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再エネ拡大で天然ガス需要増加した欧州 エネルギー源をロシアに依存 ウクライナ危機で浮き彫りに

 ウクライナをめぐる情勢が緊迫するなかで、ヨーロッパの天然ガスの不足・高騰によるエネルギー危機の深刻さが露呈することになり、資源・エネルギー政策専門家から「脱炭素政策」の見直しを求める声が高まっている。また、日本政府がアメリカの要請に従って、日本が輸入している液化天然ガス(LNG)の一部をヨーロッパに融通すると発表したことに、「日本はヨーロッパよりもエネルギーの自給率が格段に低い。エネルギー危機に本格的に備えることが必要なときに、愚の骨頂ともいえる政策だ」との厳しい指摘もある。

 

 「脱石炭・石油から再エネへ」を世界に先駆けて推進してきたヨーロッパ諸国の主要エネルギーは今や、天然ガスとなっている。昨年来、その天然ガス不足が叫ばれ高騰してきたのはそれを必要とする再エネ発電設備の増設に追いつかないためだといわれる。太陽光や風力発電は、太陽が照らないときや風が吹かないときにはガス火力発電でバックアップしなければならないのだが、昨年は風の弱い日が続き、ガスの需給がひっ迫し価格が高騰した。それによってヨーロッパ各国が厳冬での停電の危機に直面し、ガソリン代に重ねた電気代の高騰が市民生活を襲い、街頭デモを頻発させることになった。

 

 アメリカが近年、シェールガスの採掘に拍車をかけてきたのに対して、ヨーロッパ諸国は「脱炭素」をけん引してきた手前、自国での産出はせず、ロシアからの輸入に頼ってきた。昨年6月時点で、ロシア天然ガス輸出の4割がヨーロッパ向けとなっている。

 

 今では最大の天然ガス産出国となったアメリカは、ヨーロッパ諸国とくにドイツがロシアへのエネルギー依存を強めていることに反発し、その妨害を策動してきた。

 

ドイツとロシアを結ぶ天然ガス供給パイプライン「ノルドストリーム2」の建設現場(2021年)

 ドイツの天然ガスの需要は国内の全エネルギーの27%を占めている。2世帯のうち1世帯は暖房用に天然ガスを使用している。その天然ガスの輸入先はロシアが55%で、ロシアへの依存度の高さは群を抜いている。ドイツ政府は「脱炭素・再エネ政策」の推進で今後8年間で、天然ガス需要の割合を30%まで高めるとしてきた。この間、ウクライナ情勢の緊迫に備えてロシアからの天然ガス供給をウクライナを通じたパイプラインを避けて、ロシアから直接つながるパイプライン・ノルドストリーム2を建設し、稼働寸前のところまで来ていた。

 

 こうしたドイツのやり方に対して、アメリカやフランスをはじめ欧州各国は、「ロシアへのエネルギー依存をいちだんと高めることになる」と介入してきた。バイデン大統領が最近、「ロシアはエネルギーを武器として利用している。ロシアがウクライナに侵攻したらノルドストリーム2の計画はなくなるだろう」と発言したことに対して、ロシア外務省は「ウクライナ危機を扇動する米国の狙いは、ロシアからドイツに天然ガスを輸送するノルドストリーム2の稼働阻止にある。欧州の天然ガスのシェアを米国はロシアから奪おうとしている」と反発している。

 

 ウクライナをめぐる欧米各国の動向は、「脱炭素・再エネ」政策のほころびと絡んだエネルギー危機がコロナ禍と重なって世界に浸透していること、ウクライナ情勢の緊張の背後に、厳冬で満足な暖房も得られぬ市民生活をよそ目に巨大な利権争いがうごめいていることを示唆している。

 

 日本のエネルギー自給率は12%(20年度)で、ヨーロッパ(42%)の3分の1にも満たない。ウクライナ問題はその意味で、食料とともに国民の安全を守るうえで自給が必須の資源・エネルギー供給を蔑ろにする日本の国政を根本から見直す契機となっている。

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