いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「熱狂」とファシズム

 戦争反対! それは初めからはっきりしている。無辜の民衆が殺されるようなことは、いかなる国際情勢においても許されることではない。当たり前の話ではないか。ところがどうだろうか。ウクライナ危機の深層や歴史的経緯、そもそもの発端などどこ吹く風で、またそのような地政学的な事情など思考することすら放棄しながら、もっぱら西側から垂れ流される情報だけを見て、反ロシア、反プーチンに染まらなければけしからんというような、極めて一方的かつ極端なファシズムの空気が覆っているではないか。そうでない客観的立場に身を置こうとすると、「どっちの味方なのか!」と迫ってくる圧もすごいものがある。「プーチンの肩を持つのか!」「戦争反対じゃないのか!」などといってくる者もいる。ウクライナの民衆が逃げ惑わなければならない状況に同じように心を痛めているのに、なぜ、バイデンやゼレンスキーの味方でなかったら戦争を肯定しているかのような烙印を押され、プーチンの味方になるんだよ! どっちの味方でもねーよ! と思うのである。

 

 なぜ、どっちかの味方でなければならないのかも意味不明である。欧米vsロシアの矛盾に緩衝国家として巻き込まれたウクライナの民衆の生命を脅かさないためにも、一刻も早く停戦交渉に持ち込む第三国の介在が必要であり、そのためにはさし当たり焦眉の矛盾についても棚上げするくらい、ロシアに対しても粘り強く交渉できる客観的仲介者がいなければならないのに、そうではなく、一方のプレイヤーである欧米側すなわちアメリカをはじめとしたNATOの側に与して、プーチン悪玉論の側にいなければたちまちバッシングを浴びせるような空気が醸成されている。ネオコンのプロパガンダも大概である。

 

 そして、「ウクライナ可哀想」から感情を高ぶらせて、なかには「プーチンを暗殺してしまえばいいのに」「ロシアにミサイルを撃ち込んだらいいんだよ」などと真顔で口にする人たちまで出てきているのを見ると、「ウクライナ可哀想」「戦争反対」といいながら、人を殺すなどと他言するのに境界線がなくなっていることに戦慄するし、ミサイルを撃ち込め(ロシアの民衆はどうなる?)などと平然と口にし始める様にも鳥肌が立つ。その「正義」もまた極めて暴力的で、いざ西側がロシアにミサイルを撃ち込む事態までエスカレートした場合、まさに報復の連鎖となって第三次世界大戦が現実のものになるという冷静な想像力は働かないのだろうか…余計にでもウクライナ危機が深まり、そのもとで民衆が犠牲になるだけではないか…とも思うのだ。ウクライナ、ロシア両国の正規軍だけでなく各国の傭兵までが入り込み(誰がカネを出しているのか?)、民族主義者も暴れているという複雑極まりない状況のなかで、仲介できる第三国の存在がないことの方が世界にとって危険であろう。戦火の広がりで小躍りしているのは、いつもネオコンや軍産複合体なのである。

 

 冷静さを失ったこの「熱狂」に与するわけにはいかないと強く思う。メディアでは扇情的な「ウクライナ可哀想」が連日のように垂れ流され、そもそもの軍事衝突の原因であるNATOの東方拡大及びアメリカの歴史的な挑発行為についてはまるで触れようとしない。原因を解決しないことにはウクライナ危機は収まりようがないのに、そしてウクライナの民衆が逃げ惑わなければならない状況の解決にはなりようがないのに、である。国際社会に客観的立場を有する者がおらず、停戦交渉の仲介者すら現れず、「ロシアをやっちまえ!」だけがたけなわになるというなら、それはかつて「暴支膺懲(ぼうしようちょう・横暴な支那を懲らしめろ)」を叫んで突っ込んだ悲劇と何ら変わりないではないか。性懲りもなく「熱狂」を煽り上げるメディアもまた犯罪的である。

 

 世界の平和を思うなら、ネオコンのプロパガンダに踊らされるわけにはいかない。人々が血を流すことによって銭を稼いでいる連中が、ウクライナにおいてもネオナチをルーツにした民族主義者たちを囲い、オデッサの悲劇等々、2014年から引き続く混乱のなかでもウクライナ国内を引き裂いていることなど、複雑に絡み合ったすべての事情や関係を客観的に見ないわけにはいかない。ジョージ・ソロスが何をしてきたのか、NED(全米民主主義基金)がどれだけのカネを注いで介入してきたのかもすべて開帳させて、ウクライナを巡って何がやられてきたのか明らかにすることも必要であろう。まずは停戦交渉が急がれるが、ウクライナに火を放ってきた放火魔たちの存在も炙り出さなければ、ウクライナの民衆にとって平和などもたらされないのだ。

 

 NATOの東方拡大というけれど、それは旧東欧諸国の民衆を西欧諸国の資本が格安の労働力として弄び、新自由主義の草刈り場にしてきた歴史でもあるわけで、ウクライナに限らぬこの30年来の東欧諸国の民衆の苦難についても考えないわけにはいかない。 武蔵坊五郎

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