いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

世界中に広がるオーガニックの波 子どもたちの給食を有機食材にする全国集会

 「世界中に広がるオーガニックの波 子どもたちの給食を有機食材にする全国集会 世田谷から考えよう学校給食」が25日、東京都港区の八芳園を会場に開かれた。世田谷区の学校給食を有機無農薬食材にする会と、子どもたちの給食を有機食材にする全国協議会準備委員会の共催で開かれ、オンラインでも公開され全国各地で多数の人が視聴した。オーガニック農法(有機農業)とは農薬や化学肥料、除草剤を使わずに自然本来の力を活かしながら作物を育てる農法のことで、現在、日本の農地の有機農地の割合は0・5%だといわれる。そのなかで今各地の自治体が地域の自然を守り、食料生産を守り、生産者の経営を保障し、子どもたちや市民の命と健康を守るという長期的戦略と未来への展望を持って、学校給食を有機食材にする動きが徐々に広がっている。全国集会は7時間におよび、全国各地で有機農業や自然農法にとりくむ生産者、有機食材を学校給食にとり入れている自治体関係者、また食の安全、安心を求めて地域で運動する市民や母親たちが集い、互いの思いや活動を共有すると同時に、これまでバラバラにとりくまれてきた運動を緩やかにつなぎ、志を共有しながらこの運動を全国に広げていくスタートとなった。共催団体の世田谷区の学校給食を有機無農薬食材にする会は、昨年、女性たちを中心に結成され、現在、学校給食を有機食材にするための条例制定を求める署名運動を始めており、今回集会の司会運営などをおこなった。

 

 集会のはじめに元農林水産大臣の山田正彦氏が「世界中に広がるオーガニックの波」と題して講演した。昨年、学校給食に有機食材を使用している韓国を訪問し、国をあげて給食の無償化とオーガニック化を進めていることを紹介した。そしてオーガニックの波が韓国だけでなくタイやブラジルなど世界に広がっているとのべ、これを契機に日本でも安全安心の有機食材を子どもたちの学校給食に届ける運動を全国に広げていこうと呼びかけた【別掲】。

 

 続いて世田谷区の保坂展人区長がオンラインで挨拶した。世田谷区では昨年10月から4人家族で年収760万円以下の世帯収入の区民に対して給食の無償化を実現したこと、今、区民のなかから学校給食のなかに有機食材をとり入れていく仕組みができないだろうかという声が湧き上がりつつあることをのべ、世田谷区全体で公立だけで4万9000人の小・中学校、90校の学校があるが、具体的に課題を乗りこえながらこの問題にとりくんでいきたいとのべた。

 

 その後、ジャーナリストの堤未果氏が「アメリカ発の給食ビジネスと狙われる日本の子供たち」と題して講演した。続いて、学校給食のコメの100%地元有機米を実現して全国的に注目されている千葉県いすみ市のとりくみについて、同市農林課職員の鮫田晋氏が報告した【別掲】。

 

 さらにいすみ市の有機米生産を軌道にのせるために技術や知識を伝授してきた稲葉光國氏(民間稲作研究所理事長)は、「こうすれば出来る! 持続可能な有機食材の供給」をテーマに語った。農薬や化学肥料などを使わず自然本来の力を活かす有機農業は難しいというイメージがあるが、稲葉氏は長年の経験と研究を経て確立してきた具体的な方法や技術、ノウハウについてのべた。「日本の子どもたちの尿検査をすると出てくる農薬成分はグリホサートだけでなく、ネオニコチノイド、フィプロニルが検出される。この二つの農薬はあまり人体に影響がないとして一般的に使われているものだが、長期残留、細胞浸透がすぐれており、実は安全な農薬ではない」と指摘。「全国で約1割の子どもたちが発達障害に悩んでいる危機的状況にある。国産農産物というだけでなく農薬を使わないことに踏み切らないと日本の子どもの安全は保てない。そのうえでも学校給食の有機化を進めるべきだ」とのべた。

 

 またすでに学校給食に有機食材をとり入れはじめている自治体を見ると、首長による強い意志と哲学が貫かれていることに触れ、自然との共生を進める有機農業は国際的にも意義があることであり、国が支えていくべきだとし、この運動を新しい時代をつくるスタートにしてほしいと語った。

 

 その他の報告として澤登早苗氏(恵泉女学園大学教授)が『人を育てる有機園芸』と題して、授業の一環として学生たちが種から作物を育てる有機農業をおこなっている様子を報告した。土や虫に触れ、汗を流して農作業をする経験が、生きること、食べることと真剣に向き合い、人間関係の構築や働くことの意味について身をもって学ぶ場になっている様子を教育的視点も踏まえてのべた。

 

環境や食は生命の源 全国のとりくみ報告

 

 一部の後半では『こどもたちの食の未来を見つけよう』をテーマにしたパネルディスカッションがおこなわれた。料理研究家の枝元なほみ氏をファシリテーターにして澤登早苗(恵泉女園大学教授)、横地洋(農林水産省職員)、前島由美(ゆめの森こども園代表)、中島恵理(環境省職員)、高木完治(一般財団法人・武蔵野市給食食育振興財団食育係長)の五氏がパネリストで登壇し、それぞれの立場から子どもの健康や食の安全安心を守るために何が必要なのかを語り合い深めた。

 

 第二部は「子どもたちの給食を有機食材にする全国意見交流会」がおこなわれた。長野県松川町からのビデオメッセージをはじめ、愛知県東郷町の学校給食センター長や石川県JAはくい職員・粟木政明氏、熊本県山都町の有機農産物の流通を販売を請け負う「(株)肥後やまと」の春木秀一氏(山都町有機農業協議会の給食部会長)らがオンラインで有機農業や自然農法のとりくみの現状を報告した。地域によって自治体を主体にした動き、またJAが呼びかけた動きなどきっかけはさまざまだが、安心安全な食材を子どもたちに提供するために、美しい自然環境を未来に残していくために、地元の人々の意識を変え、経済的な課題なども乗りこえながら進めてきた実践的とりくみを発表した。

 

 さらに、全国各地で学校給食を安全なものにかえるために立ち上げた団体を代表して、熊本の「くまもとのタネと食を守る会」の國本聡子氏と広島のフーズフォーチルドレン広島代表の若林千鶴氏が報告した。國本氏は、学校給食に外国産小麦を使うことを止めるプロジェクトを立ち上げた運動を報告。幼い子どもを育てる母親でもある若林氏は、学校給食を有機食材にしたいと思い当初一人で署名運動を始めると、次々と仲間が増えていき思いもよらないスピードで署名が広がった経験をのべ、「声を上げていなければ知り合っていなかった人々と出会った。思いだけで始めた行動が、今はより効果的に多くの声を届けて実現させていく運動へと進化している。環境や食は生命の源であり、専門家しか声を上げてはいけない問題ではない。誰もが関係することであり、母の愛と笑顔の活動を持ってこれからも頑張りたい」と報告した。

 

 最後に日本の種子(たね)を守る会アドバイザーの印鑰智哉氏が「全国協議会設立の呼びかけ」として、「今日のこの日は出発点だ。日本の子どもたちの健康は非常事態宣言というべき状況がある。子どもだけではない。あと30年後にはハチがいなくなり、土壌もダメになるといわれている。それに気づいて世界で有機農業、自然栽培、生態系や健康を守る動きが広がっている。今すぐ行動すればシナリオは大きく変わる。今日出会った人たちが連絡を取り合い、互いを励まし合い、地域の多様なとりくみを参考にしながら、国や農水省、文科省、厚労省を変えていくために力を合わせて緩やかに繋がりあいましょう。今後も続けましょう」と訴えた。

 

 最後に山田正彦氏が登壇し「今日は日本の学校給食を有機食材にしていく始まりの記念すべき日。学校給食の有機食材化とともに学校給食の無償化もすでに始めている自治体がある。今日をもってみなさんが情報をとり合いながら新しくスタートしたい」とのべ閉会した。

 

以下、集会での発言・講演要旨

 

◇ 世界中に広がるオーガニックの波

             元農水大臣 山田正彦

 

 私は昨年韓国に行った。韓国は日本の20倍ほどの有機農家が頑張っており、その農家を1軒ずつたずねて回った。農家の人たちの出荷先はほとんどが学校給食だった。韓国の500人規模の学校にも給食を見に行った。給食調理はすべて自校方式でやっており有機食材を使った立派な給食だった。学校給食の主食はコメで、パンは出さず、うどんは国産小麦を使っているという。その学校でアレルギーの子どもは500人のうち7人ということだった。ちなみに日本では同規模校でアレルギーの子が40人ぐらいはいるそうだ。その後、韓国の農水省に行き、学校給食を有機食材にしたり無償にするという法律があるのかと尋ねた。すると、法律ではないが憲法上、韓国では教育の義務と同時に無償化を謳っており、学校給食は教育であり国が責任を持って無償でやることだという説明だった。そして各市町村が条例で「学校給食を有機食材にする」ことを決めているという。さらに妊婦のみなさんにも有機食材を届けており、今年だけで8万人の妊婦にオーガニック食材を届けたそうだ。台湾もブラジルもそのような動きになっている。今、子どもたちのためにオーガニック食材を提供しようというのは世界の流れになってきている。

 

 一方で日本の学校給食のパンからグリホサートが出ている。除草剤ラウンドアップの主成分であるグリホサートは、植物がアミノ酸をつくるシキミ酸経路を壊すので、植物はみんな枯れる。ベトナム戦争の枯れ葉剤と同じような働きをすると考えていい。グリホサートの影響を考えて世界33カ国がラウンドアップを禁止、制限している。個人使用を自由にしているところはなく、日本だけが野放しだ。

 

 アメリカ産、カナダ産、オーストラリア産の小麦粉を調べたらグリホサートが入っており農水省も調べている。その小麦が学校給食のパンにも使われており、グリホサートが入っていなかったのは国産小麦を使っているパンだけだった。グリホサートの人体への影響は切迫流産やガンだけでなく、ネズミの実験でわかったのだが、一番怖いのは孫、ひ孫の世代に異常なネズミがたくさん出るということだ。私たちが食べているパンやパスタからグリホサートが出ている状況をなんとかしなければならない。今、日本の子どもたちのなかでアトピー、アレルギー、発達障害児が異常なほど増えている。これは私たち大人に責任があるのではないか。この現状を知って、日本でもこれを契機に安全、安心なものを給食に提供する運動を広げていくことはとても大事なことだと思う。

 

 学校給食で有機食材をやろうとすると、いわゆる利権や既得権益があり諦めの声もある。だが千葉県いすみ市では、学校給食をコメだけでも有機米にしようということで、実際に除草剤ラウンドアップなしで実現できた。そのような市町村が今、全国に出てきている。今日をいろんな事情で諦めていた学校給食の有機食材化を全国で実現する契機にしていけばたいへん有意義ではないかと思う。

 

 日本では農水省が「学校給食を有機食材でとりくむ」という方向を出した。日本でもこれを契機にようやく学校給食をオーガニックにしていく動きが始まるのではないか。

 

 

◇アメリカ発の給食ビジネスと狙われる日本の子供たち


国際ジャーナリスト 堤未果   


 そもそも日本の学校給食が始まったのはアメリカの政策がきっかけだった。そのアメリカが今また日本の給食をターゲットにしていることを、ぜひとも知っておいていただきたい。私がアメリカを中心に各国を取材している理由は、アメリカで起きたことは数年後に必ず日本でも起こるからだ。

 アメリカはアメリカ合衆国ではなくて今や株式会社アメリカという国になっている。


 70年代の終わりから食で他国を支配することが国策になったため、効率の悪い家族農家はチェンジを迫られるようになった。もっと大きく、もっと短気に、大量生産して海外に輸出する方向で農業政策が進められて行ったのだ。


 戦争中に化学兵器をつくっていた企業は、次の市場として農薬ビジネスに転向した。大量の農薬を売るために、その農薬に耐性を持った遺伝子組み換えの種をセットで売るというやり方が大成功、この抱き合わせ商法で世界的ベストセラーが生まれ、凄まじい利益を上げたのだった。ここがよく誤解されているが、遺伝子組み換えの種があってそれ専用の農薬ができたのではない。農薬を売るために遺伝子組み換えの種を開発したのだ。


 これらは全て、アメリカが世界中を食とミサイルで支配するための、世界戦略の一部だった。この事実を知っていると知らないのとでは、今後の選択肢は全く違ってくる。


 私たちの食に何が起きているのか?今後子供達をどうやって守れば良いのか?
 そういうことがちゃんと見えてくるようになるだろう。

 

 50年代に98%が家族経営だった養鶏場は、たった4社の巨大企業の傘下に吸収された。小規模で牛も豚も鶏も家族の一員のように育てていたのが、何万頭もぎゅうぎゅうに詰め込み、今では遺伝子組み換えの餌や抗生物質を与えて短期間で成長させる工業製品だ。大規模になり画一化された畑では輸出用遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシを大量に作るようになった。遺伝子組み換えのトウモロコシからは、砂糖よりもコストが安いコーンシロップという甘味料がとれる。それが全部加工食品に使われて、食品業界は低コストで大量生産した商品を全米に出荷し、さらに利益を上げていった。

 彼らの最大のターゲットは、他でもない子どもたちだ。味覚は子どものときに決まる。子どものときに食べたものが、母親の手作りなのか、地元の安心安全な食材なのか、それとも人工的に加工された甘味料たっぷりのものなのかによって、その子の一生の味覚がセットされてしまう。マーケティングのターゲットとして子どもを狙うというのは効率がいい。味覚がセットされれば、子どもたちが10代になったときも同じものを食べたくなるからだ。だから食品業界は年間1800億円の広告を打つ。


 コストを下げて大量につくった牛肉、鳥肉、豚肉、農薬をたっぷりかけてつくった野菜、遺伝子組み換えの食材、加工食品の大口顧客として、業界は学校給食に目をつけた。アメリカでは3000万人の子どもが給食を食べている。アメリカでは公立学校の教育予算をどんどん切り捨てているので、学校には選択肢はなく学校給食にどんどんファストフードや加工食品が入ってくる。私が取材した小学校のランチはこういうメニューで驚いた【写真】。

 

アメリカの学校給食の一例(講演より)

 中学、高校になると牛乳が入ってくる。オバマ前大統領夫人が「牛乳を飲みましょう」と推奨したが、アメリカはあらゆる食品に砂糖が入っていて牛乳まで甘い。子どもたちは甘い飲み物と、遺伝子組み換えと農薬だらけの加工食品を毎日食べて、腸内環境がどんどん悪くなり、味覚もおかしくなっている。


 その結果、子どもたちはどんどん太り、3人に1人がドクターストップがかかるほどの肥満児だ。腸内環境がおかしくなるので精神的にイライラし問題行動が多くなり、様々なアレルギーが出てくる。成人病だったはずの二型糖尿病がものすごく増え、心臓病、精神疾患、アレルギー、消化器の疾患、そして虫歯が急増した。甘味料だらけの食品を毎日食べて虫歯になるが、アメリカは歯科の治療費がものすごく高い。だから裕福な子ども以外はみんな歯がガタガタになって就職活動のときに困る。

 学校給食が子どもの一生を左右するのだ。

 

 ついにアメリカの母親たちがおかしいと言い始めた。

 

 「子どもたちのアレルギーが多すぎる」「何故子どもたちがこんなに太ってしまっているのか」「なぜ20代なのに入れ歯を入れているのか」「どうしてまだ10代の中学生が体重が支えきれなくて足に金属のギブスをはめているのか」

 

 自閉症とアレルギーの子供達をもつ一人の母親が、食を有機に変えたら子どもの症状が治った事から全米の母親に呼びかけ、食に関わる運動を始めた。


 ゼン・ハニーカットさんという名のこのお母さんは去年日本にも来て、子供達の疾患と食べもの関係や、除草剤とセットで育てられる遺伝子組み換え食品の危険を呼びかけた。


 自分たちでオーガニックの認証シールを作って広める母親達も増えている。


 彼女達は「スーパーに行けばなんでも好きなものが買えるから、食の主権があると思っていた、でも間違いだった」と言う。選択肢が政府と企業とマスコミによって奪われていたことに気づいて立ち上がっているのだ。そのような動きが広がり、ウィスコンシン州のある街では、子どもたちへの食品関係の広告が禁止になった。ロサンゼルスのある学校区域では半径200㌔以内のごく身近な地元食材しか使ってはいけない、できればオーガニック食品を使うというルールができた。

 
 こうして世界ではオーガニック市場がどんどん拡大している。だが注意しなければならない。アメリカではオーガニックのマーケットが拡大したので、ウォール街もグローバル企業も大喜びで、アマゾンがフォールフーズと提携した。そして小規模の地元の有機農家は、法律によって脇に追いやられている。有機認証をとるために一回50万円かかり、大量の書類を出さないとならず、小規模有機農家がどんどん潰されている。「オーガニック」といっても、中国やベトナムなどでつくられた食材はオーガニック認証自体を確認した方が良いだろう。食品表示の規制が緩い日本やアメリカは、今後オーガニックも含め、食全体がターゲットになるからだ。

 日本では今年農水省が学校給食への有機食材を推進するために、1億5000万円予算をつけることを決めた。法律ができればそれを根拠法にして地方でも予算をつけることができる。学校給食に有機食材を推進するために国が動き出したことを地元議員に伝え「国がこういう方針を出しているから予算をつけてください」といえるのだ。国会よりも自治体議員を動かそう。予算をどう使い、法律をどう使うかは、全部私たちにかかっている。私たちができるだけつながること、できるだけ広げること、そして、諦めないことだ。

 今まるで二つのまったく違う列車が両方ともものすごいスピードで前に進んでいる。バイオ企業の人たちはすごい勢いでもっともっと利益を得るために世界中に売りたいと動き、そのために法律やマスコミを抑えようとしている。でも市民や母親たちの運動もスピードをあげて進んでいる。どっちの列車に乗るかは私たちが決められる。あの本家本元のアメリカで多くの市民の人たちが頑張っている。でも目には見えない。小さく自分の地域でやっているからだ。大きくやれば潰される。小さくやれば子どもたちに健やかな食を提供できるし、地域農家を守り共同体も文化もとり戻せる。小さな単位で地産地消をすることだ。

 今日この場で、学校給食を有機食材にする課題を全部クリアするためのノウハウを、専門家の方や市民運動の方と全部シェアしよう。やり方さえわかれば、予算が出ているのだから私たちはいくらでも動ける。今、各国でも、「ローカルにしていこう」という動きが進んでいる。オーガニックも大規模ではなくてローカルで、地域の農家とつながっていこう。食の選択をするということは栄養のことだけでなく、農業だけの問題でもない。地域経済の問題でもない。これは価値観を全部変えるということだ。私たちが食を選ぶとき、違った意識で選択すれば、選んだ瞬間に世界は少しその前より良くなっている。
 だから食の選択をするということは、世界を、未来を変えることなのだ。

 この運動を日本中に広げ、世界全体で広げ、必ずや変化を起こせると信じている。
 子どもたちのいのちと健康、土、水、空気、未来を、どうか一緒に守っていきましょう。

 


◇ 学校給食100%有機無農薬米を実現

    千葉県いすみ市農林課職員 鮫田 晋 

 

 千葉県いすみ市は人口3万8000人ほどの街で、九十九里浜の南端から少しなかに入ったところにある。昔ながらの里山里海が残っている地域で、最近は移住者に人気がある。いすみ市の児童・生徒は約2300人で、学校給食の年間約42㌧をすべて地元産の有機米にしている。2018年から野菜も有機をとり入れ始めた。コメも野菜も完全オーガニックに近づきつつある。

 

 いすみ市は根っからのコメの産地だ。日本全国は今、コメ余りの状態で、米価が下がり農業が続けられず耕作放棄地が増えている。その一方で増えたのはイノシシやシカで、生活空間まで荒らすようになり、集落が消える状況もある。

 

 この状況を打破するために、いすみ市では市民と行政が一体となって「環境と共生したまちづくり」「環境と経済の両立」を標榜し、2012年に「自然と共生する里づくり協議会」を立ち上げ、45の団体が所属して活動している。行政がやることは、条例を制定したり補助金を出すという間接的なものが多いが、私たちは協議会のメンバー、農業者やNPO団体のみなさんと一心同体でやっている。

 

 2014年から協議会の中心プロジェクトで、地元の主要産業として有機稲作を推進することを位置づけた。食の安全、安心志向の高まりでオーガニックの需要が拡大傾向にあるなかで、有機稲作の技術のハードルをクリアして、販路が見つかれば稲作中心の農家の経営が維持できるのではないかというしたたかな狙いがあった。もう一つ重要なこととして、有機稲作をすると目に見えて生き物が増えて自然環境がよくなることを実感できる。再生された自然環境を教育や福祉などのまちづくりに活用し、地域活性化をはかりたいという狙いで進めている。

 

 2013年に有志の農家を含めて3人で有機稲作を始めた。ところがただ農薬や化学肥料を使わないというやり方だったので田んぼが草だらけになり、草取りが大変だった。収穫できたコメはわずかという厳しい現状に直面した。この経験から雑草問題をクリアしないと続けることも広げることもできないと感じ、まず有機農業の技術を学ぶという方向に意識が向いた。

 

 2014年から民間稲作研究所の稲葉先生の指導をいただき、いすみ市の土壌や気象条件にあった有機稲作技術を本格的に学ぶ活動に転換。地元の農協や県の技術職のみなさんとも連携し、有機稲作の技術を学んだ。そのかいあって前年苦労した雑草問題が解決した。また農薬を使わないので害虫被害を心配したが、天敵となる害虫を食べるカエルなどの生物が増えたことで害虫被害がなかった。自然がバランスをとってくれた。新しい発見だった。

 

 私たちは技術を学ぶと同時に、有機稲作の意義を学ぶ機会にもなった。食の安全、農薬の問題、食料主権の問題や環境の劣化の問題など、なぜ有機にとりくむ必要があるのかを学んだことも大きかった。雑草問題を乗りこえたことによって有機稲作にとりくむ農家が現在23人になった。今年は25㌶の作付け、収穫は100㌧を見込むところまできている。

 

 このような有機稲作の急激な成長を支えたのが何といっても学校給食だった。2014年に収穫したコメは4㌧で、学校給食の1カ月分になった。有機米の活用先を農家の方たちに相談すると「安全なものは子どもたちに食べさせるのが一番だ」といわれ、学校給食への提供が決まった。もう一つの狙いは、子どもたちの農業離れ、地域への関心が低下している状況のなかで、給食に有機米を提供することで地域に関心を持ち、誇りを持ってもらいたいという思いがあった。

 

地元産有機米100%を実現した千葉県いすみ市の学校給食(講演より)

 

 有機米の学校給食への提供について太田市長もすぐに了承し、2015年5月の1カ月間、いすみ市の学校給食で地元産有機米を提供した。このときの反響が大きく、「こういうとりくみを応援している」「もっと拡大してほしい」「どこで買えるのか」という問い合わせが寄せられた。市役所としても、このとりくみは市民の期待に応えているという実感を得て自信を深め、財政当局から予算を引っぱってきて有機稲作を拡大していった。

 

 その時点で、有機米づくりをいすみ市の主要産物に位置づけ、全国で例のない「学校給食の全量有機米をめざす」という宣言をした。それに勇気づけられた農家とともに有機米の生産拡大に励んだ。2017年秋以降、年間の学校給食に必要な42㌧のコメをすべて有機米で提供することができた。これによって市民のなかでも有機米づくりが知られるようになった。そしていすみ市の特産として子どもたちの未来を支えるというコンセプトで「いすみっ子」という名前でブランド化し、首都圏を中心に流通している。

 

 学校給食が100%有機米になったことはインパクトが強く、地元の有機野菜農家から「有機の野菜も給食に使ってほしい」という申し出があった。私は待ってましたとばかりに、さっそく協議会に野菜グループをつくった。ベテラン農家と若い農家が一生懸命生産に励んでおり、ほとんどが小規模家庭農家だ。2018年からは地元の有機野菜の農家と一緒に学校給食への導入を始めている。2年ばかりのとりくみだが、生産者や栄養士と一緒に進めながら、今7品目の野菜が有機に転換できている。今年はキャベツも試作中で8品目になる予定で、この調子で地道に生産と品目を増やしながら、子どもたちの給食を全部オーガニックにしていくことを目指してやっている。

 

 実はそれまで学校給食の野菜は地元青果店から買うか、加工品は県の学校給食会から仕入れていた。それらは市場で流通する野菜で、地元産ではなかった。そのため有機野菜を使うには別の流れをつくらなければならなかった。現在、有機農家のグループが直売所に数量をそろえて納入する流れをつくっている。野菜不足の場合は直売所が野菜を追加するという協力のもとで運営している。

 

 私は地元産有機米を学校給食で提供することについて、子どもたちがどう捉えるかが大切だと思い、こだわりを持っていた。今、子どもたちの授業にコメづくりをとり入れている。「環境教育」「食育」「農業体験」を一体で学べることは画期的だと思う。子どもたちが授業で学ぶことと、実社会が一致していることが大事だ。有機稲作の経験を通して、健全な環境が自分の健康や健全な社会を保障していることを学んでいると思っている。子どもたちが田植えをしたり生き物を探したり、収穫をし足踏み脱穀機を使ったりすることが「学校の授業のなかで一番楽しい」といってくれている。その声を励みにする農家もたくさんいるし、私自身もやりがいになっている。

 

 有機農業の魅力をどう伝えたらいいか、最初は悩んだ時期もあった。口で伝えるのもいいが百聞は一見に如かずで、一緒に農業をやることでほとんどの人がその魅力がわかる。これから都市部でもオーガニック給食の実現に向かうと思うが、子どもたちを産地に送って経験させてあげてほしい。そこで子どもたちがいろんな経験をする姿を楽しみにしている。

 

 学校給食のコメをすべて有機米で提供するというのは、わが国ではかなりインパクトがある。いすみ市はこれで一躍有名になり、いろんな分野の方々が来られ、映画にもとりあげられ、食文化の世界の方々からも評価をいただいている。毎日のように「うちでもオーガニックをやりたい」という声が届いている。またどうやったら自分の街でオーガニック給食ができるのかという問い合わせが多い。私もなにがいいのかなと思うが、行政がやることって必ずしも好意的な意見は少ない。行政は慎重なので、できない理由を探したりする。そういう場面に直面しても落胆してほしくない。学校給食のオーガニック化は、その街にとってとてもいいことなので、熱意を持って共感を広げていけば必ず実現するものだと思う。

 

 世界の給食はオーガニックがあたりまえになっている。オーガニックで学校給食をやることは、分野をこえてあらゆる人がいいことだと受けとめる政策だと思う。小さな街の実践だが、農村だけでなく都市においても必ず大きなうねりになると思う。

 

こうすれば出来る!持続可能な有機食材の供給

民間稲作研究所理事長  稲葉光國 

 

 有機栽培のコメづくりにとって最大の課題は除草問題だ。普通は年間3回ぐらい田んぼのなかに入って草取りをするのが有機稲作の実態だった。私たちは一切田んぼに入らず、草を出さない技術を15年かけて確立できた。それが背景にあって、いすみ市でも雑草防除に悩んでいた流れをガラッと変えることができた。

 

 田植えをする1カ月ほど前に代掻きをする。すると田んぼのなかに微生物が早くから成長して、とろーっとした粒子の細かい土をつくる。農家の人が苦労する雑草にコナギというのがあるが、代掻きをした土がコナギのタネの上に1㌢覆い被さって光が当たらなくなると絶対に発芽しないのが特徴だ。そのような雑草の発芽生長の特性をふまえて作業をくんでいく。ヒエは少しでも水がなくなると発芽してくる。一晩で3㌢は伸びる。野生植物は鋭い再生能力を持っており、それを抑えるために給水体系をきちんとつくることで、まったく草のない田んぼになる。

 

 田植えの1カ月前から水を張って代掻きをすると、一番最初に出てくるのはミジンコとユスリカだ。この二つは重要な天敵のエサとして働いている。環境省も農水省もデータとして出しているが、ユスリカとミジンコの両方がネオニコによって大きな影響を受ける。それがベースになって害虫を抑え込む大きな役割を果たしているカエルとかトンボが絶滅してしまう。これらの生物が農薬で死ぬと田んぼ全体が害虫だけになる。

 

 今年、栃木県の大田原市でカメムシの被害が大きく出た。ずっと雨だったので稲が窒素過剰になった状況をカメムシは見逃さなかった。慣行栽培と有機栽培ではカメムシの被害は慣行栽培がはるかに多かった。有機栽培は農薬を散布しないからカメムシの被害が多いと思うのが一般的だが、農薬をかけるたびにカメムシが我が世の春で異常繁殖をしてしまう。有機栽培をすると生態系が整うので、カエルなどの生物がカメムシをよく食べてくれる。その生態系の大事さをわからず、農薬を使えば使うほど被害は大きくなる。そしてこの農薬が実は子どもたちの健康に大きく影響しているわけだ。 

 

 これから日本の子どもたちの健康を考えるうえで、一つは輸入小麦にグリホサートが残留する問題がある。大規模化によって小麦をつくる農家と収穫する農家企業が違う。農家は個別につくるので生育差が出るが、それらを一気に収穫してしまうとカビが発生したりする。それを避けるために一斉に除草剤を散布して枯らして乾燥度を高めて収穫するということがやられている。スマート農業の結果だ。その小麦を日本は輸入し、みなさんも毎日食べているのが実態だ。その除草剤は血液脳関門という組織が完成していない子どもたちに酷い影響を与える。また子どもたちの尿検査をすると、グリホサートだけではなくネオニコチノイド、フィプロニル農薬が出てくる。この二つの農薬は、長期残留でなおかつ細胞浸透性が非常に優れている。今、一般市民も食べているコメに残留しており、農水省も「安全な農薬」といっているが、子どもたちに大変厳しい影響を与えている。

 

 その一つとして発達障害の子どもたちが激増し、約1割の子どもが苦しんでいる状況がある。文科省が発表した発達障害の子どもの増え方と、ネオニコ使用の増え方が比例している。だが原因を解明する動きがまだ見られない。マスコミが事実を知らせることを抑えており、国産農産物は何となく安全なんだろうという認識があるが、実はそうではないことを、国会議員をはじめ、すべての子どもを持つ親たちが知る必要がある。

 

 農水省が進める環境保全型農業は、農薬が化学肥料を原則5割以上低減するとりくみであるが、実は農薬はネオニコとフェプロニルが使われていることを認識してほしい。環境保全型農業では問題解決にならない。やはり農薬を使わないことに踏み切らないと未来を担う子どもたちの安全は保てないという認識のうえで、学校給食の有機化を進めていかないといけない。

 

 実は、日本人の主食である稲、麦、大豆は有機栽培に向く作物だ。稲の場合は、除草問題を解決すれば誰でもとりくめる。麦は冬作物で10月、11月にタネを蒔いて冬場に成長するので、ほとんど雑草が出ず、除草はきわめて簡単な作物だ。大豆はきれいに畑を耕し、そのあとにタネを蒔くと雑草よりもいち早く芽を出すのが特徴だ。有機に向いた作物を組み合わせて無農薬栽培にとりくんでいければ、どんな地域でもごく普通の農家の人でも成功できる。

 

 いすみ市、木更津市、豊岡市など地域で学校給食の有機化をする場合には、やはり首長が「これでやる」という哲学をもって進めることが決定的だ。トップダウンという指摘もあるが、それは市民の支えがあって発展できる。いすみ市の場合は太田市長の方針のもと、幅広い市民運動があって成功を収めた。

 

 豊岡市は野生復帰したコウノトリの住みやすい環境づくりの一環として、農薬を使わない「コウノトリ米」を学校給食にとり入れている。最初から学校給食に使うという計画ではなく、コウノトリの野生復帰活動から始まり、中貝市長が「経済と環境が両立するまちづくり」を標榜し、市民運動とともにスタートしたものだ。そのなかでコウノトリ米が学校給食に使われるようになった。豊岡市のとりくみを聞いたいすみ市の太田市長が、刺激を受けて「環境と経済が両立するまちづくり」をスタートさせている。

 

 オーガニック給食は新しい時代をつくるスタートであり、進化発展の一つの姿だと思う。木更津市でも学校給食の有機化にとりくんでいるが、人口はいすみ市の5倍で、学校給食も5倍だ。そのコメを全量有機にするには1、2年ではできない。市長がかわっても継続した運動にするために、「オーガニックなまちづくり条例」を制定しているのが大きな特徴だ。木更津市では6年間の長期計画を立てている。最終的には35㌶・147㌧まで生産量を増やさないといけないのだが、これを地元の農家による生産で賄っていく力をつけなければ地域の経済発展や地域循環は保てない。仮に有機米を関東地区の有機農家から提供してもらう形になると、それは個別的な運動になるからだ。地域を丸ごと再建していくためには地元の人たちが中心になるというのが基本原則だ。

 

 木更津市は有機米生産のとりくみが2年目に入り、5・5㌶で進んでいる。今月中に最後のまとめのポイント研修をやる予定で、着実に発展できる可能性を秘めている。地元の有力な農家、ベテラン農家が参加することで地域の信頼度も高まり、その波及効果は計り知れないものがある。農家が農家に伝播する力は、他には真似できない強いものがある。これからとりくむ地域ではぜひ、地元の有力な農業者と一緒になって進めていくことが重要ではないか。

 

 さらに東京都世田谷区となれば人口は東京都で最大だ。必要なコメの量は400㌧であり、これをどう実現するかを考えていきたい。世田谷区だけでこの量を確保することはできず、関東全体に生産を広げていかないととてもカバーできない。だが堤未果氏が指摘したように、給食は場合によっては海外の安い有機農産物や農産物に占領される危険性もある。「安い」ということではなく環境に対して生物多様性を育む農業なのか、地球温暖化の防止に役立つ農業なのかをしっかり生産現場に行って確かめたうえで農産物を採用するという視点に立たないといけない。世田谷区では条例づくりのベースになる有機農産物の条件をつくっているが、そのなかに「遺伝子組み換えは絶対にダメ」という内容がある。条例のなかには農薬への考え方なども定めていく必要がある。

 

 慣行栽培のコメはキロ当り300円が相場だが、有機栽培は最低でも480円ほどになる。農業生産を考えると、台風襲来などに大きく影響されることも十分考えられる。それを踏まえて有機農業を安定させるためには、リスクを組み込んだ価格設定が必要だ。今の慣行栽培ではそのリクスが考えられておらず、みな赤字で供給されている。その価格がベースになると、有機栽培を継続する人がいなくなる。

 

 世田谷区で考えた場合、その差額180円の400㌧を換算すると7200万円という経費を投入しないと学校給食への有機米は継続できない。世田谷区にその覚悟を持てといっても無理な話で、国が支えないといけない。生物の多様性、地球温暖化の防止、人類の大きなテーマに応えるのが学校給食有機化であり、国際社会に向かって日本が堂々と主張できる非常に重要なとりくみだと考えれば、国が予算をつぎ込むのはあたりまえの話だ。

 

 また給食に入れる場合、生産者団体と5年以上の契約をとらないと生産者は生産にとりくめない。有機農業もふくめて農業は1年では結果が出ない。2、3年かかって技術も定着し、生産も安定してくる。長期的に売り先が決まっていないと生産者は不安でとりくめない。そういう意味で長期契約が必要だということだ。

 

 また有機農業をする場合、これまでの田植機でやるのは難しい。いすみ市も豊岡市もポット式の田植え機に切りかえ、それを自治体負担で提供した。そういう助成が必要ということだ。大豆をつくるにしても収穫は汎用コンバインが必要になってくる。価格は800万円するため、自治体が財政支出をして条件整備をしていかないと有機農業の普及はおぼつかない。

関連する記事

この記事へのコメント

  1. 高菅 葉子 says:

    山口県内に 子供達の学校給食の食材を有機食材にしようという運動ヲされておられる団体があるのでしょうか❓

  2. にんにん says:

    記事に載っている東京 世田谷の給食を有機無農薬食材にする活動です。
    子どもたちの食の安全 だけでなく、地方の過疎化の歯止めや地域経済活性化につながる可能性もあるそうです。
    こうした動きが全国に広がって行けばいいなと思います。
    賛同と情報拡散いただけると嬉しいです。

    http://chng.it/7Br49Bn8Zc

  3. 根本 恵子 says:

    日本の農業、食、未来を考えるシンポジウムでこちらの活動を知りました。9月25日の全国集会に参加することが出来なかったのですが、とても素晴らしいものであったのだと記事を読ませて頂いて分かりました。今回の大会の動画配信はありますでしょうか?私自身も観てみたいと思うのと同時により多くの方々に知るきっかけになれると思います。また、ネット環境のない方にこちらの記事をコピーし渡してもよろしいでしょうか?私には子供はおりませんが、子供のためということで動く方も多いと感じます。活動を応援しております。

根本 恵子 へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。