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辺野古釘付けの裏で進む全土の米軍基地化 沖縄だけに切り縮めてはならない問題

 「米軍普天間基地返還のため」を口実にした名護市辺野古への新基地建設をめぐる動向が連日大きくクローズアップされる陰で、日本全国の米軍基地強化や軍備増強計画が一斉に動いている。馬毛島へのFCLP(米軍空母艦載機離着陸訓練)基地配備、南西諸島へのミサイル部隊配備をはじめ、萩・秋田両市へのイージス・アショア配備、築城基地の滑走路延長、首都圏へのオスプレイ配備など、どれも日本を出撃拠点に変貌させる危険な内容を含んでいる。メディアを総動員して辺野古新基地問題だけに国民の関心を釘付けにしながら、日本全土を米軍基地として奪いとる企みが顕在化している。

 

 防衛省は21日、FCLP基地配備の候補地に名指しした馬毛島(鹿児島県西之表市)に関連して、今月下旬から現地調査に着手すると発表した。基地整備に向けて、馬毛島の動植物の生息状況や気象などを調べる方向を示している。馬毛島は種子島の西約12㌔地点に位置し面積は約8・2㌔平方㍍程。日米両政府はこの無人島を2011年の日米合意でFCLP基地にすることを決定した。FCLP基地の配備によって、FCLPを夜間におこなう夜間離着陸訓練(NLP)基地として使うことも可能だ。そのため防衛省は通常の土地評価額なら45億円程度の島を約160億円で買いとる交渉に入っている。

 

 FCLPは、米軍の空母艦載機が陸上滑走路を空母の飛行甲板に見立てて何度も離着陸をくり返す訓練である。しばらく運転から離れていた米軍パイロットが出撃前に必ずおこなう訓練で、爆音とともに事故の危険もともなう。そのため恒久的な訓練基地はごく限られている。厚木基地所属の空母艦載機もFCLPは東京から約1200㌔㍍離れた硫黄島で実施しており、アメリカは長年、在日米軍基地に近いFCLP基地の提供を日本に要求してきた。これを実現するために日本側が日米協議で提示したのが、馬毛島だった。

 

 馬毛島は岩国から約400㌔㍍しか離れておらず空母艦載機の移動距離は3分の1となる。しかも無人島であるため、激しい訓練をくり返しても住民への影響が表面化しにくい。こうした使い勝手の良い空母艦載機の出撃前訓練基地を整備するのは、今後、日本に空母を複数配備したり、空母寄港を増やすための布石である。馬毛島への基地建設によって硫黄島のFCLP基地を返還するわけではない。それは日本を空母の出撃拠点と化す動きといえる。

 

 さらに日米両政府は昨年10月、航空自衛隊築城(福岡県築上町など)と新田原(宮崎県新富町)基地に米軍関連施設を多数整備する計画を明らかにした。「普天間基地が攻撃されたときや緊急時に使う」と称し、両基地とも「米軍普天間基地なみの施設」へ増強することが狙いだ。築城基地は滑走路(現在2400㍍)を約300㍍延伸し、2700㍍にすることが柱だ。さらに駐機場、燃料タンク、弾薬庫、庁舎、宿舎、倉庫などを新設する。新田原基地は駐機場、燃料タンク、弾薬庫、庁舎、倉庫を新設し、誘導路を改修する計画だ。現在の普天間基地は輸送機や空中給油機の運用が主で、弾薬貯蔵機能は備えていなかった。だが「普天間返還のため」と主張し、普天間基地以上の軍備増強を進めている。

 

 日米政府は「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の基本機能は名護市辺野古に移設するが、普天間基地が持っているもう一つの緊急時使用機能を築城基地と新田原基地に移す。そのための施設を整備する」と主張している。しかし実際は「普天間返還」と引き替えに、同規模の米軍基地を辺野古、築城、新田原の3カ所に増やし3倍化する動きを見せている。

 

佐世保には地上戦部隊

 

 こうした動きと連動して岩国、佐世保で地上戦部隊や空母艦載機の出撃体制強化が加速している。

 

岩国市の愛宕山につくられた米軍住宅。日本人が入れないよう検問ゲートが設けられている

 米軍岩国基地は普天間基地から空中給油機15機が移転し、沖合拡張による大滑走路を整え、空母が接岸可能な軍港機能も備えた。そして厚木の空母艦載機が昨年3月末までに60機移転した。同基地は垂直離着陸可能なF35Bや軍用機を約120機配備する極東最大規模の出撃拠点に変貌している。そのため愛宕山には一戸が100坪もある米軍住宅を270戸も整備し、4000人規模の米兵や家族の受け入れ体制もつくった。岩国市自体が米軍に乗っとられたような様相となっている。

 

 岩国基地と密接に連動する米海軍佐世保基地がある佐世保市では、「日本版海兵隊」と呼ばれる水陸機動団を2000人規模で発足(昨年3月、陸自相浦駐屯地)させた。同部隊は「離島奪還」を主目的とする地上戦専門部隊で、米海兵隊から直接手ほどきを受けた精鋭部隊だ。同市崎辺地区では水陸両用車を運用する戦闘上陸大隊(約170人)の分屯地や訓練施設建設計画が進行している。この地上戦部隊の配備と連動して、佐賀県へのオスプレイ配備計画が執拗に動いている。

 

 そして近年目立つのはミサイル攻撃部隊の配置である。台湾や尖閣諸島のすぐそばにある与那国島(沖縄県)では2016年から陸自沿岸監視隊約160人と空自移動警戒隊を配置し、戦闘機も艦船も捕捉できるレーダーを新設した。ここでは巨大弾薬庫を設置し兵員を200人規模へ増強する動きも出ている。さらに地対空、地対艦ミサイルを運用する陸自ミサイル部隊を宮古島(沖縄県)には約800人、石垣島(沖縄県)には550人、奄美大島(鹿児島県)にも550人配置する計画も動いている。宮古島には指揮所や弾薬庫を建設し、石垣島と奄美大島には弾薬庫や射撃場を整備する計画だ。国境に近い南西諸島近辺では、ミサイルの正確な位置特定に不可欠な準天頂衛星管制局を配備し、「日本版GPS」で取得した情報を自衛隊が本格運用しようとしている。

 

イージスアショア画策

 

 本州側の軍事配置も大きく変貌している。その象徴的な動きが陸自むつみ演習場(萩市)と陸自新屋演習場(秋田市)へのイージス・アショア配備計画である。政府が配備を狙うイージス・アショアは現在海自に配備しているイージス艦のシステムを地上配備するだけではない。それより機能を向上させたイージス・アショアである。

 

 現在、海自イージス艦が搭載しているレーダー「SPY6」の探知範囲は400㌔だが、配備予定のイージス・アショアに搭載する「LMSSR」の探知範囲は1000㌔となる。さらに今、海自イージス艦が搭載するミサイルはSM3ブロックⅠA(射程距離=1000㌔、最高到達高度500㌔)だが、イージス・アショアに搭載するのはSM3ブロックⅡA(射程距離=2000㌔、最高到達高度=1000㌔)だ。探知範囲もミサイルの射程も2倍となる。それはロシアや中国も射程圏内に収めることを意味する。

 

 そもそもイージス・アショア配備は、アメリカを狙うミサイルの対処が任務であり、日本の防衛が任務ではない。それは秋田市が朝鮮半島からハワイに飛ぶミサイルの軌道上にあり、萩市が朝鮮半島からグアムへ飛ぶミサイルの軌道上にあることを見ても明らかである。こうした動きにさきがけ、空自車力分屯基地(青森県)と空自経ヶ岬分屯基地(京都府)には早い段階から米軍がXバンドレーダーを配備し、どちらも米軍基地化している。

 

自衛隊基地も使い放題

 

 日米政府が2006年5月に「米軍再編計画」を策定したとき、「普天間基地返還」「米軍基地の整理縮小」「沖縄の負担軽減」を強調した。だが一三年へて鮮明になった事実は、すべて日本全土に米軍基地を拡大したり、基地機能を強化するための口実に過ぎなかった、という現実である。

 

 米軍再編計画の策定直後、日米政府が真っ先に着手したのは自衛隊司令部と米軍司令部の統合計画だった。キャンプ座間(神奈川県)に、もともとワシントンにあった米陸軍指令部を移転させ、陸自司令部と米陸軍司令部を一体化した。在日米軍司令部と第五空軍司令部のある横田基地には、空自の航空総隊司令部を移した。昨年10月には相模総合補給廠(神奈川県相模原市)へ米陸軍のミサイル司令部要員が移駐を開始した。すでに日米の司令部が一体化している海軍部隊に続き、陸軍、空軍、ミサイル部隊もアメリカの直接指揮下に入った。目に見える軍備増強だけでなく、自衛隊中枢をまるごと米軍の下請に変えている。

 

 そして「沖縄の負担軽減」を掲げて実施したのは、嘉手納基地でおこなう米軍機の訓練の全国化だった。戦闘機の訓練を千歳(北海道)、三沢(青森県)、百里(茨城県)、小松(石川県)、築城(福岡県)、新田原(宮崎県)など全国の自衛隊基地に拡散した。米軍空中給油機部隊は海自鹿屋基地の使用を開始した。ところが移転先の自衛隊基地では近年、岩国や三沢の米軍機が飛来するケースが増えている。「沖縄の負担軽減」を掲げて、米軍機が自衛隊基地を使う前例をつくり、最終的にはあらゆる米軍機を自衛隊基地に飛来させ、米軍基地よりももっと安上がりな自衛隊管理の米軍基地を増やす意図が浮き彫りになっている。

 

 明白な事実は、沖縄だけにとどまらず、日本中が「日米安保」体制に縛られ、全土の米軍基地化が着々と進行している現実である。それを「普天間基地返還」や「辺野古基地」問題などの部分問題だけに切り縮めることはできない。

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