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世界の3分の2が停戦を求める現実――今こそ停戦を! 日本はグローバル・サウスとG7を結ぶ懸け橋に 青山学院大学名誉教授・羽場久美子

 国際政治や紛争問題の専門家を中心とした有志が5日、G7広島サミット(5月19~21日)を前に、G7首脳に向けてウクライナ戦争の停戦とアジアで戦争の火種を広げないことを求める声明を発表し、衆議院第一議員会館で記者会見をおこなった。会見のなかから、羽場久美子氏(青山学院大学名誉教授)の発言要旨を紹介する。(※発言に加筆修正)

 

◇◇   ◇◇   ◇◇

 

羽場久美子氏

 今年5月、広島の地でG7サミットが開かれる。私は広島の被爆2世でもあり、広島に集まるG7首脳に対して、即時停戦の実現を求め、これ以上の犠牲を出さないことを強く訴えたい。広島、長崎、沖縄の悲劇は、停戦を遅らせたことによって生まれた世界史上最大級の悲劇だったからだ。

 

 私たちは、ロシアとウクライナの戦争が始まった当初から、即時停戦と話し合いによる問題解決を訴えてきた。ここでは3点について話したい。

 

 一つ目は、停戦とは、どちらかの敗北であったり、勝利ではないということだ。戦争の停止である。人の命を救うことであり、平和な世界秩序を構築することだ。

 

 二つ目は、主にメディアの方々に訴える。戦争時においては報道の公平さが極めて欠如する。まさに今、日本の報道が戦争前のようになっていることをたいへん憂う。多様なファクツ(事実)にもとづく多様な報道は、戦争時にこそ必要であり、それが私たちが正しく判断するうえでの拠り所になる。一方だけの情報は、戦争賛美に奉仕することになる。メディアの責任は、われわれ研究者の自由な発言とともに極めて重要だ。

 

 三つ目は、現在、世界の3分の2が停戦を要求し、殺戮の停止を要求しているという事実だ。そして今後の世界の潮流はどこにあるのか? 21世紀後半の世界を牽引していくのは誰なのか? それはアメリカなのか? ということを事実をもとに考えたい。

 

 少なくとも経済面で見ると、21世紀後半は、G7ではなくG20あるいはグローバル・サウスが、世界の3分の2の規模を占める。それも「貧しい3分の2」ではない。世界経済を引っ張り、平和と繁栄を望み、さらにITやAIで世界をリードするインドや中国、ASEANのような国々だ。だとすれば、日本はG7とG20、グローバル・サウスを結ぶ懸け橋になるべきだと思う。

 

 われわれは先進国の一員であるとともに、アジアの一員でもある。アジアが世界の平和を引っ張っていこうとするとき、アジアと先進国とを結ぶ役割として、日本ほどふさわしい国はない。日本はかつての反省のうえにたち、二度と再び中国と戦争をしないこと、沖縄にミサイルを配備するのではなく、沖縄こそ平和の核とすることを求めたい。

 

停戦とは何か?

 

 私は国際政治学者であり、第一次、第二次世界大戦の戦争史研究者でもある。またEU、NATOの拡大について30年以上研究してきた。今日本の研究者の多くが、停戦はロシアが蹂躙(じゅうりん)を尽くす、あるいはウクライナがロシアの残虐のもとに下ることを意味するという発言をくり返している。これは戦争と停戦講和に対する無知、誤解といわざるを得ない。

 

 第一次、第二次世界大戦のときも、アメリカは戦争当初から平和と安定、戦争が起こらない戦後秩序を構想してきた。停戦は、戦争が始まったときから構想されてきた。戦争は外交の延長であり、ゆえに話し合いと外交は戦争の延長にあるべきだからである。

 

 第一次大戦では、停戦要求はまずロシア(レーニン)から出され、次いで米国のウィルソンが14カ条の平和原則を提唱し、帝国主義的な領土分割を目的とする戦争の停止と、諸民族の独立、平和のための国際秩序形成、国際連盟創設の必要性を説いた。第二次大戦では、独ソ戦の開始後、1943年11月のカイロ会談、テヘラン会談をへて、ポツダム条約、サンフランシスコ条約締結、そして平和のための国連が設置された。停戦と講和は別のものであり、長く続く平和構築の作業なのだ。

 

 21世紀に入り、アメリカは世界秩序を軍事的覇権によって実現しようと思うようになった。経済では中国・インドに負け始めているからだ。そのためまず手始めにプーチン体制を弱体化・崩壊させ、アメリカにとって好都合な政権をつくろうとしている。その先にある狙いは中国の弱体化だ。その目的のためだけに、ウクライナの背後から停戦にブレーキを掛けている。

 

 バイデン大統領は「民主主義vs権威主義」という図式で、権威主義的な傾向を持つロシアあるいは中国、アジア・アフリカの国々すべてに敵対し、分断させる態度をとっている。これは歴史にさおさす行為であり、戦略としても誤りである。

 

 今やるべきことは、停戦とともに国連中立軍を入れ、両者を分けることであり、それによってウクライナがこれ以上犠牲になったり、ロシアが残虐を尽くすということを防ぐことだ。これは東ティモールやスーダンなどで国連が経験してきたことであり、戦争を止め、戦争を継続しようとする国を処罰することが重要だ。

 

 ウクライナ内戦におけるミンスク合意は、2014年、2015年に当時のドイツのメルケル首相、フランスのオランド大統領によって締結された非常に高レベルな和平合意だった。これを破ったのはウクライナの側だった。戦争が継続し、合意が履行できなかったのは、OSCE(欧州安全保障協力機構)の仲介が機能しなかったからだ。ここで中立軍を入れていれば、その後のウクライナ・ロシア戦争につながる事態にはならなかったと考える。

 

 今回、中国がウクライナとロシア双方に対して停戦外交を開始した。そこで平和の維持を提唱するインドおよびASEANなどアジア諸国が共同の中立軍をつくり、国連中立軍として二者の間にバッファゾーンを形成すること、より多くの犠牲者を出し、アジアに戦争を飛び火させないためにも停戦を急ぎ、次の講和によって公正な解決を目指すことを提唱したい。

 

求められる報道の公正化

 

ウクライナ東部で続く戦闘。ミサイルを撃ち込んで応戦するウクライナ軍(2022年10月)

 連日、いかにロシアの悪事によってウクライナの人々が苦しんでいるかということが新聞やTVで強調され、その論調がSNSにも溢れている。それに対して少しでも反論をすると、「ウクライナの人々を蹂躙し、ロシアの勝利を助けている」「恥を知れ」といったような荒唐無稽なバッシングを受ける。公的メディアのNHK、あらゆる民放でも客観的で公正な報道は影を潜め、戦争継続を支持する方々が、明らかに間違った発言であるにもかかわらず前面に出てきている。

 

 すでに国民の多くは、この事態のおかしさに気付いている。だからこそ、私たちは昨年だけでも50回以上もいろいろな場所で講演に呼ばれ、聴衆からは「メディアでわからないことが事実をもってわかった」と驚かれる。

 

 戦争継続により、1年間でロシア兵が20万人死亡(イギリス軍部発表)、ウクライナ側で8000人が死亡(ウクライナ政府発表)したといわれる。この情報を信じるなら、ロシア側の犠牲も甚大であり、歴然とした力の差を感じる。だが、それはウクライナの果敢な戦いによるものではない。西側とりわけ米国からの大量の武器の流入によるものであり、それによってロシア兵だけでなく東部のロシア系ウクライナ人が大量に殺されているという事実がある。これによってアメリカの軍事産業は空前の利益を得ている関係だ。

 

 東部には3割近くロシア語話者がいる。2014年のマイダン革命で、ウクライナではロシア語の使用が禁止された。これは国連からも、EUからも国際法違反として批判されてきたことだ。だが現下のメディア報道では、そのような事実に触れることなく、いかにロシアが一方的にウクライナを蹂躙し、いかにロシアによって一般の民家が破壊されているかという情報だけが流される。東部での戦闘による住民への被害は、戦争である以上、ロシアだけでなく双方の戦闘行為によるものであることは明らかであるにもかかわらず、その視点はみられない。これは「戦時報道」であり、ロシアのみを非難することで、国際社会がやるべき作業を覆い隠している。メディアは多様な事実の報道に撤し、それに対する攻撃や筋違いな批判については果敢にたたかってもらいたい。

 

 かつてのように言論や情報を統制し、一部の戦争遂行者のみを利するような戦争を東アジアで起こしてはならない。そのためには、ロシアの声も、中国の声も、ASEANの声も訴え続けるという役割を果たしてもらいたい。

 

平和を求める世界の新潮流

 

ドイツ政府によるウクライナへの兵器供与に反対する市民のデモ(2022年10月、ベルリン)

 報道では知らされることがないが、すでに世界の3分の2が停戦を望んでいる。すなわちアジア・アフリカ、中南米などグローバル・サウスの国々だ。私たちは、戦争の継続ではなく、平和を望む人々と結ばなければならない。そこで世界の新潮流、平和を実現する力はどこにあるのかを統計から見てみたい。

 

 2月22日、私が招かれた参議院の外交・安全保障に関する調査会で報告したデータを示したい。

 

 一つ目は、地域別の世界人口が2100年にどうなっているのかというデータだ。これは明石康・元国連人道問題担当事務次長の国連研究会で示された資料だが、77年後の2100年には、世界人口の8割をアジア・アフリカが占めるというものだ。そして、米国および欧州の先進国は1割を切るという推計だ。20世紀は「世界の半分が飢えている」(スーザン・ジョージ)といわれるアジアだったが、21世紀後半は、豊かさ、経済力、IT・AI力を最も持つ地域がアジア・アフリカになる。私たちは、今後も衰退する米国だけに同調して、アジア・アフリカを分断させていく道を選ぶべきなのかという問いだ。

 

 次は、アンガス・マディソン(英経済学者)の経済統計だ。世界最速のメガコンピューターを使って、西暦ゼロ年から2030年までのGDP(国内総生産)、文明力を数値化し、世界200カ国を比較したものだ。2007年の推測だが、2023年現在までの動きをみると非常に正確だ。これを見ると、欧米中心の時代は、19世紀の半ばから21世紀の初めまでの、たった200年しか続いていないことがわかる。


 アジアをみると、西暦ゼロ年から1800年までは中国とインドが世界経済の半分以上を占めていたが、欧米が植民地主義によって中国やアジアの豊かな富を搾取することで急成長すると同時にアジアは没落していく。だが第二次世界大戦をへて、1950年以降にアジアの植民地国が解放されていくと、ふたたび中国やインドが急速に成長(「歴史への回帰」)し、2030年には中国は欧州も米国も抜いて世界1位になるという試算だ。

 

 そしてIMF(世界通貨基金)の統計では、PPP(購買力平価)ベースのGDPは、10年後には中国が米国を抜いて世界トップ、2060年にはインドも米国を追い抜くと予測されている。アメリカの急激な軍事化は、これへの対抗であり、「あと6年で中台戦争が起きる」という米軍部の言葉は、台頭著しい中国への牽制である。

 

 「ゴールドマン・サックス」による世界各国のGDP予測でも、2075年には1~3位を中国、インド、米国が占め、次いでインドネシア、ナイジェリア、パキスタン、エジプト、ブラジルという順になっている。その後を追う形でドイツ、イギリスがあり、日本は12位だ。50年もすれば、このような世界になるという時、私たちは米国だけに義理立てして、その軍事覇権の維持に付き従っていくべきなのか、という問いが突きつけられている。

 

 日本の労働力人口はあと30年すれば半減する。少子化問題解決への立ち遅れが続けば、人口の40%が65歳以上になることは免れ得ない。それはGDPが半減することを意味する。この現実を直視したとき、われわれは成長するアジア各国と結ぶことで、軍事力ありきのアメリカの先兵としてではなく、平和を基本に世界の発展を牽引する「アジアの世紀」を作っていくことに貢献するべきであると考える。

 

 戦争を続けよ、ということは、ウクライナ、ロシアのみならずアジアにも分断と戦争を拡大することにつながる道であり、メディア、市民、そして広島・長崎・沖縄の皆さんにも、G7広島サミットに向けてウクライナ戦争の停戦を提唱することを呼びかけたい。

 

(国際関係学博士、世界国際関係学会〈ISA〉アジア太平洋会長、グローバル国際関係研究所所長、早稲田大学招聘研究員)

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この記事へのコメント

  1. 聴衆新文 says:

    ここで言う「国連中立軍」って何ですか?
    ロシアが安保理決議の拒否権を持っていることはご存知ないわけじゃないですよね?

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