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台湾有事に日本を巻き込む日米共同作戦計画―南西諸島を再び戦禍に晒してよいか 石井暁・共同通信専任編集委員の講演より

 米中対立の焦点となっている「台湾有事」で再び沖縄を戦場にさせないための行動を呼びかけている市民団体「ノーモア沖縄戦 命どぅ宝の会」(共同代表/石原昌家、具志堅隆松、ダグラス・ラミス、宮城晴美、山城博治)は9月25日、沖縄県宜野湾市で「台湾有事・日米共同作戦の正体~メディアはどうたたかうか」と題してシンポジウムをおこなった。そこで昨年末、南西諸島の米軍拠点化をスクープした共同通信専任編集委員の石井暁氏が「台湾有事と日米共同作戦―南西諸島を再び戦禍の犠牲とするのか」として基調講演をおこなった。最も切迫する沖縄および南西諸島を導火線にして日本全体を戦禍に引きずり込む戦時シナリオ作りが進行していることについて、全国的な問題意識の共有が求められている。

 

「ノーモア沖縄戦」の会がシンポジウム

 

 主催者を代表して挨拶した遺骨収集ボランティア「ガマフヤー」代表の具志堅隆松氏は、「私はこれまで40年間、沖縄戦戦没者の遺骨を収集し家族のもとに返す活動をしてきた。遺骨を家族のもとに返すことは、犠牲者や家族にとって必要なことだが、国策の犠牲者であるにもかかわらず国はやらない。だが沖縄では、掘れば今でも膨大な遺骨が出てくる。米国ではDNA鑑定をして家族に返していることも日本政府に提言し、沖縄の遺骨はすべてDNA鑑定の対象になった。アジア太平洋地域の犠牲者の遺骨もだ。日本は戦後76年目にして、やっと戦争犠牲者の遺骨を家族のもとに返すことが国家事業になった。しかし、一方で再び沖縄戦が起きようとしている。私たちの究極の目標は、沖縄を再び戦場にさせないことだ。その危機感がどれだけ共有できているだろうか。二度と沖縄戦をくり返さないために声を上げなければいけない。命を守るために必要なのは、戦争を前提にしたシェルター作りや避難計画ではなく、まず戦争にさせないことだ」と訴えた。

 

 続いておこなわれた石井暁氏(共同通信専任編集委員)の基調講演の内容を以下紹介する。

 

■ 石井暁氏(共同通信専任編集委員)の講演より

 

 私は1994年に当時東京六本木にあった防衛庁(現・防衛省)担当になってから30年ほど同省を担当してきた記者だ。みなさんと同じように反戦と平和を常に考えながら取材し、記事を書いている。そのためか、私が講演する場には必ず自衛隊の情報保全隊や警察の公安の方がいらっしゃる。その方々もぜひ一緒に聞いていただきたい。

 

 ちなみに私の父親は屋久島出身で、沖縄の政治家・瀬長亀次郎を尊敬していた。私が育った横浜の鶴見で平和集会などがあると、幼い時分から親に連れられて参加していたので「沖縄を返せ」もそらで歌える。だから、こうして沖縄の皆さんの前で語る資格が少しはあるのかなと思っている。

 

 防衛省が示すように、九州の南端から与那国島にかけての南西諸島にすでにこれだけの自衛隊を展開している【地図参照】。昨年末、私は台湾有事が近くなった段階で米軍が南西諸島に展開し、臨時の攻撃用拠点をつくる計画について記事を書き、それが昨年12月24日付の『琉球新報』『沖縄タイムス』の1面に掲載された。

 

 記事の内容は、新聞の見出しになったように、台湾有事で南西諸島を米軍の臨時拠点にするという「日米共同作戦計画」の策定が進められており、それが実行されてしまうと住民が巻き添えになるリスクがあるということ、今年1月におこなわれた「2プラス2(日米外務・防衛閣僚会合)」での協議開始が合意されたというものだ。

 

 背景にあるのは、米中対立の激化だ。中国の習近平国家主席は、基本的に台湾は平和的に統一するといっているが、台湾が独立を宣言したりすれば武力統一を排除しないということを何回も明言している。そして台湾の蔡英文総統は、これまでの台湾の政権のなかで最も独立志向が強い政権だ。そのため習近平政権は台湾に対する軍事的圧力を年々強化している。

 

 さらに米国のトランプ前大統領は中国との強い対決姿勢をとり、その後のバイデン政権もトランプの対中強硬路線を転換することなく、「中国は米国にとって唯一の競争相手」「民主主義(米国)vs専制主義(中国)だ」といい切っている。

 

 そのなかで中国は、台湾の防空識別圏(ADIZ)への戦闘機の侵入をくり返すようになった。これに対抗して、米国は周辺海域で日本などの同盟国や友好国との軍事演習を増加させ、ほぼ1カ月に1度のペースで駆逐艦やフリーゲート艦に台湾海峡を通過させ、「航行の自由作戦」と称している。米国も中国にプレッシャーをかけているわけだ。

 

台湾近海を航行する米原子力空母「ロナルド・レーガン」(7月)

 米軍は、中国による台湾侵攻(台湾有事)は近いと見て焦りを強めている。2021年3月、米インド太平洋軍の新・旧司令官が2人揃って、「中国の台湾への武力侵攻は6年以内」「われわれが考えているよりも迫っている」と明言している。

 

 こうした司令官の発言を受けて米軍幹部は非常に焦り、自衛隊の幹部に「日米の政治プロセスを待っていられない」「(自衛隊は)中国と米国の戦争が迫っていることを理解しているのか!」と強い口調でプレッシャーを掛けてきていると自衛隊幹部がいっていた。ある自衛隊幹部は「米軍の軍人は軍事的合理性しか考えてない。日本政府の政策や日本の国内法などまったく関係ない。ましてや南西諸島の住民の存在など頭の中にこれっぽっちもない。彼らはただ軍事的合理性を求めており、それさえあれば何でもやるんだ」と唖然としながら語っていた。「軍人とはそういうものだ」と。米軍は、自衛隊幹部が驚くような強い口調で迫っている。

 

 2021年11月、新たに就任した米インド太平洋軍のアキリーノ司令官が来日し、自衛隊の山崎幸二統合幕僚長の案内で与那国島などを視察した。その後の会議で米インド太平洋軍司令官は、自衛隊の統合幕僚長、陸上幕僚長、海上幕僚長、航空幕僚長たちに向かって、かなり強い口調で「早く共同作戦計画をつくらなければ間に合わないぞ!」と迫ったという。米軍司令官から叱責された4人の自衛隊幕僚長たちは顔色を失って真っ青になっていたと、同席した自衛隊幹部が漏らしていた。「かなり強い口調で相当ねじ込まれた」と。

 

 この台湾有事をめぐる日米共同作戦計画の基は、2016年に発表された「EABO(遠征前方基地作戦)」という米海兵隊の作戦構想だ。これまで米軍はイラクやアフガンで「テロとの戦い」をしてきたが、もうそういう時代ではない。主な米国の敵は中国であり、それを封じ込めるために米軍は作戦を変えた。米軍全体の戦略目標は「テロとの戦い」から「中国封じ込め」に変わり、海軍と空軍が中心になる。役割を失うことに焦りを感じた陸軍と海兵隊が存在感を示すために考えたのがこのEABOだ。

 

 この作戦構想は、南西諸島の島々を拠点に、海兵隊が数十人の小規模部隊を分散して展開し、中国の海空軍と戦うというものだ。ミサイルをもって中国艦艇や航空機を攻撃するわけだ。そういう作戦構想に基づいて、台湾有事に備える日米共同作戦計画を作っている。

 

 実際、昨年12月、この作戦構想に基づく検証訓練が北海道や東北でおこなわれた。私も青森県八戸、宮城県の王城寺原演習場の検証訓練に行き、とくに王城寺原では泥のぬかるみにはまりながら取材をした。

 

計画原案は特定秘密に

 

 台湾有事をめぐる日米共同作戦計画の原案は、特定秘密保護法による特定秘密だ。私がこの記事を書いたこと自体、政府にとっては非常に面白くない。実際、記事が出た当時、首相官邸内で国家安全保障局(NSS)の幹部会議が開かれ、その席上で「この原稿には特定秘密が含まれている」ということで、情報源を調べるように内閣情報調査室(内調)に指示が出た。それがまた僕の耳に入ってくるというのも面白い。これは警察の公安の方や自衛隊の情報保全隊の方はメモされていると思うが、国家安全保障局でのやりとりも含めて全部僕のところに入ってくる。でも僕を逮捕したり、弾圧したりせず、「おかしい」という問題意識をもって僕の味方をしてくれる自衛隊幹部がいることが、まだ日本にとって救いだと思っている。

 

 南西諸島には約200の島がある。ただ海上保安庁と国土地理院に、南西諸島の有人島と無人島の数を尋ねても「わからない」という。鹿児島県と沖縄県に聞いても正確な数は「わからない」という。だから、およそ200としたが、そのうち40の島々が米海兵隊の軍事拠点になる可能性がある。この40は有人島で、水が供給できるという条件があるからだ。米軍もさすがに水までは運べないということだろう。記事では、島々で暮らす人々を不安に陥れてしまうため具体的な島名は書かず、例として陸上自衛隊がミサイル部隊を配備する「奄美大島や宮古島、石垣島を含む」としたが、これらの島々にはすでに陸上自衛隊の対艦ミサイル、対空ミサイル部隊が常駐(石垣島は配備予定)しているので米軍は簡単に行ける。だが、米軍の同じような部隊が行ってもダブるだけなので、役割分担のために、それ以外の島に行く可能性も高いと考えられる。

 

安保法制と密接に連動

 

 ここで2015年に成立した安全保障関連法(安保法制)について触れる。なぜかといえば、安倍政権がつくったこの安保法制ができたからこそ、台湾有事をめぐる日米共同作戦計画の策定が可能になったからだ。

 

安保法制について説明する安倍元首相(2014年)

 安全保障法制をなんのために作ったのか。当時私も騙された。安倍元首相が、安全保障関連法案について説明した記者会見で、朝鮮半島から母親が赤ん坊を抱いて避難するイラストが描かれたボードを持ち、「この赤ん坊を抱いた母親が逃げるために乗った米軍艦船を自衛隊が守らなくていいんですか! 皆さん!」と強い口調で訴えた。これに騙された。

 

 だが、安全保障法制の一番の目的は、朝鮮半島有事ではなく、台湾有事のさいに米軍とともに自衛隊が自動参戦するための仕掛けだったのだ。国会審議のなかで、野党各党もかなりの部分が騙されていたと思う。

 

 安全保障法制では、「重要影響事態」という事態認定の類型が作られた。これはもともと「周辺事態」といっていたものだが、それは朝鮮半島有事を想定したもので、適用される地理的範囲も朝鮮半島に限られていた。これを「重要影響事態」に変えることで地理的制約がなくなり、台湾有事にも適用可能になった。まさに戦場以外では、米軍への後方支援ができるようになり、米軍以外でも、例えば豪州軍などへの後方支援も可能になった。後方支援の内容も拡大し、弾薬提供までできるようになった。

 

 米海兵隊が南西諸島に散らばって中国と戦闘するという日米共同作戦計画は、この「重要影響事態」の認定があったときにおこなわれる計画だ。

 

 他に、安保法制でできた事態認定に「存立危機事態」がある。これは、日本と密接な関係にある国(つまり米国)に対する攻撃があったときに、集団的自衛権(米国と一緒に米国の敵国と戦う)の行使を可能にするものだ。さらに「武力攻撃事態」は、日本そのものが攻撃されたことを認める事態だ。

 

 亡くなった安倍元首相は、安全保障関連法の国会審議のなかで「野党の皆さんは、安全保障法制ができて集団的自衛権が行使されるようになれば、米国の戦争に日本が巻き込まれるというが、そんなことは絶対にない!」と強い口調で何度もいってきた。ところが昨年12月、オンライン講演会で「台湾有事は日本有事であり、日米同盟の有事だ」と、これまでの見解を180度変えた。ここで彼は本音を出した。つまり、集団的自衛権行使を容認した安全保障関連法は、台湾有事に米国が参戦したときに自衛隊が自動的に参戦するための仕掛けだったということだ。

 

想定される具体的流れ

 

 では、安全保障関連法に基づいて、どのような事態のときに、日米はどう具体的に動いていくのか。この考え方は、私が自衛隊幹部や政府関係者の話を聞いた内容をまとめたものだが、亡くなる前に安倍さんが雑誌に書いた内容もまったく同じだった。やみくもに危機感を煽るつもりはないが、実際に自衛隊幹部もこのように考えていると思って聞いてほしい。

 

 まず中国と台湾の間で戦闘が起きる。中国が台湾に軍事的侵攻を始める。そのときにはまだ米軍は参戦していないが、いずれ軍事的に介入することを視野に入れて南西諸島の島々に海兵隊部隊を展開させる決断をする。このとき日本政府は「重要影響事態」と認定する。【図参照】

 

 すると米海兵隊は南西諸島の島々に小規模の部隊で展開していき、対空ミサイル、対艦ミサイルを設置して攻撃の準備をする。このとき自衛隊は米軍要員を島々に輸送したり、武器や食料、弾薬などを運ぶなど米軍の後方支援に回る。

 

 その後、実際に米国と中国の間で戦闘が開始されると、日本政府は「存立危機事態」と認定して、集団的自衛権を発動し、今度は自衛隊が武力行使できるようになる。これは完全に自衛隊の防衛出動だ。自衛隊は米軍と一緒に米国の敵である中国と戦うことになる。

 

 そして、沖縄の嘉手納や普天間、ホワイトビーチなどの米軍基地に中国から攻撃があったり、米海兵隊が分散展開している島々に対して攻撃があれば、日本に対する「武力攻撃事態」と認定し、今度は自衛隊が個別的自衛権に基づいて武力行使することになる。

 

 一番いいたいのは、安全保障法制ができて「重要影響事態」や「存立危機事態」などの事態がつくられなければ、嘉手納や普天間などの米軍基地が攻撃されない限り、日本が台湾有事に巻き込まれてアメリカと一緒に戦争することはなかったということだ。これらの事態認定が安全保障法制によってつくられてしまったために、米国と一緒に中国と戦うことについて断る理由がなくなってしまった。今までのように「日本には個別的自衛権しかない」ということであれば、「米国と一緒に中国と戦うことはできない。せいぜいできるのは後方支援。それもかなり限られたものになる」といって断れたものが、安全保障法制によって断ることができなくなった。

 

 くり返すが、まさに安全保障法制は、台湾有事で米国と中国が戦う事態になったとき、自衛隊が自動的に参戦するための仕掛けだったのだ。

 

緊迫度深める台湾海峡

 

 今年1月7日におこなわれた2プラス2(日米外務・防衛閣僚会合)の共同発表には「緊急事態に関する共同計画作業の確固とした進展を歓迎」という文言があった。これは、私が記事にした日米共同作戦計画が着実に進展していることを示している。つまり、私の記事は誤報でないことが裏付けられた。

 

 もう一つ共同発表で注目すべきは、中国の行動に「共同で対処」と明記していることだ。非常に短い言葉だが、中国に対して日米は協力して戦うことを端的に表現している。2プラス2後、ある自衛隊幹部は「日本が重要影響事態を認定したときには、自衛隊は米軍の後方支援を最優先する。住民を避難させる余裕はまったくない」と語っていた。

 

 沖縄戦の歴史をふり返ってみても、軍隊や軍事組織にとっての主任務は戦闘行為であり、住民保護や避難は主任務ではない。旧日本軍と自衛隊は違うという議論はあるが、軍隊としての連続性を持っていることを深く考えさせられる。

 

 この記事に対する防衛省の反応は、事務方トップの防衛事務次官が記者会見後に私の傍にきて肩をポンッと叩き、「ヒリヒリするような見出しの原稿を読ませてもらったよ」と一言いってニヤッとした。その後の言葉はなかった。また、首相官邸のある高級幹部は、私との飲みの席で「あの原稿どうでした?」と聞くと、「一切ノーコメント。ちょっと危ないんじゃない?」といった。それは「あれは特定秘密だよ」と暗に匂わせたのだろうと私は理解している。

 

 私は共同作戦計画について2プラス2で確認できたので、防衛大臣会見で直接質問した。当時の大臣は安倍晋三の実弟・岸信夫だ。やりとりは以下の通りだ。

 

岸信夫元防衛相

 石井 共同作戦計画について聞く。「進展」というふうにあるが、朝鮮半島有事の共同作戦計画ははるか以前に完成、最近尖閣諸島有事の共同作戦計画も完成した。ということは、この「進展」というのは台湾有事についての共同作戦計画の原案と解釈していいか。
 岸防衛相 共同計画に関するさらなる詳細については答えを差し控えさせてもらう。

 石井 その(共同作戦計画の)原案の中には、南西諸島に米軍の攻撃用の軍事拠点を臨時に設置するということが含まれている。答えられないというのは、南西諸島の住民に対して大変失礼な話だと思うが、いかがか。
 岸防衛相 申し訳ないが、答えは差し控えさせていただく。

 石井 住民の生活とか人生とか生命がかかっているのに、それでも答えられないのか。
 岸防衛相 答えは差し控えさせていただく。

 

 官僚が用意したペーパーそのものの答弁に終わり、非常に腹立たしかったのを覚えている。

 

 その後の台湾をめぐる事態の流れは非常に生々しい。

 

 まず、今年8月3日にペロシ米下院議長が中国の警告を振り切って台湾を訪問し、その直後から中国軍が大規模軍事演習を始める。事実上の停戦ラインである台湾海峡の中間線をこえて、中国の戦闘機や艦艇が台湾側に入ることが常態化した。

 

 さらに同じ8月には、米陸軍が陸上自衛隊と台湾有事を想定した対艦訓練を、よりによって奄美大島でやった。つまり海兵隊だけでなく、陸軍も同じようにハイマース(高機動ロケット砲システム)を持って南西諸島の島々に展開し、自衛隊に協力してもらいながら戦うということだ。だから南西諸島の島々には海兵隊だけでなく、陸軍も行くことを想定していることがわかる。

 

 そして来たる10月には、北海道を舞台に、米海兵隊と陸上自衛隊による台湾有事想定の遠征前方基地作戦(EABO)の対艦訓練がおこなわれる。昨年は連隊規模で比較的小規模だったが、今年は師団規模に拡大しておこなわれる。いよいよ南西諸島を舞台にした中国との戦いを想定した訓練が本格化する。かなり大規模なものになるだろう。

 

奄美大島での日米共同訓練で配備された対空誘導弾パトリオット(2021年7月)

敵基地攻撃が生む最悪の事態

 

 台湾有事をめぐる日米共同作戦計画は、今日現在まだ完成していない。その理由を自衛隊幹部に聞いたところ「いえない」としか答えない。自衛隊と米軍の間でまだ策定中だということだろう。

 

 この共同作戦計画を実行するには、日本政府としての政策決定や、土地使用や国民保護をめぐる国内法の整備が必要になる。そのような動きが沖縄を中心に出つつある。

 

 最近報じられたように、例えば与那国や石垣島などでの住民防護用シェルターの整備、あるいは国民保護の避難訓練が始まろうとしている。それは大きな流れのなかで、戦争に向けて地ならしをしようという政府・防衛省の考え方を反映したものだ。

 

 そして、安倍元首相の持論でもあった「日本もNATO並みに防衛費をGDP比2%に引き上げるべきだ」という政府方針は、岸田政権にそのまま引き継がれ、「5年以内」を目標にしている。

 

 さらに、これも安倍元首相が主張していた「敵基地攻撃能力」の保持。自民党は「反撃能力」と言い換えたが内容は同じで、要するに相手の領域内にあるミサイルや軍事施設を攻撃できる能力を持つことが、おそらく年末までに改定される防衛3文書に盛り込まれると思う。

 

 そして、南西諸島の軍事要塞化だ。今年中には石垣島に対艦・対空ミサイル部隊と警備部隊が配備される。さらに国が買い上げた鹿児島県の馬毛島に航空自衛隊の基地をつくる動きが加速しており、これを陸・海・空の自衛隊が共同使用し、米軍空母艦載機の訓練基地としても使う。馬毛島は一大軍事拠点になる。近隣の種子島や屋久島も含めて、風景が一変するような軍事要塞化が進んでいる。最近、私も馬毛島に行ってきたが、地元の人たちは、故郷の象徴であった馬毛島が軍事要塞になることに悲痛な思いと怒りを抱いていた。

 

石垣島に建設中の陸上自衛隊ミサイル部隊基地(昨年12月)

 私は単に戦争の危機感を煽り、「台湾有事が近い、近い」と叫ぶつもりはない。だが、どんなことがあってもかつて沖縄戦の犠牲になった南西諸島の住民の皆さんをふたたび戦争の矢面に立たせてはいけないと強く思う。

 

 とくに最悪の想定だと思うのは、集団的自衛権と敵基地攻撃能力(反撃能力)が組み合わさったときに起きる事態だ。

 

 台湾をめぐり米国と中国が戦闘を始めると、日本はまったく攻撃を受けておらず、沖縄の嘉手納基地も攻撃を受けてないという状態であっても、日本は「存立危機事態」を認定し、集団的自衛権を発動する。さらに敵基地攻撃能力を持てば、日本はまったく攻撃されていないのにもかかわらず、日本は中国のミサイル基地を攻撃することになる。

 

 自民党のいう敵基地攻撃能力(反撃能力)では、ミサイル基地だけでなく、相手の指揮統制機能まで攻撃できる能力を持とうといっている。指揮統制機能がある場所というのは、日本でいえば東京・市ヶ谷の防衛省、あるいは海上自衛隊の横須賀(神奈川)、航空自衛隊の横田(東京)、陸上自衛隊の朝霞(埼玉)だ。日本が攻撃されてもいないのに、中国のそういった中枢機能を叩く能力を持つわけだ。この二つが組み合わさると最悪の事態が想定される。

 

 今政府自民党は、台湾有事の危機を盛んに煽り立て、メディアの一部もそれに乗って「台湾有事は近い」「日本は参戦せざるを得ない」という雰囲気作りをやらされている。では一体どうすればいいのかについては、簡単に答えは出ない。ただ冷たいいい方かもしれないが、中国と台湾が衝突しても日本は絶対に参戦してはいけない。米国が参戦することも止めなければいけない、ということがいえる。

 

 とりあえず、成立してはいるが安全保障法制を廃止する動きを強めること。それから重要影響事態、存立危機事態といった事態認定をさせないように国会でたたかう。
 あるいは嘉手納基地から中国との戦争に米軍機を出撃させることは、日米安全保障条約の交換公文によって事前協議の対象となっているので、その事前協議ではっきり「ノー」という。そういうことが考えられる。

 

 いうまでもなく、日本国憲法第九条は「武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とうたっている。万が一、中国が台湾に武力侵攻しても絶対に日本は参戦してはならない。米国が参戦することもなんとしても止めなければならない。冷たいかもしれないが、絶対に台湾有事にかかわらない。それが南西諸島をふたたび戦禍の犠牲にしないというわれわれの誓いだと思う。

 

【動画】シンポジウム「台湾有事・日米共同作戦計画の正体~メディアはどう闘うか」

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