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海の環境激変させる再エネのための深海採掘 シンポジウム『ここがヘンだよ日本の脱炭素』 太平洋の島国からの報告

 G7気候・エネルギー・環境相会合が札幌市で始まった4月15日、『G7を機に北海道から考える! ここがヘンだよ日本の脱炭素――蓄電池とバイオマスの課題から――』というシンポジウムが同市内で開催され、オンラインで全国にも発信された。主催はアジア太平洋資料センター(PARC)/PARC自由学校、さっぽろ自由学校「遊」、Fair Finance Guide JAPAN、地球・人間環境フォーラムの4団体。G7は気候変動対策として、脱炭素を掲げて再生エネルギー開発とそのための資源開発を進めようとしているが、そのことによってなにが起こっているのかを、海外からのゲストと北海道の参加者の報告で深めようとするものだ。シンポジウムは3部に分かれ、第1部では、電気自動車のバッテリーや風力・太陽光の蓄電池に不可欠なニッケルなどのレアアースを得るため、太平洋で深海採掘を始めようとしている問題を、第2部ではバイオマス発電の問題点を、第3部では風力発電と原発再稼働の問題点を論議した。

 

G7環境相会合にあわせPARCなど4団体が開催

 

 第1部は「海の環境を破壊する深海採掘」というテーマで3人が報告した。オーストラリアから参加したナタリー・ラウリー氏は、アジア太平洋調査ネットワーク(APRN)理事。トンガから参加したティータ・カラ氏は、トンガ市民社会フォーラムの職員。フィジーから参加したライザ・ナイノカ氏は、グローバリゼーションに対する太平洋ネットワーク(PANG)の深海採掘プログラムを担当している。以下、発言の要旨を紹介する。

 

◆商業開発の危機迫るハワイ沖の海底鉱床


        APRN理事 ナタリー・ラウリー

 

ナタリー・ラウリー氏

 私は深海採掘キャンペーンというネットワークから来ており、そこで宣伝と政策提言を担当している。

 

 深海採掘は、この30~40年ほど技術開発が進められてきたものだ。現状では、深海採掘が商業的におこなわれているわけではない。しかし、それを始めるための強烈な圧力がかかっている。今、世界で約200万平方㌔㍍の範囲が深海採掘の対象にされようとしている。それはそれぞれの国の排他的経済水域(EEZ)内のものもあれば、公海のものもある。

 

 なぜ強力な圧力がかかっているかというと、グリーントランジション(脱炭素への移行)――それは再生可能エネルギーだったり、電気自動車だったりするが――に必要な鉱物を手に入れるためだといわれている。しかし多くの研究をちゃんと見るなら、本来その必要はないはずだ。

 

 この深海採掘に向けた動きは、犠牲になる地域をつくり出すものだ。それは「世界全体のためだから」といって、「この人たちは仕方がない」「どうでもいい」というような人たちをつくり出すことでグリーンな移行をしようとしている。それは決してあってはならないことだと私たちは思っている。私たちは誰もとり残さない公正な移行が必要だと思っている。

 

 問題は、深海というものをわれわれはまだほとんど理解していないということだ。その領域に踏み込もうとしているのだ。

 

 一番最初に進められようとしている深海採掘が、水深6000~6500㍍のところにころがっている多金属団塊と呼ばれる石を回収しようとするものだ。この石はジャガイモほどの大きさで、サメの歯や生物の骨に少しずつ鉱物が付着し、100万年以上の時間をかけて一つの石ころができる、というゆっくりとしたペースでつくられたものだ。

 

 その石ころのなかに、ニッケル、コバルト、マンガン、銅、亜鉛などの重要とされる鉱物がたくさん含まれているわけだ。ところが石がころがっている場所は死の砂漠のようなところではなく、たくさんの命が存在しているわけだ。それをとってしまっていいというものではない。

 

 他に二つ、深海採掘の種類がある。一つはコバルトリッチクラストで、海底に皮殻のような硬い部分があり、そこにコバルトなどレアアースが含まれている。そこはサンゴやさまざまな生物が拠り所にしているところであり、そのことでエサ場になるために、マグロやサメなど大きな魚の生態系にとって重要な場所になっている。

 

 もう一つは熱水鉱床と呼ばれるもので、硫黄分が非常に多く、そこに多くの鉱物が含まれている。海底火山の仲間にあたり、「リング・オブ・ファイア」と呼ばれる環太平洋火山帯にあるものだ。水深は1500㍍というようなより浅い場所にあり、そこは熱湯のように熱い水が溜り、たくさんの生き物が生息している場でもある。

 

 この地図は、以上の多金属団塊、コバルトリッチクラスト、熱水鉱床がそれぞれどこにあるかを示している【図①】。

 

 さて、海の鉱床の大部分は公海にあるわけだが、公海の採掘を誰がとり締まるのか? それはジャマイカのキングストンに拠点を置く、国際海底機構(ISA)と呼ばれるごくごく小さな国際機関だ。ISAには167カ国が加盟している。しかし、ISAは深海採掘をとり締まるのに非常に不適切な機関だ。なぜかというと、ISAがどういうとり決めをするかは企業によって牛耳られているという実態があるからだ。

 

 私たち海底採掘に関わるキャンペーンをしている団体が2008年に報告書を出した。いかにISAが企業のいいなりになっているかを明らかにしたものだ。先日の『ニューヨーク・タイムズ』にも「企業によって牛耳られているISA」という記事が載った。

 

 重要なことは、海というのは、とくに公海というのは、人類共通の遺産なわけだ。私たちが先祖から引き継ぎ、子孫に手渡すものだ。ところがISAは多くの人が知らないうちに、企業に牛耳られて海の将来を決めてしまおうとしている。

 

 太平洋のハワイ沖にあるクラリオン・クリッパートン海域(CCZ。ここは公海)には、採掘のコンセッションとしてISAが指定している領域がある。【図②】のなかの線引きした海域を各国・各企業に売却しているわけだが、それを全部たすと、なんと米国の3分の1 の面積になる。

 

 日本のEEZの中でも、東京から南東へ1900㌔のところにある南鳥島付近で、日本政府がレアアースの採掘をしようとしている。みなさんはご存じでしたか? みんなの海なのに、多くの人が知ることもなく採掘されようとしているのではないだろうか?

 

 もし深海採掘がおこなわれると、プルームと呼ばれる堆積物の土けむりが大きく巻き上げられ、魚や海底に棲む生き物がそのなかに呑まれてしまって生きていくことができなくなるなど、影響がたいへん大きい【図3】。そういう環境破壊が起きれば、海に依存して生活している太平洋の島嶼(しょ)国の人たちの暮らしが大きな被害を受けることは明らかだ。それだけでなく、山に住む人も海の恩恵がなければ生きていけない。みんな海に依存しているわけだ。

 

 そうしたなか、深海採掘に反対する声が世界中で高まっている。市民社会はもちろんのこと、企業のなかでも深海採掘をすべきでないという声が高まっている。グーグル、サムスン、BMW、ボルボなどの大企業も深海からの鉱物は使わないと宣言している。何百人もの科学者が深海採掘をすべきでないと声明を出している。

 

 G7のなかにも反対を表明している国が2カ国ある。フランスは全面的な禁止を求めていて、ドイツは一時差し止め(モラトリアム)を求めている。このタイミングで深海採掘への懸念をしっかり示し、G7の他の国も禁止へ動くべきだと訴えるため、今日こうした報告をすることになった。

 

海底採掘による土煙の拡散

 

海底に形成される多金属団塊

熱水鉱床の多金属酸化物

 以上の報告の後、ナタリー氏は『Blue Peril(青の危機)』という映像作品を紹介した(ウェブ上で公開されている。日本語訳はなし)。これはナタリー氏ら深海採掘キャンペーンと他の団体が一緒につくり、太平洋諸島の仲間たちに協力してもらってできたもので、16分の作品だが、深海採掘の問題点が映像で見てわかる。

 

 この作品は、ハワイ沖のクラリオン・クリッパートン海域で多金属団塊を回収するために深海採掘をおこなうと、どのようにプルームと呼ばれる土けむりが起こり、どのように広がるのかを、公的に入手できるデータにもとづいて映像で検証している。また、8万8000点以上の深海生物に関わる映像を使って、どのような生態系が構成されていて、そこにどのような影響が及ぼされるかを分析している。

 

 採掘行為が始まると、24時間体制で休みなく海底から集められた石が吸引されて海上の船の上に集められ、処理されて、不要な部分が海に戻されるわけだが、そこで今度は海中の上の部分でもプルームが発生する。

 

 分析の結果、クラリオン・クリッパートン海域のなかで発生した土けむりは、約3カ月で200㌔離れたハワイの海域に到着し、ハワイの固有の生態系に影響を与えることがわかった。このモデルはたった一つの海底鉱床で採掘がされたときの影響を示したものであり、採掘許可が申請されている領域で複数が同時多発的に採掘され始めたら、影響はもっと大規模なものにならざるをえない。

 

 ナタリー氏は「プルームが降ってくることによって、底生生物は呼吸ができなくなり、魚はえらが詰まって死んでしまうことが危惧される。それだけでなく、深海採掘がおこなわれると作業船の光が常時海底を照らし続けるため、そのことによる光害、騒音の影響もある。生活圏の変化が起きることで深海生物だけでなく、深い海と浅い海を移動するクジラをはじめ、さまざまな水深に棲むそれぞれの生物に影響が出る。さらに、深海は時がゆっくりと流れる生態系だが、そこにプルームという大きな変化が突然起きると、生態系が回復するまでにたいへん長い時間を必要とする」と語った。

 

◆火山噴火で漁業奪われ深海採掘で追い打ちか


     トンガ市民社会フォーラム ティータ・カラ

 

ティータ・カラ氏

 トンガは人口約10万人の、非常に小さな太平洋の国だ。トンガは167の小さな島からなり、それが5つのグループに分かれている。そのなかで人が住んでいるのは37の島だ。民族としてはポリネシア族、言葉はトンガ語。トンガでもっとも標高が高いところは火山のある島で200㍍ほど、都市がある島は海抜0~67㍍だが、そこは海岸が崖になって海に接し、そこがどんどん浸食されて今にも住む場所が削られようとしている。海水温と海水面の上昇によってマングローブがなくなり、そこに依存する生態系がなくなり、特定の時期に獲れていた魚が獲れなくなってしまっている。

 

 昨年、世界最大規模の火山の爆発があり、亡くなったのは四人だったが、4000人もの人が沿岸部から内陸に移住しなければならなくなった。トンガはご存じのようにラグビーで有名が、私たちはとにかく早く走ることで鍛えられている。90%以上のトンガの人は沿岸部に住んでいるが、災害が起こると今度のように早く走らねばならないからだ。

 

 そして99%は海の恵みに依存している。この人たちが内陸に移動させられると、どうなるか。代々漁師をしてきたコミュニティが突然、勝手知ったる土地を離れ、違う食べ物を生産する農家になることをよぎなくされ、どうやって生きていけばいいのか戸惑う。それが私たちが直面する気候危機の現実だ。

 

 噴火による火山灰が降ってきたとき、7㍍も積もったところもあった。しかしもっとも大きな影響を受けたのは海の生態系だった。噴火後、魚を獲って食べてはいけないといわれたが、漁師は魚を獲って食べる生活を変えなかった。しかし灰に含まれた有毒物質を魚がとり込んでいたために、多くの人が病院に行かざるを得なかった。

 

 今後、深海採掘で海底が乱されれば、積もった火山灰もまた浮上して影響を及ぼすのではないかと私たちは恐れている。噴火の前後で大きく変わったことは、魚が脂が乗っていないものになってしまったし、卵も小さくてさほど黄色くなく、あまりおいしくないものになってしまったことだ。

 

 みなさんは日本に生まれて幸運だと思う。日本にも噴火があり、津波ももちろんあり、そして原発のメルトダウンも体験したが、日本はそのなかから復興することができるだけの経済力もあれば技術力もある。しかし私たちの国は、災害がくり返されれば沈んでしまうしかない小さな国だ。

 

 そうしたなかで私は、深海採掘をおこなうことも正解ではないと思っている。私は日本に信頼を持っており、日本は深海採掘ではない別の手段でこの危機を脱する方法を考えて行動に移すのではないかと信じている。

 

◆私たちを気候危機対策のモルモットにするな


           PANG ライザ・ナイノカ

 

ライザ・ナイノカ氏

 私はグローバリゼーションに対する太平洋ネットワークでキャンペーンを担当し、深海採掘を止めるために10年ほど活動している。

 

 私たちの国や地域には先進国の企業がやってきて、「経済的に苦しむ太平洋の国々を貧困から救うために」といって深海採掘と鉱物調達をやろうとしている。こうした企業がやってきて、海に依存する人々――海から食べていくために必要な物を獲ったり、伝統文化が海に根ざしていたり、海が流通のカナメでもある――をないがしろにして利益を追求しようとしている。

 

 今、海はすでにたいへん傷つき、弱っている。ティータさんがいったように海の生態系が変わってしまっている。そのなかで私たちはどのように生きていくかを日々、模索せざるをえない状況だ。防潮堤がすでに機能しなくなるほど、海水面が上昇してきている。それだけでなく、気象パターンの変化、海洋酸性化、生態系の破壊などがある。私たちは海を見れば季節ごとに決まった変化を予測できていたが、今ではそれができなくなった。
 深海採掘についてだが、パプアニューギニアで2011年から試掘(本格的な採掘ではない)が始まっている。パプアニューギニア政府がカナダのノーチラス(現在はザ・メタルズカンパニー)という企業と契約を結び、ビスマルク海での試掘を始めた。

 

 最終的にノーチラスは、パプアニューギニア政府に多大な負債を残して倒産した。経済的に負債を負わされただけでなく、この試掘行為によって文化的な影響も出ている。パプアニューギニアの伝統のなかで“サメ呼び”(サメを呼ぶための音を出して捕獲する)という漁があるが、その漁がビスマルク海ではできなくなってしまった。試掘によってサメが別のところに行ってしまったからだ。このままでは次の世代にこの伝統を引き継ぐことはできない。

 

 また、ナウルではリンをとるための陸上採掘だったが、外から企業がやってきて短期的な利益を追求した結果、引き剥がされ、荒れ果てた土地だけが残された。企業は「(鉱物資源の採掘は)みなさんを経済的に救うものになる」といったが、けっしてそんなことにはならなかった。深海採掘も同じだ。

 

 一方、太平洋諸島のなかでも、深海採掘に賛成し、ISAに対して国際的な枠組みをもうけるように発言する国も出ている。クック諸島やナウルがそうだ。

 

 しかし、反対する声はどんどん大きくなっている。多国籍企業に好き勝手させないため、先住民族や太平洋の国々は深海採掘を止めるために反対の声をあげている。ニュージーランドやパラオ、ミクロネシア、バヌアツなどの太平洋島嶼国は深海採掘の一時差し止め、または禁止の声をあげており、南米のエクアドルや、G7のなかでもフランスが禁止を求めている。

 

 日本のみなさんにもこの破壊的な深海採掘がこれ以上進まないように、協力をお願いしたい。私たちPANGと5つの団体は2020年、「太平洋に絶対にこえてはならない青の一線を引く」という活動を始めた。深海採掘はしてはならないという全面的な禁止を訴えている。今、300の団体、3000以上の個人が賛同し、アジア、ヨーロッパ、アメリカにも広がっている。

 

 太平洋の人々は「海こそまさに呼吸する」という。私たちは海に生き、海の声を聴き、そして海とともにある。海は私たち自身である。それを破壊しようとする行為を私たちは止めなければならない。

 

 海を搾取する、海を奪っていくということは、私やティータ、ナタリーをはじめ太平洋の人々を搾取するに等しいことだ。それだけでなく、海が汚されれば、地球上のすべての人にとって海が奪われることになる。

 

 私たち太平洋の人々は、自分たちが引き起こしたわけでもない気候危機の影響を受けている。そのなかで、その気候危機に対する対策でさえも、私たちの故郷を実験場にするのだろうか? 私たちをモルモットにして、将来どうなるかわからないような海への影響を及ぼしてやられる気候危機対策などありえるのだろうか?

 

 私たちはG7のまだ反対の立場を表明していない5つの国に対して、そして世界のすべての他の国に対して、深海採掘をすぐに差し止めてほしいと強く訴えるものだ。

 

◆質疑応答から――

 

 続いて質疑応答がおこなわれた。そのなかで福島原発汚染水の海洋放出について質問が出され、ティータ氏が次のように答えた。

 

 「われわれは一つの地球に住み、一つの空、一つの海を分かち合って生きている。日本で排出されたものによる影響は、私たちのところにもやってくることを理解してほしい。先日東京であった会合で、私は“日本が太平洋に核のゴミをぶち込もうとしている”と強く反対を表明した。すると、一人の参加者に“処理をした水を出すのだから核のゴミではない”と訂正を求められた。しかし、すべての核物質をとり除くことができない今の技術のなかでそれを海に流すのだから、核のゴミをぶち込むのと同じじゃないかと、私たちとしては強く思う」

 

 また、フィジーから参加した専門家は、「ウクライナで戦争が起こり、世界中で穀物の値段が上がった。穀倉地帯が戦争に巻き込まれたからだ。太平洋は一大漁業地であり、魚の源であるから、そこが汚染されれば世界中の漁民が影響を受け、世界中の海の恵みにあやかる人々にも影響を及ぼすことになる。私たちのところには“あなたの魚は私の魚”という言葉がある。汚染水は海流にのって広がり、また必ず日本のみなさんの下にも戻ってくると思う。日本政府には違った手段で処理をするよう強く求めたい」とのべた。

 

 また、「フランスとドイツが深海採掘に反対している理由はなにか」という質問に対して、ナタリー氏は「フランスはマクロン大統領が、深海採掘は禁止すべきだと表明した。ドイツはモラトリアムを求めている。いずれも最大の理由は、深海に関しては未知の部分が多いことだ。少なくとも深海採掘をおこなうことでどういう影響が予測されるか、そもそもどういう生き物がどのように生活しているかがもう少しわかるまでは、商業採掘は差し止めるべきだということだ」とのべた。

 

 ティータ氏は「海洋科学者が反対している。予防原則にもとづいて、深海採掘の禁止あるいは差し止めに署名している海洋科学者が、すでに800人をこえている。一方、企業側は“問題ありません”というが、実は企業が試掘をしている映像が流出している。それを見ると、“吸い上げた余分な土砂を海底に近いところで放出して、土けむりは出さない”と約束していたのに、堂々と船から海に垂れ流していた。企業のいうことは信用できない」とのべた。

 

 「日本政府や日本企業は深海採掘に関与しているのか」という質問に対して、PARCの田中滋氏が「日本もクラリオン・クリッパートン海域のコンセッションを獲得し、官民連携のDORDという法人が試掘をするための研究をおこなっている。公海上で一番深海採掘がやられる可能性がある海域なので、商業開発に日本が加担する可能性は否定できない」と答えた。

 

 さらに「ISAが企業にコントロールされているとは?」という質問に対して、ナタリー氏は「ISAの事務局長が汚職に近い状態で、企業とべったりになっている。その事務局長の発言に、会議の議論が左右されている。もう一つ象徴的なのは、ザ・メタルズカンパニーという深海採掘をやろうとしている会社の社長が、ISAの会合にナウル代表の席の後ろに座って参加し、ナウル代表のような顔をして発言している。私たちは何年もISAの会合をウォッチしてきたが、先日の会合では録音も録画もダメ。報じようとしたジャーナリストは“聞かれたくない質問をした”ということで会合から追い出された。そうしたなかで意志決定がおこなわれようとしている」とのべた。

 

 ティータ氏は、「国際海洋法条約のなかで2年ルールが規定されている。ザ・メタルズカンパニーがナウルとトンガをそそのかして深海採掘を始めようとしてきたのだが、2年ルールとは、加盟国が深海採掘を始めたいという意向表明をして2年ルールを発動させたいという意向を示したら、ISAは2年以内に深海採掘のルールを定めなければならないというものだ。でもそうなると、議論がきちんとされないまま、深海採掘の事実上の許可が出ることになる。最終的にはナウルがこの企業に乗せられて、2021年6月29日に2年ルールの発動を提起したため、今年の6月29日までに規制枠組みをつくらねばならない縛りがあり、その日から深海採掘が始められてしまうという差し迫った状況にある」とのべた。

 

 次に第2部では、「間違いだらけのバイオマス発電」をテーマに、バイオマス産業社会ネットワーク理事長の泊みゆき氏と、地球・人間環境フォーラムの飯沼佐代子氏が発言した。

 

 泊氏は、「バイオマス発電の現状を見ると、稼働しているバイオマス発電所の3分の2、FIT認定されているものではその8割が輸入バイオマスに支えられている。そのお金をわれわれが電気代に上乗せして払っている。そして、木質ペレットやPKS(アブラヤシ核殻)の輸入が2012年以降、どんどん増えた。ということは、カナダやベトナムで森林を伐採し、加工して輸送する過程でCO2を出し、バイオマス発電で燃焼させてまたCO2を出し、他方で伐採した森林の再生までには長い時間がかかるから、温室効果ガス排出量は石炭火力を上回るほどになっている」とのべた。

 

 飯沼氏は、「木質ペレットの輸入はこの10年で61倍にも増えたが、去年はアメリカからの輸入が急増した。FITの買取価格が世界一高いからだ。米国南東部に世界最大の木質ペレット生産事業者・エンビバ社の生産拠点があり、周囲の森林を伐採し、加工して日本や欧州に輸出している。工場は黒人のコミュニティに立地し、周辺住民はおが屑の粉塵や騒音、振動、大気汚染の健康被害に苦しんでいた。結局、バイオマス発電はCO2の排出量がたいへん多く、カーボンニュートラルとはいえないうえ、発電のみに使った場合、エネルギー効率が20~35%と悪く、なんのために輸入してるんですかということになる」と報告した。

 

 さらに第3部の「北海道の自然と自治を破壊する新たなエネルギー開発」では、北海道風力発電問題ネットワーク代表の佐々木邦夫氏、泊原発を再稼働させない・核ゴミを持ち込ませない北海道連絡会の井上敦子氏が発言した。

 

 佐々木氏は、「北海道では、陸上で今稼働している風力発電は324基、さらに計画中が1750基で、今後2074基が動き始めることになる。そのうえ大規模な洋上風力発電が、石狩湾をはじめとして計画されている。洋上といっても、沿岸からわずか1~2㌔程度のところだ。風力発電の大きな問題として、土砂災害の危険性が増すこと、低周波音による睡眠障害など健康被害、バードストライクなどさまざまな問題がある。今北海道内だけで約一兆円かけて送電網を整備し、3・4兆円かけて本州に持って行くための海底直流送電網の整備もおこなうというように、北海道は再エネ植民地にされようとしている」とのべた。

 

 井上氏は、「GX脱炭素電源法案が3月に閣議決定され、今衆議院で審議されている。その内容は原発再稼働、運転期間の延長、核ゴミ最終処分場建設に力を入れる(受け入れ自治体への支援強化)などのための法改正だ。北海道では寿都町と神恵内村で、住民同意のないまま最終処分場の調査開始の動きがあり、住民は地域分断で苦しんでいる」とのべた。

 

 最後に、ナタリー氏が「私が20年ほど活動してきたなかで学んだことは、国境をこえた連帯の大切さだ。オーストラリアにも最終処分場の計画が三つあったが、すべて撤回させた。四つ目の計画があるが、それも今たたかっている。オーストラリアでは今、脱成長が論議されている。日本人のみなさん、ここに立っている太平洋の仲間、とくに先住民族の人たちは何千年と続く生き方を実践してきたので、いろんなところに知恵はたくさんあるわけだ。エネルギーも食も資源も、使い続けるという方向でない生き方で連帯できるなら、さまざまな立場の人がつながるきっかけになると思う」とのべた。

 

 フィジーから来た専門家は、「福島原発汚染水の海洋放出でない別の解決方法を日本政府が真面目にとりくむよう、私たちはみなさんと一緒にたたかっていきたい。私たちの言葉では海に生きる人のことを“カイワイ”という。日本の人たちは私たちと同じ海に生きる人たち。そういう歴史があり、交流があり、仲間だと思う。これからも一緒に日本の政府を変えていく活動ができると思っている」とのべた。

 

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