中国電力の上関原発建設計画に伴う漁業補償金の配分基準案を議題として山口県漁協(森友信組合長)が27日、柳井市で開催した総会の部会で、祝島支店の組合員は27対23の反対多数で否決した。会場の周辺で成り行きを見守っていた祝島の住民をはじめ、山口県下各地や広島からの支援者が補償金の受けとり拒否を喜び、36年間上関原発を阻止してきた祝島住民のたたかいに確信を深めた。
山口県漁協本店は19日、総会の部会を通知する文書を祝島支店に届けたが、運営委員会にもはかっていないものであったため、運営委員会がいったん預かる旨を県漁協本店に知らせた。ところが本店は翌20日、速達便で組合員全員に総会の部会開催の通知を送りつけるという強硬手段をとった。
祝島の組合員の代表は20日、山口地裁下関支部に対して、総会の部会で補償金の配分案を議題とすることは水協法や定款に違反しているとして、総会の部会の開催を禁止する仮処分の申し立てをおこなった。26日に同下関支部で審尋がおこなわれ、決定が出た。決定では「本件部会では、漁業補償金の配分基準が議案とされており、これが少なくとも文言上は〈漁業権またはこれに関する物件の設定、得喪または変更〉に直接あてはまらないことを踏まえると、本件部会の開催が債権者らの共益権を侵害するものと解する余地がある」としている。時間的に裁判所が十分な審理を尽くすことができないとし、申し立ては却下されたが、総会の部会が違法である可能性も裁判所が認めた。
この判決を受けて祝島島民の会は「裁判所の決定では総会の部会で漁業補償金の配分基準を決めることができると明確に認めたわけではない。……山口県漁協は、裁判所の指摘を真摯に受けとめて総会の部会の開催を当面中止するよう求める」との見解を発表した。また、村岡県政に対しても、戸倉県議を通じて県漁協への監督責任として、水協法や定款に違反する総会の部会を中止させるよう申し入れ書を提出した。
仮処分の決定を受けて、祝島の組合員や島民はさらに結束を固め、27日の総会の部会で補償金配分案を否決する態勢を固めた。
この日は早朝から祝島の組合員や住民らが会場となった柳井市の県漁協柳井事務所周辺に集まった。事務所周辺には警備会社によるバリケードが築かれていた。9時から総会の部会がはじまり、正組合員と准組合員が会場に入るのを祝島の住民や県下各地から集まった支援者たちが激励して見送った。会場の外では参加者から発言が続いた。「祝島支店の総会の部会を柳井市で開くこと自体矛盾している」「祝島が補償金を受けとるかどうかという問題は漁民だけの問題ではない。瀬戸内海周辺に住む住民全体の問題だ」「漁協の役割は漁業=海を守り、社会=地域を保全するとうたっている。山口県漁協は中電のかわりに瀬戸内海に原発をつくろうとしている。それも2011年の3月11日を経て、福島原発事故でどうなったかを知ったうえで原発をつくろうとしている。2011年の3・11に祝島の人人に感謝した。瀬戸内海に原発をつくらせないできた祝島のたたかいがありがたかった。放射能で海を汚すお先棒を県漁協が担ぐことが許されるのか。漁業組合の名でこのようなことをやることが弾劾されずに済むのか」などと続いた。
約1時間が経過した時点で総会の部会が終了し、会場から笑顔で出てきた出席者を拍手で迎えた。運営委員長の岡本正昭氏が「27対23で否決」したことを報告し、「私は3代目の漁師だが、海を売ることは絶対にしない。これからも意志を固く頑張っていく」と決意を示した。また、島民の会の代表の清水敏保氏も「県漁協の不当なやり方にはだまされない。今後さらに正しい漁協の運営についても勉強し、弁護士とも相談してやっていきたい」と決意を表明した。運営委員の1人である橋本久男氏は「祝島の原発反対の強さを確信した。県漁協がぐうの音もでないような結果になった。今後も県漁協はやってくるかもしれないが、絶対に負けない」と確信をもって語った。
山口県漁協が祝島支店に「受けとり」を迫っている10億8000万円の補償金は、中電が勝手に祝島漁協に振り込んだ漁業補償金で、祝島漁協は受けとらずに法務局に供託した。10年たてば国庫に没収されることになっていたはずのこの補償金を県漁協が組合員の了解がないまま引き出したものだ。
総会の部会のなかで組合員から「配分するという補償金は10億8000万円なのか、3億円余(税金)を引いた額なのか」と質問されたが、県漁協は明確な回答ができず、「税務署に払った3億円は戻ってこないかもしれないし、戻ってくるかもしれない」というあいまいなものだったと組合員たちは語っていた。また、2000年に補償金が振り込まれた当時の正組合員は100人近くいたが、現在は51人になっている。総会の部会では「補償金配分の対象者はどうなっているのか」と質問があったが、それにも県漁協は明確に回答できなかったという。
県漁協が祝島の組合員たちの承諾もなく法務局から補償金を引き出したこと自体が組合員の意志に反した不当な行為であり、法的に争わなければならない問題にもなっている。
祝島の組合員をはじめ住民は上関原発計画が浮上した1982年以来、今日まで36年間にわたって全県、全国の人人と連帯して原発建設を阻止してきた。この間には2011年の福島原発事故の教訓から、瀬戸内海に原発を建てさせないという声は、全県下をはじめ全国で一段と強大なうねりとなっており、支援の輪も広がっている。そうした世論に励まされて、祝島の漁民をはじめ住民は補償金の受けとりを拒否し、原発建設計画に終止符をうつ決意を固めている。そして、当事者適格のない山口県漁協がいつまでも漁業補償金を管理するのではなく、無主物として国庫に没収させ、心穏やかに祝島で暮らしていけることを望んでいる。