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宮古島感染爆発の真相 「市長選が原因」と報道されるが… 離島医療の拡充が急務

 沖縄県の宮古島市(人口約5万5000人)では、直近1週間(1月22~28日)の新型コロナウイルス感染の陽性者が141人となり、「人口10万人あたりの感染者数が東京都の3~4倍」「全国最悪の感染率」として全国的にクローズアップされている。大手メディアでは、1月17日に投開票がおこなわれた市長選が一因として、「陣営スタッフがマスクをしていなかった」「祝勝会などの打ち上げをやったのが問題」などの解説とともに、前職市長の下地氏を下して当選した座喜味氏の陣営の映像のみ流す番組も見られる。だが、宮古島市民からはまるで違う真相が語られる。

 

 宮古島市では1月31日現在、新型コロナの陽性者累計が407人(死者1人)で、入院者数64人、ホテル療養者が27人、自宅療養が32人、施設療養が25人、入院調整中が22人。県立宮古病院で確保した47床は埋まり、民間病院でも軽度中等症の患者の受け入れなど協力の動きが始まっている。集中治療室(ICU)も4床しかないため、沖縄本島への搬送が現実味を帯びている。

 

 市は1月28日から幼稚園・小中学校を一斉休校とし、公共施設などを閉鎖している。感染症指定医療機関であり、PCR検査会場でもある県立宮古病院には、検査のために1日数百台の車が押し寄せ、その長い車列が島の混乱ぶりを物語った。また沖縄県は、1月28日に判明した陽性者のうち7名の感染経路が「市長選に関連した飲食を含む打ちあげ」であったことを明かし、新市長となった座喜味市長が「(打ちあげ実施は)不適切な行為だった」と陳謝する事態となった。在京を含む大手メディアはその部分だけを切りとって、宮古島での新型コロナ感染爆発は「市長選が原因」であるかのように報じた。

 

 宮古島市内の医療機関で働いている女性は「選挙も一因であることは否定しないが、最大の要因は高齢者施設でのクラスター発生だった。1月28日までの5日間で判明した陽性者118人のうち56人は老人養護施設と看護施設での感染だ。高齢者施設の介護や介助は、どれだけ消毒やマスクをしても密になる仕事であるため、スタッフ1人の感染者が出ると一気に広がる。利用者やその家族も含めて100人以上が濃厚接触者となり、その車が宮古病院に殺到してできたのがあの行列だ。そのほかカラオケ店や消防署、郵便局などでも陽性者が出ており、市内各地で広がっていることが市長選後に発覚した格好だ。これは選挙前から懸念されてきたことであるにもかかわらず、“市長選で人が動いた”という部分だけを切りとって報道するのはあまりにも不正確な情報発信だと感じている。脆弱な離島の医療体制を本腰を入れて立て直さなければ命を守れないという警告を恣意的に矮小化してはいけない」と警鐘を鳴らす。

 

 別の医療関係者は「まったく動かず、人にも会わないという選挙はない。だから現状では、三密を避けたり、マスクや消毒などの感染予防対策に最大限留意してやるほかない。現実に118人のうち選挙関連は7人だけで、感染爆発が起きているのは、選挙とは関係のない看護施設だ。高齢者が集まっている場所での感染は最もリスクが高く、早急な対策が求められる。“選挙のせいにしてしまえばわかりやすい”という安易な発想による画一的な報道は、本当に目を向けなければいけないリスクを隠してしまう。そのことの方がよっぽど怖い」と話していた。

 

 また市民からは「両陣営が打ちあげ会(数十人規模)を開いたので、選挙関連で感染者が出た以上は座喜味市長が謝罪するのは当然のこと」という声もある一方、「選挙関連とされた7人の感染者が出たのは座喜味陣営ではなく、下地陣営からであり、下地前市長に推薦状を出した十数名のうちの数人から陽性者が出ていたのに選挙期間中に会食し、それを隠していたことで感染者が横に広がった」とも語られている。下地陣営の応援のために宮古島を訪れていた中山義隆・石垣市長がキャバクラで選対関係者と酒食に興じていたことも明らかになった。

 

 医師会役員の男性医師は「一番守られなければいけない高齢者施設でクラスターが発生し、唯一の指定病院は新規外来の受付を停止し、県の看護師派遣に加えて、自衛隊に災害派遣要請を出さなければならない事態になるほど脆弱な離島の医療体制が最大の問題だ。病床数もマンパワーも不足し、エクモ(人工肺装置)もない。コロナ対応を取り仕切る県、市、医師会の情報共有がうまくできておらず、今回のことが起きて初めて医師会が公的PCRの対象者を割り振りしたり、施設提供をするなど行政との連携がとれるようになった。これまでは防護服を着て、マンパワーが必要な鼻咽頭検査をしていたため検査に時間がかかっていたが、今後は唾液検査に切りかえることにもなっている。デイケアやデイサービスなど市内の高齢者施設での混乱や不安を軽減するためにも地域の医療機関が結束して対応に当たらなければいけない」と話した。

 

沖縄県全域への影響を危惧 早急な隔離措置を

 

 県立宮古病院では、県からの要請を受けて自衛隊員が約40人投入され、宮古病院の一部の病棟で感染者などの対応にあたっている。「テレビでは連日、自衛隊の医療機関での活動が報道されている。宮古島では防衛省が自衛隊ミサイル部隊の基地や弾薬庫建設を市民の頭越しで進めてきたことに市民の反発が強く、この医療危機が“宮古に自衛隊は必要”というプロパガンダに利用されているような気がしてならない」「このような事態に陥らないために、離島の検査や医療体制を拡充することに力を注がなければ、沖縄全体で同じように高齢者施設でのクラスターが起きるのではないか」とも語られる。

 

 男性医師は「新型コロナが一般感染症と違うのは、無症候の感染者が多く、しかも感染力が強いということ。国の現制度では、無症状者のPCR検査は自費で2万円ほどかかってしまう。だが検査を拡充して無症状の感染者を隔離しなければ、感染拡大は収まらない」と強調する。今後は、沖縄県の予算に基づき、市内280カ所ある介護施設や高齢者施設のスタッフが全員PCR検査(民間業者)を受けられるようにするなど、市として感染者を早期に発見して隔離する体制づくりを急いでいる。

 

 菅政府は医療崩壊を起こした自治体に自衛隊を派遣する一方、東京に次いで全国的にも高い感染率が続いている沖縄県(ステージ4)が、緊急事態宣言の対象地域(協力金の支給対象)に加えることを要請しても動く気配はない。経済支援に加え、国が予算をつけて全島民の検査を講じるなど、医療崩壊を未然に防ぐ公的支援があまりに乏しいことが離島の安全を脅かしている。

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