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「ゲノム編集食品は未来の食卓をどう変えるのか」 食政策センターVision21・安田節子氏の講演より

 ゲノム編集魚を考える市民集会in京都(9月23日開催)で、食政策センターVision21主宰の安田節子氏が「ゲノム編集食品は未来の食卓をどう変えるのか」と題して基調講演をおこなった。「気候変動や食料危機に対応する」「環境に優しい」「動物を殺さない」といったうたい文句で推進されているゲノム編集などのフードテック技術がはらむ技術的な問題点とともに、それが食料生産を独占しようとする多国籍企業などの戦略のもとでおこなわれていること、日本がアメリカの意向に従って、世界で最初のモルモットにされようとしていることを指摘した。講演の要旨を紹介する(文責・本紙編集部)。

 

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安田節子氏

 今から30年足らず前、人が初めて口にする遺伝子組み換え食品がアメリカから世界へ一斉に輸出された。遺伝子組み換えは種の壁をこえて他の生物の遺伝子を入れ込むことで、自然界では生まれない、これまで存在したことのないものを生み出した。

 

 今日、遺伝子組み換えの第2世代といわれるゲノム編集食品が登場した。ゲノム編集は特定の遺伝子に狙いを定めて破壊し、これまでにない性質のものをつくり出す。「ゲノム」とはDNA(4種類の塩基が糸状になった2本鎖)の総体を指す。そしてDNAの中でタンパク質の設計情報が記録された領域を「遺伝子」と呼ぶ。遺伝子はDNA全体の2%ほどしかなく、DNAの中に散らばって存在している。大事なことは、遺伝子によって必要なとき、必要な場所で、必要なタンパク質や酵素がつくられるということだ。出血すると血が出てきて固まり、止まる。このとき傷口にある細胞の遺伝子が働いて血小板を結集させて凝固因子が働く。そして血が止まればその作用は止まる。このようなメカニズムだ。

 

クリスパーキャス9 予期せぬ変異続々報告

 

 ゲノム編集技術の主流はCRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)だ。これは非常に速度が速く、正確に狙ったところを破壊できる。だが、最近になってCRISPR-Cas9で予期せぬ変異が起きることが、アメリカやイギリスなどの研究機関から次々と報告されるようになった。米国コロンビア大学や英国ウエルカムサンガー研究所などが、標的以外でたくさんのDNAの塩基配列が消えたり、移動するなど、大規模なゲノムの削除と挿入が起きたと報告している。研究者たちは「編集された遺伝子を徹底して調べるべきだ」と警鐘を鳴らしている。

 

 2021年には科学雑誌『ネイチャー』に、標的の場所を狙って破壊した後も、その遺伝子に壊滅的な変異、解決が困難な破壊が起こったことが掲載された。今年6月にイスラエルのワイツマン科学研究所が発表したものでは、トマトなどの作物を使った研究で、CRISPR-Casをもちいてゲノムを切断すると、ゲノムに数百の遺伝的変化が同時に起こり、多くの部分が入れかわったり、組み変わったり、消失したりする現象が発生した。ゲノム編集が頻繁に、意図しない遺伝子改変をひき起こし、ゲノムの大部分に影響を与えていることを示した。それは栄養価に影響を与えたり、新たな毒素やアレルゲンを生成する可能性があることを意味する。今その解決は困難であり、応用化するうえで大きな欠陥があることがわかった。

 

 また、標的以外の場所の遺伝子を破壊する「オフ・ターゲット」は避けられないという決定的な欠陥がある。標的以外の遺伝子の切断で、その遺伝子がつくろうとしていたタンパク質がつくれなくなる、あるいは遺伝子の機能を停止させる働きが破壊される――たとえば発がん抑制遺伝子が破壊されると、がんになる可能性がある――という問題を抱えている。

 

 動物(魚)の場合、受精卵のゲノム編集でリスクがあることがわかった。受精卵は一つの細胞が分割していって、胎児になるが、分割した細胞一つ一つにゲノム編集した細胞と、通常の細胞が入り乱れる「モザイク」という状況になる。その受精卵から生まれた場合、どのような障害を抱えているかわからないという技術的欠陥がある。

 

 2023年6月、欧州ヒト生殖発生学会年次総会でオックスフォード大学は、分割を始めたヒトの受精卵にCRISPR-Cas9を使用すると、DNAの損傷を修復できないことが多く、DNA鎖は永久に切断され、胚にさらなる遺伝子異常をひき起こすことがわかったと発表した。ロンドン大学の分子遺伝学者マイケル・アントニオ博士は「胚のゲノム編集は無人ドローンによる戦争のようなものだ。ミサイルで狙って一見成功したようにできるが、大規模な巻き添え被害を引き起こす」と指摘している。

 

GABA高蓄トマト等 応用化に独走する日本

 

 技術の欠陥が明らかとされるなか、日本は応用化に独走しており、GABA高蓄トマト(2種)、肉厚マダイ、成長の早いトラフグの3種類がすでに応用化されている。

 

ゲノム編集のギャバ高蓄積トマト「シシリアンルージュハイギャバ」(サナテックシード社HPより)

 GABA高蓄トマトは筑波大学発ベンチャーのサナテックシード社が開発した。GABAはもともと作物が持っているもので、トマトのGABAは花粉管が伸びるのを誘導する働きや、病気の菌や害虫が来たときに増産して撃退する働きがある。必要なときに、必要な場所で、必要な量を産出するよう遺伝子が制御している。高GABAトマトは、トマトにとって不必要な量を常時産出する奇形トマトだ。

 

 ゲノム編集魚を開発しているのは京都大・近畿大発のリージョナルフィッシュ社だ。同社はホームページで、地球温暖化やタンパク質クライシス(人口増加や肉食増加によってタンパク質が行き渡らなくなる問題)をはじめとする食料問題、衰退する日本の水産業の課題を解決する技術だと紹介している。確かに、日本の水産業はピーク時から3分の1の生産量に落ち込んでいる。しかし、ゲノム編集魚が問題を解決できるのか考える必要がある。リージョナル社は、スマート陸上養殖、最新テクノロジーで水産業をハイテク産業にする構想を描いている。

 

ゲノム編集の問題点 マダイとトラフグでは

 

ゲノム編集により通常よりも1・5倍肉厚になったマダイ

上段がゲノム編集トラフグ。食欲抑制ホルモン(レプチン)受容体遺伝子を破壊しているため、通常の2倍の速度で成長する

 ゲノム編集のマッスルマダイは筋肉の生産を抑制する遺伝子を破壊してつくる。筋肉をつくるだけの遺伝子が働くので、どんどん細胞分裂して肉ができ、通常の1・5倍の肉厚になるというものだ。ところがこのタイは長さが短い。椎骨の位置も変わり、骨格異常がある。食用部分の組成の変化も起こっているはずだ。肉がたくさんできるということは細胞分裂を促すので、成長ホルモンが過剰に出ているということで、それはがんを誘発する可能性もある。

 

 成長の早いトラフグは、食欲を抑制するホルモン「レプチン」の受容体遺伝子を破壊する。満腹感が失われるためひたすら食べ続け、超肥満になるというものだ。ゼブラフィッシュのレプチン遺伝子破壊実験では、脳の働きや生殖行動、免疫反応などに異常があらわれたほか、ゲノム編集トラフグは病気になりやすいという問題も持っている。そして体に脂肪をためるので、脂肪の多い変質した食品になる可能性もある。

 

 魚で初の遺伝子組み換えであるGMサーモンは今年2月、アクアバウンティー社がカナダでの生産を中止し、従来の魚の生産に切り替えると発表した。大量のGMサーモンが死んだのだ。GMサーモンは、もともと夏しか成長しないサーモンを、年中成長ホルモンが出るよう遺伝子操作し、通常3年かかるところを1年半で出荷サイズまで成長するようにしたものだ。しかし、短期間に巨大化するため、その成長に内臓が耐えきれず、胃の破裂など臓器異常で3分の1が死んでしまったと報道されている。アクアバウンティー社の売上は六割近く減少し、株価は暴落した。

 

 生命体には「作用」と「反作用」が備わっており、バランスをとるようコントロールされている。遺伝子は一つのタンパク質をつくるなど、固定されたものではなく、いくつもの遺伝子とネットワークしてフレキシブルに作用しあっている。相互に補いつつ、バランスのとれた発現を保つ存在だ。そこに人が介入してバランスを破壊すると、想定外の問題が起きる。たとえばアフリカで、収量が増える遺伝子組み換えイネをつくると耐病性が弱まった。アメリカでつくられた除草剤耐性を持つ遺伝子組み換え大豆は、除草剤への耐性は獲得したが、突然死症候群が蔓延している。

 

 遺伝子調節プロセスをいじくり回しているからといって、そのシステムの複雑さを理解しているわけではない。生命の根源である遺伝子を人が操作することは神の領域に手を突っ込むことで、人はその結果を制御できない。

 

バイテク産業の戦略 表示と安全性評価拒否

 

 ゲノム編集を推進するバイテク産業界の企業戦略は「遺伝子組み換えの轍を踏むな」というものだ。遺伝子組み換えが消費者の受け入れに失敗したのは、表示と安全性評価が義務づけられ、消費者メリットがなかったからだ。これを踏まえ、ゲノム編集食品は、表示させない、安全性評価をさせない、消費者メリットをアピールできる開発をするという3つの戦略を持っている。

 

 安全審査不要の理由として、「遺伝子欠損は自然界の突然変異と同じだから」と主張している。だが、自然界で突然変異はめったに起きない。DNAが紫外線を浴びているうちに2本鎖の1本が切れることがあるが、生命体は必ず修復するメカニズムを持っている。何度も何度も修復をくり返すうちに、ごくまれに修復ミスが起き、それが突然変異となるが、10万分の1~100万分の一という確率だ。ゲノム編集は自然では起こり得ない頻度で、似通った多数の遺伝子に、同時に変異をひき起こす。

 

 また、自然の突然変異は、非構造遺伝子(遺伝情報がない部分)で起きることがあるが、遺伝情報がコードされている構造遺伝子ではとくによく保護されていて突然変異は起きにくい。ところが、ゲノム編集では構造遺伝子を破壊し、自然には滅多に生じない変異をもたらす。自然界に筋肉もりもりの魚や食欲の抑制が効かないぶくぶく太った魚はいない。成長が止まったミニブタ、メスにしかならない卵を産むニワトリなどを開発しようとしている。自然の突然変異と同じではないとはっきりといえる。

 

 そして表示がされない。アレルギーや想定外の物質による健康被害が出ても、表示がないので不明のままになり、企業は責任をとらない。知らずにゲノム編集作物が栽培されて花粉が飛べば、とくに有機栽培の場合、花粉の交雑で知らないうちにゲノム編集作物を育ててしまう。食品生産者も知らずにそれを使い、消費者は知らないうちに口にするといったことが起きる。これは選択の自由の保障の侵害であり、表示をさせないのは大きな問題だ。

 

 遺伝子組み換えの歴史は30年足らずと浅い。ゲノム編集は10年足らずでリスクはまだ定まっていない。動物に食べさせての安全性評価はされていない。そして、いまだ統一された評価方法もない。自分たちでDNAの配列を調べ、「オフターゲットは起きていなかった」というのを政府が鵜呑みにして受理している。これでは安全性評価になっていない。

 

アメリカの戦略 生物特許による支配

 

 アメリカがバイオテクノロジーにこれほど力を入れるのは、生物特許が認められたからだ。本来、自然物に特許は認められなかった。自然物を人間が最初からつくれるはずはないからだ。しかし、アメリカで遺伝子組み換え微生物の特許申請がおこなわれ、最高裁の特許庁で一票差で通ってしまった。そこから生物特許の扉が開かれ、農薬メーカーだったモンサントなどがバイオテクノロジー企業を片っ端から買収してバイテク企業になり、種子企業も買収して、今や彼らが世界の種子産業を牛耳っている。その根拠になるのが生物特許だ。

 

 そして、ゲノム編集にしろ遺伝子組み換えにしろ、基本特許を握るのはコルテバ(ダウ/デュポン)とバイエル/モンサントなどの企業だ。CRISPR-Cas9などのツールと、派生した動植物を使用するプロセスはすべて特許が取得されている。決して日本の産業を育成するものにはならない。

 

 ゲノム編集の開発・応用化を促進しているのはアメリカだ。世界で初めての遺伝子組み換え作物が高オレイン酸大豆(2018年)だ。それからつくった油を商品化したが、消費者が買わず、市場から撤退した。2019年にはコルテバがもちトウモロコシをつくり、今年3月、日本は受理した。アメリカではゲノム編集の開発が目白押しだ。バイオテクノロジーが経済を牽引するという考えのもとに政府が強力にバックアップしている。だから規制していない。

 

 2018年にアメリカ農務省がゲノム編集作物の栽培を規制しない方針を発表すると、日本はただちに「統合イノベーション戦略」を閣議決定し、安倍元総理は「この(ゲノム編集)技術を成長戦略のど真ん中に位置づけ、大胆な政策を迅速かつ確実に実行に移して下さい」といい、それを受けて日本は「規制不要」「表示不要」を決定した【表参照】。

 

 そして日本人の受容を狙う既成事実化を推進している。ゲノム編集トマトの苗を家庭菜園用や福祉施設・学校に無償配布したり、通信販売をしている。青果のゲノム編集トマトは3㌔で7500円だ。7月に値下げしたが、それでも5000円する。苗は4本で8250円。こんな高いものを農家が使うだろうか? これらは売れなくてもよく、自由に流通できるようになったという既成事実を国産でつくり、マスコミが「ゲノム編集はすごい」と報道して日本人がゲノム編集に慣れていくと、アメリカで目白押しのゲノム編集作物が次々と入ってくるのではないだろうか。肉厚マダイ、高成長トラフグも同じだ。ゲノム編集をインプットし需要をつくろうとしていると思う。私たちはゲノム編集食品のモルモットになるのではないか。

 

 悲しいかな農水省は「次世代バイオ農業創造プロジェクト」で後押ししている。大学の独法化で研究者に稼げる研究をするようにさせ、大学発ベンチャー企業が国の後押しを受けて開発する構図だ。そして国をあげての推進に「みどりの食料システム戦略」がある。昨年7月に施行された「みどりの食料システム法」は、今までそっぽを向いていた国が有機農業を推進し、現在の面積を50倍にして化学農薬の使用を半減すると、とてもいいことをいっているが、それと抱き合わせであるかのようにゲノム編集で新しい日本の未来の農業を進めることをうたっている。

 

米国に追随する日本 偽肉、培養肉、昆虫食

 

 「みどりの食料システム戦略」は、アメリカの「農業イノベーションアジェンダ」とそっくりだ。

 

 「最先端テクノロジーを駆使して食料問題を解決する」といううたい文句だ。気候危機や食料不安の脅威への対応として正当化しているが、狙いはグローバル種子農薬企業やIT大手企業がもくろむ農業モデルをつくることだ。ゲノム編集などのバイテク食品やフードテックのなかには、偽肉、培養肉、昆虫食、陸上養殖、植物工場、AI搭載の機械で無人でできる農業経営などが例示されている。岸田首相は今年の通常国会で「日本発のフードテックビジネスを育成する」と発言。日本はフードテック投資が世界で大幅な遅れをとっており、国をあげたとりくみが必要だと力説した。

 

 アメリカでは偽肉(植物原料を使用した肉に似せた食べ物)が一時、すごい勢いで席巻した。インポッシブルフーズのパテは血肉の赤色を再現するために、遺伝子組み換え酵母からつくったヘム(赤色色素)をとり出して使用し、このパテに14件もの特許をとった。一時、アメリカのバーガーチェーンはこぞってこれを商品として売ったが、遺伝子組み換えの大豆と酵母を使っていることがわかってきて消費者が離れ、ビヨンドミートとインポッシブルフーズは株価が暴落して従業員を大量解雇した。ブルームバーグ紙は「偽肉業界の急速な盛衰、“大失敗”」と報じている。

 

 そして昆虫食だ。自然界の昆虫を採取して食べるのとは違い、工業的に養殖する昆虫食だ。2013年にFAOが、気候変動や人口増加による食料問題を解決する糸口として昆虫を食用や家畜の飼料にすることを推奨するといった。世界経済フォーラム(ダボス会議)も人間の食卓に昆虫を導入する必要性を提唱した。 

 

 日本政府は昆虫食に投資しており、日本の昆虫食企業の数はアメリカに次ぐ第2位だ。コオロギ、ミールワーム(ゴミムシダマシの幼虫)、カイコなど養殖が前提の昆虫類だ。EUは食用昆虫は「新食品」として審査する必要があるとしているが、日本はノーチェックだ。

 

 徳島大初のベンチャー企業グリラス社は、ゲノム編集で養殖しやすいサバを開発し、ゲノム編集のコオロギを商品化している。コオロギを巨大化し、繁殖力を強化し、アレルギー性を低減する、白いコオロギをつくるといっている。ヨーロッパの流れを見ると、食用として物珍しいうちは人々が食べるが、常時食卓に並ぶほど、みなが受け入れるとは思えない。一番の市場として有望なのは養殖魚のエサだ。今、魚粉が非常に高騰している。その代替品として昆虫の飼料を使うということだ。ゲノム編集昆虫を飼料とした、ゲノム編集の養殖魚が食卓に並ぶ事態が来るかもしれない。

 

 もう一つのフードテックは細胞培養肉だ。「動物を殺さない」などとされているが、技術革新による特許がらみで、企業による独占と畜産農家のいない食肉生産を志向したものだ。たとえば牛の体からごま粒ほどの細胞をとり、バイオリアクターという培養器の中に、家畜の胎児からとった血清などさまざまなものを入れた培養液を入れ、細胞を増殖する。シンガポールが世界で初めて培養鶏肉のチキンナゲットの販売を承認し、今年アメリカも認めた。しかし、この技術はものすごいエネルギーを使い、莫大なランニングコストもかかったうえ、問題のある廃棄物を大量に発生させて環境への影響が生じることがわかった。今年3月にイタリアが培養肉の製造と販売の禁止を決定した。

 

 大規模工業的畜産によって森林を伐採して牧地を確保する、飼料確保のためアマゾンを伐採して遺伝子組み換えトウモロコシや大豆を栽培するなど、環境を破壊し、家畜の幸福を傷つける飼い方をしてきたことこそ改める必要がある。アニマルウエルフェアや環境保全的農畜産に向かうべきであり、培養肉の方向は間違っていると思う。

 

 もう一つ、精密発酵がある。ゲノム編集や遺伝子組み換え微生物を利用したものだ。微生物につくりたい成分の遺伝子を導入して発酵させると、微生物が小さな工場となって特定のタンパク質をつくる。アメリカでは精密発酵でつくった乳タンパク質による偽母乳やアイスクリーム、クリームチーズなどができており、ゲノム編集した酵母でつくった香りや風味物質をクラフトビール向けに販売している。筑波大学ではゲノム編集した麹菌を使った精密発酵で代替肉を開発中だ。

 

 微生物を改造してさまざまな物質をつくることには潜在的なリスクがある。1989年には昭和電工がつくったL-トリプトファンによる大きな食品公害で38人が亡くなり、1500人に被害が出た。0・1%想定外の物質ができていて、好酸球増加筋肉痛症候群をひき起こしたのだ。遺伝子操作された微生物の想定外の振る舞いはチェックできない。

 

 「代替タンパク質」は、食品の新たな工業化だと思う。代替タンパク質が栄養失調や飢餓に苦しむ人の食卓に登場して飢餓を救済するだろうか? あり得ない。バイテク利用の食料生産は、バイテク技術を企業に依存する。農家、消費者もなく、あるのは大企業とその先端技術だ。企業の特許による独占と生産者のいない工業的生産を志向する。世界の食料生産の90%以上は小規模農家、小規模零細漁業が担っている。環境を守り、再生産可能な地域自給の生業を守ることこそが私たちの食料安全保障ではないだろうか。

 

 制御できない技術によるものを食べ物としてはいけない。人が初めて口にする食品なのに、安全確認がまともにされず、人体への長期的な影響が調べられていない。想定外の物質生成の可能性を無視している。自然界に拡散したり、在来種と交雑してしまえば生物多様性を損なうことになる。そして、生命の根源である遺伝子を操作するという倫理的な問題を無視している。

 

 ゲノム編集は予防原則に立って禁止すべきだ。2023年8月、ハンガリーは予防原則に立ってゲノム編集作物を規制し、GMOフリーの立場を堅持すると発表した。私たちもそれに続きたい。自治体条例でゲノム編集など遺伝子操作食品の生産・流通・販売の禁止・表示義務化を求めよう。私たちはゲノム編集のモルモットにはならない。「買わない! 食べない! 生産させない!」を合い言葉に活動を広げて行きたい。

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