くの火力発電所を閉鎖することを決めている。

 

 こうして再エネは電源構成の四割をこえるまでになったが、その結果バックアップのための天然ガス火力の増設が不可避となっている。しかも、その天然ガスはロシアにどっぷり依存しており、2020年のドイツの天然ガス輸入量のうち55・2%はロシアからだった。ドイツ電力大手RWEのマルクス・クレッバー社長が「ロシアが天然ガスの供給をストップしたら、ドイツの備蓄タンクは数週間で空になる」と警告したほどだ。

 

 同時にドイツは、不安定な再エネを補うために、近隣のフランスやチェコから相当量の電力を輸入しなければならない。ヨーロッパは送電線がつながっているからそれができるわけだが、輸入電力の多くは原発だ。

 

 問題はそうして再エネを進めた結果、ドイツの家庭用電気料金が欧州一高くなったことだ【グラフ②参照】。というのも、ドイツのFITは日本と同様、太陽光や風力の電気を高い価格で20年間買いとることを保証するものだが、その原資は国民から徴収する電気料金の中に含まれる再エネ賦課金だ。だから再エネが増えるにつれて電気料金もどんどん値上がりし、2000年に13・94ユーロ㌣/kWhだったものが、2022年には36・19ユーロ㌣/kWhと3倍近くに跳ね上がった。ただし2021年からは国が一部負担することで賦課金は下がったが、逆に天然ガスなどが値上がりし電気料金も上がった。

 

 

 もう一つの問題は、これも再エネを普及するために、ドイツでは2020年11月、改定燃料排出量取引法を発効させた。CO2の排出量に応じて企業などから課金をとり立てるもので、「炭素税」と呼ばれている。ドイツの炭素税は2021年にはCO21㌧当り二五ユーロ、今年は1㌧当り三〇ユーロ、来年は三五ユーロと毎年上がる。それにともなってガソリンやガスが値上がりしている。

 

 ちなみにEUはこれと同じカーボン・プライシングの一つとして、輸送と住宅部門に燃料供給をおこなっている事業者を対象に、新たなCO2排出量取引制度を2025年から始めようとしている。

 

 これに対して欧州労働組合連合は「フランスの炭素税引き上げが招いた黄色いベスト運動のような抵抗を欧州全土で引き起こし、環境上の効果はほとんどないだろう」との声明を出した。

 

米国では停電で凍死も 電力自由化も影響

 

 さて、実際に停電が頻発しているのがアメリカだ。

 

 2021年2月15日から16日にかけて、マイナス10度以下の記録的な寒波が襲っていたテキサス州で大規模停電が発生。約450万人が電力供給を受けられなくなり、暖房も照明もない日々を強いられて凍死者まで出した。これほどの規模の停電は米国の歴史始まって以来といわれる。

 

 原因の第一は、州内の風力発電所のタービンが凍結したことだ。テキサス州は全米一の風力発電導入州で、大停電の直前には総設備容量2920万㌔㍗の風力発電が導入されていた。ところがそのうちの半分、1600万㌔㍗の風車が凍り付いて動かなくなり、発電量が激減した。天候に左右される再エネの脆弱性がここでも暴露された。

 

 また、天然ガス火力や石炭火力がそれをバックアップするために稼働率を上げたが、電力需要の急増に対応できなかった。というのも、「脱炭素」のかけ声のもと、火力発電を敵視して次々と廃止してきたからだ。さらに悪いことには極寒で一部のガスパイプラインが凍結し、ガス供給がストップした。

 

 加えて、電力自由化の弊害があげられる。

 

 テキサス州は電力自由化がもっとも進んだ州の一つとされるが、同州は電力自由化後、容量市場(将来必要な供給力をあらかじめ確保しておくもの)を導入せず、すべてを市場に委ねた。凍結防止にも設備投資をしていなかった。つまり「電力の安さ」のために安定供給が犠牲にされたわけだ。

 

 そしていざ電力供給の逼迫が起きると、電気料金は何十倍にも急騰した。このときも電力卸売り価格が50㌦から9000㌦(5200円から95万円)と20倍に急上昇し、一般家庭の電気代請求額が数千㌦となる異常事態になった。

 

 さらにテキサス州は、電力系統連携網で他の州とほとんどつながっていなかった。そのことも事態の悪化に拍車をかけたといわれる。

 

 それと同じ事態が前年のカリフォルニア州でも起こっている。2020年8月14、15日の両日、カリフォルニア州は電力不足が原因で大規模な輪番停電を実施した。それは記録的な熱波(州中部のデスバレーで54度)の最中におこなわれ、約200万人に影響した。

 

 その後、原因は同州が再エネを導入しすぎたからだという報告書が出された。報告書によると、日没とともに太陽光発電所の発電量は急減したが、熱波の影響は日没まで残り、多数の市民がエアコンを利用して急激に電力需要が高まった結果、パンクした。同州では石炭火力や天然ガス火力、原発を閉鎖し、太陽光発電に置き換えてきた。

 

 アメリカではこうした事態が近年頻繁に起こり、人々の生活や生命すら脅かしている。

 

日本でも各社が値上げ エネ源も海外依存

 

 日本でもそれは他人事ではない。東京電力は今年1月6日、管内の電力需要に供給が追いつかず、原発2基分に相当する約200万㌔㍗を関西電力などから融通を受けた。この日は年始の企業活動再開の日であったうえ、都内の気温が日中でも一度を下回ったことが重なった。

 

 電力需要が高まったが、悪天候で太陽光発電の稼働率が低下して供給が追いつかなかった。電力の安定供給のためには、供給力が最大需要を最低3%以上上回る必要があるとされるが、今回その最低ラインに迫ったというわけだ。経産省の3月までの全国電力供給見通しを見ても、1~2月は各電力会社とも余力がないギリギリ状態で、こんなことは過去10年間なかったことだという。

 

 そして、電気料金の値上げが家計を直撃している。大手電力会社10社は最近、4月の電気料金値上げを発表した【表参照】。電気料金は、毎月変わる燃料費調達単価で変動するが、LNG(液化天然ガス)や石炭などの輸入価格が高騰したためだ。日本はLNG火力の比率が全電力の38%と高く、またほとんどを輸入に頼っているため(世界第2位の輸入国)、欧州ガス危機の影響をもろに受ける形となった。

 

 今回値上げしたのは7社だったが、北陸電力と関西電力、中国電力は3月分で料金に上乗せできる上限に達していたため値上げできなかっただけだ。大手電力会社の一斉値上げはこれで8カ月連続となった。すでに今年2月の電気料金は、電力会社によって金額は異なるが、「平均的な家庭」で1年前より785~1636円上がっている。

 

 それに再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の値上げが加わる。再エネ賦課金は風力や太陽光の電気を高い価格で買いとる原資になるもので、電気料金に含めて徴収されている。それが毎年5月に改定されて年々値上げになっており、いまや標準家庭の負担額は年間1万~2万円になっている。

 

 政府は2050年までのカーボン・ゼロを掲げ、洋上風力4500万㌔㍗の導入などをうち出しているが、不安定な風力や太陽光を増やせば増やすほど、電気料金は値上がりし、停電の危機は現実のものとなる。欧州のように隣国と送電線がつながっていない日本の場合、ダメージがより大きくなることは想像に難くない。

 

温暖化対策掲げ凍える 生活が投機の具に

 

 こうした再エネ導入による新たな産業創出を求めているのが、欧米の強欲な金融資本や投資家だ。

 

 それは、米国のオバマ政府のグリーン・ニューディールに始まる。そして2015年、気候変動枠組条約に加盟する196カ国が、「産業革命前からの気温上昇を1・5度に抑える」というパリ協定に合意した。またこの年の9月には、英国の中央銀行であるイングランド銀行総裁(当時)のマーク・カーニーが、「気候変動リスクの情報公開が、企業が投資を得るための条件の一つとなる」と演説した。

 

 マーク・カーニーは米投資銀行ゴールドマン・サックス出身で、現在は国連気候変動問題担当特使の地位にいる。彼は昨年、「ネットゼロのためのグラスゴー金融同盟」を発足させた。同盟には銀行や保険会社、資産運用会社など45カ国・450機関が参加し、世界中の投資資金を脱炭素に集中させる運動をおこなっている。

 

 そのもとで、「ダイベストメント」といって、石炭火力をはじめ大量のCO2を排出する新案件に対し、企業の撤退を迫るムーブメントが世界中で起こるようになった。各国の石炭火力廃止の背後にはこうした動きがある。再エネ先進国のドイツでは、国や州政府から資金援助を受けた環境NGOが政府の専門委員会に加わったり、国際会議にオブザーバーとして参加したりして「地球の危機」を煽っている。

 

 そして世界最大の資産運用会社ブラックロックのラリー・フィンクCEOが2020年1月、「気候変動を軸にした運用を強化し、情報開示を怠った場合、その企業の決定に株主として反対票を投じる」と宣言した。ブラックロックはバイデン政権にも出身者2人を送り込んでいる。こうして世界的な超金融緩和のもとでありあまった投資資金が、新たな投資先として「脱炭素」に殺到している。

 

 だが、「脱炭素」のマネーゲームのために、電力の安定供給は破壊され、社会の存続そのものが脅かされるという本末転倒した事態になっている。「地球温暖化」を阻止するはずが、人々は厳冬のもとで停電や凍死すら覚悟しなければならない。こうした反社会的な再エネ・ビジネスにストップをかけようとの世論は、ますます大きくなっている。

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