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酪農家の窮地を国は救え! 放置すれば4割廃業の危機 血の通った財政出動を

搾乳作業をする酪農家(山口県)

 長引くコロナ禍による物流停滞、国際情勢の悪化による穀物や飼料価格の高騰、円安などの複合的な要因と、食料自給を放棄して輸入依存を深めてきた農政の帰結として、国内農業がかつてない危機に瀕している。特に酪農分野では、乏しい国家支援のもとで酪農家の9割が経営難に直面し、4割が年内に廃業するという予測も流れるほど厳しい状況に追い込まれており、多くの農家が歯を食いしばって生産に従事している。農家の自助努力に委ねて危機を放置することは、農家の首を絞めるだけでなく、世界最低レベルの食料自給率(37%)をさらに押し下げることに繋がり、国民に安心・安全な食を供給することを不可能にし、食料安全保障を崩壊させることになる。国家戦略として一刻も早く国内農業の保護へと大胆に舵を切ることが求められている。

 

餌代2倍、肥料代2倍、燃料3割高…

 

 現在、全国の酪農家が「毎月の赤字が大きすぎる」「限界が近づいている」「蓄えを切り崩して耐え忍んでいるが、年末までもつかどうかだ……」と切迫した窮状を訴えている。一昨年に比べて、肥料2倍、飼料2倍、燃料3割高といわれるコスト高が襲いかかり、追い打ちを掛けるように子牛価格が暴落するなど現場の苦境は増しているが、肝心の政府による支援の動きは鈍く、現場からは「手遅れになる前に酪農家が生き延びられる応急処置を急げ」という切実な声が強まっている。

 

 酪農の苦境は、急に始まったことではない。畳みかける農畜産物の輸入自由化やコスト高のもとで、全国の酪農家戸数は1963(昭和38)年の41万8000戸をピークに減少の一途をたどり、現在は1万3300戸と、58年前の30分の1にまで減少している【グラフ①】。国として立て直さなければ後がないことは早くからわかっていたにもかかわらず、逆にとどめを刺すかのような危機に立たされているのだ。

 

 牛乳乳製品の国内自給率は、2021年時点で63%(重量ベース)だが、生産者の努力によって飲料用の牛乳は常に100%が維持されてきた。チーズやバターなどの乳製品の輸入が増えているものの、鮮度を保ったまま長距離輸送することが難しい飲用乳は、かろうじて海外勢と競合してこなかった。

 

 だが2000年に850万㌧だった「生乳」(搾乳したままの牛乳)の生産量は、リーマン・ショックにともなう資源価格の高騰で多くの酪農家が廃業に追い込まれた2008年(平成の酪農危機)に800万㌧を切り、2019年度には731万㌧にまで減少した。

 

 その後、北海道を中心に農家の生産基盤が拡大・強化され、ようやく生産量が上向きかけた矢先、2020年からはコロナ禍に突入。学校給食の休止や飲食店の休業、さらに業務用の牛乳・乳製品の需要が大幅に減少したことにより、乳製品(主に脱脂粉乳)の在庫が山積みになり、それが長期化したことで工場で処理が不可能な生乳が発生する事態にもなった。

 

 その危機を乗り切ったところで襲ってきたのが、今年から急激に拍車がかかった飼料価格の高騰だ。もともと飼料の6割を輸入に依存(それを考慮すると牛乳乳製品の自給率は26%)していたところに、ウクライナ危機、中国など新興国の需要増、海上運賃の高騰、極端な円安などの国際情勢を引き金にした価格高騰が襲った。

 

 酪農にとって飼料費は、生産コストの5割を占める。とくに乳牛は体質がデリケートなため、酪農家は常に牛の健康状態に注意を払いながら、草や乾牧草、サイレージなど繊維質を多く含む「粗飼料」、トウモロコシや大麦などの穀類、米ぬかやふすまなどの糟糠類などの「濃厚飼料」(配合飼料)の2種類をバランスよく組み合わせて与えなければならない。

 

 日本は配合飼料の89%を米国、豪州、ブラジルなどからの輸入穀物に頼っており、この配合飼料価格は2020年度に1㌧=6万5000円程度だったものが、今年8月には1㌧=10万円へと約1・7倍に高騰している【グラフ②】。

 

 価格変動による農家の負担を緩和するため、基金で補填する「配合飼料価格安定制度」があるものの、その補填額は直近1年間の平均価格を上回った差額によって決まるため、長期にわたって高止まりが続く現状では効果は薄い。9月時点の配合飼料価格(農家購入価格)は1㌧当り10万500円だが、同制度による補填額は1㌧当り1万6800円にすぎない。そのため国は9月、「配合飼料高騰緊急特別対策」として、生産コストの削減にとりくむ生産者を対象に補助金を交付することを決めたが、1㌧当りの交付額は6750円だ(来年2月に交付)。

 

 一方、粗飼料の76%は国産だが、牧草自給率が高い北海道を除き、本州では畜産農家の多くが輸入飼料に頼っている。そのうち乾牧草は、米国、豪州、カナダから輸入しており、この価格も前年比1・6倍以上にまで高騰している【グラフ③】。

 

 牧草の高騰に対しては価格安定制度のような生産者負担を軽減する措置がないため、農家経営への打撃はよりダイレクトだ。

 

 下関市内の酪農家は、「特に6月から飼料の値上がりが尋常ではない。必要な量の飼料が入ってこなくなり、輸送費が跳ね上がった。私の牧場では、九州からビール粕や醤油粕などを混ぜた濃厚飼料を買っているが、これも値上がりし始めた。牧草は半分自給して半分購入しているが、費用は前年比1・5倍だ。乾牧草は中国が大量に買うため、日本に入ってこなくなっている。ただでさえ夏場は牛がバテて乳量が落ちる。それでもエサの量を減らすわけにはいかず、収入が少ないうえにエサ代は2倍というダブルパンチだ。経営はマイナスで、貯金があるうちは切り崩して凌ぐが、蓄えが底を突けば終わり。先が見えない綱渡り状態だ」と実情を語る。

 

 別の酪農家も「6月以降、飼料代は概ね2倍、種類によっては3倍になったものもあり、計算するのも嫌になるくらいの赤字だ。生命保険を解約して必要経費の支払いに充てている。毎月200万、300万円の赤字という農家もいる。出荷した乳の収入はすべて飼料代の支払いに消え、生活費どころか他の経費や人件費が払えない。畜産は生き物相手だから、赤字だからといってスイッチを止めて休業するわけにはいかない。毎日決まった量のエサを与え、搾乳も毎日しなければ牛は病気になってしまう。ランニングコストを節約できないのだ。緊急時なので組合でも融資制度をもうけるという話もあるが、身内以外の保証人が必要なので借金も簡単にはできない。高齢者はいまから借金をしても返せないので廃業を選択する人が増えるのではないか。60歳以上が半数を占めるこの地域では酪農がなくなってしまう。一度牛を手放してしまえば、また一から種付けをして、まともに牛乳が出荷できるようになるまでに6年かかる。一度やめてしまうと立ち上がることが難しいのが酪農だ。酪農家がいなくなれば地元の新鮮な牛乳は飲めなくなり、いずれは海外から入ってくるまずいLL(ロングライフ)牛乳(常温で40日間保存できるが超高温で加熱殺菌処理をするため成分が失われる)しか店頭に並ばなくなるのではないか」と憤りを込めて語った。

 

 全国的に見ても、100頭以上飼養している大規模酪農家ほど赤字幅は大きい。一昨年までは牛1頭につき4万円程度だった飼料費がいきなり8万円に倍増すれば、単純計算で100頭なら400万円、200頭なら800万円の負担増となる。飼料だけでなく、牛の寝床に敷いて体を保護する敷料(おがくずや稲わら)も「ウッドショック」の影響を受けて高騰し、トラクターの燃料代、照明代、ボイラーのガス代などの燃料費も上がっており、「かつて誰も経験したことのない危機だ」と語られている。

 

買い控えで子牛が暴落 乳牛一頭が110円!?

 

 さらに追い打ちを掛けたのが、子牛価格の暴落だ。乳牛のホルスタインは、年に1度種付け(人工授精)をし、毎年1回子牛を出産させることで安定的に乳量を維持することができる。雌の子牛が生まれたら後継の乳牛として飼育するが、雄なら2カ月ほど育てて市場に出荷する。また乳牛と和牛を掛け合わせた交雑種(F1)や、和牛の受精卵を乳牛に移植して産ませる和牛など肉用子牛の販売は、酪農家が不安定な乳価を補完するための欠かせない収入源になってきた。

 

 ところが現在、子牛の買い手である肥育農家も飼料高騰で苦しんでいるため、子牛の確保数を抑えるようになり、とくにホルスタインや交雑種の市場価格は、全国的に前年比の半額以下に落ち込んでいる【グラフ④】。

 

 子牛を買って育てる肥育農家は、ホルスタインなら約14カ月、交雑種なら約17カ月、黒毛和種なら約20カ月ほど肥育して出荷する。現在出荷を迎えている牛は、子牛価格がまだ高かった2020年後半に導入した牛であり、コロナ禍からの値下がりから枝肉価格が回復してない現在は「高く買って安く売る」ことになる。そのため資金繰りが厳しさを増しているといわれる。肥育大手企業の倒産も影響した。

 

 北海道では、ホクレン北海道中央家畜市場でのホルスタインの平均価格が、1月の17万4900円だったところから、10月には7万3944円と半額以下に落ち込んだ。同じく根室地区家畜市場では、1月には5万9400円だったホルスタイン(メス)の平均価格が、10月には110円と「缶ジュース以下」の値段となった。

 

 北海道全体ではホルスタインの平均価格は1月の23万円台から、11月には7万円台へと3分の1以下に暴落しており、市場に出したものの引き取り手がなく薬殺に回される子牛も出ているという。全国的にも前年の半値以下となった市場がザラだ。

 

 下関市内の酪農家からも、「この辺りでは子牛を規模が大きい熊本市場まで運んで売るが、ホルスタインやF1は、前年比10万円くらい値下がりしている。通常は一頭15万円ほどするところが5万円台になり、最低価格は1000円だった。これでは運賃にもならない。子牛を育てるための粉ミルクも、通常は1万円程度が今は1万4000円ほどに値上がりしており、割に合わない」


 「苦労して育てた牛が110円では泣くに泣けない。それでも抱えるわけにはいかないから手放すしかない。肥育農家が潰れたら酪農家も潰れるという共存関係にあるのが畜産業だ。しかし、これまで乳価が生産コストに見合わないときには子牛の販売で赤字を埋め合わせてきただけに、これもダメになれば八方ふさがりだ」と苦しい実情が語られている。

 

生産費に見合わぬ乳価 価格転嫁できぬ農家

 

 酪農危機がようやく認知され始めた今年9月、乳業メーカーと指定団体(酪農協の地域組織)は、11月から飲料向けと発酵乳向けの乳価を1㌔当り10円値上げした。だが近年、生産資材が数倍に上昇するなかで乳価は据え置かれてきた【グラフ⑤】。この1年で生乳1㌔当りの生産コストは30円以上も値上がりしており、「10円程度の値上げでは焼け石に水だ」と語られる。

 

 酪農家が搾ったままの状態で出荷する生乳は、飲用乳を中心に乳製品の原料として使用されるが、その97%は各地の酪農協などを経て、全国9つのブロックごとに設立された「指定団体」(乳販連など)に集められ、そこから乳業メーカーに全量販売される仕組みとなっている。

 

 生乳は他の農産物のように貯蔵がきかない「生もの」であるため、鮮度を保つためには集荷配送を短時間でおこなったり、専門的な設備のもとで衛生管理や温度管理を徹底しなければならず、個人では難しいため協同組合の存在が不可欠となる。そして乳業メーカーとの価格交渉も、小さな単位では買い叩きにあうため、より大きな指定団体(各酪農協の集合体)を窓口にした「共同販売」をすることで大手に対して価格交渉力を持つことができるという仕組みだ。

 

 生乳の最も大きな比重を占めるのが飲用向けだが、飲用の需要がピークを迎える夏場には、牛は体力が落ちるため搾乳量(供給)が減り、逆に冬場は搾乳量は増えるが、飲用の需要は減るという需給のアンバランスがある。指定団体と乳業メーカーは、全量出荷を条件に、加工用と飲用の需給バランスを調整しながら価格を決めるというのが建前だ。

 

 近年は飲用が1㌔当り114円前後、加工用は35円ほど低い80円程度で取引されており、その価格差の一部を埋める措置として、政府は1㌔当り10円程度の「加工原料乳生産者補給金」(固定支払い)を拠出している。指定団体はこれを生乳の販売収益に加えた形でプールし、輸送費などの経費を差し引いた金額を酪農家に支払っている。

 

 だが、実際の力関係は、メーカーと酪農家は9対1、さらにスーパーとメーカーは7対3といわれ、スーパーが「この値段では売れない」といえば、めぐりめぐって生産者にしわ寄せがくるシステムとなっている。近年は、コロナ禍でメーカーの乳製品の在庫が山積みとなっていることを理由に乳価は長く据え置かれ、農家はコストを価格に転嫁できず、原価割れ状態での出荷を余儀なくされてきた。

 

 それを逆利用して、政府は「生乳販売の自由化」を唱え、個々の酪農家が指定団体を通さずに卸売業者に販売できる「部分出荷(二股出荷)」を認めるよう規制緩和したが、需給を調整できずバランスが崩れるうえに、「共販体制」が崩れることで生産者の価格交渉力が弱まり、いずれ大手による買い叩きに繋がることが危惧されている。

 

 下関市内の酪農家の男性は、「酪農は消費のことまで考えてやらなければいけない独特な産業。いつも社会的要因や政治に振り回され、増産といったかと思えば次は減産。規模拡大しろといったかと思えば縮小しろといわれ、踏んだり蹴ったりだ。山口県では農家が酪農協を通じて出荷した生乳は、中販連を通じてメーカーが全量買いとるが、生産コストとは関係なく、そのときの需要に応じて“売れる価格”が設定される。逆に飼料代が下がったり、子牛の価格が上がって副収入が増えたら、その分乳価は下げられる。会社員でいえば、ボーナスが増えた分、給料が減るようなものだ。メーカーとしても在庫を抱えたくないというのはわかるが、生産者が浮かばれないからどんどん廃業していく。今は農協から振り込まれるはずの乳代が、飼料などの経費を差し引くとゼロどころかマイナスという現状もある。本来ならば国が在庫を買いとって海外支援に回すなどして需給調整したり、経費と乳価の差額分を補填するなどの所得補償が必要なのにそういう発想がない。在庫があり余っているのなら“牛を殺せ”というのが政府だ」と話した。

 

 また別の農家は「生産者として思うのは、いかに牛乳の消費を増やしていくかだ。少子化で牛乳の消費量が落ちているなかで、組合もメーカーも苦しい。安すぎるのも問題だが、牛乳が高級品になって気軽に飲めなくなるのも困る。どんなに不景気でも適正価格で売ることには協力したいが、コロナ禍で酪農にはなんの支援策もなく、飼料は2倍に上がり、子牛もダメとなれば、どうやって生活していけばいいのか? と聞きたいくらいだ。まして海外製品との安売り競争に委ねられたら、私たちのような小規模酪農家は生き残れない」と問題意識を語った。

 

 畜産には肉用牛経営安定交付金制度=マルキン(牛・豚肉の生産費から市場価格を引いた赤字の9割を農家に補償する仕組み)があるが、酪農には「二重保護」などの理由で導入が認められていない。だが国からの酪農家への「補給金」は、加工用生乳1㌔当り10円程度で固定されており、実際の乳価とコストの変動にはまったく対応していない。安い乳価とコスト高によって廃業の危機にある国内酪農を守るためには、その不足分を国が補完することが必要不可欠だ。

 

効果薄い単発支援 生産抑制に動く国

 

スーパーで売られている牛乳はすべて国産だ

 だが現在、政府が進む方向は真逆だ。


 国やメーカーから「生産調整せよ」の圧がかかる中央酪農会議(指定団体で構成する全国機関)は、生乳需給対策として、今年10月~来年5月28日までの間に、低能力牛の早期淘汰(殺処分)をした農家に1頭当り5万円の奨励金を払うことを決定。対象は、30カ月~60か月の最も生産能力の高い月齢の牛だ。これにより全国7100頭の削減を目標にしている。奨励金の財源は、生産者からの拠出金でまかなうことになる。

 

 さらに岸田政府は8日、第二次補正予算措置における「酪農対策」として57億円の予算を付けた。その内容は、
 ①乳量が少ないなどの低能力牛を早期淘汰した場合につき、2023年9月までは1頭当り15万円の奨励金を交付する。別途、指定団体が5万円拠出する。2023年10月~24年3月までは1頭当り5万円を交付する【総額50億円】
 ②乳製品の過剰在庫低減のため、生産団体が乳業メーカーの在庫を一定期間保管するさい、必要経費の半額まで助成する【総額7億円】
 というものだ。月齢制限はしておらず、早期淘汰によって全国で4万頭の経産牛(出産を経験した牛)の削減を目指すとしており、全国の酪農家を唖然とさせている。

 

 「一頭殺せば20万円というが、小規模の酪農家にとっては牛を殺してしまえば出荷する乳がなくなってしまい、奨励金をもらったところでマイナスでしかない」

 

 「牛は誕生してから15カ月後に種付けし、その後10カ月の妊娠期間を経て出産し、そこから初めて乳牛として生乳生産がはじまる。産まれてから搾乳できるまで2年以上の長い歳月と労力がかかっている。数年前のバター危機や、“和牛ブーム”で国産牛価格が高騰したように、牛の頭数を減らして、今後コロナ後の需要回復で生乳が足らなくなってから慌てても遅い。増産、増産といっておきながら、苦労して培った生産力を目先三寸のその場しのぎで潰してしまうほど馬鹿げたことはない」

 

 「BSE問題のとき、同じように廃用牛の淘汰で1頭当り20万円の奨励金が交付されたが、そのときは枝肉が1㌔当り5円で買い叩かれた。それが店頭では100㌘当り300円、400円で売られるという始末だった。全国的に廃用牛が増えれば国産牛価格の低迷に拍車をかけ、畜産農家をさらに窮地に追い込むのではないか」

 など、生産現場では冷ややかに語られている。

 

 そもそも国はTPPに対応する国際競争力強化と称して畜産の大規模化や機械化を奨励し、農家に増産を促してきた。

 

 2008年の「平成の酪農危機」を受け、店頭からバターが消えた2014年からは生産基盤強化のため施設整備費や機械導入費の2分の1を国が補助する「畜産クラスター事業」を開始。自由貿易に備えた生産基盤強化の号令で、中規模農家は銀行からの借入を増やして設備投資し、牛の頭数を増やして大規模化を進めた。

 

 とくに全国の生乳生産量の6割を占める酪農王国・北海道では酪農家戸数は減ったが、反比例して一戸当りの飼養頭数は30年前の2・5倍(145・2頭)にまで増加。全国的にも一戸当りの平均飼養頭数は2021年には98・3頭(50年で30倍)と増えている。

 

 複数の酪農家が合同で法人化したり、数億円を投じて自動搾乳機などの機械化を進め、メガファーム、ギガファームなどの大規模農場がいくつも誕生した。そこに今度は「牛を削減せよ」の号令に現場は混乱し、コスト高騰への支援策も乏しいため、膨大な借金の資金繰りが行き詰まり、破産や廃業の連鎖が起きることが心配されている。

 

 農家支援ではない「牛処分」に50億円の予算を付ける一方、国の酪農に対する純粋な支援は極めて乏しい。

 

 先述の配合飼料価格安定制度による緊急支援も12月までの措置であり、来年の実施は未定だ。その他、国産粗飼料(牧草等)の利用拡大を進めるという名目で、その努力をした農家に対して、経産牛1頭当り1万円(北海道は7200円)を1回限り支給する。また、第二次補正予算では牛の処分を奨励しながら「畜産クラスター」による増産誘導に555億円を付けており、アクセルとブレーキを同時に踏むようなちぐはぐさも目立っている。

 

 山口県でみると、県は配合飼料価格安定制度に対する農家の積立金(1㌧当り600円)のうち半額の300円を補助。また配合飼料購入費の支援として、1㌧当り4300円を畜産農家に支払うとしている。

 

 下関市では、7月補正予算による措置で、経産牛1頭当り、酪農家に9000円。和牛生産・肥育農家には6000円を交付するとしている。

 

 いずれも一回限りや年内限りの短期の対処療法であり、先が見通せない深刻な危機にあってはあまりにも貧弱すぎる施策といえる。

 

 一方で国は、「コロナから製菓需要が回復した」として、2022年度のバターの輸入枠を従来の7600㌧に3割上積みした9788㌧に引き上げ、今年も生乳換算13万7000㌧もの乳製品輸入を「最低輸入義務」として受け入れている。

 

 各地の農家からは「政府は苦境をむしろ逆手にとって、いよいよ酪農を潰しにきたのではないか」と怒りをもって語られている。

 

 乳製品の在庫過剰は政府の増産誘導とコロナ禍による在庫増が主因であり、酪農家のせいでない。にもかかわらず、赤字で苦しむ酪農家の乳価を上げないばかりか、乳製品在庫処理の多額の負担金を酪農家に出させるという不条理までおこなわれている。

 

 コロナ禍で農畜産物は余っているのではなく、本来消費されるべきものが購買力低下による消費減退で行き場を失っているにすぎない。むしろ政府が積極的に増産を促し、作物を買い上げ、国内外の援助に活用するために財政出動すれば、消費者も助け、在庫も減り、食料危機にも備えられることは、諸外国ですでに実証済みの常識である。

 

 酪農が壊滅すれば、国内農業の一角が崩れ、その影響は他の農産物や関連産業にも広がり、地方では地域コミュニティの存亡にも繋がる。なによりも食料安保の基幹が揺らぐことを意味しており、一刻も早く真水を注ぎ、酪農を危機から救い出す施策が求められている。

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