いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

停戦仲裁こそ国際社会の使命 ウクライナ戦争の拡大防げ 専門家の声明発表会見 “G7は交渉のテーブルを”

「今こそ停戦を」とする声明を発表した専門家や市民有志の記者会見(5日、東京・永田町)

 東京都・永田町の衆議院第1議員会館で5日、今年5月に広島市で開催されるG7広島サミット(米国、英国、日本、ドイツ、フランス、イタリア、カナダの首脳会議)に向け、国際政治や紛争問題の専門家たち31人が連名で「今こそ停戦を!」「私たちの地域の平和を!」と題する声明を発表した【本紙既報】。ウクライナとロシアの本格的な戦争開始から1年以上が経過するなか、国連が関与した部分的停戦や、中国をはじめとする第三国による停戦交渉も始まるなかで、対ロシア制裁や武器支援を続けるG7首脳に対して停戦への仲介や協力を求めるとともに、日本を含むアジアで紛争を起こさせない外交努力を求めた。同グループは今後、政策提言をとりまとめ、実現のために働きかけを続けていくことにしている。

 

 記者会見には、伊勢崎賢治(東京外国語大学名誉教授・元アフガン武装解除日本政府特別代表)、岡本厚(元『世界』編集長・前岩波書店社長)、田原総一朗(ジャーナリスト)、羽場久美子(青山学院大学名誉教授)、マエキタミヤコ(サステナ代表)、和田春樹(東京大学名誉教授)の6氏が参加。和田氏が声明文を読み上げた後、伊勢崎賢治羽場久美子の2氏が、停戦を求める声明に至った背景やウクライナ戦争の停戦をめぐる国際的な動きの特徴について報告した【本紙既報】。

 

 声明文では、開戦から1年が経過したウクライナ戦争は、いまやNATO諸国が供与した兵器が戦場の趨勢を左右するに至り、(ロシアと欧米の)代理戦争の様相を呈していること、これによりウクライナ、ロシアともにおびただしい犠牲者を出し、北極(地球温暖化)問題、食料・エネルギー危機、原発災害など地球規模の問題に影響が広がっていることを指摘。とりわけ日本を含む北東アジアでは、ウクライナ戦争を契機に台湾をめぐる米中対立が激化していることについて警鐘を鳴らし、「日本海を戦争の海にしない、米朝戦争をおこさせない、さらに台湾をめぐり米中戦争をおこさせない」との決意を表明した。

 

 また、世界各国で停戦を求める世論が醸成し、国連、トルコ、中国などが停戦仲介に向けて動き出している今、「日本政府がG7の意をうけて、ウクライナ戦争の停戦交渉をよびかけ、中国、インドとともに停戦交渉の仲裁国となることを願う」と呼びかけている。

 

マエキタミヤコ氏

 呼びかけ人の一人である環境広告会社「サステナ」代表のマエキタミヤコ氏は、「5月の広島サミットまでに、この声明をなるべく多くの人々に伝えたい。G7の各首脳は、ウクライナにおける代理戦争の一方の当事者であり、彼らに対して日本や中国、インドが中心になって停戦のテーブルを準備してほしいという提案だ。ネット上での電子署名は4月中にとりまとめ、それを持ってG7の各大使館に申し入れをおこなう。さらに新聞広告にして世論に訴えるため、クラウドファンディングも始めている。5月7日を期限に264万円を集めることができれば広告を出すことができる。これは市民社会がみずからを試すようなチャレンジでもある。声明は英文にも翻訳し、世界に向けて発信する。“停戦よりも(ロシアの)撤退が先だ”という意見があるのもわかるが、それはウクライナやロシアの人たちの犠牲が続くことを意味している。公正な和平のためにも、まずは停戦に向けて力を合わせたい」とのべた。

 

 賛同者の一人である鈴木国夫氏(「市民と野党をつなぐ会@東京」共同代表)は、「市民の立場から見ても、ウクライナ戦争を国際社会はただ見守るだけで、結果的にたくさん殺した方が勝つということをよしとしてはいけないと思う。たとえ茨の道でも“悪魔”とも交渉しなくてはならない場合はある。悪魔は反省するのか? と考たとき、80年前の日本はアジアにおいて“悪魔”だった。私の父も南京侵略のときに中国戦線にいた。私はそれを後にアルバムで知ったが、父は他界するまで戦争のことは何も語らなかった。NHKのアーカイブでは、戦争体験の証言がたくさんあるが、一方で日本の侵略について認識が乏しい場合も多い。そして女も子どもも問答無用で戦争に駆り出され、飢え死にしたり、焼夷弾の犠牲になった。当事国の市民には何も知らされず、戦争が始まれば止めることもできない。やはり国際社会が外から止めるべきではないか」とのべた。

 

山本太郎氏

 れいわ新選組代表の山本太郎参議院議員も駆けつけ、「昨年の早い時期から、停戦の必要性を訴えるネットワークをつくられた先生方に敬意を表す。国会の中でも、即時停戦や日本がそのカードになるべきだという話はなかなか前に進まず、次のラウンドであるアジア(での紛争)でいかにもうけていくかという方向で論議されているように感じる。停戦をいい出さない理由を考えると、結局は一部の資本家たちのもうけにつながっていくような話を増大させたいということなのだろうと思う。今アジアの中で緊張を高めていくことに加担しているのは、米国と日本だ。日本の政治としては抑制的な態度が求められるが、その逆を行ってしまっていることに非常に危機感を持っている。国会の中でも、停戦のカードになるような気概をもって日本政府が臨んでいけるようにしっかりとやっていきたい」と連帯の挨拶をのべた。

 

 以下、声明を発表したパネリストと記者との質疑応答の要旨を紹介する。

 

・質疑応答から

 

 記者 停戦を求める宣言の実現可能性という点で、同じ趣旨の主張をしている国や有力者はいるのか? 政府や国際機関との連携は? (停戦を実行するための)「中立軍」という考え方のコンセンサスはあるのか?

 

伊勢崎賢治氏

 伊勢崎 僕の発言のなかで触れた、停戦を模索する国際会議は、欧州ではノルウェー、アイスランド、ジュネーブ(スイス)、最近またノルウェーで開催され、さらにASEANに属するタイでもおこなわれている。

 

 すべてチャタムハウスルール――誰が出席したか、誰がどういう立場で発言したかは外に出さないというルールだ。なぜ今これが必要かといえば、皆さんお察しの通りレッテル張りをされるからだ。欧州ではこれが日本よりもひどい。学者が私たちのような発言をすると大学からパージされる。それくらいひどい。だから、もっと(学者は)根性を出せよといわれるかもしれないが、やっぱり皆さん立場を考える。

 

 スイス(の会議参加者)に関しては、今は「一番有力なシンクタンク」としかいえない。ノルウェーに関しては、現在のNATOのトップ(事務総長)はノルウェーの元首相だ。ノルウェーはロシアに隣接し、なおかつNATO創立メンバーだ。(NATOの一員でありながら軍事的にはロシアを刺激しないという)バランス外交が国是だったのだが、2014年のロシアのクリミア侵攻以来、国内世論がたいへんに揺れている。ノルウェーは南北に細長い国で、ロシアと接する北部とオスロ(南部)とでは、たとえば日本の沖縄と東京で対米感情に差があるように、南北格差が広がっている。生存のためにロシアを刺激しない道を選ぶのか、もしくはNATOとしての立場をより強めていくのかで、国民世論は分断されている。後者の方が強いのは日本と同じだ。だから、今のところ(停戦を求める側の)イニシアチブはまだ表に出ていない。

 

 北極問題に関しては、ダボス会議の北極版のような機関があり、そこでは経済界は投資の機会として北極問題を考える。僕が招へいされた会議では、さまざまな分科会が並行して開かれたが、科学者を中心として「ロシアを排除せよ」の政治勢力が増えているという実感はある。それと商業、主に漁業では、ロシアとの交流が完全に遮断されているために非常に影響を受けている。経済的にもこのままではいけない、地球規模の問題として考えよう、という動きは着実に大きくなっているという実感を受けた。昨年1月のことだ。

 

 和田 実は私たち(憂慮する歴史家の会)が主張してきた、中国・インドに停戦の仲介をしてほしいという要望に対して、今年3月、中国政府がようやく仲介のために動く意志を示し、ロシア・ウクライナ両国に15項目の提案を出した。

 

ロシアを訪問して停戦案を提示した習近平(3月21日、モスクワ)

 ウクライナはこれを蹴ったが、ロシアは好意を寄せている。その他の国が(停戦仲介を)引き受けるという動きは今のところはないが、G7広島サミット――つまりウクライナに軍事援助しながらロシアと事実上戦争をしているような国々の首脳が広島に集まることを一つのチャンスと捉えて、停戦を訴えることを始めようと考えた。

 

 日本政府は、これとまったく逆のことをしようとしているわけだが、日本の国民としては、やはり停戦を望み、われわれの地域において戦争がないようにしてほしいということを訴えることが声明に込めた趣旨だ。

 

羽場久美子氏

 羽場 この間、日本、中国、韓国が積極的に会合を開いており、中国は1月ごろから停戦のために仲裁に出るといい始めていた。現在はロシアとウクライナ双方に停戦を呼びかけている。ウクライナも中国との関係は概ね良好なので、(停戦交渉に)乗ろうとしても、それを米国が背後から抑えている状況だ。

 

 2月中旬、インドで大型の研究会に出席したが、インド政府は公式に見解を出していないものの、インドの知識人や政府に非常に近い人たちは、自分たち(インド)は近い将来中国に並ぶ大国になるんだという矜恃を持ち、米国の軍事的支配に対して非常に強い憂いを持っている。ロシアとウクライナ双方に対して平和と停戦を呼びかけることが非常に重要だということを、何人もの重要人物が語っていた。

 

 昨年末、インド大使館を訪れたさいも、インド大使は“停戦と講和は非常に重要なことであり、機が熟せばインドが(仲介を)やることもあり得ることだ”というふうに語っていた。

 

 ASEANは今、米国が「民主主義か、専制主義か」といって米中どちら側に着くかを選択させようとしていることに対して、「われわれに選ばせるな」という声明を出し、昨年インドネシアが議長国だったG20会合にもロシアを呼んで話し合いを続けた。次の議長国はインドだ。インドが、G20とグローバル・サウスを動かして停戦交渉に向かうということはあり得ることだと思う。

 

 G7では、フランスのマクロンが、プーチンと15回の個別会談を開いている。ドイツのショルツも同様のことをやろうとして、米国からくり返しプレッシャーを受けている。シンガポールとフィリピンの代表も「平和の維持」を訴えており、米国が戦争継続を主張することに対して異を唱えている。このように世界には、ウクライナ戦争をめぐって二つの潮流があるが、一方の潮流についてほとんどメディアでは報道されない。

 

 中立軍については、交戦状態にある2者の間にバッファゾーン(緩衝地帯)を設け、そこに中立的な軍隊を国連から送ることはあり得ることだ。一方で、中国やインドの中立軍を米国や欧州が承認するのかという問題もある。それなら米国や欧州の軍も含めた形で中立軍を構成し、停戦に向かわせる可能性も探るべきではないかと思う。

 

核保有国の代理戦争 停戦なしに終戦もなし

 

 伊勢崎 3月21日、台湾の現役および退職した学者37人が声明を出している。主な骨子は以下の4つだ。

 

 1、ウクライナの平和のための和平交渉と戦闘の停止を
 2、米国の軍拡と対ロシア経済制裁の停止を
 3、米中戦争にNOを。超大国からの台湾の自立を
 4、台湾の国家予算を軍拡ではなく地球温暖化等の地球規模の問題の対策に充てよ

 

 僕たちの声明とも重なり、政策提言にまで踏み込んだすばらしい声明だ。

 

 ウクライナにおける国連軍は、2015年のミンスク合意でOSCE(欧州安全保障協力機構)を中心にしてそれが組織された形跡があるが、それが破られ(誰が破ったかは諸説あるが)、攻撃を受けて停戦は決裂した。OSCEが弱かったことが考えられる。

 

 一方、国連の決議を受けると全世界が出兵するので、国連軍は大きなものになる。これは大きなものでなければ、あまり意味がない。なぜなら停戦合意は、必ず破られるからだ。でも、それに屈しない強靱な意志が国際社会に必要だ。それが停戦監視団が成功する唯一の例だ。シリアでも失敗した。国連が絡んだ停戦監視団が成功した例は数えるほどしかない。

 

 また国連中立軍は、武装するのか、非武装かという問題もある。最初の第二次中東戦争のときの国連軍は武装した。その後のほとんどの国連軍事監視団は非武装が原則だ。だから自衛隊も入ることができる。近代における唯一の例外は、ゴラン高原(イスラエルとシリアの停戦ライン)だ。ここでは自衛隊も武装した。あれはやめた方がいいと思う。

 

 アジアも中立軍に参加すればいいじゃないかという意見には賛成する。実は過去に逆のケースがあった。僕が個人的に関与したアチェ(インドネシアの州)のケースだ。

 

 アチェはインドネシアからの独立をかけてインターナショナル内戦をやり、結果的に「Autonomy(自治)」という形になったが、それまでずっと戦争をやっていたわけだ。そのとき“これはASEANの問題だからASEANが監視団を送る”という話もあったが、実際はEUが主導した。その中心人物が、後にその功績でノーベル平和賞を受賞したフィンランド元首相のマルッティ・アハティサーリだ。このときはEUがアジアの問題に関与したわけで、今度は逆にアジアのわれわれが北東アジアの平和の問題をリンクさせてやればいいのではないか。

 

 記者 フリー記者としてウクライナ現地で2度取材した。被害者であるウクライナが妥協しなければならないような停戦では、ウクライナ人は納得しない。“たかが領土”という発言があったが、そこには人々の生活があった。戦争を終わらせる話をウクライナの人たちの頭越しにするべきではないのではないか?

 

 和田 ウクライナ現地で取材した方の感情としては理解できる。ロシアが侵略し、そこで犠牲者が出ていることは事実なのだが、問題はそれをどうやって止めるのかということだ。

 

和田春樹氏

 私たちが停戦を訴えているのは、まず戦争開始の早い段階でウクライナとロシアが停戦交渉を始めていたからだ。この交渉が流れてから1年が経つ。その後、ロシアは2共和国(ドネツク、ルハンシク)の併合を前提にすることで自分たちの要求を示しつつ停戦を呼びかけたが、ウクライナとしてはそれは受け入れられない。ウクライナは基本的にクリミアを含む1991年の独立時点の国境までとり戻すことを目指して、勝利を望んでいる。そして戦争を続けるために全世界の支持とさらなる兵器の提供を求めている。

 

 ウクライナの抵抗の気持ちは理解できるが、私たちとしては少なくとも停戦会談まで立ち戻って、停戦条件について双方で話し合い、答えを見出してほしいという気持ちで提案している。ウクライナ戦争が拡大し、私たちの地域でも戦争が起きることを避けなければならないからだ。

 

 戦争当事者が勝つための支援を求めることは当然の動きだが、私たちはアジアの平和を維持していきたいという立場から問題を提起している。ウクライナとロシアは、戦争をしながらでも停戦会談をおこない、早急に停戦ラインを決めてもらいたい。それが戦争を拡大させないことに繋がるからだ。戦争の外側にいるわれわれとしていえることはこれしかない。停戦することが、結果的にウクライナにとって公正な帰結に繋がる一歩であると信じている。

 

 伊勢崎 なぜ“たかが領土”といったかといえば、ここが日本だからだ。日本人、日本のメディアに対しての発言だから、あえて“たかが”といっている。われわれの問題としては“たかが尖閣”なのだ。あの誰も住んでいない島のことだ。

 

 停戦のシナリオ通り、仮に国連総会もしくは国連安保理で、国連が主導し、OSCEと連携して停戦監視団みたいなものができたとして、もしまた僕に国連から調停の依頼がくれば、そんな言葉は絶対に使わない。しかし、それでも命を狙われるのが、中立の停戦監視団だ。

 

 「なぜあんな悪魔と交渉するのか」「悪魔と和解とはどういうことか」「攻めてきたのはあちら側であり、(たとえ1㍉であっても)なぜ引き渡さなければいけないのか」――それが被侵略国側の感情であることは十分に承知している。それでも、われわれは命を狙われる。それくらい、このような現場には“中立”という立場はない。いくら中立を装っても狙われる。中立ではないと見なされるからだ。

 

 この停戦の呼びかけも、和田先生たち(歴史家の)グループで活動しているのも、それを前提にした覚悟があるからやっている。この発言をしはじめて、この日本であっても非常に感情的なリアクションが飛んでくる。でも、和田さんもいうように、あくまでもわれわれは「外野席」にいる。外野席からいえることをいう。そして、もし“中立”の立場になって、現場でそれを実務でやるとすれば、どういう気概を持った日本人をそこに参加させるのか――そういう話を今しなければならない。そのために僕はやっている。

 

 ちなみにプーチンみたいな指導者が、わが国の首相になるならば、僕は誰よりも早く銃をとる。

 

 羽場 “ウクライナは被害者だ”というが、ウクライナの誰を被害者と考えるのか? ウクライナは多民族国家であり、一口にウクライナ人といっても立場は多様だ。東部では3割がロシア語話者であり、ウクライナ人とロシア人の婚姻や親戚関係も大量にある。そういう人々がロシア側にもウクライナ側にも住んでいる。それが最大の少数民族であり、ドンバスのロシア系住民は、ずっと以前から独立ないしは連邦制を主張し、ウクライナ政府との内戦では8年間で1万人以上の犠牲者が双方から出ている。

 

 だからウクライナにおける戦争は、2004年のオレンジ革命、2014年のマイダン革命、ドンバス内戦、22年以降のロシア侵攻という歴史の連続性のなかで総合的に考えなければ、正しい判断はできない。

 

 さらに2022年まで国連本部、日本やEUのNGOも含めて、ウクライナのアゾフ隊がいかに国内で人権蹂躙をしてきたかという資料が膨大に残っている。それがロシア侵攻以来、すべて影を潜めたことも事実だ。

 

 2022年にロシアが侵攻してから、ウクライナの人たちがロシアを信頼しなくなったということはよくわかるが、それによってその前の事実がすべて消されるのかといえば、アカデミアとして、研究者として、それはできない。

 

護憲派からも批判 だが長期化すれば犠牲増加

 

 記者 「今こそ停戦を」という主張に対して、保守系だけでなく、護憲派や武器輸出反対の市民グループも“現状における停戦は、侵略の拡大に繋がる占領の固定化であり、大量虐殺の証拠隠滅がされるだけ。プーチンのてのひらで躍るな”など、手厳しい批判をしている。ロシアが停戦によって体制を立て直し、合意を破棄して再侵略をする可能性はないか? それを抑止するためには、中立軍は相手の攻撃力を撃滅する軍事力を持つものでなければ意味がないのではないか?

 

 伊勢崎 中立軍は、紛争当事者を上回るような軍備を持ち、それを武力的に制圧するというコンセプトではつくられない。あくまで重要なのは、そこに誰が参加するかだ。だから全世界の人が参加すれば一番これが理想的な考え方だが、もしたとえばロシアが中立軍に対してそういう場面で攻撃すれば、そういう国全体を敵に回すことになる。それのみを抑止力とするのが、中立軍というコンセプトだ。

 

 これは部分的には成功している。印パ国境(双方が核保有国)では、半永久的に、非武装の中立軍がついている。一応、それまであった印パの全面戦争を抑止している。

 

 もう一つの例は、朝鮮戦争の休戦協定だ。もちろん米軍という強大な武力があるが、忘れてはならないのは在韓米軍は9カ国が入った朝鮮国連軍だ。だから在韓米軍に関していえば、アメリカの独自の意志決定だけでは行動ができない。問題ある国連軍なのだが、そこでもし中国や北朝鮮が38度線をこえて南に武力侵攻すれば、国連を敵に回すということになる。

 

 和田 われわれの主張に批判があることは承知しているが、ではこのまま戦争を継続させ、かつて日本やナチスドイツを叩きつぶしたように、プーチンが降伏するまで叩きつぶして、ロシアを戦争国家から平和国家に変えることができると考えるのならば、それは幻想だ。ロシアも米国も核兵器を持って対峙しているこの世界で、一方的な勝利で戦争を終わらせることなどできない。戦争の火種をすべてとり除くような解決を求めることはできない。そうである以上、結果はすべて暫定的なものにしかならない。戦争は絶えず起きるわけであり、それに反対していかなければならない。

 

朝鮮戦争の休戦交渉。板門店で合意書に署名する北朝鮮軍と国連使節団長(1951年10月)

 朝鮮戦争でも、米国とソ連が核兵器をもって対峙していたから米国も直接交戦したくないから休戦協定に持って行った。北朝鮮と韓国は、どちらも統一を目指して最後まで戦おうとした。ウクライナが自分たちのものを勝ちとらなければならないと思えば、停戦に反対するだろうが、クリミアをとり戻すためにはロシアと全面戦争しなければならない。そうなれば最終的には米ロの核戦争になりかねない。だから、どんなにウクライナが不満であっても、やはり戦争を止めなければならない。米国は、ロシアを弱体化させるために、できる限りウクライナに戦争を続けさせたいが、ロシアがいきり立って米国に向かって攻撃をかけてくるようになれば、米国は戦争をやめるという考え方だ。朝鮮戦争のとき米国は、戦争継続を望んだ韓国の李承晩をクーデターで倒すことまで画策したが、その前に停戦した。

 

 ひとたび戦争が始まれば、抜本的な解決は望めない。しかし、とりあえず戦争を止め、人々の苦しむ状況を終わらさなければならない。そういう範囲でものを考えざるを得ない。

 

 記者 中立軍を入れようとしても、国連安保理でロシアが拒否権を発動し、「ウクライナの問題はロシアの国内問題だから介入するな」といえば終わりではないか?

 

 羽場 日本での情報が限られているからだと思うが、左側の人たちから、停戦要求はおかしいという意見が上がっていることは存じ上げている。だが、昨春は米国、今春にはカナダでの国際会議に参加し、1月には国連本部でも話をしてきたが、米国でもカナダでも欧州でも、報道とは裏腹に、停戦した方がいいと考える人たちの声は比較的多い。

 

 たとえば米国では“武器輸出疲れ”という空気とともに、国内インフレの最中になぜ国内問題に投資せず、ウクライナ支援ばかりしているのかという市民レベルの声が高まっている。同様に欧州でも、米国の要求に同調して戦車やミサイルを供与しているが、それ以上に国内のエネルギー問題が深刻化して冬がこせないかもしれないという問題の方が大きいという論議がある。このような情報は日本の報道からは入ってこない。先月、中国が停戦案を提示したとき、ウクライナのゼレンスキー大統領もクレバ外相も「話し合う準備はある」といっていたが、それがずるずると引き延ばされている現実がある。ウクライナ側も実は中国がうまく停戦交渉をやってくれれば、これ以上被害を拡大したくないという考えを持っていることが垣間見える。

 

 1月に国連本部を訪ねたとき、ウクライナ問題の担当者が“虐殺は双方にあった。現在もある。公正な事実を集めて検証中だ”とのべていた。一方的にウクライナだけが被害者とは、米国も欧州も国連でさえもいっていない。日本での報道との間に、かなりの情報のギャップがある。

 

 伊勢崎 ロシアが拒否権を発動すれば国連は何もできないだろう、という意見についてだが、確かに国連が停戦監視団を出すのは、たいへん難しいことだ。安保理が機能不全に陥ったケースでは、第二次中東戦争で中立軍を派遣した例があり、国連総会にまだ望みはある。

 

 国連の事務局には意志はないが、必ずリード国があらわれる。第二次中東戦争のときはカナダのピアソン外相だったが、今回は中国が出てきた。必ず政治を動かすリード国が必要であり、それに応じて国連事務局がロジスティックス(編成内容など)をデザインする。

 

 実は国連本部には、すでに停戦に向けた部署もできている。どれくらいの規模で、誰にどういう権限を持たせるかなどのミッション設計は、比較的短時間で安保理の俎上に載るだろうが、どうやって載せるかが問題だ。

 

 今中国が手を挙げ、同じ常任理事国であるロシアを説得するための国連停戦監視団を設立するには今が一番いい時期だ。ロシアが少し乗り気だからだ。そのときにどういう条件を入れるか。僕は直接関係のないアジア、外野席の国からたくさん入れた方がいいと思う。


 そして僕が習近平であったら、プーチンに対して「自国の兵士がウクライナで犯した戦争犯罪について、まず第一次裁判権をジュネーブ諸条約に則り、ロシア政府の責任においてそれを行使せよ」という。同時に「国際司法の起訴に向けた調査に全面的に協力せよ」の二つを要求する。

 

 ジュネーブ条約上の規約は日本人に説明するのは非常に難しい。戦争犯罪を規定するジュネーブ諸条約では、第一次裁判権は締約国にある。日本はこれに批准しているが、戦争犯罪を裁く司法をつくることを怠っているから、なかなかそれが理解できない。でも、自国兵士の戦争犯罪を最初に裁かなければならないのは、その当事者の国なのだ。それでも何もしない(しないと思われるが)ときに、国際司法が補完的に介入するという仕組みで動く。まず自分で裁け、ということだ。

 

 今ウクライナ国内でICC(国際刑事裁判所)もジュネーブの人権委員会も証拠集めに動いている。名前があがったロシア兵の行為については、ロシアの責任において調査し、隠ぺいするなという必要があるだろう。

 

 岡本 朝鮮戦争では休戦協定の交渉が始まってから2年間続き、その間に100万人以上の人が死んでいる。ウクライナでは休戦交渉そのものも始まっておらず、それに対する中国やインド、その他の国々の関与の仕方もまだはっきり決まっていない。とにかくまず戦争を止めること、そして国際社会の多くの人たちとともにこの声をあげ、G7にもいい続けていきたいというのが活動の趣旨だ。戦争が始まれば、なかなか終わらない。だからこそ、絶対にこの地域で戦争をしてはならない。これがわれわれの立場だ。

 

関連: G7サミット首脳にむけ、「#今こそ停戦を」Change署名
https://chng.it/ZrHvPh8x

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。