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アフリカの熱帯林を破壊する再生可能エネルギー 星槎大学共生科学部特任教授・西原智昭氏に聞く

 バイデン米大統領と菅首相がともに「温室効果ガス排出量を2050年までに実質ゼロにする」といい始め、太陽光発電や風力発電、電気自動車を増やす「脱炭素」「グリーン」を新たな成長戦略に位置づけている。しかし、風力も太陽光も電気自動車も、それをつくるためには大量の希少金属が必要であり、その希少金属を手に入れるために多国籍企業が「地球の肺」と呼ばれるアフリカの熱帯林を地域によっては根こそぎ伐採し、先住民の生活を奪っているという事実がある。アフリカで30年間生活し、熱帯林と生物多様性保全の仕事に従事してきた西原智昭氏(現在、星槎大学共生科学部特任教授)にインタビューをおこない、現地でいったいなにが起こっているのか聞いてみた。

 

30年間アフリカで生活 熱帯林保全に従事

 

 ――アフリカに行くきっかけはどんなことでしたか?

 

 西原 もともと京都大学で人類学を専攻していた。京大は歴史的にアフリカでの調査研究の伝統がある。私は人類とはなにかを純粋に知りたいという希望があって、人類の起源と進化を探る人類学研究室をしばしば訪ね、大学院もその研究室を選んだ。
 その研究室は、当時は次の三本柱を掲げていた。第一に、人類はアフリカから進化してきたわけだから、太古の時代を生きたアフリカの人骨、遺跡、遺物から検証する。第二に、進化の過程でわれわれにもっとも近い現生の動物、アフリカに住むゴリラやチンパンジーの生態や社会、行動を研究する。第三に、今でも人類の初源的な生活のあり方を続けている先住民族を調査する。

 

 私自身ははじめ、第一の柱の骨の研究をやっていたが、幸運にも1989年に京都大学調査隊の一員としてはじめてコンゴ共和国に行く機会を得た。そこで最初に研究対象に選んだのがゴリラだった。

 

 アフリカのど真ん中に広大な熱帯林地帯がある【地図参照】。コンゴ盆地といわれている場所だ。中央部西側に位置するのがコンゴ共和国で、フランスが宗主国で公用語はフランス語。国の人口は400万人弱で、国土の面積は日本とほぼ同じだ。東隣にはコンゴ民主共和国(旧ザイール)がある。もともと同じ民族だったが、植民地政策で二つに分かれた。私はその後、西隣のガボンにも行った。

 

 初めはゴリラの調査研究で入ったが、ゴリラが生きていけるのも森林という環境があってこそだということから、森林全体のこと、他の動物のことを調べ始め、そうした一連の研究を10年やった。その後、ニューヨークに本部がある国際野生生物保全協会(WCS)の自然環境保全研究員となり、20年間、熱帯林・生物多様性保全活動に携わった。日本に戻って大学の研究者になる道もあったが、現場で保全活動に貢献できる道を選んだ。

 

 協会に属してからは、調査研究もやるが、森林破壊によって野生動物にどのような影響が出ており、それをどのように解決していくかを、現地政府と協力する形で、政策提言したりその根拠となる科学的データを提供したりしてきた。

 

 コンゴに広がるのは長い歴史のなかで人の手から免れてきた原生の熱帯林で、そこは湿度が高くて(100%近い)ジメジメしており、ときには寒さを感じるほど気温が下がる、しかも見通しの悪い鬱蒼(うっそう)とした場所だ。しかし雨季はあるものの、雨量は年間1500㍉と日本よりも少ない。だからアフリカの熱帯林は「熱帯雨林」とは呼ばない。

 

 直径1㍍以上もある大木をなぎ倒す激しい雷雨もあるし、足を踏み外せば沈んでいく沼地の連続だ。森にはゴリラだけでなく、チンパンジー、幾種類ものサル、マルミミゾウ、アカスイギュウ、カワイノシシ、ダイカー(レイヨウ類。ウシ科の小型動物)、ヒョウ、そして猛毒の蛇もいるし、凶暴でうっとうしいと感じざるをえないあまたの虫の猛襲もある。私は森をよく知っている先住民の経験と知識を頼りに、彼らとそうした動物たちを追って森の中を歩いた。

 

湿地帯草原にいるゴリラの家族。左側にいるのが家族の長で、他はそのメスと子どもたち(西原氏撮影)

原生熱帯林の中のゾウの道(西原氏撮影)

 

 

森林や鉱物資源の開発 欧米や中国の企業進出

 

――そこで見た森林破壊の実際と、その原因について教えてください。

 

 西原 コンゴやガボンの森林を30年間見続けてきたが、森林が急激に消失し始めたのはここ20年ほどの話だ。そして、森林破壊の主要な原因もわかってきた。

 

 コンゴ盆地の住民の主食はキャッサバで、キャッサバは森林伐採した後に火入れをした地に植える。だから森林破壊の原因はそれだとよくいわれる。だが、そうではない。森林が大規模に破壊されている主要な原因は、自然資源採取を目的とした、先進国を中心とした国々に由来する開発企業の進出にある。

 

 自然資源のうち第一の問題は、熱帯林の木材としての輸出だ。ほとんどの日本人には知られていないと思うが、日本は世界の中でもアフリカ熱帯材輸出先のトップクラスに位置している。

 

 高度経済成長期、日本の企業は東南アジアに進出してマホガニーとかラワン材を大量に輸入した。しかし今、東南アジアではそうした木材がとれなくなり、新たな供給先として同じ熱帯のアフリカが注目されている。

 

 多国籍企業による無秩序な有用材の伐採が進んでいるが、植林が成功していない現状では、樹木の切り出しはアフリカの「原生の森」由来となっている。すでに各国政府によって設立された国立公園や保護区は、森林伐採地域に囲まれた「陸の孤島」のような状態だ。

 

 そして、森林の中につくられた木材搬出道路は、ブッシュミート(野生動物の肉)目的の過剰な狩猟を促進している。この森林の急激な減少によって、これまでコウモリを宿主としていたエボラウイルスなどのウイルスが、それに耐性を持たない人間や動物に触れる機会を増やし、新たな感染症拡大の原因となっている。

 

 もう一つの問題は、先進国による鉱物資源開発だ。鉱物資源は世界各地で開発が進んでおり、アフリカのコンゴ盆地は地球上でも有数の、あるいは最後の宝庫の一つになっている。鉄、ダイヤモンド、金だけでなく、希少金属の多くがここに偏在している。

 

 そのうえほとんどが森林地帯の地下にある地下資源であるため、それをとるためには、森林を根こそぎ伐採してから掘り起こさなければならない。いわゆる露天掘りというやり方だ。それで大々的に森林が破壊されている。

 

 ジャーナリストの谷口正次氏によると、アフリカ大陸の未開発の資源をめぐって、BHPビリトン、リオ・ティント、アングロ・アメリカン、デビアス、ニューモント・マイニング、セヴェルスタールといった欧米資源メジャーが争奪をくり広げてきたが、最近では中国が資源確保で影響力を強めているという(『教養としての資源問題』)。コンゴ盆地では、かつて宗主国であったヨーロッパの企業が多いが、ここ10年ぐらいは中国などアジア系の企業がたくさん入っている。これまで日本の企業はこの開発に直接には携わってこなかったが、開発に必要な資金供与として三大メガバンクがかかわったり、商社が自然資源の買い付けにきたりしている。

 

生産に必須な希少金属 電気自動車の場合

 

――電気自動車にはどんな希少金属が使われていますか?

 

 西原 排気ガスを出さない電気自動車の大きな問題は、バッテリーとしてリチウム電池を搭載していることだ。パソコンやスマホに入っているものの大型といえる。確かにリチウム電池は、これまでの電池に比べて蓄電量も多く長持ちする、最新技術の賜だ。ただリチウム電池をつくるには三つの希少金属--リチウム、コバルト、ニッケル――が不可欠だ。

 

 そのうちリチウムはかなり埋蔵量があり、森林破壊をせずに採掘できる。しかしコバルトはコンゴ民主共和国に偏在しており、コバルトを手に入れるためにコンゴ盆地の森林が破壊されている。ニッケルは、同じ熱帯のフィリピンやニューカレドニアの森林を破壊して調達している【グラフ①参照】。今自動車の年間総生産台数は約9000万台といわれるが、今後電気自動車を生産すればするほど森林破壊が進むことになる。

 

 そうした金属はリサイクルすればいいじゃないか、と考える人もいると思う。そういう努力をしている企業はもちろんある。ただ、電気自動車をつくる業界全体をまかなうほどの量をリサイクルするためには莫大なコストがかかり、まだ課題が残っている。

 

 また、深海底の鉱物資源から希少金属がとれることがわかっており、そのための技術力も日本の企業は持っているが、しかしそれにはもっと莫大な資金が必要で、今の段階では実現性がない。そのうえ深海のことはまだほとんどわかっておらず、鉱物資源を採掘することで海の生態系がどう変化するかは未知の世界だ。

 

 菅首相は2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする、そのために新車販売を電気自動車などの電動車にするといっているが、今の状態で電気自動車を大量生産すれば、日本ではCO2の排出量が少なくなっても、地球の裏側ではCO2を吸収する森林が消失していくことになる。

 

子どもたちも従事しているアフリカの鉱山の採掘現場

 

太陽光や風力発電は? 原料採掘で森林消失

 

――太陽光や風力にはどんな希少金属が使われていますか?

 

 西原 太陽光発電について、「ソーラーパネルは国産だ」といわれる。しかしパネルという板をつくるのは日本の工場でできるが、それに必要な資材のほとんどは輸入だ。ソーラーパネルの外枠のアルミニウムも海外の資源開発によって輸入している。

 

 また、電気を流す電線には銅が必要だが、世界中で使用しているために、いまや銅が希少金属になってしまった。これから再エネを新たにたくさんつくり、そのためにさらに銅線をつくって電力会社とつなげるということになると、はたして銅が足りるのかという問題がある。

 

 今日本で主流のシリコン系ソーラーパネルには、希少金属はあまり使われていない。ただ次世代型ソーラーパネルといわれるCIGS系は、集光力が大きいといわれるが、これには銅、インジウム、ガリウム、セレンという四種類の希少金属が使われている。

 

 このうちインジウムは、粉状にしてパネルの裏面に吹きつけて集光力を上げる。インジウムは、希少金属である亜鉛の精錬のときに出てくる副産物だ。そしてインジウムは毒性物質で、発がん性物質が含まれている。すでに人体に対する健康被害が懸念されている。

 

 問題は、今の技術ではソーラーパネルの耐久性は20年ぐらいで、20年後には産業廃棄物になることだ。産業廃棄物になった場合、すべての金属を区分けしてリサイクルに回すという技術があればいいが、大変なコストがかかるためにリサイクルはまだ産業化されていない。その場にそのまま放置された場合、インジウムという毒性物質が環境中にどのように拡散され、人間に影響を与えていくかはわかっていない。

 

 環境省の資料では、今の勢いでインジウムを採掘すれば、あと約20年で枯渇してしまうという【グラフ②参照】。今、「ソーラー、ソーラー」と騒いでいるが、20年後にはそれをつくるのに必要なインジウムが地球上からなくなってしまう。それまでにリサイクル技術は完成するのだろうか。そういうことが検討されないまま進んでいると思う。

 

 風力については、風車の柱となるのは巨大な鉄のかたまりで、日本でそれをつくるには鉄鉱石をさらに輸入しなければならない。日本の鉄鋼業界は日本の中で二酸化炭素をもっとも排出している産業であり、鉄をさらにつくると、風力のためにもっと二酸化炭素が出る。コンゴの森林地帯でも鉄が出る場所があり、森林を破壊して鉄をとっている。鉄も使えば使うほど、掘れば掘るほど森林がなくなっていく。

 

 また、風車にはモリブデンという希少金属が使われている。モリブデンはアフリカにはなく、中国や南米のチリにあり、日本はチリから輸入している。これも希少金属である亜鉛とか他の鉱物資源を精錬することでできる副産物だが、このモリブデンもあと数十年で枯渇してしまうという。

 

 モリブデンは風車のブレード(羽)を回転させるときの、内部のモーターの潤滑油に使われている。摩耗を防止するための添加剤だ。モリブデンのような添加剤がないと、ブレードが回るときに摩擦が生じて故障の原因になる。モリブデンは風力発電にとって必須な希少金属だ。

 

 さらに、太陽光や風力は自然界の気象条件に左右される不安定な電源なので、それを解決するために大型蓄電池をつくるという話がある。だが、蓄電池をつくるということは希少金属を使用する巨大なリチウム電池などをつくるということで、希少金属の採掘がもたらす同じ問題が生じることになる。このようなことが議論されないままきている。問題が隠蔽されていると思う。

 

森林は元には戻らない 鉱物資源採掘の問題

 

――このような希少金属を手に入れるために森林を破壊した結果、自然や人間にどのような影響が出ていますか?

 

 西原 まず、野生動物への影響は甚大なものがある。生物多様性保全といっているわりに、多国籍企業の大々的な開発によって森林がどんどん破壊されている現状がある。

 

 また、森林の中に住んでいた先住民族が迫害され、住処を追い出されている。これに対して多国籍企業は、お金による解決を試みる。しかしお金だけでは森林は元には戻らないし、先住民ももともとの生活をとり戻せない。

 

 よく聞くのが、「元に戻すために植林をすればいいじゃないか」という意見だ。しかし、アフリカの熱帯林では、特定の数種の樹種を除いて植林の成功例はごくわずかしかない。30年間現地で見てきて、木材目的の林業企業が植林を進めようとしてきたが、ほとんど成功していない。

 

 熱帯の森林にくわしい日本の植物学者にその理由を聞いてみた。日本のような温帯の森林は生態系がそれほど複雑ではないので、人間の手で植林しても再生することができる。しかし熱帯林は数百種の動物、何千種類の植物、数万種類の昆虫、そして多様な菌類など複雑な生態系があってこそ、樹木の安定した発芽と成長が可能になる。したがって伐採後の荒れ地など、こうした生態系がセットで残っていない場所での植林は難しいという。とくに外生菌根で植物の成長に必須なものが多いので、うまく菌類のネットワークが育つ環境をつくるのが難しいのではないかと考えられている。

 

 ただ、木材目的の森林伐採であって、皆伐方式でなく限定された区画のみの伐採なら、そして動物も残っているなら、自然界の再生力が発揮される余地がある。たとえばアフリカの熱帯林に生息するマルミミゾウは、果実の種子の散布を通じて次世代の植物を育む重要な存在だ。

 

 ところが鉱物資源を採掘する場合は、熱帯林を根こそぎとり尽くしてしまう。地下資源の場合は地下何十㍍と掘ってとるので、その地域全体の森林を切らないと大々的に掘れないからだ。すると森林の生態系は壊滅状態になる。森林が全部なくなるので動物も残りようがなく、誰も種をまいてくれない。その場所はおそらく元には戻らない。それが鉱物資源開発の深刻な問題だ。

 

 森林が元に戻らないかぎり、先住民族の生活も元には戻らない。コンゴ盆地にはピグミー族がいるが、彼らは食べ物だけでなく、住居や衣料、道具、薬剤に至るまで、多くを森林の産物に依存し、森林での遊動生活を営んできた。その彼らが森林を追われている。

 

 さらに多国籍企業は、開発した森林の近くに住んでいる部族にだけ、補償金としてお金を渡す。だが、同じ先住民族であってもたくさんの部族があり、分散して生活している。元々先住民族の社会は、「森はみんなのもの。資源はみんなでわかちあう」という平等な社会だった。ところが一部の部族にだけお金が落ちることによって、それまで彼らの社会になかった格差が生まれ、それは部族対立につながっていく。

 

 コンゴ盆地では歴史的に、鉱物資源の高額な収益が軍事費となって内戦が加速し、それは地域住民への強制労働や幼い子どもの児童労働、少年兵の育成となったうえ、内戦激化にともなうその地域からの避難民を生み出してきた。

 

 このような現実を、鉱物資源を手に入れようとする先進国がつくり出している。アフリカでは部族間の対立が絶えず、そのことを「政治が不安定なのは発展途上のアフリカ人のせい」と見がちだが、実はその原因を先進国や発展著しい新興国がつくっているという事実を、多くの人に知ってほしいと思う。

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