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対北朝鮮に乗じて段階画す米軍の横暴 ヘリ墜落や火炎弾訓練

米軍ヘリの墜落現場を封鎖する米軍(11日、沖縄県東村高江)

国民生活を脅かすのは誰か

 

 総選挙結果を巡って商業メディアが「自民圧勝」と宣伝するなか、安倍政府が日米同盟重視や改憲などの「選挙公約」実行へ前のめりの姿勢を見せている。北朝鮮対応を巡っては米韓合同演習に全面協力してアメリカの軍事挑発に積極的に加担し、みずから米本土防衛の盾となる行為をエスカレートさせている。こうした卑屈な対米従属姿勢のもとで、沖縄では米軍の欠陥ヘリが何度も墜落事件を引き起こし、北広島では住民の頭上で火炎弾訓練もおこない、米軍の横柄さは段階を画している。与野党入り乱れた総選挙パフォーマンスに国民の目を釘付けにしながら、日本全土の米軍基地化にむけた地ならしに拍車がかかっている。

 

安倍政府の改憲策動と連動


 日本国内の報道が総選挙一色に染まる陰で16日、米韓両海軍が朝鮮半島沖合同軍事演習(20日まで)を開始した。演習には米軍横須賀基地を母港とする原子力空母ロナルド・レーガンのほか、韓国のイージス艦や米海軍の原子力潜水艦など40隻余りが参加した。空母打撃群は戦闘攻撃機FA18や早期警戒機など70機を搭載し、中小国の海空軍力に匹敵する。そのような大艦隊を北朝鮮沖へ展開すること自体が明らさまな軍事挑発である。


 演習内容について韓国国防部は「アメリカの武器配備の持続的な強化」「“韓国型3軸体系”戦力の早期確保に努める」と説明した。この「韓国型3軸体系」は「キルチェーン(先制攻撃)」「ミサイル防衛」、北朝鮮の政府中枢を攻撃する「大量反撃報復」で構成され、明確に北朝鮮攻撃を意図した軍事作戦である。


 具体的には防空戦や対潜戦、ミサイル警報訓練、海上封鎖、対艦・対空艦砲射撃訓練、対特殊戦部隊作戦訓練をおこなう。空母打撃群の原子力潜水艦には有事の際に敵首脳部を抹殺する「斬首作戦」を遂行する米特殊戦部隊の要員も搭乗している。


 それはわざわざ朝鮮半島の目と鼻の先まで空母艦隊で押し寄せ、先制攻撃や都市部攻撃を想定した軍事威嚇をおこなうことにほかならない。


 そして近年の大きな変化は、安保法制にもとづいて、自衛隊を米軍防護に動員する集団的自衛権が実行段階に移っていることである。日米関係でいえば昨年12月に国際平和維持活動(PKO)で南スーダンに派遣した陸上自衛隊に「駆け付け警護」と「宿営地の共同防衛」を実行させ、陸上戦で日本の若者に米軍の肩代わりをさせる前例をつくったが、今年は朝鮮半島をめぐる軍事緊張に乗じて、海上自衛隊、航空自衛隊を矢面に立たせることを具体化した。


 30万人もの兵力を動員した米韓合同演習をへた5月の軍事緊張時期には、米海軍の補給艦を海自のヘリ空母などに守らせて航行し「米艦防護」の前例をつくった。7月には「北朝鮮のICBM発射の牽制」を口実にして米軍の戦略爆撃機と空自戦闘機が夜間も含めて共同作戦をおこなう前例をつくった。それは米軍戦略爆撃機がくり返す「航行の自由作戦」や米韓合同演習など軍事挑発の前面に日本の若者を立たせる布石である。


 現在アメリカは国際的にも孤立し、軍事力も経済力も衰退している。このなかで、アメリカにとって世界中でもっとも安上がりな日本の米軍基地の活用・拡大に活路を見出し、日本列島を丸ごと攻撃拠点にして、日本の若者を肉弾に動員し、アジアにおける戦争で息を吹き返すための戦時体制づくりを急いでいる。そのために露骨な挑発をくり返し、挑発に反発する形で北朝鮮がミサイルを発射するといって高額な米国製兵器を売りつけ、ミサイルを配備させ、日本が国是にしてきた「戦争放棄」の規定を一歩一歩崩してきた。


 この動きに忠実に従って「在日米軍基地がなければ日本を守れない」「安保法制や集団的自衛権は必要」と叫び、改憲を選挙公約に掲げているのが安倍政府・自民党である。かつて天皇を頂点にして「大本営発表」で国民を欺いて戦争に駆り立てた戦争勢力が何の反省もないまま、今度はアメリカの忠実な下僕となって再び同じ道に引きずり込もうとしている。

 

占領者意識露骨な米軍

 

 こうしたなか日本国内の米軍基地での横暴ぶりが際立っている。


 昨年12月には名護市で普天間基地所属の米軍機MV22オスプレイが墜落し、大破する事故を起こした。住民が住む集落からわずか300㍍の場所での事故だった。翌日に安慶田副知事(当時)が抗議したが、在沖米軍トップのニコルソン四軍調整官は「(操縦士は)ヒーローだ、住宅、住民に被害を与えなかった。感謝し、表彰すべきだ」と顔を紅潮させていい放ち、占領者意識丸出しの態度に全国で怒りが噴出した。


 事故現場で日本側は一切捜査もできず、米軍は海上保安庁も現場に近づかせなかった。そして米軍が機体などの証拠品をすべて持ち去った。第11管区海上保安部が航空危険行為処罰法違反での立件を目指し、米軍に捜査協力を求めたが、米軍は一切応じなかった。

 

会見時のニコルソン4軍調整官(昨年12月)

 アメリカ本国での実験段階から事故があいつぎ「欠陥機」「未亡人製造機」との悪名が高かったオスプレイだが、沖縄では毎日のように上空を飛び回り、米兵の顔が見えるほどの低空飛行でつり下げ訓練をくり返してきた。近隣住民が何度抗議しても聞く耳をもたず、「起きるべくして起きた事故だ」との批判が出るのは当然だった。沖縄県が求めた「墜落原因究明までの飛行中止」も無視し、事故後わずか6日間で飛行を再開した。


 しかも墜落原因について米軍が、空中給油時にオスプレイのプロペラが給油機のホースに当たって破損したのが原因であり「機体が原因ではない」と主張すると、稲田防衛大臣(当時)はすぐさま「空中給油以外の飛行の再開は理解ができる」として容認した。アメリカには一言も抗議すらできない日本政府の対米従属姿勢を浮き彫りにした。


 同日に別機が普天間空港で胴体着陸する事故を起こしたほか、今年6月6日には伊江島補助飛行場、6月10日には奄美空港でも緊急着陸し、今年8月5日にはオーストラリア沖で普天間基地所属のオスプレイがまた墜落し、3人の死者を出す重大事故を起こした。さらに8月29日にもオスプレイがエンジントラブルで大分空港に緊急着陸し、9月29日には石垣空港に緊急着陸している。同日にはシリアでもオスプレイが墜落し大破する事故を起こした。


 そして今月11日には米軍普天間基地所属の大型輸送ヘリCH53Eが、北部訓練場のある東村高江の集落に墜落し炎上した。CH53Eは2004年に宜野湾市の沖縄国際大学に墜落したヘリの後継機である。北朝鮮のミサイル騒動以降、米軍の訓練がますますはげしくなっていることが県民のなかで指摘されている。今回、ヘリが墜落した地点から民家までは200㍍しか離れていなかった。


 あいつぐ米軍機の事故に対し翁長沖縄県知事は「日米合同委員会のなかで日本政府に当事者能力がない。米軍に対して“二度とこういうことがないようにしてください”という話しかできないわけで、糠にくぎのような状況だ」と憤りをのべている。

 そして米軍は、事故について説明一つせぬまま18日から同型ヘリの飛行を再開した。


 オスプレイやヘリの事故の多発に加え、米軍は今年以降、パラシュートの降下訓練を嘉手納基地や津堅島訓練場水域でくり返している。パラシュートの降下訓練は1996年のSACO(日米特別行動委員会)合意で、伊江島補助飛行場のみでおこなうと決まっていたものだ。ところが2007年に日本政府が「嘉手納基地を例外的な場合に限って使用」することを認めたことを口実にして、米軍は今年に入ってから毎月のように伊江島以外で降下訓練をおこなっている。


 そのため7月には嘉手納基地に隣接する自治体の沖縄市、嘉手納町、北谷町でつくる「嘉手納飛行場に関する3市町連絡協議会(3連協)」が沖縄県と合同で、嘉手納基地における降下訓練停止を求め日本政府への抗議要請をおこなった。それを受けて日本政府は日米2プラス2の場で伊江島以外でのパラシュート降下訓練の禁止をとりあげたが、米軍は9月21日に嘉手納基地でパラシュート降下訓練を強行した。今月11日、12日にも津堅島でパラシュート訓練を強行しており、日本を植民地としか見なさない態度は露骨になっている。


 こうした動きは本土でも共通している。広島県北広島町では今月11日、米軍機が対空ミサイルの命中を防ぐために発射するおとりの火炎弾「フレア」の訓練を住民の頭上で実施していたことが明るみに出た。「火の玉が出た」との目撃情報が町役場に複数寄せられ、米軍岩国基地所属のFA18戦闘機が一度に2発の火炎弾を複数回発射したと証言している。北広島町上空は米軍の飛行訓練空域「エリア567」にあたり、近くには低空飛行訓練ルートのブラウンルートも走る。フレア使用の訓練は通常、海上でおこなっており、民家が点在する地域の上空ではおこなっていない。しかも岩国基地に近い山口、広島、島根の3県はこれまでも米軍機の飛行訓練に批判の声を上げていた。その地域の頭上で、今度は火炎弾訓練まで実施したことに住民の怒りは拡大している。


 現在、岩国基地では8月から厚木基地所属の空母艦載機部隊の移転が始まり、第1陣の早期警戒機E2Dホークアイ5機が到着している。11月以後には主力の空母艦載機FA18スーパーホーネットなど61機が段階的に移転する。最終的には計120機を備えた米軍出撃拠点となる。

 

主権がない日本の現実

 

 浮き彫りになっているのは、日本全土にまったく主権がない現実である。


 新潟から静岡に及ぶ首都圏の上空は米軍が占有する横田ラプコン(空域)があるが、高度7000㍍から約2400㍍までの空域は米軍の許可なしに日本の航空機が飛行することはできない。羽田空港のすぐ横にある巨大な山脈のような空域を避けるため、JAL(日本航空)やANA(全日空)の定期便は毎回、不自然な飛行ルートを強いられている。


 しかし米軍の方はたとえ米軍基地外であってもこの空域内であれば、日本政府の許可なしにどんな軍事演習も可能で、仮に死亡事故が起きても報告・補償の義務もない。現実に1977年に横浜で起きた米軍ファントム機墜落事件(死者2人、重軽傷者6人、家屋全焼1棟、損壊3棟)は40年経てもうやむやにされたままである。


 中国・四国地方にも米軍の管理する岩国空域がある。この空域は米軍岩国基地を中心にして山口、愛媛、広島、島根の4県にまたがり、日本海上空から四国上空までを覆っている。この空域内では日本の法律は一切適用されない。


 そして2010年に返還されたはずの嘉手納の米軍優先空域である。かつての沖縄県全体をすっぽり覆う嘉手納空域(半径90㌔㍍、高さ6000㍍)は「返還」されたが、別の米軍優先空域が設定され、結局日本の航空機が自由に飛べない状態が続いている。新たな米軍優先空域はアライバル・セクター(着陸空域)と呼ばれ、嘉手納基地を中心に長さ108㌔㍍、幅36㌔㍍、高さ1200㍍(高度600㍍から1800㍍まで)の範囲である。那覇空港付近を飛ぶ航空機や飛行機は、みな高度300㍍程度の超低空飛行をよぎなくされる状態が継続している。


 さらに米軍が設定した専用の低空飛行ルートが8ルートあり、沖縄から北海道まで全国を網羅している。しかも所属米軍基地から低空飛行ルートで飛んでいくため、米軍機は日本の上空をどこでも自由に飛び、訓練できることを意味する。日本の民間機は飛べない所が山ほどあるが、米軍機はどこでも自由に飛べ、事故を起こしても無罪放免になるのである。それは空域だけにとどまる話ではない。沖縄にとどまらず首都圏など全国に米軍基地が盤踞し、政治のあり方を含め、すべてアメリカに支配された日本の現状との矛盾は極点にきている。


 こうしたなかで自民党が掲げている選挙公約は、この対米従属構造をさらに強める方向である。『この国を守り抜く』と題した自民党の公約は「北朝鮮の脅威から国民を守る」ため「日米同盟をより一層強固にすることで、わが国の抑止力を高める」と明記している。それは米軍基地と自衛隊基地の一体化や日本国内へのミサイル配備を含め、米本土防衛の盾として日本全土の軍備増強に力をいれるという意味あいである。


 さらに「憲法改正」では、「教育の無償化・充実強化」を宣伝することで賛同を募りながら、これとセットで自衛隊の明記、緊急事態対応を押し進めることが狙いである。憲法で自衛隊を「合憲」と明記すれば、自衛隊の活動をより公然と学校などで教えることが可能になり、徴兵制などを準備していく布石にもなる。


 さらに緊急事態対応の核心は緊急事態条項の創設であり、それは首相権限を格段に強める方向だ。内乱時に首相が「緊急事態の宣言を発することができる」と規定し、国民の人権や財産権の制限も盛り込むもので、政府にとって都合の悪いことは力でねじ伏せる弾圧体制の強化にほかならない。


 すでに安倍政府・自民党は選挙で圧勝することを見込んで、総選挙後は「国民の信任を受けた」と一気に改憲などの戦時国家体制作りを加速する構えを見せている。11月に日米首脳会談を設定し、年内に改憲原案を提示する方向も示唆している。
 日本の主権を奪い、戦争と破滅に導く対米従属政治に、明確な国民の審判を突きつけることが重要になっている。

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