いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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過剰な期待は禁物だが「ワクチン頼み」で進む接種 実験的でまだ定まらぬ評価

 日本政府がワクチンの早期使用のためにワクチン確保の正式契約(1月28日現在)を結んでいるのは、米モデルナ社(武田製薬による国内での流通のもと今年上半期に4000万回分、第3四半期に1000万回分の供給を受ける)、英アストラゼネカ社(今年初頭から1億2000万回分の供給を受ける)、米ファイザー社(年内に1億4400万回分の供給を受ける)の3社。いずれのワクチンも昨年12月から米欧などであいついで承認され、海外では接種が開始されている。

 

 日本国内ではファイザーが昨年12月8日にいち早く承認申請しており、7月の東京五輪開催を念頭に置く日本政府は、通常1年程度かかる国内での審査や手続きを大幅に簡略化して2月中にも承認し、接種を開始する構えを示している。

 

 一般的な感染症のワクチン開発は、基礎研究の後、動物を使った非臨床試験に半年、ヒトに対する3段階の臨床試験(治験)に4~5年以上かかるのが通例で、最短記録である流行性耳下腺炎(おたふく風邪)のワクチンでさえ4年を要している。インフルエンザなどで従来から使用されてきた不活化ワクチンや生ワクチンは、孵化鶏卵を使ったウイルスの培養が必要で量産に時間がかかる。そのため、新型コロナワクチンの早期使用を目指す国や企業は、これまでにないスピードで開発・製造できる遺伝子ワクチンを採用し、開発から治験までの期間を1年に短縮して接種にこぎつけている【表参照】。

 

 ファイザーとモデルナが開発中のmRNAワクチンは、RNAと呼ばれるウイルスの遺伝子情報の一部を抜き取った遺伝子(mRNA)を生成し、それを脂質ナノ粒子(LNP)で包み、筋肉注射で投与する。体内に新型コロナと同じたんぱく質(スパイク)をつくらせることによって免疫反応(抗体の生成)を促し、細胞性免疫、液性免疫の両方を活性化するというもの。遺伝子情報のみでウイルスを使わないため感染する心配がなく、強い効き目があるとされる一方、ヒトへの使用実績がなく、海外では一部で副反応も報告されている。

 

 アストラゼネカが開発しているウイルスベクターワクチンも、アデノウイルスなど病原性はないが感染力を持つウイルスに新型コロナの遺伝子情報を組み込み、筋肉注射で投与する。同社は、人間の体内では複製できないチンパンジーのアデノウイルスを使用している。mRNAと同じく、遺伝子が作用して細胞内にたんぱく質がつくられ、免疫反応が促す仕組みだ。ただこれもエボラ出血熱のワクチンとして一部で実用化された例があるものの、大規模に使用された実績は乏しい。

 

 いずれも21~28日の間隔で2回接種する必要があり、被接種者の年齢は16歳または18歳以上で高齢者を含む。日本での供給が開始されると見られる2月下旬以降、当面は供給量が限られることから、政府は、医療従事者(約400万人)から接種を始め、その後は各自治体からクーポン券(接種券)を配布し、高齢者(約3600万人)、基礎疾患のある人(約820万人)、高齢者施設などの従事者(約200万人)の順に接種を進めるスケジュールを検討している。一般の人への接種を開始するのは6月以降との見方が強い。だが、いずれにせよ供給時期もワクチンの数量も輸出国側に委ねられているため、国内にいつどれだけのワクチンが入るのかは不透明感が拭えない。

 

 また、ファイザーのワクチンはマイナス75度前後という超低温で保管(ドライアイス入りの保冷ボックスでの保管期限は10日間)しなければならず、モデルナのワクチンもマイナス20度前後での保管が必要となる。そのため政府はマイナス75度と、マイナス20度のフリーザー(冷凍庫)をそれぞれ1万台確保し、人口に応じて各自治体に振り分ける。しかもファイザーは975回接種分を最小単位として流通するため、保冷ボックスで保管する場合は10日間で975回分を使い切る必要があり、自治体における接種体制の構築も課題となっている。

 

 各自治体がワクチン接種記録を管理する「予防接種台帳システム」の構築を急いでいる最中、ワクチン担当になった河野太郎・行改担当相が突然マイナンバーを用いて個人のワクチン接種記録を管理する考えを示し、自治体をさらに混乱させている。この緊急時にさいして、利用が進んでいなかったマイナンバーを普及させるという政治的な思惑をねじ込むことは医療現場や地方行政をさらに逼迫させることにもなり、タイミングも含めて疑問視されている。

 

国内の治験200人程度  過去にも副反応多く

 

 ワクチン接種までのスピードが焦点になる一方で、どれだけの人が接種すれば集団免疫を得られるのかは定かになっていない。一般的に75%といわれるものの科学的な根拠があるわけではない。そもそも人への使用実績がまったくない遺伝子ワクチンであるうえに、全国民を対象とするような大規模接種も前例がなく、安全性への懸念も強い。しかも海外での治験の対象はほとんどが白人であり、日本人を含むアジア系のデータが少ないのが現状だ。

 

 日本では、ワクチンで想定外の副反応が生じたことによる薬害事件は多く、1948年のジフテリア予防接種では当時世界最多の924人(死者83人)の被害者を出し、70年の種痘、89年のMMR(三種混合)ワクチンでは1800人、05年の日本脳炎ワクチンなど、その例は枚挙に暇がない。近年では子宮頸(けい)がんワクチンの強い副反応が社会問題となっている。新型コロナワクチンにおいても、副反応に対する製造者の責任を免除し、かわりに国が賠償責任を負うことになっているが、それは製造者側を守るだけで被害に対する賠償を保証するものではない。

 

 日本感染症学会が昨年12月に出したワクチンに関する提言では、ファイザーとモデルナ、アストラゼネカのワクチンが海外での治験において90%(発症率が10分の1に低下)の有効率を示したことを評価する一方、75歳以上の対象者数が少ないこと、基礎疾患ごとの有効性も不明であること、そして被接種者の人種構成で白人が79~92%を占める一方、アジア系は2・6~5・8%に過ぎず、「有効性に人種差が影響する可能性も想定されるため、国内での臨床試験の結果が重要」と指摘している。また、これらの臨床試験の観察期間が100~150日という短期間であるため、どれくらいの期間ワクチンの防御免疫が維持できるかの評価も定まらないとしている。

 

 副反応がまったくないワクチンはないものの、いずれの新型コロナワクチンも人に対して初めて使用されるものであり、早期使用を急ぐあまり、安全性について拙速な判断をすることは命とりになりかねない。ノルウェーでは、ファイザー・独ビオンテック製のワクチンを接種した高齢者23人が死亡し、同国医学庁による剖検ではワクチン接種と関連があるとされた。米国でも同じワクチンを打った50代の男性医師が、接種後に重度の皮下出血を起こし、16日後に死亡。またファイザー製のワクチン接種を受けた約190万人のうち、重度のアレルギー反応の発症が21例あったことが報告されている。

 

 ワクチン接種では、低い確率であったとしても、呼吸困難や全身のかゆみをともなうアナフィラキシーショック、脳症・脳炎、ギラン・バレー症候群(全身の筋力低下、嚥下力低下、呼吸困難)などの副反応がともなうことも報告されており、全国民を対象にしている以上は厳密な安全性確認が必須といえる。だが、三社のワクチンの薬事承認に向けた日本国内での治験の規模は、ファイザーが160人、モデルナが200人、アストラゼネカが256人程度であり、大規模な接種に対して安全性を担保できる量といえるものではない。

 

 先進各国がワクチン接種を急ぐのは、国民の健康のためだけでなく、公衆衛生学的、経済的な必要からであり、そこには為政者の政治的な思惑も絡む。とくに日本政府の場合は、東京五輪の実施を控えているうえに、市中感染を防ぐための大規模検査を抑制して感染者数を低く抑え、感染者を隔離したり、入院ができる医療体制の構築を放棄しており、唯一ワクチンを感染抑止の「最後の切り札」として望みを託している現状がある。PCR検査は「偽陰性が出るから意味がない」などといって無症状感染の洗い出しと隔離をやらない論理がまかり通る一方、その効果や安全性において不確定要素だらけのワクチンは、早期に予算を付けて全国民を対象に接種を急ぐという熱量の違いが際立っている。

 

 だがそれも開発・供給から治験情報まですべて欧米企業任せであり、メーカーの売り手市場となっている。これを政治目的に帳尻を合わせて盲目的に承認し、半強制的に全国民に集団接種を促すなら、日本国民は海外ワクチン企業の壮大な実験台になるほかない。国民の生命にかかわるからこそ、一か八かのバクチ的な判断ではなく、「検査」と「隔離」、医療体制の構築を徹底しつつ、独立性と透明性が担保された審査をへたうえで安全なワクチンの供給が求められる。

 

 感染症学会は「ワクチンも他の薬剤と同様にゼロリスクはあり得ない。病気を予防するという利益と副反応のリスクを比較して、利益がリスクを大きく上回る場合に接種が推奨される。国が奨めるから接種するというのではなく、国民一人一人がその利益とリスクを正しく評価して、接種するかどうかを自分で判断することが必要だ。そのための正しい情報を適切な発信源から得ることが重要であり、国や地方公共団体および医療従事者はそのための情報発信とリスクコミュニケーションに心がける必要がある」と提言している。

 

世界で始まるワクチン接種 その趨勢やいかに 

 

 新型コロナウイルスの世界的な大流行発生から約1年が経過し、1月28日時点で世界で感染者は1億人、死者は200万人をこえた。世界の人口は約78億人であり、80人に1人以上が感染した計算になる。しかも新規感染者はまだまだ拡大の一途で収束のめどがたたないなかで、欧米先進国を先頭に、「ワクチンが切り札」との呼び声が高まっている。アメリカやイギリスでは昨年12月からワクチン接種を開始し、世界全体の累計接種回数は1月27日までに7116万回をこえた。日本でも早期の接種開始に向け、米製薬大手ファイザー製ワクチンの承認を急いでいる。ワクチン接種開始から約1カ月を経過した今日時点での現状にもとづいて、その効果や課題について見てみた。

 

イギリスでワクチン接種を受ける人々

 

 新型コロナワクチンの接種は昨年12月8日のイギリスを皮切りに、同14日にアメリカで開始されたのに続き、世界各国で本格化した。1月27日までに新型コロナワクチンの接種を開始した国は世界で57カ国・地域【グラフ①参照】で、世界のワクチン接種率は0・9%ほどだ。世界的な集団免疫を獲得するには世界人口の約70%がワクチンを接種する必要があるとWHOが発表しているが、それには遠く及ばない。

 

 

 接種回数は、アメリカ、中国が突出しており、2カ国で全体の54・1%を占める。世界最多の感染者数2500万人超のアメリカは接種を受けた人数ももっとも多く、約1990万人にのぼるが、人口の6%にすぎない。中国も人口が多いため、接種率は約1%にとどまる。

 

 人口当りの接種回数ではイスラエルが群を抜いている。31・5%が少なくても1回は接種を受けており、単純計算では3人に1人以上が接種を終えている。

 

 継いでアラブ首長国連邦(UAE)が24・6%。先進国として初めて接種を開始したイギリスは10・1%となっている。

 

 ただし、各社のワクチンの多くは2回接種を受ける必要がある。必要回数の接種を済ませたことがわかっているのは615万人にとどまっており、ワクチン接種の効果を正確に判断できる段階にはない。

 

 もっとも接種率が高いイスラエル(人口900万人)では、昨年12月19日から米製薬大手ファイザーなどが開発したワクチンの接種が始まった。約1カ月で1回目の接種を終えたのは230万人をこえ、人口の3割にのぼった。2回目の接種も始まり、政府は3月末までに16歳以上のすべての国民への接種終了をめざすとしている。

 

 イスラエル政府はファイザー社から800万回分のワクチンを購入することに合意しているが、そのうえでは他国よりも高値で契約を結んでいる。また、政府とファイザー社の合意文書には、イスラエル側がワクチン接種後の状況などのデータを公表するという条件のもとで、ファイザー側も速やかにワクチンを提供することを約束している。

 

 専門家は、ファイザー社はワクチン開発の最終段階で4万人に臨床試験をおこなったが、イスラエルは3週間で190万人に接種しており、接種後の詳細なデータはファイザーにとって非常に重要な情報だとしている。すなわち、ワクチン接種の治験数はまだまだ少なく、ファイザーとしてはイスラエルでの接種は治験データを集める過程でもあるということを示している。

 

 イスラエルの公的な保険機関「マッカビ」は2回目の接種を受けた12万8600人について、接種から1週間以上経過した後の状況について、検査で陽性反応が出たのは20人、割合にして0・01%だとしている。

 

 この結果に対して専門家は、「今までのところ、生死にかかわるような深刻な副反応は報告されていないということだ。ワクチンの成果についても具体的なものはまだ示されていない」との見解だ。

 

 ワクチンの効果については、アメリカCDC(疾病対策センター)が22日、アメリカの製薬会社モデルナが開発した新型コロナウイルスのワクチンを接種した約400万人のうち、アナフィラキシーと呼ばれる激しいアレルギー反応を示した人は10人だったとする報告書を発表した。

 

 CDCは、「モデルナのワクチン接種後のアナフィラキシー症状はまれなできごとと見られる」としたうえで、念のため激しいアレルギー反応に備えて接種をおこなうよう求めた。また健康への影響を注意深く検証していくとした。

 

途上国は中国・ロシア製も

 

 南米では、中国製やロシア製のワクチン接種が広がっている。感染者の累計が世界で三番目に多いブラジルでは、中国製のワクチン接種が1月17日から始まった。中国の製薬会社シノバックが開発したワクチンと、イギリスの製薬大手アストラゼネカなどが開発したワクチンの緊急使用が承認された。

 

 中国製のワクチンは臨床試験で有効性は50%程度で、安全性についての不安の声も出ていたが、ブラジル政府はWHOの基準を満たしているとして承認した。

 

 低開発国では欧米で開発されたワクチンが確保できにくいのに比べ、価格が比較的安く管理も簡単な中国製やロシア製のワクチン接種が広がっている。

 

 ブラジルが確保している中国製のワクチンは現時点では1000万回分程度で、2億人をこえる人口にはまったく足りず、政府は中国の製薬会社から追加でのワクチン購入を打診している。

 

 アルゼンチンではロシア製のワクチン接種が昨年12月から始まっている。

 

 ロシアでは昨年12月から、国内で開発したワクチン「スプートニクV」の接種を医療従事者や教師などを優先して開始した。また18日からは18歳以上の全国民を対象にワクチン接種をおこなっている。

 

 インドでも1月16日からワクチン接種が始まり、政府は夏までに3億人が接種を受ける世界最大規模の計画だとしている。政府は1月はじめ、イギリスのアストラゼネカなどが開発したワクチンと地元の企業が開発したワクチンの2種類の緊急使用を許可し、接種を始めた。

 

接種の95%は10カ国に集中 世界の格差も露呈

 

 WHOのテドロス事務局長は1月18日、「接種が実施された50カ国のうち、40カ国は高所得国だ。接種済みの計4000万回の95%は10カ国に集中している。所得の高い国ではこれまでに合わせて3900万回分余りが接種された一方、もっとも所得の低い国ではわずか25回分しか入手できていない」「一部の国が製薬会社と独自に契約を結んでいることでワクチンの価格がつり上がっている」と指摘し、ワクチンが所得の低い国に行き渡らないことに強い懸念を示した。

 

 国際商業会議所も1月25日、「現在のような偏った形で接種が進むと、世界規模での流行は抑えることができず、2021年に世界全体の国内総生産(GDP)が9兆2000億㌦(約954兆円)減少する可能性がある」と指摘した。

 

 南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領は、世界経済フォーラムで「豊かな国は大量のワクチンを手に入れた。一部の国では最大で人口の四倍に相当する量を確保している」とし、富裕国に対してワクチンの過剰な「囲い込み」をやめるよう訴えた。

 

効果や安全性は確認できず

 

 また、世界的におこなわれているワクチン接種の効果がどれくらい続くかについてWHOの専門家諮問委員会議長は、「2020年春に臨床試験が始まったばかりで、まだ日が浅いのでわからない。……今の段階で、ワクチンの効果がどのくらい続くか説明するのは早すぎる」とのべている。

 

 ワクチン接種が欧米などで開始されてから約1カ月を経た結果に対し免疫学や感染症の専門家は「ワクチンに期待しすぎてはいけない」として以下のような見解を示している。

 

 ワクチン接種に先立つ臨床試験では「90%以上の発症予防効果が確認された」と宣伝され、「コロナ禍収束の切り札」として期待が高まっている。だが、ファイザー社のワクチンの臨床試験でもっとも早く2回目の接種をした人でも、まだ4~5カ月しかたっていない。これまでのワクチン開発では、長期的な安全性の確認が必要とされ、最低でも4年以上を開発にかけてきており、効果や安全性を確認できる段階ではない。

 

 ワクチン接種のおもな目的は免疫システムに「抗体」をつくり、ウイルスの感染を未然に防ぐことだ。抗体は感染・発症中にウイルスを撃退するだけでなく、その後も抗体をつくる細胞が身体のなかに残り、次にウイルスが侵入したさいにもすぐに抗体を大量につくることで、未然に撃退する「感染予防」の役割も果たす。

 

 だが、専門家の研究では、新型コロナウイルスの場合、重症化した患者ほど体内の抗体量が高まっていることがわかった。抗体が多ければウイルスを撃退することができるはずだが、実際は重症化しているということに対し、「抗体は新型コロナウイルスからの回復にあまり寄与していない」という可能性を示唆しているのではないかと指摘している。

 

 また、感染者によって抗体が急速に減ってしまう場合や数カ月以上も大量の抗体を持ち続ける場合など、人によってさまざまあることも明らかになっている。ワクチンで抗体をつくってもどのくらいの期間抗体を持ち続けるかは人によって異なってくる可能性がある。これは新型コロナが「再感染」することからもいえる。再感染は1回目の感染でできた抗体が減ってしまうことで起きていると考えられる。

 

 さらに、新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスと同じように変異しやすい特徴がある。一度かかって抗体ができても、時間がたつとウイルスが変異し、抗体が効かなくなる可能性もある。インフルエンザの予防接種を毎年受けるのと同じように、新型コロナワクチンも何度も受ける必要が出てくるかもしれない。

 

 また、ワクチンの「感染予防効果が90%以上」という宣伝も不正確だ。臨床試験をおこなったのは、「新型コロナを発症」した人の数で、「感染」した人の数ではない。ワクチンを接種して防げるのは感染そのものではなく、症状が出ることを防げるだけで感染はしてしまうのではないかという懸念は残っている。感染しても無症状の場合も多く、ワクチンを接種して無症状の感染者が増えると、重症化リスクのある人の感染リスクを高めてしまう可能性がある。

 

 感染予防効果があることを確認するためには、ワクチンを接種した多くの人に何回もPCR検査をおこなって感染していないことを確かめる必要が出てくる。

 

 専門家は結論として、「一度感染したから、あるいはワクチンを接種したからといって油断してはならない」「過剰な期待は持たず、これまで通りの感染対策の徹底を」と警鐘を鳴らしている。

 

 また、アメリカのファイザーやモデルナ、イギリスのアストラゼネカのワクチンは、これまで使われたことのない遺伝子組み換え技術によってつくられた新しい種類のワクチンであることに、慎重な見極めが必要だと専門家が指摘している。

 

 これまでのワクチンは弱毒化や死滅させた菌や、ウイルス、細菌の一部分を精製してつくっていた。ファイザーやモデルナのワクチンは核酸であるmRNA(ウイルスの一部である分子の設計図)を使った初めてのものだ。mRNAをワクチンとして接種すると細胞内でウイルス分子に変換されて、それに対する免疫反応が起きて、抗体が産生される。だが、人で発症予防効果がいつまで続くかについて長期的に調べた研究はなく、どのような副反応が起こるのかについても十分にわかっていない。

 

 昨年12月20日段階でイギリスで2人、アメリカで6人の医療従事者が激しいアレルギー症状であるアナフィラキシー反応を示した。まだ原因は解明されていないが、このアナフィラキシーの頻度はインフルエンザワクチンに比べて10倍以上高いものだ。

 

 ノルウェーでは、衰弱した80歳以上の高齢者がワクチン接種後に発熱、嘔吐、下痢などの症状を訴えたあと死亡する事例が増えており、衰弱した高齢者の接種は慎重にと呼びかけられている。

 

 mRNAワクチンやウイルス・ベクターワクチンなど遺伝子ワクチンは、人工的にワクチンを製造できるため、短期間で大量のワクチンを製造可能というメリットがあるが、他方でまだ実用化の実績がほとんどなく、有効性や安全性(副反応)、持続性などに懸念が残されている。

 

 新型コロナウイルスのワクチン接種が世界各国で始まったが、現状ではその効果や副反応について確実な評価は出ていないが、払拭されないさまざまな懸念は多い。だが、欧米の大手製薬メーカーは「安全」を前面におし出して各国政府と供給契約を結び、1月22日時点で71・8億回分をこえる契約が締結されている。そのうち、イギリスのアストラゼネカが20・6億回で最大のシェアを持ち、少なくとも31カ国・地域と契約している。

 

 ワクチン争奪戦の先頭に立っているのは先進国で、EUは15・8億回分のワクチンを契約済みで人口比に応じて加盟国に分配する。アメリカは一国で12・1億回分を押さえ、日本は3・1億回分を予定している。ワクチンメーカー各社は増産体制を急ピッチで進め、世界全体の生産能力は今年中に190億本まで急増する計画だ。

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