(2025年10月27日付掲載)

唐突な学費値上げ方針に反対して山口大学構内でデモをおこなう学生たち(10月22日、山口市)
山口大学(谷澤幸生学長)が来年度からの入学生に対して、現行53万5800円(年間)の授業料を20%増額し、10万7160円増の64万2960円とする方針を示していることに対し、山口大学で10月22日、「山口大学・広島大学・九州大学合同学費値上げ反対集会」がおこなわれた。学生や教職員、当事者となる受験生や保護者へのまともな説明もなく、公表からわずか1カ月ほどで値上げを強行しようとする大学当局に対して批判の声は強く、約150人の学生や教員が集会に参加し、値上げを撤回し、決定プロセスを見直すよう求めた。集会後には学長室がある本部まで学内でデモ行進がおこなわれ、100人の学生らがプラカードを掲げ行進した。
最初に集会の基調提起として、「山口大学学費値上げに反対する有志の会」の中村悠璃氏(人文学部4年)が、以下のように集会アピールを提案した。
◇ ◇
2025年9月25日、突如として山口大学ホームページ上に「授業料改定に関するご理解のお願い」が公表。学生も教職員も寝耳に水でした。
私たち学費値上げに反対する学生有志は、2025年10月22日に山口大学で開催された「山口大学・広島大学・九州大学合同学費値上げ反対集会」において、「大学自治・学生自治の精神を無視した山口大学の学費値上げ計画に反対し、ともに抗議する」をテーマに、山口大学・広島大学・九州大学・京都大学の学生・教職員・市民の方々と活発な議論を行いました。そのうえで、学生・教職員を無視した決定プロセスの見直しを要請するとともに、授業料値上げに反対します。
なぜ決定プロセスの見直しを要請するのか?
・一番の当事者である高校生が蚊帳の外
授業料を値上げするということがホームページ上で公表された9月25日は、もうすでに総合型選抜入試の出願は終わった後で、試験日の直前でした。他の入試日程にしても、最終的な出願まであと数カ月しか残されていません。このようなタイミングで、授業料値上げの議論を始めるというのは適切でしょうか? 山口大学への進学を目指して努力してきた受験生に対する背徳行為です。
タイミングだけの問題ではありません。大学へ進学した後、授業料の負担がどれだけ学生・保護者に重くのしかかるかということを全く理解していません。
・授業料負担を一番理解している学生・教職員も無視
今、大学で学んでいる学生は、高校から進学後、授業料による負担がどれだけ重いのかということを身に染みて感じています。
「何のために進学したのかわからない」「アルバイトで研究どころじゃない」「今の授業料ですら限界」「これ以上の学費負担はもう無理」「奨学金返せるだろうか」「親に迷惑をかけてるんじゃないか」
教職員も授業や窓口で学生と一番対峙しており、経済的理由で退学していく学生や授業料負担に押しつぶされそうな学生の姿を一番よく分かっています。
にもかかわらず、その学生・教職員は今回の授業料値上げの議論から排除されています。なぜ私たちが今回の授業料値上げに反対するのか、その経過も含めて詳しくは私たちのX(@yamadaigakuhi)をご覧ください。
請願項目(1) 授業料値上げ計画の撤廃を要請します。
請願項目(2) 決定プロセスの抜本的見直し―公開と民主的議論を要請します。
◇ ◇
アピールを読み上げた中村氏は、総合型選抜の出願が終わり試験日の直前で公表された授業料値上げに対して「このようなタイミングで高校生、学生、保護者の声を無視した授業料値上げを許すわけにはいかない。私のところには、とある保護者から“出願したあとのこのタイミングの授業料値上げのお知らせに驚いていると同時に憤りを感じています”とメールがあった。加えて問題なのは、学生にはこれらの具体的な検討案に関して何ら公表されていないということだ」と指摘した。
そして「今の学費ならなんとか頑張って通わせられているというご家庭もあるはずだが、そこを何もいわずに切り捨てるということだけはしないでほしい」「死ぬ気でアルバイトをしている。そのうえで成績をキープできるというスーパーマンしか生き残れないという学校になってしまっている」「大学院に進学したいがお金がなくてできない」「吹奏楽をしているが自分の楽器はお金がなくて買えない。これに加えて授業料が上がるとどうしようもない」等、この間多くの授業料値上げ反対の声が有志の会に寄せられていることを紹介した。
そして「山口大学は就学環境改善を口実として授業料値上げを押し通そうとしているが、そもそもこれまで大学の運営や経営に関して学生に諮られたという経験があっただろうか。これほどまでに私たちの知り得ないところで大学の経営状況を悪化させておきながら負担だけは学生に求めるというこの姿勢を許すわけにはいかない。奪われている大学の自治をとり戻したい。どうか授業料値上げ反対の署名の拡散と学長へアピールを届けにいくのにもぜひご協力をお願いしたい」と訴えた。
教授会にすら説明なし 入試後に知る受験生

山口大学の学長室前で声を上げる学生たち(10月22日、山口市)
授業料改定のスケジュールを白紙に戻すことを要請している山口大学教職員有志の呼びかけ人である桑畑洋一郎氏は、大学側が教職員に説明もなく勝手に話を進めていることを指摘し、「総合型選抜の直前に値上げの計画が発表されたが、入試課の人すら知らなかったのだ。普通の会社であれば経営者が値段を決めるのは一般的ではないかと思う人がいるかもしれないが、国立大学法人では、教育研究に関することは教授会で検討することが決まっており、普通の会社とは話が別だ」と指摘した。さらに山口大学だけが授業料を上げることで倍率が下がったり他大学に受験生が流れるのではないかという指摘に対して学長が「影響を見積もるのは難しく、どれくらい影響するかは想定できない」「他の大学も次の年には(授業料を)上げるんじゃないか」というまともに検討もしていない返答をしていることを明らかにし、「もし学生が根拠もないのに“たぶんこうなるんじゃないか”というようなレポートを書いてきたら普通は不可にする。これが大学としてあるべき姿なのか」とのべた。
そして「授業料値上げの直接の影響を受ける受験生は、願書を出したあとに値上げをするということを知り、受験後に学長の会見を知るということになる。これは比喩だが、みなさんが商品を手にとってレジに持って行ったら、購入直前で20%値上げしますといわれたらどうするか。しかもこれはキャンセルが難しい。学長は高校側に対して個別説明はしないといっているが、これは山口大学という地域に根ざした大学を選んでくれた方に対してあまりに不誠実ではないか。仮に法律的にオッケーでも道義的にダメだ。信頼をなくす」と指摘した。
最後に集まっている学生たちに対し「これを聞いている在学生のみなさんはわれわれには関係ないと思っているかもしれない。ここからは僕の私見だが、みなさんに関係ないことはない。現在、来年度の新1年生の授業料を上げた分を学内のWi-Fi環境の充実にも使うといわれている。確かにみなさんご存じの通りWi-Fi環境は貧弱なのでどうにかしてほしい。しかしすでに大学に所属しているわれわれは、負担は増えず授業料値上げの恩恵にのみあずかるということになる。しかしその恩恵の原資はまだ見知らぬ後輩たちの負担であり、しかもそれが変な流れで増えそうになっている。このことを受益者であるわれわれは再考する必要があるのではないか。つまり上げるにしても負担者の納得が必要であり、その検討の責任は私たちにもあるということだ。だから在学生も関係者であるということを改めて考えてみてほしい」と呼びかけた。
山口大学教職員組合の滝野正二郎氏は「大学授業料値上げは来年度以降に入学する学生、および保護者の方々により大きな負担を強いるものであり、これが日本全国に広まっていくと、ひいては社会全体に大きな負担を強いるものであると認識している。とくに今回の本学における問題に関する方針決定、および発表のプロセスに関しては拙速であり、おおいに問題のある進め方だ」と批判した。
他大学の学生らも連帯 広大・京大・九大
昨年広島大学での値上げ反対運動をとりくんだ広島大学学費値上げ阻止緊急アクションの学生は「山大が値上げをすれば次は広大というのは目に見えている。今日は隣県の山口大学の学費値上げを絶対に阻止しなければならないという決意のもとにここ山口大学にやってきた。広島大学では昨年5月に学費値上げの検討が明らかになったが、7月には事実上の撤回を引き出すことができた。私はこの勝因は人々の連帯にあったと思っている。わずか1カ月で1万筆以上、最終的には1万7612筆の署名を集め、全国各地の学生とともに集会を開催し、議員や関連省庁、世論に訴えることで広島大学長に学生、教職員、そして市民の連帯の力を見せつけることができた。今、大学当局はわれわれ学生の反応を注視している。ここでわれわれが団結し、反対の声をあげれば、必ずや大きな力になるだろう。ともに頑張ろう」と呼びかけた。
広島大学教員有志からも「広島大学や山口大学など全国の国立大学は、まずは現在の財政的窮状を広くかつ具体的に公開し、社会に開かれた議論を通じて政府による学費の無償化に進むための道筋を学生や教職員、市民とともにつくりだしていく責任を負っている。隣り合う大学として、山口大学と広島大学とは協力して学費値上げ阻止のために行動していきましょう」と連帯のメッセージが送られた。
今回の集会の呼びかけ団体となった九州大学学費問題を考える会の学生は、九州大学でも7月に大学がこれまでおこなってきた授業料減免の独自支援が大学の一方的な決断によって廃止されたことを明らかにし、「この間、学生、教職員が意見をのべる機会はほとんどなかった。同じようなプロセスで学生の経済負担が増やされようとし、また西日本で初めて本格的に授業料の値上げ検討が始まった山口大学のみなさんに強く連帯する」とのべた。そして全国の大学で掲示やビラまきなど学生の運動に規制が強まっていることをのべ、「山口大学でも今日の集会のビラまきに対し、何の規約もなしにやめさせようとしてきた。日本全国の大学が今同じような状況にある。大学が独断で改革なるものをおし進めようとするときは、学生は団結し声を上げていく必要がある。全国のそして山口大学で起きている問題を全国で連帯してともにたたかっていこう」と呼びかけた。
京都大学から駆けつけた学生は「京都大学でも国際卓越研究大学申請によってさらなる学生自治の破壊と学費の自由化で無制限に引き上げられるかもしれないという恐怖が迫っている。京都大学も学生との団体交渉を打ち切ったり、今まで学生と結んできた約束を破っている。どんどん学生の声を聞かなくなって、いつ学費が引き上げられるのかとみんなハラハラしている状況だ。国立大学の使えるお金は、この10年でどんどん減らされている。教育機関や学生の福利厚生に対してお金を使わないという国の責任を、自分たちが使うのだから自分たちが払わないといけないという自己負担論に落とし込み、逃れている。在学生の授業料が上がらないと強調されていると思うが、それも分断行為だ。在学生は上げないから黙ってほしい、新入生に対しては“払える人だけが入ってくればいい”。そうやって対話から逃げている。こんな状況が山口大学だ。みなさんも学費値上げ絶対反対の立場で、全国で闘っていこう」と訴えた。
集会アピールを採択したあと、「学費値上げ反対!」「当事者無視の姿勢をやめろ!」「学長は学生の声を聞け!」「民主的な学園を守り抜くぞ!」「学生自治をとり戻すぞ!」「われわれは団結して闘うぞ!」とシュプレヒコールをおこなった。
署名集め運動を広げる 学長室前までデモ

デモの後に山口大学当局に学費値上げ反対の要望書を提出する学生(10月22日)
山口大学の教員は「教員は今に至るまで1秒も説明を受けていない。もちろん教授会もない。君たちの高校の後輩たちは、4年間で40万円も授業料が上がることになる。しかも願書を出したあとの決定だ。学長の記者会見の日程まで決まっており、学生や教職員の意見を聞く気もまったくない。これが独裁でなくて何なのか」と怒りの声を上げた。
そして「1人当り40万円の負担増ということは大学側は1万人の学生で40億円もの増収になる。しかしこれをどう使うのかのシミュレーションもなにもない」と指摘した。
「学生のために使うのならば、学事責任者の教員になぜ説明ができないのか。在学生には関係ないと思っているかもしれないが、これがまかり通れば今後君たち学生の権利すら一方的に奪われていくことになる。こんなことが1カ月で通ろうとしているのは許されない。みんな立ち上がってほしい」と学生たちに訴えかけた。
そして集会アピールを大学長に手渡すため、100人もの学生や教員らが「値上げ反対!」「学生舐めるな!」の声を上げながら学内をデモ行進した。学長室まで向かったものの、学長は不在で不在時の担当理事も出てこなかったが、代理の職員にアピールを手渡した。
集会後、値上げ反対の運動を先頭になってとりくんできた中村氏は、授業料を払うために毎日コンビニや介護施設の夜勤で働き、アルバイト漬けの日々を送ってきたことを話し、「授業料負担が本当に苦しかった。生きるために働いているのか、働くために生きているのかわからなくなるほどだった。これから大学生になる人たちにこんな苦しい思いをさせたくない。これまで大学側が大事な決定をするときに学生に諮られたことはない。一体誰のための大学なのか。今立ち上がって歯止めをかけなければ、これからどんどん同じようなことが続く。授業料値上げを撤回させたい」と意気込みを話していた。
デモに参加した山口大学の学生は「私たちの授業料は別に上がらないしあまり関係ない話と思っていたが、反対集会で話されている内容を聞いてたしかに無関心ではいけないなと思って野次馬半分ではあるがデモに付いてきた。まだ地方の国立大ではほとんどやっていない授業料の値上げを、なぜよりによって山大がやるのだろうかと不思議に思ったが、大人の事情で値上げをすれば文科省とかから評価されるという話も聞いた。その大人の都合で40万円も上がるのはおかしいと思う」と話していた。
広島から参加した学生は「広島大学で値上げの計画が出たときには、みんなで署名のお願いをしたり、ビラまき、国会議員への要望や院内集会などもやった。しかし地方で実際に値上げを強行しようとしている現場で直接反対行動を起こすのが一番大事だと思っている。こんなに飛び入りでデモに参加してくれるとは思ってもいなかったし、ほとんどの人がビラも受けとってくれて嬉しかった。ビラを渡した学生たちから“こんなのは独裁だ”“許せない”という意見をもらって、これまであまり大学側に対して強い言葉を使わない方がいいのではないか…などと考えていたが、逆に励まされた気分だった。山口大学の値上げが強行されれば、絶対に次は広島大学に値上げの波が来ると思っているので、広島大学でも山口大学の値上げ反対の署名をとりくんでいるが、知らない人が多い。山口大学、広島大学、九州大学の3大学が繋がって、これから西日本に輪を広げていくことで執行部にも圧力を掛けられると思う」と語った。
現在、学生や教職員たちが山口大学授業料値上げ反対のネット署名をとりくんでおり、広く賛同を呼びかけている。





















