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国策跳ね返す力大結集  安岡沖洋上風力に反対する住民集会

地鳴りの様な650人のデモ行進

 下関市の川中公民館で22日、安岡沖洋上風力発電建設に反対する住民集会(主催・安岡沖洋上風力発電建設に反対する会)が開催された。昨年から地元を中心に広がってきた反対署名は5万2000筆をこえるなど、住民生活をないがしろにするエネルギービジネスが襲来してきたのに対して、それを跳ね返す運動が下から盛り上がってきた。会場の川中公民館講堂には地元安岡・綾羅木・川中などの周辺地域住民をはじめ、市内各地から多数の市民が詰めかけ、360人収容の会場には入りきれないほどの人であふれた。集会後のデモ行進では、子どもからお年寄りまで650人(主催者発表)もの市民が隊列を組み、「風力反対!」の地鳴りのようなシュプレーを市街地に響かせた。下関のため、みなの安心した暮らしのために、下関を実験台にした国策に立ち向かい、大企業の営利のために生活が破壊されていくことを許さない、市民の揺るぎない力を示す決起の場となった。

 住民に利ない風力発電 三重県の医師が講演 

 集会の開会1時間前から、会場には続続と市民が訪れ、追加でイスが並べられたものの足りず、ロビーで立ち見する人人も多数いた。集会では、「風力発電の不都合な真実―風力発電は本当に環境に優しいのか?」と題した基調講演を、三重県の歯学博士・武田恵世氏がおこなった。
 武田氏は、三重県伊賀市と津市の間にある青山高原の風力発電施設や、全国、世界の風力発電の具体例をあげながら「エコでクリーンなエネルギー」と思われてきた風力発電の実態について明らかにした【詳報次号】。
 武田氏自身、青山高原に風力発電施設建設の話が持ち上がったさいに出資まで考えていたが、調べていくなかで疑問な点がいくつもあり、結果的に、「出資どころか決して進めてはならない」という結論に至ったと明かしていた。
 まず、風力発電そのものが電気がなければ動かないものであり、定格出力(最大出力)といわれる数字も、風速12㍍~25㍍の強い風が吹かなければならないこと、サマーピークといわれる電力が逼迫する季節には「そんな風はまず吹かない」ことを説明した。
 またメリットと宣伝されている「固定資産税と法人税が自治体に入る」ことについても、その分地方交付税は減らされるためプラス・マイナスはゼロになり、下関市も同様であると指摘した。「仕事が増える」というのも、特殊な技術が必要なために三重県伊賀市、津市でも地元の業者はほとんど使われていなかったことを明かした。
 さらに、風力発電が増えてもCO2削減には貢献しない点がある。「どこの電力会社に聞いても風力発電ができたからといって火力発電などの出力を下げたことはないといっている」と指摘し、風力発電が増えた自治体では風の強い日には火力発電の出力を下げずに、風力発電所からの送電を停止していること、ヨーロッパでCO2削減に唯一成功しているデンマークでも、逆に他国からの電力輸入量は倍増した事例を示した。
 騒音や低周波による健康被害も各地で出ているが、世界中の被害者の一致した話として、「事業者も行政も因果関係を認めようとしない」ことをあげていた。漁業被害については、イギリスやスウェーデンでの調査で、魚が出血したり、浮き袋が破裂したりする被害や、海流や波、水温の変化も起き、電磁波によって逃げていく魚もいることを指摘し、海の中に巨大な杭を打つため「影響はかなりあるものと思われる」とした。
 武田氏が事業者と話したさい、発電効率も採算性も不安定であることを事業者自身が認めており、「発電しなくてもいい、建設さえすればいいんです」と語っていたことも明かし、それならなぜ風力発電は建設されるのかというテーマにも踏み込んだ。
 「CO2を削減できるか? できない。自然環境に優しいか? 酷すぎる。人間生活への影響は? これも酷すぎる。利益が得られるか? 会社はわからないが一般人が出資しても無理。将来性は? 明らかにない」と述べ、自身がさまざま調べていった結果「出資どころか、決して進めてはならないものだ」と判断したことを話した。
 「風力発電建設の真の目的はなにか。発電ではないようだ。固定買取価格と、低利融資、優遇税制、所得税(最初の3年間は半分)、イメージが良くなるというもの」で、「実際に青山高原でも山陰でも建設して、故障しても放置されている。しかし、発電実績が悪くても増設だけはする。これは税金や電気料金(再エネ賦課金)の無駄でしかない。この後始末はいったいどうするのか。自然エネルギーの本来のあり方としては、本当に電力需要に応えうるものを、自然や人間生活を脅かさずに、電気利用者の財布をいためずに、税金に頼らずに導入しなくてはいけない。とくに洋上風力は絶対に進めてはならない」と述べた。
 また、世界的にも風力発電の諸問題が明らかになり始め、欧州でも米国でも新規立地が敬遠されているなかで、余剰資材を日本市場に売りつける動きが起きていること、日本国内でにわかに風力発電建設が活性化していることと無関係ではないことを指摘した。
 参加者は熱心に聞き入り、初めて知る風力発電の被害やその推進構造に触れ、ときおりどよめきが起きていた。公演後、武田氏には感謝の意味を込めて大きな拍手が送られた。

 環境調査阻止の体制も 署名5万2000筆に 

 講演後の質疑では、「洋上風力発電の建設が計画されている安岡周辺には4万4000世帯が住んでいる。小中高校生や大学生もいる。この地域に建てることで一つもいいことはない。われわれは人体実験になるのか、という危機感を感じている。反対署名をとりくみ、市議会も建設反対の活動に対して賛同している。そのような状況のなかで今後どうしたら断固として反対できるのか教えていただきたい」という質問が出された。
 武田氏は、「公有水面埋立許可を出さないようにすることだ。これは県の権限なので県知事が許可しないように強く訴えていくしかない」といい、さらに漁業権を持っている漁業者が認めないこと、住民が反対を強く訴えていくことだと答えていた。「うっかり“環境アセスをしてもいいです”というと勝手に“承認された”ととるので、ガンの早期発見・早期治療と同じで早いところ潰した方がいい」と答えた。
 次に挙手した住民は、「安岡では4000㌔㍗が15基となり、陸からの距離が800㍍から1・5㌔㍍にのびた。もっと離さないといけないのだろうか」と質問。武田氏は、「750㌔㍗の風力発電で確実に安全とされているのが2・4㌔㍍。実は4000㌔㍗というのは世界的にも例がない。2000㌔㍗では2㌔㍍離しても被害が出ている。はっきりいえることは2㌔、3㌔では足りないだろうということだ。事業者がこれをわかっているのかどうかは知らないが、普通に調べればわかることだ。事業者にとっては発電が目的ではない。発電の効率は考えていないはず。はっきりいって前田建設は何をするつもりなのかと思っている」と述べた。
 別の男性は、「安岡に住んでいるが、安岡に洋上風力発電ができれば引っ越す覚悟をしている。どのぐらい離れるべきなのか」と尋ねた。それに対しては「4000㌔㍗なのでよくわからないが、3㌔といわず、6㌔、10㌔以上は離れるべきだろう」といい、主催者が、この地にとどまって風力発電をつくらせない方がいいのではないか、というと、会場から大きな拍手が起こった。
 続いて、反対の会の代表から活動報告がおこなわれた。反対署名が5万2000筆をこえたことが伝えられ、「反対署名はもっと集めてほしい。この署名が反対する人人の活力となり、また対外的にも署名の数はものをいうので、目標の10万人に向けて今後さらに精力的にとりくむ」と訴えた。そして、下関市長の態度がはっきりしないなかで、7月に県知事に反対署名と要望書を提出することを計画していること、環境調査を阻止するために可能な限り市民みなが協力して動ける体制をつくることが呼びかけられた。「いつ、どこで調査するのか必ず事前に知らせがあるので、調査を拒否する行動をとりたい。業務妨害で逮捕されるという人もいるが絶対にない。環境調査を阻止するには1人2人が文句をいっても駄目。30人ぐらい集まって調査をさせてはならない。そういう体制をつくっていこうと思っている」といい、連携してみなで阻止していくことを確認して集会をしめくくった。

 意気込み高くデモ行進 飛び入り参加も 

 その後、デモ行進でおこなうシュプレヒコールの練習をおこない、「この運動は全国からも、風力発電の被害に困っている全国の方方からも注目されている。その人たちの応援にもなるように頑張っていきたい」と呼びかけられ、意気込み高くデモ行進に出発した。
 川中公民館を出発したデモ行進は長蛇の列となった。基調講演を聴けなかった人人も出発時刻には公民館前に足を運び、デモの隊列に多数が加わった。参加者がおのおの作成してきたプラカードやむしろ旗、団扇、横断幕などが掲げられ、目を引いた。「風力発電建設反対」「STOP! 風力発電」「環境調査阻止」「有害な低周波から子どもを守ろう」「下関を実験場にするな」「住民の声を無視するな」「5万人の署名を尊重せよ!」といった訴えが大きく記されていた。
 「風・力・反・対!」のかけ声と打ち鳴らされるドラムの音頭に650人が呼応し、「公共事業でない業者のもうけに市民が犠牲になる必要はない!」「前田建設工業は下関から撤退せよ!」「前田建設工業の環境調査を阻止しよう!」「子や孫の代まで安心して暮らせる故郷を受け継ごう」のスローガンを叫んだ。沿道の通行者やマンションの住人、公園で遊ぶ親子がデモに手を振り、周辺の店から店員が出てきて応援したり、飛び入り参加もあった。車から拍手を送って連帯する市民もいた。大声を出して頑張る子どもたち、若い母親、杖をつきながら歩くお年寄りなど、市内の各所から集まった参加者が一丸となって大通りを練り歩いた。終着点となった川中公民館の駐車場で、反対の会の代表より「今後も反対の活動をしっかりと頑張っていきます。よろしくお願いします」と呼びかけられ、大きな拍手のなか今後の奮斗を誓って散会した。
 集会はこれまでよりも段階を画した運動の発展局面を浮き彫りにした。市民全体の連帯と団結によって国策を打ち負かしていく、そうした気概が溢れた行動となった。

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