(2025年9月15日付掲載)

遺骨を収容したことを警察に連絡する井上洋子代表(8月25日、山口県宇部市床波)
山口県宇部市床波の海底に眠る長生炭鉱犠牲者の遺骨収集を進める「長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会」(共同代表/井上洋子、佐々木明美)は9月13日、来年2月から開始する「遺骨収容プロジェクト2026」に向けて第4次クラウドファンディングを開始した。11月末までに1250万円(達成すれば2100万円)を集めることを目標に寄付を募る。
同会は8月25、26日におこなった長生炭鉱における潜水調査で初めて遺骨(大腿骨、上腕骨、前腕橈骨の3本と頭蓋骨)を発掘した。遺骨は現在、山口県警科捜研が冷蔵保存しており、国によるDNA鑑定を待つ状態にある。これらの遺骨を収容した場所にはブーツが4つあり、4人分の遺骨や胸まではっきりわかる全身骨がダイバーによって確認されている。
「刻む会」によると、第4次クラウドファンディングでは、潜水調査の進展によって本坑道への進入が可能になり、今後さらに多くの遺骨が発見されることが予想されるため、世界の熟練ダイバーの協力を得るための資金、狭い坑道で長時間潜水を可能にするリブリーザー(ダイバーが吐く呼気を二酸化炭素をとり除いて酸素を補給しながら再利用する閉鎖式の呼吸循環装置)の購入費、ダイバーの安全を確保するためピーヤ内部の障害物を完全撤去する資金を募る。
坑道内にある1体分の遺骨を完全収容するのに1週間程度かかると見られている。また現在、坑口から500㍍地点まで潜水調査が進んでいるが、坑口から1・2㌔奥にある事故現場に到達するためには、特殊技能を持つダイバーの手がさらに必要になる。ダイバーが本坑道から奥へ進んでいくために必要なのが、呼気を外に排出せずに潜水できるリブリーザーで、長時間潜水のために最低2台必要になるという。これを使うためにプロジェクトリーダーの伊左治佳孝氏(水中探検家)が海外で講習と訓練を受けることも必要になる。
潜水調査の入口となるピーヤ(排気口)にはガレキなどの残留物があり、最深部を太い鉄管がふさいでいるため危険な状態にある。ダイバーの安全確保のために来年2月までにこれらを完全撤去しなければならない。
水深42㍍で長時間潜水活動ができるダイバーは国内では稀少であるため、海外から6人の新たな助っ人ダイバーを招請する。2018年のタイでの洞窟遭難事件で少年ら13人の救出活動にかかわった実績を持つミッコ・パーシー氏(フィンランド)をはじめ、ナルチット・キアットマニーシリ(タイ)、パラス・コマラダット(タイ)、アウディタ・ハルソノ(インドネシア)、ウェイ・スー(台湾)の各氏が名乗りを上げている。韓国からもすでに遺骨収容に参加している金秀恩(キム・スウン)、金京洙(キム・ギョンス)の2氏に加え、複数人の熟練ダイバーがプロジェクトの趣旨に賛同して協力を申し出ているという。海外ダイバーたちの滞在・活動費用として850万円を見積もっている。
来年2月からのプロジェクトは、ダイバーの体への負担を考慮して期間を分散しておこなう。初期の予定は以下の通り。
2月1日 伊左治氏の単独潜水、4体の遺骨の位置写真撮影
2月3日 伊左治氏の単独潜水、4体以外の遺骨の位置捜索、写真撮影
2月4日 海外ダイバー現地移動
2月5日 海外ダイバーと全体集合、準備
2月6日 海外ダイバー遺骨収容潜水開始
2月7日 84周年長生炭鉱犠牲者追悼会
午後から潜水、2月11日まで各チーム1日おきに合計3回×2チーム潜水
2月12日 撤収
国が「見えない遺骨には支援できない」として公的援助を拒むなか、刻む会はこれまで3回のクラウドファンディングをおこない、その資金によって、ピーヤ内の危険な鉄管(重い材木も30%程度)を撤去し旧坑道への安全な経路を見つけ出すことができ、坑口の補強工事、ダイバーを水圧から守るための減圧装置の設置、非常時対策用のボンベ(減圧装置などにも必要)の配置などが可能になった。
遺骨初収容後の9月9日におこなわれた外務省、警察庁、厚生労働省への要請で、「刻む会」は事業遂行に必要な経費3516万円を補正予算として計上するよう厚生労働大臣に宛てた要望書を提出したが、厚労省は「安全性の懸念を払拭する知見を得られていない」「人骨は発見されたが、今後の潜水調査に関する財政支援などを検討できる状況ではない」という答えに終始。同会は「1942年当時、そんな危険な場所で日韓(朝鮮)の労働者が働かされていた。国策による無謀な石炭増産指令のなかで事故が起き、183体のご遺骨が放置されている。市民が全国から募金を集めて、最大限の安全を確保しながら遺骨収容にこぎつけた。石破総理は『(潜水調査は)危険だからといって自己責任ですというわけにはいかない』と国会答弁された。いつまで市民任せにするつもりなのか」とのべ、国による公的支援を訴えている。
国の腰が重いなかで、長生炭鉱遺骨収集をめぐる国際的連携が広がっており、民間の力によって遺骨を一体でも多く収容し、日韓政府が動かざるを得ない状況を作り出すことが求められている。
クラウドファンディングのURLは以下の通り。
https://for-good.net/project/1002542
郵便振込の場合は、郵便振替口座番号 01590-7-32405 長生炭鉱の「水非常」を歴史に刻む会。
〈招請される世界のダイバー〉

ミッコ・パーシー氏 (フィンランド)

ナルチット・キアットマニーシリ氏 (タイ)

パラス・コマラダット氏(タイ)

アウディタ・ハルソノ氏 (インドネシア)

ウェイ・スー氏 (台湾)





















