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安岡洋上風力 経産大臣の容認勧告をどう見るか 記者座談会

三重県の医師・武田恵世氏の風力発電についての講演会に詰めかけた500人の聴衆(2014年)

漁業権未解決では着工不可

 

 安岡風力巡る記者座談会 下関市安岡沖の洋上風力発電建設計画(4000㌔㍗×15基、最大出力6万㌔㍗)をめぐって、事業者の前田建設工業(東京)が提出していた環境アセス準備書に対して、世耕弘成経済産業大臣は7月27日、風力発電建設を容認する勧告を出した。これに対する評価と今後の反対運動の展望について、記者座談会を持って論議した。

 

 A 勧告は経済産業省電力安全課がまとめたもので、A4用紙1ページあまりと短く、要するに「住民に十分な説明をおこなって事業を進めなさい」という内容だ。風力推進ありきが鮮明なものだ。「風車騒音を低減させる環境保全措置をとり、住民に説明すること」「海生生物への影響を事後調査し、住民に説明すること」とも書かれているが、県知事意見にあった「地域住民等の理解を得るよう努める」という文面もなく、形ばかりの住民説明をやれば済むことになり、何の歯止めにもならない。前田建設工業の「住民説明」というのがどういうものかは、これまで住民自身が嫌というほど経験している。昨年11月の準備書説明会でも、「住民の意見を聞く」といいつつ弁護士を同席させ、発言者には名前や住所をいわせたうえ、発言内容をすべて録画・録音するという、訴訟を意識したと思わせる異常なものだった。

 

 B 勧告を見た住民のなかでは、「経産省は風力推進の本丸であり、あんなものだろう」「もともとこの事業にお墨付きを与えたのは経産省であり、風力反対をいうはずがない」という冷静な受け止めが多い。一部に「住民の意見を盛り込んだものになるのでは…」という期待もあったが、そうした幻想は吹き飛んで、「これからフンドシを締め直して、前田建設が諦めて出ていくまで運動を続けていく」「自分のためじゃない。次の世代のためだ」とあちこちで決意が語られている。お上にゲタ預けするのではなく、国策に本腰入れて対峙しなければと鮮明になっている。

 

 C 原発にしてもそうだが、環境アセスは事業者がやるもので、推進手続きの体裁を整えるために「影響ありません」を結論付け、それをもって監督官庁が容認するという儀式みたいなところがある。従って過大な期待を抱くことはできない。しかし下関市環境審議会は3月、「当該計画は地域において受け入れられる社会的環境が整っていない」と、住民の意見を反映してストップをかける答申をまとめた。ところが前田晋太郎下関市長は、選挙中には「地元の賛同が得られていない以上、風力発電を絶対に推進するわけにはいかない」と公約して票を集めておきながら、4月に出した市長意見は両論併記で、賛否の態度表明は避け、「しかるべき対応を県知事にお願いしたい」と判断を県知事に丸投げした。そして6月の村岡嗣政山口県知事の知事意見も、同じく両論併記と経産大臣への丸投げだった。当初から安岡沖洋上風力にお墨付きを与え、前のめりになって推進してきたのは経済産業省と安倍政府だ。市や県は第三者を装いつつ、実際には森友・加計問題と同じくお上の意向を忖度しながら、選挙で自分たちが傷物にならないように推進している関係だ。

市長選で安倍昭恵の応援演説を受ける前田晋太郎

 D 前田市長は、住民の生命や財産、健康を守るという地方自治の精神に立つなら、アセスとは別に立地自治体の首長として風力にNOを突きつけることができた。そういう首長は全国にいる。また、立地自治体の首長と県知事の地元同意が不可欠な原発と比べても、風力の場合そうした地元同意の仕組みがないこと自体が問題で、その改善を訴えなければならないはずだ。しかし、「太いパイプ」があるはずなのに、住民の意向を実現するために動こうとはしていない。

 

 B 今回の環境アセスは地元の漁師の抗議で海の調査ができていない。昨年12月に山口地裁下関支部で前田建設側代理人弁護士も「海の調査はやっておらず、準備書はそれを踏まえていない」と認めている。準備書として明らかに不備があるのだから、市長として準備書を突き返し、やり直しを求めることだってできたはずだ。ところがそういうことは何もしなかった。風車建設工事のさい、前田建設工業は人工島を陸上作業場および海上輸送拠点港にするとしているが、市長としてこれを認めるのかどうかも注目点となる。

 

 C 経産大臣の勧告と同時に、検察は前田建設工業の環境調査(2014年9月)を妨害したとして住民3人を「威力業務妨害」で刑事事件として立件した。これは2年前の4月、「住民4人が共謀して環境調査の機器を壊した」という前田建設工業の刑事告訴を受けて山口県警が反対する会の4人の住民宅を家宅捜索したのが発端で、その後も尋問をくり返してきた。県警本部主導の大掛かりな捜査であり、「よっぽど上層部を動かす政治的な力が働いているに違いない」「やっぱり風力は国策だ」と当時から住民が話題にしていたものだ。その後、前田建設工業が住民4人に1000万円以上の損害賠償を求めた民事訴訟を起こしたが、前田側弁護士は裁判所が求めた証拠をいまだに出すことができない。刑事事件についても前田側が「器物損壊」を取り下げ、「威力業務妨害」も10カ所のうち9カ所で証拠がなく、残りの1カ所も証拠は写真1枚のみで立件は困難と見られていた。

 

 B 今回立件になったわけだが、それは工事着工を前に反対する住民を脅すためのものだろう。それに対して住民は「自治会として事前に環境調査拒否の申し入れをしている。住民の同意なく調査するのはアセス法違反で、正当な業務ではない」と主張している。住民たちは「田舎者は脅せばいうことを聞くというヤクザ的なやり方だ」「いつもそうだ」と、準ゼネコン・前田建設工業の企業風土を問題にしている。

 

 A 経産大臣の勧告を受けて、前田建設工業はやる気なのだろう。今後、環境影響評価書をつくり、それを公告・縦覧し経産大臣の認可を得て事業実施に入ろうとしている。手続きとしては「行けるところまで行く」形で進むわけだ。しかし、たとえ経産省がゴーサインを出したとしても、今のままでは工事着工までたどりつけない。工事を始めるためには漁業権問題を解決しなければならないからだ。風車建設予定海域に漁業権を持つ山口県漁協下関ひびき支店の漁師たちが反対を貫いており、ここを崩さなければ海に手がつけられない関係だ。

 

 下関ひびき支店の漁師たちは2015(平成27)年7月の総会で、正組合員40人中36人の出席のもと、2013(平成25)年7月の総会でだますようにしてやられた「風力同意決議」(下関外海の関係7支店で実施)を撤回し、風力発電建設と海の調査に反対する決議を全員の書面同意で決定している。漁師たちはその後、前田建設工業の海の調査差し止めと、工事着工差し止めの訴訟を起こしたが、そのなかで2013年総会の3分の2同意のさらに約1年も前、2012年8月30日に、山口県漁協組合長・森友信、下関外海漁業共励会会長・廣田弘光、下関ひびき支店運営委員長(当時)の3人が、一般の組合員に知らせないまま、前田建設工業と風車建設の「基本合意書」を勝手に交わしていたことが暴露された。明らかなフライングで、漁師側の弁護士はこれも追及している。

海の調査に抗議するひびき支店の漁師(2016年10月)

 

確信与える祝島の闘い 補償金受取拒否貫く

 

 E 漁師たちが漁業権を放棄してもいないのに、勝手に工事を始めることなどできない。経産大臣の勧告で風車がすぐにでも建つかのような印象を与えているが、漁業権を解決しないかぎりゴリ押しなどできない。これは重要な問題だ。上関町の祝島とそっくりな構図でもある。経産省の悪い癖なのか知らないが、「行けるところまで手続きを進める」は原発建設でもやってきたことだ。上関でも環境アセスはとっくの昔に済ませているし、第一次公開ヒアリングなども相当にハードルを下げて実施した。知事同意も強行した。しかし、肝心な漁業権が解決できないし、土地も虫食いだらけで確保できないから、「追加のアセスを実施せよ」などと監督官庁と電力会社がキャッチボールをして時間稼ぎをしてきた。今にも原発が建つような雰囲気を煽って、諦めを誘うのが常套手段だ。その雰囲気づくりのためにゼネコンが上関町内に幾つも飯場をつくったりもした。しかし、祝島の漁業権問題がネックになっていることが暴露されて、いまやもぬけの殻だ。あの大がかりな芝居は何だったのか? と上関町民は思っている。

 

 D 上関では、上関原発予定地周辺海域に共同漁業権を持つ107号共同漁業権管理委員会が2000年、多数決で「漁業補償交渉妥結」を押し切り、それを受けて二井知事(当時)が2008年に埋め立て許可を出した。だが、祝島では漁業権放棄のための漁協総会を一度も開催したことがない。ところが勝手に振り込んだ漁業補償金を受けとらせて、その際に書面同意をとってしまえ! という裏技をやっている。しかし、祝島が「補償金は受けとらない」といって突き返すから、中電は埋立工事ができない。県知事の埋立許可が出ているのに埋立工事ができない事例など全国どこにもない。そのような行政の歪みまくった実態を覆い隠すために、中電は年に一度、春になると「埋立着手」のパフォーマンスをくり広げていた。1年以上手つかずだと免許が失効してしまうので、石ころを海に放り込んだり、ブイを浮かべて許認可をつないでいた。祝島が抗議行動で阻止するのをわかっているから、事前に工事パフォーマンスの日取りが祝島に伝わるようにしていたし、それを口実にして「祝島が阻止するから工事ができないのだ」と残念がって見せ、終いには業務妨害で島民に損害賠償訴訟をふっかけたりもした。そのような姑息な手口を誰が考えるのだろうかと思うが、電力側には「漁業権問題は未解決である」という認識があるわけだ。

 

 E 埋め立て工事はストップしたまま現在に至っている。福島事故もあったが、最大の要因は祝島の漁業権が今も生き続けており、どうすることもできないからだ。欺したつもりであっても、嘘に嘘を重ねると辻褄が合わなくなって、最後には足がもつれてこける。国策と対決する場合、簡単には相手も引き下がらない以上、住民の側もすぐに嘆いたり諦めたりしないことが肝心だ。上関は計画浮上から35年にもなる。欺瞞を暴きながら、金力や権力に対して絶対に引き下がらない覚悟が求められる。好き嫌いで仲違いしたりしていたのでは話にならない。思想信条や立場をこえて、一致できるところでみんなが一致するということが如何に大切か、上関の35年が教えている。

 

 D 上関の場合、中電立地事務所の工作員たちは「立地マン」と呼ばれ、日頃から町内を歩き回って情報収集に勤しむ。最近はやる気がないと評判だが、精鋭たちが配置されていた頃は、反対派の住民のところでもニコニコ笑って入っていくような面の皮の厚さがあった。そして、どの家とどの家が親戚か、どんな弱みがあるか、どこの誰それはカネに弱いとか、女に弱いとか、無類の酒好きであるとか、借金で困っているとか、勤め先に到るまで綿密に情報を蓄積していた。そうした情報がフル稼働して、子どもの就職先を斡旋して買収したり懐柔していく。反対派のなかにも潜りが配置されて、中電にはほぼ筒抜けなのもわかっている。「反対」の仮面をかぶった推進派が内部から運動を破壊したり揉ませて、住民に難儀な思いをさせたり、疑心暗鬼を煽ったり、嫌気を誘ったりするというのも何度も経験してきた。安岡風力の場合、まだそこまでプロ並の懐柔策に到達しているとはいい難い。恫喝すれば従うくらいに見なしているのかもしれない。それで、その度に住民を怒らせてここまで反対世論が盛り上がった。中電の方がはるかに上手でしたたかというのが正直な印象だ。上関のことばかりで申し訳ないが、国策とはそんなものだということがいいたいわけだ。豊北原発反対闘争のように1年で勝負をつけた例もある。

 

健康被害の根拠学ぼう

 

 C 経産大臣の勧告まできて、安岡洋上風力をどうやったらストップさせることができるかとみなが頭をめぐらせている。漁業権問題が未決着だといっても、じっと待っていれば終わるというものでもない。暑い夏の日も寒い冬の日も、国道沿いに並んで風力反対を訴える住民の努力は誰もが認めるところだが、もう一歩前に進める何かが必要だと話になっている。洋上風力は経産省お墨付きの国策だ。それをうち破るためには、もちろん地元の住民や漁師が頑張るけれども、それだけでなく反対の輪を全市・全県・全国に広げることだ。豊北原発はこの力で完膚なきまでにうち破った。

 

 B 最近紙面に掲載した北海道石狩市の住民の風力反対運動が安岡地区でも話題だ。洋上風力4000㌔㍗×26基をはじめ、3000㌔㍗以上の風車を石狩湾岸に合計46基建てようとする計画に対して、女性たちが石狩市民の会をつくり、北海道大学の研究者たちと協力してシンポジウムや学習会をとりくんでいる。また、新潟県村上市でも5000㌔㍗×44基という岩船沖洋上風力発電計画に対して住民たちが連絡会をつくり、三重県の医師・武田恵世氏を招いた討論会や市長・市議会に対する申し入れなどをやって、事業計画を3000㌔㍗×15基に縮小させている。そしてどこも下関の反対運動が広範な層に広がっていることに驚き、なぜそういう運動ができるのかと大注目だ。反対署名を10万人以上集め、1000人規模のデモ行進を3回もやって住民の意志を突きつけているところは全国にない。住民の力で2015年4月に予定されていた工事着工を2年以上も遅らせている。

 

 大規模洋上風力は下関市安岡沖、石狩湾新港、村上市岩船沖のほかにも、能代湾・秋田港周辺、青森県むつ小川原港内、茨城県鹿島港内、北九州市若松沖など全国9カ所で計画が動いており、首相お膝元の下関が突破口になっている。ここで各地の住民同士が教えあい学びあって、経産省という共通の相手に対して連帯していくことが大きな力になる。交流する機会など設けられないものだろうか?

 

 A 石狩市民の会が開催したシンポジウムでの北海道大学教授・松井利仁氏の講演内容が下関でも関心を集めている。風力発電の低周波音による健康影響についてはヨーロッパでは常識で、振動によってめまいや頭痛、肩こり、不眠が引き起こされるだけでなく、心疾患や脳血管疾患、糖尿病、がん、精神疾患など、睡眠障害に起因するさまざまな疾患との関係が医学的に解明されつつあるという。先日開かれた国際会議で日本の環境省が「風車騒音は低周波音による振動ではなく、聞こえる音による不快感だ」などとのべ、世界の研究者から顰蹙(ひんしゅく)を買ったそうだ。

 

 B 秋にでも松井先生に下関に来てもらって、専門家の見地から低周波音の人体への影響について講演してもらってはどうか。安岡・横野地区だけでなく、長府や彦島、唐戸など下関市内各地から「低周波ってどうなの?」と疑問に思っている住民や医療関係者も参加して、質問をぶつけてみたらいい。医師会の「風力はいいものだ!」と主張する人も是非来たらいい。見解の相違があるのは当たり前で、だからこそ意見に耳を傾ける価値はあるはずだ。中間層にアプローチしていくことが大切だ。だいたい反対署名を一から始めた頃は、安岡・横野地区でも「風力は原発に代わるクリーンエネルギーでいいものだ」と思っている人がけっこういて、その後勉強してはじめてどんなに人体に悪いものかがわかり、行動に参加する人がどんどん増えていった。

 まず第一に科学的にどのような問題を含んでいるのか、低周波とは何なのか、しっかり理解することが必要だ。雰囲気だけで反対していてもダメだ。それで推進側が「反対の意見だけ聞いてけしからん!」というのであれば、推進側が自分たちでそのようなシンポジウムを開催して、「低周波は身体にいいんです!」とか「直ちに影響はありません!」とか、説得する努力をしないといけない。他人の努力に文句をいう筋合いのものではない。

 

 C 前田建設工業も松井先生のところに行っているらしいが、1000人が北海道に行くことはできないから、可能であれば頼んで来てもらえるのが一番助かる。松井先生から「勝手に決めるなよ」と怒られるかも知れないが、もっともっと豊富な知識を提供してもらえることを望んでいる市民は多い。800人収容の生涯学習プラザなり1400人収容の市民会館なりを満員御礼にして、みんなで知識を吸収すればいい。科学者ではないが、われわれのような者でも賢くなれるなら精一杯賢くなるための努力はしたいものだ。できれば石狩の人も一緒に来てもらえれば、みんなで状況を交流して、下関を別の意味で突破口にすることができるのではないか。同じ問題に直面している当事者同士、激励しあったり情報交換もやりながら世論に働きかければ心強い。そのために長周新聞が連絡係をやれというのであれば、喜んで走り回りたい。

 


 E 最近、祝島の島民が安岡の漁師たちと交流したいと本紙記者に持ちかけてきた。風力も原発も経済産業省が本丸で、そのもとで山口県民が難儀な思いをしている。祝島を安岡に迎える形で是非実現したらと思う。安岡では県漁協副組合長の廣田氏が、「共同漁業権代表権者」に任命されたといって、共励会で多数決をとるなどの手続きもへずに、個人の判断で「アマ漁禁止」「ナマコ漁禁止」の通告を次次に送りつけ、組合員が漁業で生活できないようにしている。それは漁業権問題が未決着であることを逆に証明しているが、しかし「風力発電に反対するから操業禁止」というような漁業権を根底から覆すような行為が社会的に通用するかどうかだ。そうしたなかで海を売り飛ばしていく力に対抗する力が横に広がっていくことは、風力や原発を推進する側にとっては大きな打撃だし、県下の各浜も励まされるにちがいない。山口県漁協の運営をまともなものにするうえでも大きな意味を持つと思う。

今年5月の1000人デモ(下関市)

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