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「食料国産率」に要注意 昨年導入した新指標のまやかし

 TPP11協定、日欧EPA、日米FTAとあいついで大型貿易協定が発効し、40%を切る日本の食料自給率のさらなる低下が危惧されるなか、日本政府は昨年策定した「食料・農業・農村基本計画」で、「食料国産率」という新たな食料自給率目標を導入した。畜産物の輸入飼料分を反映しないこの指標は高い数値が出ることから、「ごまかし」との指摘もあいついでいる。新型コロナウイルスの感染が世界規模で拡大し、食料の輸出を規制する国が出るなど、食料自給体制の確立がますます重要になるなか、こうした数値を冷静に見極めることが必要になっている。

 

 「食料自給率」といったとき、カロリーベースと生産額ベースの二つにわかれる。2019(令和元)年度のカロリーベースの食料自給率は38%であるのに対して、生産額ベースの自給率は66%とかなり高い。ただ、国民が必要とする食料を供給することができるのか、という視点で見たときに重要なのはカロリーベースの自給率だ。生産額ベースの自給率はブランド化などで高額な農産物が増えると押し上げられるので、いくら数値が高くても、輸入が停止したり凶作だったりといった緊急時には食料不足になるからだ。日本では直近10年のカロリーベースの食料自給率は高い年で39%、低い年で37%と、4割を切った状態が続いている。

 

 昨年策定された「食料・農業・農村基本計画」では、この二つの食料自給率を2030(令和12)年度までにカロリーベースで45%、生産額ベースで75%まで引き上げる目標を設定している。

 

 このさい新たに導入された「食料国産率」は、畜産物を対象にしている。日本の飼料の自給率はわずか25%で、牛肉や豚肉をはじめとする畜産物はそのほとんどが輸入飼料で飼育している。「食料国産率」はこの輸入飼料分を加味せずに計算する方法で、その分「自給率」に対して高い数値がはじき出される。

 

「自給率」との大きな差

 

 カロリーベース食料自給率→カロリーベース食料国産率(いずれも2019年度)を比較すると、
総合… 38%→47%
畜産物…15%→62%
牛肉… 11%→42%
豚肉…  6%→49%
鶏卵… 12%→96%
 となる。もっとも差の大きい鶏卵の場合、輸入飼料を計算に入れる「自給率」では12%だが、「国産率」に換算すると96%と、84ポイントも跳ね上がる。「食料国産率」の導入が、自給率の水増しといわれるゆえんだ。「食料国産率」のみを見て、「日本はそこそこ自給できている」と判断することは危険きわまりないといえる。一方で、この差から日本がいかに飼料を輸入に依存しているかという実態を把握することができるという見方もある。鶏卵の場合、国内の養鶏農家が100%に近い量を生産している一方、飼料の輸入が止まれば生産がストップするという危機的状態にあることを意味しており、飼料の自給率向上を目指さなければ本当の意味での食料自給にはならないことが浮き彫りになる。

 

 東京大学の鈴木宣弘教授は、双方の数値を見ながら飼料も含めたカロリーベースの自給率向上を目指す必要性を指摘している。同教授は野菜の場合も「自給率80%」とされているが、種子の9割が海外で生産されていることを勘案するとわずか8%にすぎないことを指摘しており、食料安全保障を考えるうえで、飼料や種子は重要な要素であると提起している。

 

 「国産率〇〇%」という一つの数値にごまかされることなく、その数値が意味するものを見極め、飼料や種子も含めた食料自給率の向上に向け議論を深めることが求められている。

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