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欧州で広がる農家の大規模デモ 「誰が国民の胃袋支えているか」 ドイツ、フランス、オランダ…農業悪玉論に怒り爆発

ドイツ政府の農業政策に抗議してベルリンで集会を開く数万人の農家(昨年12月18日)

「かたつむり運行」で道路を封鎖するフランス農民たち(ロワレ、1月24日)

政府に抗議するため市街地に羊の群れを追い込む畜産農家(1月26日、フランス南西部ドラギニャン)

 ドイツでは1月8日から約1週間にわたり全国の農民約3万人が約1万台のトラクターで各地の幹線道路や高速道路を封鎖し、首都ベルリンに押し寄せ、首都機能もまひする大規模な抗議行動をおこなった。きっかけとなったのは、農家向けの補助金削減への反発だったが、背景には「地球温暖化の原因は農業にある」として、「脱炭素」政策のターゲットとして農業を悪者扱いする政府への鬱積した怒りがある。農民の大規模な抗議行動は、同じように「脱炭素」政策の犠牲が押しつけられている手工業者や運送会社、トラック運転手、各種自営業者など広範な国民の支持を集めた。ドイツ政府は無視できずに譲歩案を示したが農民の抗議行動を押しとどめることはできなかった。農民の大規模なトラクターデモはドイツだけではなくオランダやフランス、ポーランドなどEU各国であいついでとりくまれている。今ヨーロッパの農業や農家が直面している問題について見てみた。

 

農業が地球温暖化の主因か?

 

標識にぶら下げられた長靴(ドイツ)

 ドイツでは、昨年12月中旬から、政府に対する農民の抗議のシンボルとして、あちこちの市町村の道標にゴム長靴をぶら下げる行動がめだってきていた。「私たち農民が長靴を脱いで仕事をやめると、食料が足りなくなるぞ」という警告だった。

 

 農民の抗議行動のきっかけとなったのは、ショルツ政府が2022年にコロナ禍対策向けの予算のうち、使われずに残っていた600億ユーロ(9兆6000億円)の国債発行権を、経済の脱炭素化やデジタル化のため基金流用し、連邦憲法裁判所が昨年11月15日にこの予算措置に違憲判決を下したことだ。この判決によって2024年度予算に170億ユーロ(2兆7200億円)の不足が生じた。

 

 ショルツ政府は不足する170億ユーロの穴埋めのために、農家向け補助金の削減をもくろんだ。ドイツ政府は1992年以来農業向けトラクターの車両税を免除してきた。また、農業用ディーゼル燃料にかかるエネルギー税についても、税制上の優遇措置を実施していた。

 

 ショルツ政府は昨年12月13日、これらの農業補助金を突然、「二酸化炭素削減に逆行する補助金」とし、2024年から廃止する方針を発表した。補助金廃止によって農家全体の税負担は9億ユーロ(1440億円)増えることになった。

 

 これに対し、ドイツ農民連盟は昨年12月18日からベルリンで抗議デモを実施し、約1700台の大型トラクターがベルリンの主要道路を封鎖した。

 

トラクターを集結させてブレーマーハーフェンのコンテナターミナルの道路を封鎖した農民(1月10日、ドイツ)

 農家に対して補助金削減を強行する他方でショルツ政府は違憲判決後も、化学メーカーや製鉄所の生産プロセスで使われる化石燃料を水素に切り替えるための補助金や、外国の半導体メーカー工場を誘致するための補助金は温存してきた。そのしわ寄せが農家にふりかかった。これに農民の怒りは爆発した。

 

 農民たちは「ベルリンの政治家や官僚たちは、現実世界から切り離された“バブル”のなかで、畑で汗水垂らして働いたことのないコンサルタントやアドバイザーの意見だけを聞いて政策を決めている」と主張しており、各地で政府に対する農民の強い不満が噴き出した。

 

 農民たちの抗議デモに恐れをなしたショルツ政府は1月4日に、農業用トラクターへの車両税導入撤回、農業用ディーゼル燃料への税制上の優遇措置も一度に撤廃するのではなく、2026年までに3段階にわけて撤廃するとの譲歩案を示した。

 

 だが、ドイツ農民連盟は農業用ディーゼル燃料への税制上の優遇措置の廃止も撤回することを求め、当初の予定通り1月8日から約1週間にわたる全国的な抗議行動に突入した。


 今回の農民デモのきっかけとなったのは、70年以上続いてきた農業補助金の廃止に怒りが爆発したものだが、農民の怒りの根はさらに深く、ヨーロッパ全土に広がるEUの「グリーンディール」政策にもとづく農業破壊の強行に向けられている。

 

 EUは2019年に「温室効果ガスの削減」と「経済成長」の両立を掲げ、EUの新たな成長戦略に据えた。それから5年が経過するが、この政策によって「成長」したのは一部の再エネ関連産業のみという現実が赤裸々になっている。他方で中小規模の農業をはじめ広範な国内産業が犠牲になっており反発は国民的な規模に広がっている。

 

 ドイツでは2023年にハーベック経済気候保護大臣が、建物からの二酸化炭素(CO2)の排出量を減らすために「2024年1月1日以降、エネルギー源の65%が再生可能エネルギーではない暖房器具の新設を禁止する」という法律を制定しようとしたが、市民の激しい反発で法律の内容を大幅に緩和し、暖房の脱炭素化を4年間延期せざるをえなかった。

 

 また、2022年には同大臣は、ロシアのウクライナ侵攻後に天然ガスの仕入れ価格が急騰し、経営破綻の瀬戸際に追い込まれたエネルギー関連企業を救済するために、すべての消費者から天然ガス賦課金を徴収すると発表した。だが、これも反発が強く、実施直前に撤回せざるをえなかった。

 

 ドイツ政府は再生エネルギー導入の最先頭を走っており、太陽光パネルも風車も増設されているが、電気の供給は不安定化し、料金は上がり、CO2の排出量ではEUでは1位、2位を争っている。肝心の経済は高い電気代とさまざまな規制でがんじがらめになっている姿が浮き彫りになっている。農業もこうした脱炭素政策に追い詰められた部門の一つになっている。

 

 ドイツの農業政策は、酪農はメタンなど温室効果ガスを排出するので縮小し、農薬や化学肥料を使わない有機農業の面積を強制的に広げるとしている。牛や羊のげっぷに含まれるメタンガスは温室効果ガスのひとつとして悪者扱いされている。連立政府に参加している緑の党は、温室効果ガス削減を掲げて肉を食べることを嫌い、自動車に乗ることも飛行機に乗ることも悪とし、自転車に乗ることを推奨している。一部の過激な菜食主義者は牧畜を「動物虐待だ」と非難し、肉の消費を敵視し、食肉店の襲撃もおこなわれるという。こうした方向が「人造肉」や「食用コオロギ」に行き着いている。

 

 ちなみに国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書によると、世界における温室効果ガスの内訳は、76%がCO2、次に多いのがメタンで16%、亜酸化窒素6・2%、フロン類が2%と続く。ドイツでは、温室効果ガスのうち、おもに酪農・畜産業に由来するメタンや亜酸化窒素などの比率が20%と高い。日本の場合は食生活の違いもあり、メタンなどは微々たるものだ。圧倒的なのはCO2で9割以上を占めている。

 

脱炭素掲げ農家を淘汰 食料価格高騰の最中

 

トラクターデモをおこなうオランダの農家(1月31日、ブラバント州)

 2022年6月にはオランダで農民の大規模なデモがおこなわれた。オランダ政府が2030年までに窒素排出量を50%削減するとの目標をうち出したからだ。財務省の試算では、目標達成のためには、4万~5万軒ある農家のうち1万1200軒を廃業に、1万7600軒は規模を3分の1から2分の1に縮小することになる。政府は廃業する農家には補償を出したが、そのかわりに二度と農業に復帰しないと約束させた。また、それでも立ち退かない農家の土地は政府が強制的に没収した。

 

 政府の政策の根拠となったのは最高行政裁判所の機能を有するオランダ国務院が2019年、オランダ政府に対し、同国の窒素排出がEU規制に違反しており、過剰な窒素排出を許可すべきでないとの判決をくだしたことだ。

 

 オランダは他の国々に比べて酪農・畜産が盛んだ。九州と同じぐらいの面積だが、世界で米国に次ぐ2番目の農産物輸出国だ。人口1740万人に対し、1200万頭の豚、400万頭の牛、1億羽の鶏がいる。それらが糞尿やゲップを出して窒素やアンモニアの排出量を増やすとEUからやり玉にあげられた。

 

 EUは、すべての産業活動に対して、温室効果ガスを出すか出さないかで「善」か「悪」かにわけ、それを加盟国にも押しつけており、オランダ政府もその方針で突き進んでいる。

 

 オランダの伝統的な基幹産業である牧畜や酪農を破壊する政策に対して農民が立ち上がった。農民は「この排出基準を守るためには、農家は違う場所に引っ越すか、廃業するかしかなくなる」と声を上げ、何百台もトラクターを連ね、スーパーマーケットや主要道路を封鎖し、高速道路に家畜の糞尿を撒いたりした。この抗議行動に国境を接するドイツの農民も応援に加わった。

 

 ドイツでは、やり玉にあがっているのは酪農・畜産だけではない。

 

 緑の党の農業大臣は、「休耕地を増やし、土地を自然な状態に戻そう」と呼びかけている。緑の党は「農業は自然を荒らす」という理屈をつけて農業をやり玉にあげ、先人が何百年もかけて開墾した肥沃な農地の少なくとも一割をただの原っぱや湿原地にもどすことを掲げている。ただ、この主張は食料難が迫るなかで非難世論が噴き上がり、実施には至っていない。

 

 だが、こうした「温室効果ガス削減」を掲げて酪農や畜産、伝統的な農業をやり玉にあげる動きは、とくに中小規模の農家を追い詰め、ここ数年廃業に至るケースも増えている。他方で、中小規模の農家が手放した農地を大規模農家が買いとっており、農業の寡占化が進んでいる。

 

 農民のトラクターデモはヨーロッパ各地でおこなわれている。フランスでは1月中旬に南部のオクシタニー地域での道路封鎖に始まり、1週間後には農民組合の呼びかけで全土に広がった。農業を温暖化の原因とする政府が農業への補助金を削減したり、規制を強化したりしていることへの抗議行動だ。

 

農業危機を訴え、国旗を揚げて抗議集会を開くポーランドの農民たち(1月24日)

 ポーランドでも1月24日、欧州グリーン・ディールの導入とウクライナからの農産物流入に反対して全土の250カ所で農民たちが道路封鎖の抗議行動をおこなった。農民はグリーン・ディールが排出ガス規制の一環として毎年4%の休耕(耕作地として維持しながら農業生産には使用しない)とすることを批判した。

 

 ルーマニアでも1月10日から4500台のトラックやトラクターで道路封鎖行動をおこなっている。リトアニアでも1月23日から26日まで農業への補助金削減に反対し、5000人以上の農民が1300台のトラクターで抗議行動をおこなっている。

 

食料ビジネス再編狙う 多国籍食料メジャー

 

 EUは2019年末にグリーン・ディールの大方針として「サスティナブルを欧州の成長戦略とする」と発表した。そこでは農業や食を重点産業として位置づけ、「リジェネラティブ・アグリ(環境再生型農業)」と称して2030年までに欧州の農地の4分の1をオーガニックに転換するとの目標を掲げている。そこで進んでいるのは、民間企業や投資家による大規模な投資だ。

 

 米国では、2019年に約70の投資プロジェクトが475億㌦(約5兆4300億㌦)以上の運用をしている。アウトドアブランドのパタゴニアなどが有名だ。そして今後30年間に、リジェネラティブ・アグリに約7000億㌦(約80兆円)を投資すれば、10兆㌦(約1140兆円)が得られると試算している。

 

 EUのグリーン・ディール政策では、農薬や化学肥料が人間や土壌に害を与えることを強調し、使用規制を強め、有機農業を推奨している。中小の農家にとっては、農薬や化学肥料の害はわかっているものの、それにかわるものはなく、有機農法だけでは収穫は半減し、食料安定供給も保障できない。EUは農薬や化学肥料の使用規制を強めると同時に、新ゲノム技術を「食料システムの持続可能性と回復力を高めるための革新的なツール」として推奨している。そして「気候変動に強く、病害虫に強く、肥料や農薬の使用量が少なくて済み、収量を確保できる改良品種の開発を可能にし、化学農薬の使用量とリスクを半減させる」としている。

 

 また、EUは昨年、食肉に関して牛の幹細胞を増殖させ、それを材料に牛を殺さずに本物の肉を3Dプリンターでつくるという技術が開発されたと発表した。中小の農家を酪農・畜産から追い払い、巨大企業が技術開発によって酪農・畜産分野を支配しようというものだ。「温室効果ガス削減」の名のもとに農業をやり玉にあげて中小の農家を廃業に追いやる一方で、進められているのは、農業分野を巨大企業が新ゲノム技術などで独占的に支配する方向だ。

 

 1月15日からスイスで開かれたダボス会議では、「農業が温暖化の原因」とされ、バイエル社CEOのビル・アンダーソンは「コメの生産はメタンの最大の発生源の一つであり、温室効果ガスの排出という点ではCO2の何倍も有害」と発言した。バイエル社はドイツの企業だが2016~18年にかけて遺伝子組み換え種子の世界最大手である米モンサント社を買収しており、世界の食の支配を狙う勢力として注目されている。

 

 日本では2018年に種子法が廃止され、コメや麦、大豆など重要作物の種子を国の責任で安定的に供給する制度をなくし、民間企業が種子をもうけの道具にすることに道をあけた。バイエル社CEOの発言は、そこに目をつけ日本のコメをターゲットにし、バイエル社が開発したF1種子を買わなければならないようにしようという企みも見える。

 

 気候変動をはじめとする環境の悪化や環境破壊は、自然を顧みない市場原理に基づく利益追求による開発、工業化による結果にほかならない。だが、農業や稲作、畜産など人類の古代からの営み、牛や豚のげっぷなどの自然の摂理までが地球温暖化の主因であるかのような論議がダボス会議でもおこなわれている。

 

 環境破壊どころか、農家があり、農業があるから治山治水が維持され、人々の住環境と動物の棲み分けやその狭間で起きるさまざまな問題が解決されてきたことは言を俟たない。そのような自然の摂理に従った人類の伝統的な営みを破壊し、市場経済での競争力を高めると称して大規模化したり、農薬や化学肥料などを多用して収量を上げる生産性一辺倒の「効率化」を進めてきたことにこそ問題があり、農業による環境破壊を問題にするのなら、過剰な市場競争を排し、より人にも環境にも優しい農業への転換を促すものでなければならないはずである。

 

 田に水を張ることも否定し、既存の農畜産業のあり方を根本から否定する先に、彼ら投資家らが意図しているものは、遺伝子組み換えやゲノムなどバイオやIT技術などを駆使し、デジタル農業、人工肉や人工卵、昆虫食などを新しいビジネスモデル(日本でも「フードテック」として政府が推奨)を構築し、既存の農業を淘汰して一部の多国籍企業が世界の農地、食料、アグリビジネスを独占・コントロールするというものに他ならない。これらはビル・ゲイツをはじめとする投資家が現実に主張していることでもある。

 

 「地球温暖化防止」や「脱炭素」「温室効果ガス削減」などを掲げて、農業や自動車、発電、エネルギーなど各分野で国家の強力な介入で新たな産業分野が形成され、従来の産業構造が根こそぎなぎ倒されている。かつては石油メジャーがエネルギーで世界を支配したように、今は再エネ産業の巨大資本がそれにとってかわろうとしている。

 

 ドイツなどヨーロッパでまきおこっている農民の大規模な行動は、「地球温暖化防止」などを掲げたEUや各国政府の巨大な産業構造転換政策とのたたかいであり、広く国民の支持を得ている。また全世界的に農業や農民が直面している共通課題に対するたたかいでもある。

 

農家が連続的に大規模集会を開いているドイツ(1月15日、ベルリン)

ブランデンブルグ門前での抗議行動(1月15日、ベルリン)

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