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米国産生ジャガイモの輸入解禁やめよ 生産者と消費者が緊急行動 害虫侵入と価格崩壊で「国内生産は壊滅する」

(2026年9月11日付掲載)

国内シェア1位の北海道産生鮮ジャガイモ

 収穫の秋を迎えるなか、主食であるコメの暴落に加え、米国産生鮮ジャガイモの輸入解禁の動きなど将来の食料生産への不安が全国で高まっている。米国産生鮮ジャガイモの輸入解禁は、アメリカのトランプ政府からの中間選挙もにらんだ強い対日圧力によるもので9月が大きな山場となると見られている。東京大学大学院特任教授の鈴木宣弘氏は、「最大の懸念はジャガイモシストセンチュウ(害虫)の侵入」であり、「被害が広がれば日本のジャガイモ生産が壊滅しかねない」と警鐘を鳴らしている。生産者や消費者も米国産ジャガイモの全面輸入解禁に反対する緊急声明を出し、署名活動を開始するなど行動に出ている。日本の食料自給率は2025年度に37%になり過去最低を更新した。米価暴落に続く生鮮ジャガイモ輸入解禁は、あらゆる農家のさらなる離農に拍車をかけることになり、国民の「食」を支える国内生産が崖っぷちにたたされている。生産者団体だけでなく、消費者が声を上げ、国民全体の反対世論を国に届けることが急務となっている。

 

防疫も駆除も不可能なセンチュウ

 

 米国産生鮮ジャガイモの輸入解禁で、防疫上最大の懸念となっている「ジャガイモシストセンチュウ」という害虫の侵入について専門家は次のように指摘している。

 

 「ジャガイモシストセンチュウ」は、土の中に生息する微小な線虫(センチュウ)の一種で、1940年に米ニューヨーク州で初めて発見された。2006年には米国最大のジャガイモ産地であるアイダホ州で見つかって全米の農家を震撼させた。このセンチュウはジャガイモの根に寄生して養分を吸いとり、生育を阻害する害虫だが、一度土壌に侵入するとほぼ根絶できず、ジャガイモ農家を廃業に追い込むほどの凄まじい生存力と破壊力をもっているためで、米国では連邦規則に基づき、最も警戒度が高い「規制対象の検疫有害動植物」に指定されている。

 

 ジャガイモシストセンチュウは、メスの成虫が自分の体内に卵を産みつけたあとに硬化して死ぬ。その硬くなった体が「シスト」と呼ばれる硬い殻の役割をはたし、数百個の卵を守る。この虫の恐ろしいところは、この殻が寒さや乾燥に非常に強く、たとえ宿主となる植物が育たないような過酷な環境でも土壌のなかで10年以上生き延びることができることだ。薬剤(土壌消毒剤)を撒いても、硬い殻に阻まれて中の卵まで完全に駆除することは不可能とされる。

 

ジャガイモの根に寄生するジャガイモシストセンチュウ

 センチュウの体長は1㍉未満、無色透明であり、目視ではほぼ確認できない。一度畑に入りこんでしまうと、完全に死滅させることは不可能で、感染した畑はジャガイモの収穫量が激減し、事実上の栽培不能に追い込まれる。センチュウが見つかった畑では、種イモを生産できなくなるばかりでなく、農機具や長靴に付着したわずかな土や農業用水によっても簡単に他の畑に移動するため、畑そのものを長期にわたって完全隔離しなければならなくなる。種イモが生産できなければジャガイモの生産も成り立たない。

 

 日本でのジャガイモ生産の8割は北海道が占めており、もし北海道で被害が広がれば、全国への供給も大きな影響を受けることになる。

 

 2015年に北海道網走市内の一部の畑で「ジャガイモシロシストセンチュウ」が国内で初めて確認されたが、それから10年以上たった今も、約80㌶(甲子園球場約20個分)の畑で作付けできない状態が続いているほど、この虫の被害は深刻だ。現在も緊急防除と厳格な移動制限が続いている。

 

 ジャガイモシストセンチュウの特徴をまとめると、見た目はわずか直径約0・6㍉の粒だが、「シスト」の中には200~500個の卵が閉じ込められている。乾燥・低温・農薬が効かず、ジャガイモの根が出す物質を感知して一斉に孵化する。機械や靴の泥に乗って、あっという間に広がる。根を食い荒らし、高密度になると収量が60%以上激減する。さらに脅威的なのは、侵入してから被害があらわれるまで5年以上かかる場合があるなど、とてつもなく厄介なしろものだ。

 

 だからこそ、「生鮮ジャガイモは水際でとめなければならないと農水省も何十年も抵抗してきた」と関係者は語っている。

 

 アメリカはこれまでも米国産ジャガイモ輸入禁止措置の解除を執拗に要求してきており、2006年に日本政府は、ポテトチップスなどの加工用に限り厳しい条件つきで解禁した。▽センチュウ発生地域を排除した指定産地からのみ出荷が可能、▽密閉コンテナで輸送し、指定の加工施設へ直送する、▽130℃以上の油で2分以上加熱、残渣や包装も焼却処分する、など外界から完全に隔離した管理体制が義務づけられている。

 

 今回アメリカは、ポテトチップス加工用に限定していたものを、「不当な貿易障壁」だといって、スーパーなど一般流通向けにまで解禁することを要求してきている。日本は米国産ジャガイモの輸出先として世界一(金額ベース)で、利益の出やすい巨大市場であるからにほかならない。

 

 仮にスーパーの野菜売り場に米国産の生鮮ジャガイモが並ぶようになった場合、家庭でジャガイモの皮をむいたさい、その皮をコンポストに入れたり、庭の隅の土に埋めたりすることで、病原菌やセンチュウが土壌に直接定着する危険性がある。また、庭のプランターや畑に芽が出たジャガイモをそのまま植えたりすることで日本の土壌に線虫が侵入してしまう。たとえ輸出前に一個ずつジャガイモに付着した泥を洗い流したとしても、皮に付着した卵やセンチュウを完全に取り除くことはできず、「生」の状態で流通する以上、センチュウ類の国内侵入を完全に防ぐことは不可能なのだ。

 

 日本のジャガイモ農家は毎日、「畑に入るさいは、靴底の泥を落とす」などの厳格な衛生管理を徹底している。こうした農家の努力が水の泡になりかねない。

 

トランプが解禁圧力 「日本はなんでもいうこと聞く」

 

 では、なぜ今アメリカはこのような対日圧力を強めているのか。

 

 アメリカは1993年以来、生鮮ジャガイモの市場開放を要求してきた。日本は、2006年にはポテトチップス用などの「加工用」に限り米国産ジャガイモの輸入を認めたが、病害虫が持ち込まれるリスクを避けるために、生のまま販売する「生食用」の輸入は認めてこなかった。

 

 今回の輸入解禁の動きの契機となったのは、2020年の第1次トランプ政権下でアメリカ側からあらためて要請があったことによる。超党派議員68人が大統領へ市場開放を求める書簡を送るなど、日本市場開放圧力が続いている。これを受けて日本政府が正式な手続きを開始した。

 

 さらに今年3月、超党派議員がトランプ政権に再度日本市場の開放を求め、規制が撤廃されれば年間約1・5億㌦の輸出増につながるとの試算を示した。この動きは大量輸出を本気で狙っているということであり、解禁が実現した場合、店頭価格が3~4割程度安くなる可能性があるとの試算も出している。

 

 アメリカの対日圧力を受けての日本側の対応について鈴木氏は、2020年に、①ポテトチップス加工用生鮮ジャガイモの通年輸入解禁、②生食用ジャガイモの全面輸入解禁に向けた協議開始(=早晩解禁と同義)、③動物実験で発がん性や神経毒性が指摘されている農薬(殺菌剤)ジフェノコナゾールを生鮮ジャガイモの防カビ剤として食品添加物に分類変更(日本では収穫後の農薬散布はできないが、米国からの輸送のために防カビ剤の散布が必要なため食品添加物に指定することで散布を可能にした)、④その残留基準値を0・2ppmから4ppmへと20倍に緩和した、と大幅に譲歩していることを指摘し、生鮮ジャガイモ輸入解禁への流れとして示している。

 

 さらに同時進行として、2017~21年に⑤遺伝子組み換え(GM)ジャガイモの4種類を立て続けに認可(外食には表示がないのでGMジャガイモかどうか消費者は判別できない)、⑥日米貿易協定に基づく冷凍フライドポテトの関税撤廃(2021年)と「至れり尽くせり」の措置が続き、ついに今回の生鮮ジャガイモ輸入解禁手続きの前進につながったとしている。

 

 鈴木氏は、今回米国側が対日圧力を強めた背景について、「高市政権は、これまで以上に米国の要求に忠実に従う姿勢を示している。そのため米国も“今がチャンス”と考え、圧力を強めた。日本政府はその要求に応じようとしている」と指摘している。

 

 農水省は現在のところ、生鮮ジャガイモの輸入解禁について、「あくまで協議中であり、輸入解禁は決定していない」というスタンスだが、鈴木氏は手続きは「事実上の最終段階に入っている」と見ており、「政府は、米国側の検査体制や管理体制を確認したうえで判断するとしているが、それは形式的なもので、実際には輸入を認めるための手続きに入っていると思う」「日本には米国の要求を最終的に拒否するという選択肢が事実上ない」とし、米国からの要求を拒みきれない日本外交の問題が背景にあると指摘する。

 

 また、トランプ大統領側には、中間選挙を控えており、何らかの成果を示したいという事情もあるとする。

 

輸入依存は飢餓を招く 命守れぬ国にするな

 

 鈴木氏らが懸念するのは、日本の食料自給率への影響だ。日本の食料自給率は2025年度に37%で過去最低を更新した。ジャガイモの自給率は1970年代まで100%だったが、2023年には68%に落ち込んでいる。日本のジャガイモ生産量は230万㌧で、アメリカの生産量は2000万㌧と10倍も違う。アメリカは世界でも有数のジャガイモ生産国で、生鮮ジャガイモの輸入を解禁すれば、安価な米国産ジャガイモが大量に流入し、生産者には生産費を割り込む低価格競争が押し付けられる。センチュウの侵入で国内生産が打撃を受ければ、経営難に陥り離農者が増えていくことは明白だ。国産ジャガイモが米国産ジャガイモにとってかわられるのは時間の問題であり、食料自給率はさらに低下する。

 

 だが、今日の国際情勢は不安定化を増し、食料をいつまでも安定して輸入できる保証はない。イラン戦争に見られるように、輸送路が途絶えたり、輸出国が自国への供給を優先したりすれば、食料を海外に依存する日本は、たちまち危機的な状況に陥る。

 

 ではどうするのかについて鈴木氏は、「自分たちが食べるものを国内でつくる力を弱め、輸入に依存せざるをえない流れを強めようとしている。その先にあるのは、何かが起きたときに、子どもたちの命を守れない国だ」「生産者団体だけではなく、消費者が“自分たちにとっても心配な問題だから、輸入解禁は認められない”と声を上げることだ。何百万人もの署名が集まるなど、国民全体の反対が大きくなれば、政治が動かされ、手続きを遅らせる可能性はある」として、要旨以下のようにオンライン署名を呼びかけている。

 

■署名活動の主旨(要旨)

 

 私たちは、米国から求められている「生ジャガイモの輸入解禁」に、強い危機感を持っている。

 

 最大の懸念は、「ジャガイモシストセンチュウ」という害虫だ。一度圃場に侵入すれば、完全な駆除はほぼ不可能で、ジャガイモの根に寄生して収穫量を落とすだけでなく、種イモの生産そのものができなくなる可能性がある。

 

 米国産の生ジャガイモがスーパーで販売されるようになれば、購入した人が家庭のプランターに植えたり、土や線虫が靴底を通じて畑に運ばれたりするリスクが生じる。国内生産が線虫の被害を受け、そこに安価な米国産が入ってくれば、国産から輸入への置き換えが進み、ジャガイモの自給率はさらに下がりかねない。だからこそ、生のジャガイモは長年、水際で止められてきた。農水省は何十年も必死に抵抗してきた。特に、食料を安定して輸入できる保証がなくなりつつある今、看過できる問題ではない。

 

 すでに多くの生産者と多くの消費者が不安の声を上げ、JA北海道中央会の樽井功会長も「断じて容認できない」と反対の姿勢を示している。

 

 消費者の間には、食品添加物に分類変更することで輸送時の散布が可能になったポストハーベスト(収穫後)農薬である防カビ剤のリスク、遺伝子組み替えジャガイモが輸入されるリスクへの懸念の声もある。

 

 農林水産省は「解禁が決まった事実はなんらない」としている。しかし二〇二〇年の米国からの要請以来、検疫協議は続いており、手続きはすでに事実上の最終段階に入っている可能性がある。米国側の管理体制を確認したうえで問題ないとなれば、そこから止めるのは非常に困難になってしまう。そうなる前に、あなたの力を貸してください。

 

 私たちは高市早苗総理大臣に対し以下の点を要請する。
 ・生食用の生ジャガイモの輸入解禁に向けた手続きを止めてください。

 

 署名発信者:一般財団法人食料安全保障推進財団(理事長 鈴木宣弘)

 

オンライン署名はこちらから(外部リンク)

 

生産・消費者が猛抗議 北海道や長崎で

 

国内農業を守ることを求めて「令和の百姓一揆」が全国各地でとりくまれてきた(昨年7月、鳥取県)

 7月末には、JA全中が農林水産大臣に対して、輸入解禁への慎重対応とリスクゼロの徹底を強く求める要請行動をおこなった。最大産地の北海道の農業関係者は、「害虫の侵入が防げなかったときの責任は誰がとるのか」「一度害虫が入ったらもう元には戻せない」「私たちの畑は、実験台じゃない」などの切実な声を上げている。

 

 JA北海道中央会の樽井会長は、8月18日の定例会見で「解禁は病害虫リスクを高めるだけでなく、徹底した病害虫対策をして、国内のジャガイモの安定生産に努めている生産者の意欲を著しく低下させる。断じて容認できない」と断固反対の姿勢を示した。北海道北見地区農民連盟は8月19日、8892筆の反対署名を農水省に提出した。

 

 生産量全国3位の長崎県JAグループは8月31日、米国産生鮮ジャガイモの輸入解禁に反対すると農水省を訪れて緊急要請をおこなった。JA全農ながさきの調べでは、過去5年間の長崎県産の平均販売単価(1㌔当り)181円に対して、すでに輸入が解禁されている米国産加工用は101円とし、安価な生鮮用が流入すれば、値下げ圧力で県内生産者の収益が悪化し、生産縮小や離農、食料自給率の低下などを懸念している。

 

 消費者団体も緊急声明をあいついであげている。日本消費者連盟は2日、農水相に対して「米国産生ジャガイモの全面輸入解禁に反対し、食の安全と日本の農業を守るための緊急要請」をおこなった。要請文のなかでは問題点として、「現在生産量が減っているとはいえ、国内で安全なジャガイモが供給できているにもかかわらず、安い米国産ジャガイモが輸入されたら、農家の経営に打撃を与える。国内の生産基盤を弱体化させ、海外からの供給に依存することは、食料安全保障にもかかわる深刻な問題が生じる。国内で農業を営み、安定して食料生産ができてこそ、消費者の日々の食生活は成り立つ」などを指摘し、以下の事項を要請している。

 

 ▽米国産生ジャガイモの輸入解禁に向けて、植物防疫法省令の改正および内部手続きを中止することを求める。

 

 ▽病害虫の検疫・防疫体制を強化するとともに、国産ジャガイモの安定生産と国内農業の生産基盤を守り、食料安全保障を強化する政策に転換することを求める。

 

 ▽日米貿易において食の安全と農家経営を脅かす米国からの圧力を明確に拒否し、日本の食料主権を守ってください。

 

 また、愛知・岐阜・三重・静岡の四県で活動する生活協同組合のグループは8月28日、緊急声明を発表し、①米国産生ジャガイモの全面輸入解禁に向けた手続きを中止すること、②ジフェノコナゾールをはじめとする農薬・食品添加物の使用・残留基準について、食の安全を最優先とした制度運用をおこなうこと、③国産ジャガイモの安定生産と国内農業の生産基盤を守り、食料安全保障を強化する政策へ転換すること、を要請した。

 

 関西・四国の2府8県で活動する生活協同組合のグループは8月31日、米国産生ジャガイモの全面輸入解禁に反対する緊急声明を発表。病害虫の侵入から国内の生産基盤を守ること、食の安全を後退させる規制緩和を繰り返さないこと、遺伝子組み換え(GM)・ゲノム編集食品について、消費者の知る権利と選択権を守ること、国内農業と食料安全保障を守る政策への転換を求めた。

 

 農水省は9月に入り生産者を対象にした説明会をおこなうなど、輸入解禁手続きを進めているが、全国の生産者や消費者の輸入解禁反対の運動も広がりをみせており、日本の食料生産を守るうえで重要な局面を迎えている。

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