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日本政府はご遺骨と向き合い誠意尽くす時 長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会代表・井上洋子

(2026年1月1日付掲載)

長生炭鉱坑道内から初めて発掘された犠牲者の遺骨と向き合う井上代表(2025年8月25日)

井上洋子氏

 長生炭鉱(山口県宇部市)の水没事故から83年目の昨年8月25日、私たちはようやく海底の犠牲者のご遺骨と対面することができました。「必ず遺骨はある」という確信のもと、7回目の潜水調査によってご遺骨にたどりつき、その他に4体のご遺骨があることも確認されました。ところが、それから4カ月が経過しましたが、日本政府はご遺骨のDNA鑑定に動こうとしません。私たちは1日も早くご遺族にご遺骨をお返しするために、今年2月に世界のダイバーを招聘して「遺骨収容2026」をおこないます。このプロジェクトを成功させることが、DNA鑑定すらしようとしない日本政府を動かす大きな力になると考えています。

 

 昨年は長生炭鉱に対する市民の関心がいっきに高まりました。街を歩いていると「テレビに出ている井上さんですよね。政府は、目の前に遺骨があるのになぜ動こうとしないのか」と声をかけられることが多くなりました。全国の団体や個人の方からのフィールドワーク(現地見学会)の要望や講演依頼も増えており、1年前からは想像ができないほど、市民の世論と関心の高まりを感じています。

 

 クラウドファンディングにひとりの在日の方からメッセージが寄せられました。「こんなにも、この問題に想いを寄せてくださる方々がいるのだと思うと、私たちが存在していいのだ。見えないことにされない、とるに足りない存在ではないのだという感じがします。埋まったまま放ったらかしにされている戦争の被害にあった人たちの尊厳を回復し、そして今を生きる私たちの希望になるような気持ちです。本当に夢のようです」と。

 

 長生炭鉱に関心を寄せる人々の広がりは、日本の植民地政策のために辛酸をなめながら生き抜いてこられた在日コリアンの皆さんへの差別を許さない世論の広がりにもつながっていると確信しています。

 

 私が今、全国各地の講演で訴えているのは、「見つかったご遺骨すら見捨てる国というのは、アジアをはじめ世界から見捨てられる国になる。そんな日本政府であっていいわけがない」ということです。2023年12月の日本政府との交渉で、政府は「海底のため遺骨の位置や深度がわからないので発掘は困難だと理解してほしい。“見える遺骨”に限り調査する」といいました。直系遺族である息子さんたちは高齢化し時間が残されておらず、政府の対応を待っていては、遺骨の対面は不可能に近いと判断した私たちは、2024年2月3日の82周年追悼式で、埋められた坑口を市民の力で開けて遺骨の存在を明らかにする決断を宣言しました。

 

 水中探検家・伊左治佳孝さんの申し出によって、2024年7月、沖のピーヤからの潜水調査をおこない、9月に坑口を見つけ出して以降、10月、そして2025年1月、4月、6月、8月と潜水調査を連続的におこないました。その間には、地元のダイバーさんがピーヤ内の障害物や鉄骨の除去作業に尽力してくださり、安全な潜水調査をおこなうために大きな力をいただきました。

 

 8月25日の7回目の潜水調査は、韓国の2人のダイバーによってご遺骨と対面することができました。それまで伊左治さんによって、ご遺骨が収容された箇所まで命綱の細いリール(ロープ)がはってあり、その日、韓国のダイバーはそのリールをたどって現場に到達し、ご遺骨を発見することができました。日本と韓国ダイバーのすばらしい連携プレーによって83年越しの遺骨収容へと繋がりました。

 

 2月の潜水調査に参加する世界のダイバーは、長生炭鉱の遺骨収容の意義を理解してくださり、ボランティアでの協力を申し出て下さっています。目の前にあるご遺骨を遺族に返したいという思いは、人として当たり前の思いであり、それは国籍や民族などをこえた共通のものです。

 

2月が正念場 大規模潜水調査が始動

 

遺骨収容に協力する日韓のダイバーたち。2月には海外から有力ダイバーたちが集結する予定(2025年4月、山口県宇部市)

 昨年4月7日、当時の石破総理は国会答弁で、長生炭鉱の調査について「安全性において相当の懸念がある状況だと承知している」「政府が危険と知りながら『自己責任』というわけにはいかない」と発言をしました。この発言はとても大きな意味を持ち、いまもってその発言は生きていると捉えています。私たちは民間の力で何度も潜って安全を証明してきています。ところが厚労省はご遺骨が見つかってもなお「(危険だから)対応可能な範囲をこえている」といって動こうとしません。

 

 私たちは民間団体でありながら、多くの人の力を借りて危険をとり除きながら一歩一歩進んできました。政府は「危険」であることを理由にかかわることを拒絶していますが、危険であるからこそ、その危険をとり除くために国が動くのが遺骨に対して誠意を尽くすことではないでしょうか。

 

 昨年11月16日、韓国ソウルで、超党派の日韓議員連盟の総会が開かれました。その共同声明では、長生炭鉱の問題にも言及しています。「被害当事者の名誉と尊厳が回復されるように引き続き真摯な姿勢でその解決に向けた対話を重ねていくことを求める」「(見つかった人骨の)DNA情報を両国が共有し、身元確認が進められるよう、両国の国会が積極的に乗り出す」ことが盛り込まれました。私たちは日韓議員連盟の共同声明に、長生炭鉱の遺骨収容、返還について盛り込んでいただくよう働きかけをおこないました。この問題は、政治や思想信条をこえて人道的な観点からおこなわれるべき事業であり、日韓共同の事業として両国の保守、革新をこえた力が必要だからです。共同声明に盛り込まれたことは大きな意味を持ちます。

 

 昨年12月23日の政府交渉には「日本政府はこの遺骨を見捨てるのか」という横断幕を掲げました。日本政府を動かすまでこのタイトルでいきます。2月にはさらに多くのご遺骨が出てくることでしょう。2月が正念場です。そのご遺骨の存在が、さらに日本政府を追い詰める力になっていくと思います。過去に侵した植民地支配の歴史と向き合い、遺骨と向き合い、遺骨に誠意を尽くす、それが日本政府に求められていることです。多くの市民、県民、国民が動向を見守っています。私たちは必ずやり遂げたいと思います。

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