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このままでは倒産・廃業の嵐 なかなか確定せぬ国民への補償 皆が納めた税金放出せよ

下関市内の各界の実情を聞く

 

 新型コロナウイルスの感染拡大が経済に甚大な影響を及ぼすなか、安倍政府は緊急事態宣言を発令し、営業の自粛要請をくり出している。自粛ムードが広がり始めた2月中旬から約2カ月。テレビでは「前例なき支援策」「リーマン・ショックを上回るかつてない規模」「雇用を守り抜く」といった言葉が飛びかい、安倍首相は「わが国の支援は世界で最も手厚い」と豪語する。だが実際には中小企業も労働者も、ほとんど手元に金が届いておらず、事態は切迫している。

 

 下関市も3月に入り、公共施設がすべて閉鎖され、大小問わず多くのイベントが中止になった。当初は4月1日に公共施設を再開する予定だったが、再び陽性患者が出たことから、4月4日~5月10日まで再び閉鎖している。こうしたなか、観光地である唐戸市場や歓楽街で廃業する店が出始めるなど、持ちこたえることのできない商業者が出始めている。

 

 真っ先に影響が出たのが観光業界だ。ある観光バス業者はほぼすべての予約がキャンセルになり、売上は99%減となったという。普段できない仕事をしながら回しているが、「いつまで続くのだろうか」と不安を語っていた。運転手不足の折り、再開したときのために運転手は確保しておかなければならない。なかには税金対策として車両のナンバーを外して待機させている業者もあるという。リース料が発生するため、バスを手放すことを検討している業者もある。ある業者は「さまざまな支援の仕組みは商工会やバス協会などを通じて入ってきている。条件的には活用できるが、借りれば返さなければいけないので厳しい。自粛でなく休眠といってもらえた方がはるかにいい」と話した。

 

 タクシー業界も3月以降、イベントや歓送迎会の中止で、各社ともに売上は数百万円減、半減といった状態になっている。日中に利用する高齢者も病院や買い物に出る回数を減らしており、夜の歓楽街は客足がほとんどない。「3時間待って1回、690円の水揚げだった…」「3月は手取り5万円だった…」という運転手の表情も疲れ切っている。各社ともに4月の売上はさらに悪化することを見込んでいる。タクシー業界は大半が完全歩合制のため、売上がなければ運転手の収入はなくなる。みな家族を抱えて何とかやりくりしているが、離職する運転手も出始めている。「政府が発表したマスクさえまだ手元に届かない状態で、30万円の給付金が本当に届くと信じている運転手はほとんどいない」と関係者の一人は語る。1、2カ月程度であれば、何とかやりくりして生活できるが、長引けば生活が破綻しかねない。

 

臨時休業増える飲食店

 

 飲食店や飲み屋も平日は閉店したり、4月末まで休業するなど、客が来ないので営業を縮小する動きが広がっている。家賃の猶予を不動産業者に依頼に来る飲食店も増えている。だが不動産業者も政府が具体的な補償をうち出していないので、簡単に猶予もできない。

 

 焼き鳥屋の店主は「35年やってきてこんな打撃は初めて。常連さんも店に来るのは怖いといわれ、今は電話注文を受けて焼き鳥を持ち帰れるようにしている。通常通り夜12時まで店を開けているが、昨日は客がゼロだった。マイナスもマイナスだ。うちは家族経営だからまだましではないか。従業員を抱えていたら大変だ」と話した。組合を通じて借り入れして急場をしのぐつもりだが、この状態が続けば店を畳まなければならないという。

 

 商業施設内の飲食店の従業員は、「3月半ばから店に来る人が減り、売上が半減した。夜は8時半まで営業していたが、今は6時半で閉店している。館内のデリバリーを始め、常連さんに届けているが、今後は宅配業者と契約してテイクアウトをしていこうと思っている」と話した。アルバイトはとりあえず休んでもらい、雇用調整助成金の手続きをしているという。オーナーは資金繰りで走り回って、ほとんど店舗にいない状態だ。

 

 別の飲食店店主も「売上は通常の3割以下に減った。家賃や光熱費、従業員給与などを含めると、たとえ100万円程度の休業補償が出たところで焼け石に水だ」と話した。アルバイトは休ませる以外にない状態だが、再開時に人手がいなければ店が回らない。「我慢して待ってくれないか」と呼びかけ、なんとか引き留めているところだという。

 

 複数店舗を持つ飲食店は一部を臨時休業し、残りの店舗に社員を回して順番に休むなどの対応をとっている。「人件費を削って最低ラインで回す以外にない状態」「店に来て話をするのを楽しみにしている高齢者のお客もいて、私たちもずっと家にいるとうつ病になりそうなので出てきている」という声もある。

 

 

仲卸業も漁業者も打撃

 

 インバウンドを中心とする観光客の消費に支えられていた唐戸市場は、3月から土・日・祝日の握り寿司イベント「活きいき馬関街」と、それにともなう日曜・祝日営業を中止している。再開を望む声は強かったが、感染の広がりを受けて5月10日までの市の自粛要請に応えることが決まった。しかし、週末イベントの売上で生計を立てている業者も少なくない。「ゴールデンウィークには営業できるだろう」という望みも消えた。市場内では廃業を決めた業者が出たことも話題になっている。収入がなくとも施設使用料や光熱費、従業員の給料や社会保険料などの支払いは発生する。だが市の自粛要請文には毎回、「なお、自粛期間における営業等に対する補償は考えておりません」との一文が付されている。

 

 業者連合は市に対し、施設の使用料の免除、減免などのほか、感染拡大の防止対策として、マスク・消毒液の安定的供給の支援(店頭にないため個人店で確保できない)、市場内の感染防止方法の掲示やマニュアル作成などを要望した。とくに、市単独で可能な支援策として、市の施設である市場の使用料の減免は切実な要望だ。

 

 施設使用料の減免に否定的だった市も「検討せざるを得ない状況」としているが、「市場特別会計の仕組み上、使用料が入らなければ一般会計から繰り入れなければならなくなる」として、慎重な姿勢を崩していない。

 

 本業である仲卸業への影響も深刻だ。下関のフグは多くが関東圏や関西圏に送られ、料亭などに回っている。しかし両圏域とも非常事態宣言の対象地域となっており、売上は例年の5分の1ほどになっているという。

 

 仲卸業者の一人は、「3月10日ごろから料理屋からの注文がなくなった。シーズンを過ぎているとはいえ、例年なら1日10件は注文がある時期。今は1日1件、2件という状態だ。ホテルや旅館などは2月から注文が落ち込んでいる」と話す。豊洲市場への送りは例年の5分の1。4月の第3週からはいらないといわれているという。「今、豊洲市場に魚を送るとセリにかからず3、4日冷蔵庫に入れて廃棄処分になるため、仕切りが書けないという話も聞く。フグの相場も下がり続けている。天然物で4月の第1週は前週の2割減、第2週はさらに4割減の価格になっている。シーズンオフとはいえ、例年の半値だ」と話した。

 

 漁業者は魚がとれれば出荷する。養殖業者も次の稚魚を入れるうえで生け簀を空にしなければならず、出荷が続いている。あまりに暴落すれば、来年漁業者や養殖業者に出荷してもらえないため、仲卸たちは可能な限りの価格で全量を買いとっている。だが、その先の商品が出て行かない。「水槽に生かすにも水槽代がかかる。加工した商品も自社の冷凍庫に入りきらなくなり、業者の冷凍庫を借りて保管している。冷凍庫代も発生する。各社が在庫を大量に抱えて、業者の冷凍庫も一杯になりそうだ。冬になったら売れるだろうという見込みで冷凍しているが、終息の見通しが見えないのでみな泣いている」と話した。

 

 しわ寄せは生産者にも回っている。フグやアワビなど高級食材ほど暴落が顕著だ。10日は通常キロ700~800円のサザエが400円に、アワビは値がつかなかったという。安岡ネギなどの食材も価格が下落している。

 

人通りのない下関市の唐戸市場

 

公庫の融資も届かない

 

 下関市内の大半が中小・零細業者だ。これまで日本政策金融公庫の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」にも、「借金なので手が出せない」という事業者も少なくなかったが、やむにやまれず融資の相談に駆け込む事業者も増えている。もともと借金があるため、重ねて融資を受けられない事業者は自身の貯金をつぎ込んだり、親戚に頭を下げて借金をするなど、資金集めに走り回っている。政府の企業向け支援で運転資金に利用できるのはこの無担保の融資制度だけだ。政府が公表したなかで唯一動いてきた支援策ともいえる。

 

 下関市には、この融資を受けるためにセーフティネット保証の相談と申請があいついでいる。初めて借金する事業者からの相談もあり、深刻さをあらわしている。3月以降、4月8日までで、電話相談は546件、来庁しての相談が296件となっており、うち認定されたのは157件だ。セーフティネット保証は金融機関の貸し渋りを抑制するため、貸し倒れたさいに100~80%を国(信用保証協会)が保証する制度だ。2月末に災害時などに発動される4号が、47都道府県を対象に発動された。各市町村長が売上の減少などを認定し、信用保証協会を経由して、日本政策金融公庫などに融資の申し込みをすることになる。市産業振興部は「本来担当は2人だが、事業者の資金繰りが滞らないよう今は課全体で対応しており、申請の翌日に認定を出せるようにしている」という。

 

 しかし、その先の信用保証協会も日本政策金融公庫も、3月下旬から人手が不足してパンク状態だ。「新型コロナウイルス感染症特別貸付」制度ができた3月17日ごろに申請した人の融資開始が5月の半ば、それ以後の申請は6~7月ごろになるといわれている。小規模事業者の猶予資金はおおむね1カ月分程度。3月を何とか乗り切っても、4月を乗り切ることができない事業者が続出することが予想されるなかで、資金が届くのがあまりにも遅い。

 

 ある食品販売業者は、本来は年間600万~1000万円の売上があるが、消費増税に始まり、韓国・中国の観光客が来なくなった時点で大幅に収入が減っていた。そのうえのコロナで、「今までできる限り借金をしないようにしてきたが、もう限度。店を開けていれば商品を出さざるを得ない。しかし客が来ないので売れない。残ったものをうちで食べているが、いつまでも続かない」と話す。税理士に相談して資料を作成し、日本政策金融公庫に出向くと、大勢の人が来ていたという。受付で「借金はないようだからいいとは思うが、ともかく人手が足りず、すぐに対応できない。後日連絡し担当者を知らせるので、打ち合わせをしてもらい、再度来てもらってからの審査になる」と説明を受けた。

 

 出向いてわかったのは「無利子」ではないことだ。3年間は低金利だが、4年目からの金利は高くなる(条件に該当し、かつ3年以内に返済すれば、後で利子補給を受けることができる)。当初1000万円の融資を申し込もうと思っていたが、3年間では返済できないので、600万円にしたという。一般の金融機関の融資に比べて好条件とはいえ、ニュースで見聞きするほど甘くないことがわかった。「私たちはもし融資が受けられることになっても6月か7月になりそうだ。主人と“それまで生きておれるだろうか…”と話している。倒産も出ているが、このままでは自殺者が続出すると話題になっている」と切実な思いを語った。

 

 別の事業者も、融資の相談に行くと、受付が混雑しているということで用紙を持ち帰り、記入して郵送で送ることになったという。担当者と面接の日時を決め、書類を持って審査を受けに行く。「本当は返済できるだろうかと思ったが、日曜・祝日営業も5月10日までできなくなったので、融資を受けなければ厳しくなった。終息するよう協力しなければいけないことはわかるが、やっていけない」と話した。

 

 自然災害であれば、被災地以外の公庫から人手を回すことができるが、現在全国125支店すべてが同じ状態で、公庫だけでは人手不足を解消することができない事情もあるようだ。公庫の融資が受けられるまでのつなぎとして、県や市の年率1・8%などの制度融資に頼る事業者もいる。本気で中小・零細企業に資金を届けるつもりなら、国が手続きの簡素化なり人的支援をしなければ、資金が届く前に倒産・廃業する事業者が出ることは明白だ。

 

バイトやパートも窮地

 

 もう一つの支援策として、労働者を休業させた場合に助成が受けられる雇用調整助成金の要件緩和がうち出されている。今回「新型コロナウイルス感染症の影響」として、①観光客のキャンセルがあいついだことにより、客数が減り売上が減少した、②市民活動が自粛されたことにより、客数が減り売上が減少した、③行政からの営業自粛要請を受け、自主的に休業をおこなったことにより、売上が減少した、などの理由で事業活動が縮小した場合(前年同月比5%以上減少)、申請できることになっている。

 

 雇用調整助成金はいったん事業者が休業手当(平均賃金の60%以上)を支払った後に申請し、2カ月後にようやく支給・不支給が決定するという制度なので、資金力のない中小・零細企業は利用しにくい。それでも3月末から相談が増え始め、4月に入って急増しているという。毎日複数の企業から相談が入っており、ハローワーク下関では感染対策のため、予約制で毎日4社程度ずつ説明会を開いている。

 

 しかし厚労省が「拡充した」と主張している制度の詳細が決まり、動き始めたのは4月13日。それまで窓口となる各地のハローワークでは詳細な説明ができない状態だった。すでに観光地や飲食店でアルバイトの解雇も出ている。

 

 ある商業者は、「飲食店はアルバイト代が出せず、やむなく休ませたり契約解除したりしている。アルバイトやパートも、子どもに仕送りするためや、学生が家賃や学費を稼ぐために働いていたので、突然収入がなくなって不安だと思う。なぜもっと早く動かないのか」と憤りを語った。

 

 今回、助成率を中小企業で5分の4(解雇等をおこなわない場合は10分の9)、大企業で3分の2に引き上げ、アルバイトなど雇用保険未加入者も対象に加えることになった。ただ、賃金の60%の90%(日額上限8330円)なので、実質は賃金の半額程度に過ぎない。イギリスの「賃金の80%を肩代わり」という政策だけを見ても「世界一」にはほど遠い。

 

 社会保険料や税金の納入の猶予も3月末にうち出されているが、4月に入って社会保険事務所で、「まだ現場に下りてきていないので対応できない」と断られたケースもあり、「国のいうことはあてにできない」という声が広がっている。

 

 家庭向けの食品加工業の売上など一部は伸びているものの、影響は多岐にわたっている。今後廃業・倒産が増加すれば、不動産業にも影響が及ぶなど、「影響がどこまで広がるか計り知れない」と関係者らは危惧している。政府が「休業要請に対する補償はしない」という姿勢を貫くなか、自治体が独自に支援策をうち出す動きも広がっている。消費増税などで苦境にあったなかのコロナ・ショックであり、「現状は全国が一斉に災害に見舞われた状態だ。本当に大胆な財政出動が必要だ」「これまでの“融資の手続き”などの枠をこえた支援策をとらなければ経済が壊滅してしまう」と切実な声が上がっている。阪神大震災のとき、当時の日銀支店長が通帳を持たない被災者にも現金を渡す異例の判断をしたことを思い起こし、「街角に現金を積み上げて、“必要な人は持って行ってください”というくらいの大胆な策が必要だ」と語る人もいる。

 

 ようやく所得が減少した世帯に30万円、中小企業などに対する100万~200万円の返済不要な給付金の支給がうち出されたものの、制度の詳細はこれからだ。しかし事業者向けの場合、「売上が前年同期比で50%以上減少」の証明が必要になる。夜の歓楽街や零細の店で確定申告をしていない店が相当数あることは周知の事実だ。電子申請ができない高齢の商業者の存在に加え、これら各地域の特色ある飲み屋が支援から漏れていくことが危惧されている。

 

 全国民に一斉に給付して自粛を促し、高所得者からは確定申告で後から徴収する方法も指摘されており、早急な対応を求める声が高まっている。

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