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東京医科大学の女子受験者減点巡り 日本医学会連合、日本学術会議幹事会が声明

 東京医科大学が医学部医学科入試で女子受験生に対し一律減点し、合格者を3割程度に抑えるという不正操作をおこなっていた問題で、日本医学会連合(門田守人会長)と日本学術会議幹事会(山極壽一会長)が9月14日、それぞれ声明を発表した。また、日本女性医療者連合(津田喬子代表理事)がすでに声明を発表している。

 

 声明はいずれも、女子受験生に対する不正な得点調整は、①大学入試への信頼を根底から崩すものであり断じて容認できない、②女性医師の妊娠・出産・育児を理由にした排斥は、出産・育児を社会的に保障せず女性の社会進出を妨げる現行制度に問題があり、それこそ改めるべきである、③男性医師を含めた現在の医療制度の構造的問題と結びつけて解決すべきである--と訴えている。

 

日本医学会連合の声明

 

 日本医学会連合は129の医学系学会(基礎部会14学会、社会部会19学会、臨床部会96学会)で構成する学術団体である。「医学部入試における機会平等と医学系分野での女性の活躍推進について」と題する声明は、東京医科大学が入試で女子と多年浪人受験生に得点調整をおこなっていたことを、「教育の機会均等と公正性を著しく損ない、公平な受験ができると信じながら医学の道を志して準備を積み重ねた受験生の努力を踏みにじり、多様な背景を持つ人々が大学で学び、医学・医療分野で活躍するチャンスを入口から奪う行為」であり、容認することができないと言明。要旨次のようにのべている。

 

 東京医科大学に設置された内部調査委員会は、女子受験生に一律に不利な得点調整がおこなわれていた理由を「女性は年齢を重ねると医師としてのアクティビティが下がる」ためと報告している。これは、妊娠・出産・育児という女性のライフステージと医師としてのキャリア形成の時期が重なり、両立が困難となるケースがあることを念頭に置いたものだ。

 

 不公正入試という形で明らかになった問題の背景を思慮すると、女性医師が妊娠・出産・育児を経験しながら活躍し続けることができるよう対策を強化することこそが必要である。具体的には、保育所などの育児支援、交代可能な勤務体制や短時間勤務制など柔軟で充実した就労支援環境の整備が挙げられる。

 

 医師全体の働き方の抜本的な見直しも、固定的な性別役割分担の見直しとともに、女性医師が仕事と育児や介護を両立し、あらゆる分野で活躍することを可能にする。すなわち女性医師の活躍を促すためには、医師全体の働き方、あるいは医療全体のあり方の抜本的な見直しも必要になる。

 

 そもそも、「過酷な医師の勤務時間」はとくに勤務医で顕著である。それは「単なる勤務医の数」から来る問題ではなく、診療報酬システムなどの医療体制の問題など複合的な問題に起因しており、結果的に「過酷な医師の勤務」につながっている。加えて医師が都市に集中する「地域偏在」や、外科、産婦人科をはじめ、もっとも医師数の多い内科においても専門医が不足しつつある「診療科偏在」により、特定の地域や診療科では相対的な「医師不足」も顕著となっていることへの対応も必要である。

 

 医療の高度化や医療安全への配慮の必要性増大による医師の業務量の増加、人口の高齢化にともなう医療の需要増加も見逃せない。どうすればより良い医療供給体制を構築できるのか、国民とともに社会全体で考えるべき喫緊の課題だ。

 

 女性の活躍の指標として学会活動がある。日本医学会連合が加盟学会に対しておこなったアンケート調査では、総会員数に占める女性の割合は学会平均で23%、理事など役員の女性比率はわずか8%だった。このような状況は、女性に活躍の機会が十分に与えられてこなかったためともいえる。今後、各加盟学会にさらに働きかけをおこない、医学・医療界における女性の活躍が進むよう努めていく。

 

日本学術会議幹事会の声明

 

 日本学術会議幹事会の「医学部医学系入学試験と教育における公正性の確保を求める」声明は、要旨次の通り。

 

 今般の入学試験で明らかになった女子受験生に対する一律の得点調整は、許されざる差別的な不公正処遇にあたる。このような不公正処遇が長年にわたっておこなわれてきたことは、厳格な公正性が要求されるべき入試制度全体の根幹を揺るがし、大学教育そのものに対する社会の信頼を大きく損ねるものといわざるをえない。

 

 女子受験生に対する不公正処遇の背景には、医療現場の構造的問題が存在する。医師の長時間労働は年齢・性別に関わりなく深刻であり、このままでは医師が疲弊して、医療の持続可能性を確保できない。入学試験における公正性の確保とは別に、医療政策を含め、医療界全体の構造的問題として問う必要がある。

 

 また、生命を預かる職業上、高い倫理性や強い使命感が医師の資質として必須であるとはいえ、社会のなかに医師に対して過大な自己犠牲や過重労働までも要求する風潮があるとすれば、それは社会全体で考え直さなければならない。

 

 医学教育および広く医療界における男女共同参画の推進に向けた取り組みを強化し、二度と同様の事態が生じないようにする必要がある。

 

 文部科学大臣の要請で医学部医学科を擁する国公私立大学に対して緊急調査がおこなわれたが、調査結果によると、平成25年度から平成30年度にかけての入学者選抜における合格率について、男性の合格率が女性より高い大学数(割合)は、全81大学中46~57大学(57~71%)にのぼっている。その原因の調査等について、今後、各大学の自主的な取り組みが重要である。

 

 日本学術会議もまた、医学教育のあり方や女性医師の活躍支援について意見を表明してきたが、そのフォローアップが必ずしも十分ではなかった。今後は医学系学協会や大学・研究機関との連携をいっそう強化し、積極的に課題発見や問題提起に努めていきたい。日本学術会議は、今後とも医療界及び市民との対話を進めていく。

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