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種苗法改定 どさくさに紛れて審議入りか 日本の種子を守る会が反対声明

 新型コロナウイルスの急拡大により緊急事態宣言が発令され、全国各地が感染対応に追われている。そのようななか、今国会において農家の自家増殖を禁止する種苗法改定案の審議入りが予定されている。こうした状況を受け、日本の種子を守る会(八木岡努会長)は9日に種苗法改定案審議入りに反対する声明を発表し、種苗法改定の拙速な審議入りを延期することを強く求めている。

 

 すでに先月農水省が改定案を国会に上程しているが、これが日本の農漁業に大きな影響を与え、国民の食と命を脅かすものであるという危機意識が全国に広がっており、最近では種苗法改定案について慎重な審議を求める意見書提出の動きが広がっている。しかし、現在のコロナウイルス騒動のもとでは農漁業者の幅広い意見を反映したり、慎重な審議がおこなわれることは不可能である。

 

 さらに声明では、法改定やゲノム編集技術の問題点等について整理し、全国民へ向けてあらためて問題を提起している。以下、声明文の要旨を紹介する。

 

 ◇---◇

 

 農林水産省は、本年3月に種苗法の一部を改正する案を国会へ上程した。これについて日本の種子を守る会としての見解を公表する。

 

 まず、この法案は農漁業者への影響が甚大であると想定されるので、充分な時間をとり農漁業者の幅広い意見を反映させて審議されるべきだと考える。したがって現在の新型コロナウイルス対応の緊急事態での拙速な審議は延期すべきである。

 

 日本の種子を守る会は、今回農水省による改正案の問題は農業競争力強化支援法や2017年11月の農水省事務次官の通知にあるように、公的な種苗事業を民間に移すという路線の元に、事実上、多国籍企業にその権利を移そうとしていることに根源的な問題があると指摘する。農林水産業の担い手である「多数の農漁業者の保護育成」とは反対の改正法案となっている事だ。農林水産業の担い手である地域の農家や地域の種苗会社も、都道府県の公共種苗事業もこうした中で崩壊の危機に瀕する。

 

1、自家増殖禁止、品種登録制度の全面化による農家経営の圧迫に反対する

 

 ①種苗を開発し品種登録可能なのは、投資額と開発時間などにより、主に公的機関か大企業が占めることが想定される。その公的機関を縮小しその開発知見を民間に移管するとする農業競争力強化支援法の下では、特定多国籍企業による占有が危惧される。

 

 ②海外流出を「育成者の意図しない国や地域への防止」としているが、日本の公的機関が持つ育種知見が多国籍企業に移管されればむしろ日本の税金で育成された種苗を合法的に海外に流出させてしまう。

 

 ③農家などが「自家増殖を自由にできる一般品種」は現実にはその使用実態は把握されておらず、ここ数年で許諾を必要とする「品種登録の急速な増加」と今後の「登録品種の拡大」により自由に使用できる「一般品種の大幅な縮小」が危惧される。

 

 ④農家の現場は、イチゴや芋類、サトウキビなど多種類が種苗を毎年新規に購入しそのまま使う割合は一割以下であり、ほとんどが自家増殖で増やして使用している。その自家増殖を許諾制及び使用料が必要となれば、農家経営を圧迫し破綻に追いやる。

 

 ⑤農水省は自家増殖禁止は世界のスタンダードであるかのようにいうが、米国でもEUでも主食などその国に重要な作物には例外として許可されており、今回の改正案のように例外なしで一律に許諾制にしてしまう国は世界のどこにもない。

 

 ⑥農水省は、今までどおり許諾制や使用料を支払う必要のない一般品種がほとんどだと農家の不安を消すような情報を出している。しかし、在来種などを守る法制度が存在しないなかで、果たして法に守られた登録品種と守られない在来品種との間で訴訟になったときに、在来品種を使う農家の権利が守られるか、大きな疑問が存在している。

 

2、「遺伝子組み換え種子」栽培の規制と表示義務と「ゲノム編集」種子と苗は、同等の禁止措置と規制強化をすべき

 

 ①ゲノム編集技術は明らかに人為的な遺伝子操作技術であり、遺伝子組み換え技術と別に分けてゲノム編集技術は安全に問題ないとする解釈は無理がある。遺伝子組み換えを規制し表示する法の原則に従い、ゲノム編集による種苗を同等に規制すべき。

 

 ②ゲノム編集技術の根幹を占めるCRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)にはその特許権をめぐり、巨額な訴訟が行われており、本格的に実用化するさいには高額な特許料の支払いが必要で、その開発は結局、巨大企業に独占されることになる。これらの技術を優遇することは、中小規模の日本の農漁業者の競争力強化にも発展にも繋がらない。

 

 ③生協組合員など消費者にとって、遺伝子組み換え食品の多くは明確な表示がある場合は忌避されている。そのため逆に表示をなくそうというのが開発企業の意図だと思われる。しかし世界各国とも規制及び表示の義務化は加速している。日本だけがゲノム編集食品を自由化することで、こうした流れに孤立し海外輸出の阻害要因となることが想定される。

 

3、国内の伝統的在来品種について、その調査を行い保全と育成に関する法律を制定すべき

 

 ①日本の在来種(京野菜や山形赤かぶなど各地に存在する)は、消費者のニーズも高く国際的にも評価され、その加工品とともに高額で売買されている。有機栽培の農産物への消費者ニーズの高まりと合わせて、地域固有の在来種伝統種を保護育成することは国の急務である。

 

 ②現在支配的な国際的な巨大多国籍企業の種苗占有に道を開くのではなく、国内農漁業者を守り育成することは、国の将来を保全するビジョンに不可欠だ。地球温暖化と気候変動の時代、人口が急増する世界にあって地域に根ざした農漁業の保全こそ求められている。このための法律制定を求める。

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